村を出てから、さらに半日。
山道はどんどん険しくなっていった。岩は鋭く尖って、足場は悪い。
木々は枯れて、灰色の幹が剥き出しになっている。鳥の声もしない。風の音だけが、耳の奥でごうごう唸っていた。
「もうすぐだ」
俺の肌が、ぴりぴりと震えている。魔術師なら誰でも感じる、強力な魔力の気配。
アリシアは黙って俺の後ろを歩いている。外套は土埃で汚れて、裾が少し破れていた。でも気にする必要はない。彼女は死んでいるから、寒くもないし、疲れもしない。
「お前は楽でいいな」
振り返らずに言った。
「俺は足が棒だ。肩も痛い。夜は寒くて寝られない。お前は何も感じないんだろ。文句の一つでも言ってくれたら、まだ気が紛れるのに」
もちろん返事はない。
「でもまあ、文句を言わない女って最高だって前に思ったな。前言撤回。文句くらい言ってくれ。俺はお前に怒られたいんだ」
斜面を登りきると視界が開けた。
俺は言葉を失った。
そこに塔が立っていた。
黒くて、細くて、異様に高い。山の尾根からそのまま生えたみたいに、岩と塔の境界が曖昧だ。石造りなのか、骨でできているのか、それとももっと別の何かなのか。
遠目にはわからない。でもとにかく黒い。光を吸い込むみたいに、真っ黒だ。
塔の周りには、何かが飛んでいる。鳥じゃない。もっと大きい。羽ばたくたびにぼろぼろと何かが落ちている。羽が腐っているのか、それとも。
「屍の塔……」
俺は声に出した。
「本当にあったんだな」
禁書に書いてあった通りの外観だった。伝説の死霊術師が遺したダンジョン。
到達した者はいない。戻ってきた者もいない。
「俺のために建ってるみたいじゃないか」
笑いながら、俺はアリシアの手を握った。冷たい指が俺の手の中で動かない。
「行くぞ」
塔までは見た目より距離があった。一時間ほど歩いて、ようやく麓にたどり着く。近くで見ると塔はもっと異様だった。
壁には無数の窪みがあって、その中にすべて頭蓋骨が埋め込まれている。
人の、動物の、それから人間のものかどうかわからない異形の頭骨も混ざっている。入り口は開いていた。扉はない。ただ暗い口をぽっかり開けて俺たちを待っている。
「この世の終わりみたいな場所だな」
俺は立ち止まった。
ここから先に進めば、もう戻れない気がした。物理的に戻れないんじゃない。俺自身が、何か決定的に変わってしまう。そんな予感があった。
「でも戻る理由もないか」
帝国に帰ったって、俺はただの陰キャ魔術師だ。友達ゼロ。誰にも期待されない。アリシアは死んでいる。待ってる奴なんて誰もいない。
なら、進むだけだ。
「今日はここで野宿する。塔の中に入るのは、明るくなってからにしよう」
俺は入り口から少し離れた岩陰に、簡単な寝床を作った。
焚き火を起こして、干し肉を齧る。水を飲む。アリシアは岩にもたれて、立ったまま動かない。術式を切れば倒れるから、そのままにしている。
「なあ、アリシア」
焚き火の向こうから、彼女の顔を眺める。
「俺たち、明日からどうなるんだろうな。塔の中で死ぬかもしれない。戻ってきた奴がいないんだから、まあ十中八九、死ぬんだろうな。でも俺が死んだら、お前も終わりだ。俺の魔力が切れたら、お前はただの死体に戻る。腐って、溶けて、最後は骨になる」
火が爆ぜた。
「それは嫌だな。俺が死んでも、お前には残ってほしい。ずっと綺麗なままで、誰にも汚されないで、お前のままで。でもそれもおかしな話だよな。お前はもう死んでるのに、俺はお前に生きてほしいみたいなことを考えてる」
俺は立ち上がって、アリシアに近づいた。外套のフードを外す。焚き火の明かりが彼女の顔を照らした。
閉じた目。長いまつげ。ほんの少し開いた唇。生きているみたいに、でも冷たくて。
「塔に入る前に、もう一度だけ」
俺は彼女の外套を脱がせた。服の上から、胸に手を当てる。冷たい、柔らかい。いつもの感触。
「お前を抱きたい。いつ死んでもいいように……」
俺は彼女を地面に寝かせた。焚き火のそばで、できるだけ平らな場所に。
背中に敷くために自分の外套を脱いで、その上にアリシアを横たえる。金髪が広がって、火の光を反射してきらきらした。
「綺麗だ。何度見ても、お前は綺麗だ。生きてる女よりずっと綺麗だ。俺はもう、生きてる女じゃ興奮できないかもしれない。この前の村娘も、死んでたから抱けたんだ。生きてたら多分、無理だった」
服を一枚ずつ脱がせていく。上着、ズボン、下着。
白い肌が現れるたびに、焚き火の明かりで陰影が揺れる。胸の膨らみ、肋骨の浮いた腹、腰のくびれ、金髪の茂み。
「お前の身体は、もう全部覚えた。どこに傷があるかも、どこが柔らかいかも、どこを触るとどんな風に感じるかも。いや、感じてるのは俺だけなんだけど」
俺も服を脱いだ。裸になって、彼女の上に覆い被さる。冷たい肌と温かい肌がぴったり重なって、その温度差にいつもぞくぞくする。
「アリシア」
名前を呼びながら、彼女の首筋に唇を押し当てた。冷たい。
でも肌理は細かくて、触り心地は生きてる人間と変わらない。舌を這わせて、耳の裏まで舐め上げる。
生前のお前なら、ここを舐めたらどんな顔をしただろう。照れたか、怒ったか、それとも感じてくれたか。
「もうわからないけどな」
俺は彼女の胸に顔を埋めた。両手で鷲掴みにして、指で肉を揉みしだく。やわらかい重みが手の中で形を変える。
乳首を指先で転がして、唇で吸い上げる。冷たい突起が口の中で少しだけ固くなる。死んでいるのに、この部分だけは弾力が残っているのが不思議だ。
「お前のおっぱい、やっぱり最高だよ。村娘とは全然違う。お前はたっぷりしてて、手に余る。揉みごたえがある」
ちゅっ、と音を立てて乳首から口を離す。唾液で濡れた胸が、火の光でてらてら光った。
俺はさらに下に移動した。腹にキスをして、へその窪みに舌を入れる。冷たい。それから脚の間に顔を寄せた。
「綺麗にしてるな。この前、泉で洗ったからか」
金髪の茂みを指でかき分けて、閉じた割れ目を露わにする。ふっくらした大陰唇。そっと開くと、中は淡いピンク色。死んでいるのに、この内側だけはいつもしっとりしている。腐敗防止の魔法が、粘膜を守っているからだ。
俺は彼女のクリトリスに舌を這わせた。冷たい小さな突起。ちろちろ舐めて、吸い上げて、舌先で転がす。なんの反応もないけど、俺は夢中だった。
「濡れてくれよ、アリシア。一回でいいから、俺のせいで濡れてくれ。そしたら俺、きっと死んでもいいと思える。いや、死にたくはないか。死んだらお前を抱けなくなる」
自分の指を舐めて湿らせてから、彼女の膣口にそっと差し入れた。やっぱり狭い。何度抱いても、入り口はいつもきつくて、押し広げるのに力がいる。
「準備はいいか」
俺は体を起こして、彼女の脚を持ち上げた。膝の裏に手を入れて、広げる。自分のモノはもう痛いくらいに勃っていて、先端から透明な汁が垂れている。
「入れるぞ」
ぐっと腰を押し込むと、ずぶり、と音がして亀頭が入る。冷たい膣壁が、俺の熱い肉をぎゅうぎゅう締め付ける。いつもの感触なのに、いつも新鮮だ。何度やっても慣れない気持ちよさ。
「は、あ、アリシア、お前の中、今日も冷たいな。冷たいのに、俺が入るとちょっとあったかくなるんだ。俺の熱が移るからだな。それって、お前の中で俺とお前が混ざってるみたいじゃないか」
奥まで一気に突き入れる。腰と腰がぶつかって、ぱん、と乾いた音が響く。彼女の身体が揺れて、おっぱいがぶるんと跳ねた。
「動くぞ、アリシア。ちゃんと感じてくれよ。感じて、俺の名前を覚えててくれ。どれだけ塔の中で何かに変わっても、お前だけは俺のものだ」
腰を前後に動かし始める。最初はゆっくり、それからだんだん速く。冷たい肉壁が俺のモノを擦り上げるたびに、背筋に電気みたいな快感が走る。息が荒くなる。汗がアリシアの腹の上に落ちる。
「好きだ、大好きだ、愛してる。これだけは本当なんだ。お前が死んでるから好きなんじゃない。お前が好きなんだ。死んでても好きだ。死んでるからもっと好きなんだ。矛盾してるよな、でも本当だ。どっちも本当なんだよ」
腰の動きが速くなる。焚き火のそばで、俺たちの影がぐちゃぐちゃに揺れている。山の静けさの中に、俺の荒い息と、腰を打ち付ける音だけが響く。
「アリシア、俺、もし明日死んでも、後悔はないよ。お前を抱けたから。お前と旅ができたから……」
一番奥まで突き入れて、俺は射精した。どくどくと熱いものが彼女の胎内に流れ込む。死んだ子宮を俺の精液が満たしていく。その感覚がたまらなく好きだった。俺の一部が彼女の中に入っていく。それが所有の証みたいに思えた。
「は、はあ……」
息を切らして、彼女の胸の上に倒れ込む。心臓の音がうるさい。でもアリシアからは何も聞こえない。静かだ。それでいい。
しばらくして、俺は体を起こした。
自分のモノを抜くと、精液が膣口からとろりと溢れ出た。焚き火の光に照らされて、白く濁ったそれが彼女の太ももを伝っていく。
「掃除しないとな。泉と違って水がない。まあいいか、明日拭く。今はこのままで寝よう」
俺はアリシアに服を着せて、外套をかけた。自分も服を着て、彼女の隣に寝転ぶ。火が消えないように枝をくべて、冷たい手を握った。
「なあ、アリシア。明日、塔に入る。怖いよ、俺は。でもお前がいるから行ける。お前がいるならどこでも行ける。それってすごく変な話だよな。お前は死んでるのに、俺にとっては誰より頼りになる」
空を見上げた。星は見えなかった。塔の魔力が空を覆っているのか、厚い雲に閉ざされているのか、わからない。
「おやすみ、アリシア。明日はきっと、何かが変わる。俺は変わってもいい。お前のために変わるなら、何だって構わない。だから見ててくれ。お前だけは、俺を見ていてくれ」
返事はなかった。でも彼女の冷たい指が、俺の手の中で静かに存在していた。それで十分だった。
♢ ♢ ♢
翌朝。
焚き火は灰になっていて、空は相変わらず灰色だった。朝なのか昼なのか、それすら曖昧な光。塔の周りだけ時間の流れが違うみたいだ。
俺はアリシアを立たせて、外套を被せた。自分の荷物を背負う。食料はあと少し。水も残りわずか。でも塔の中に何かあるだろう。
少なくとも禁書には、塔の内部にも水源があると書いてあった気がする。気がするだけだ。曖昧な記憶に賭ける。
「行くぞ、アリシア」
塔の入り口の前に立つ。暗い。中はまったく見えない。まるで闇そのものが壁みたいに、奥を隠している。
俺は一歩、踏み出した。
「どんな未来が待ってても、俺が選んだ道だ。お前も一緒だ。最後まで、離さないからな」
アリシアが一歩、俺に続いた。