さよならコブラツイスト 〜美墨なぎさと弟・亮太〜 作:黒沼むつみ
・美墨 亮太(11歳/なぎさの三歳年下の弟)
ROUND1──「一回だけだからね」
「お姉ちゃんの冬服クリーニングに出すから回収しといて」
そうお母さんから指令を受けてなぎさの部屋に入る。
隊長。弟・亮太隊員は潜入に成功しました。
クッションとぬいぐるみの立ち並ぶコンクリートジャングル。
ラクロス選手のポスターが侵入者を見つめ返す。監視されてるみたいだ。
ここは女の子だけの帝国。
ふかふかのラグに足を取られる。
そこから浮いてるような、やわらかな圧迫感。
お前のいる場所じゃない。
部屋の主からそう主張されているようで、少し縮こまる。
大丈夫、すぐ出ていきますからお許しを。
制服はすぐに見つかった。
ピンクの布団の上に脱ぎ捨てられている。
まるでなぎさの抜けがらみたいだ。
ブレザーと、リボンと、スカート。
・・・スカートがここにある・・・という事は
シャツとパンツだけで
姉ならやりかねない、と思う。
いつも水着みたいな下着で風呂上がりにウロウロして
お母さんに怒られているくらいだし。
スカートをつかんで持ち上げたとき、手が止まった。
甘いにおいがする。買い食いでもしていたのか。何かの食べ物のにおいだろうか。
違う。
手に取ったフチ、ジッパーのあたりから。
すべすべしたプリーツの感触。
香水とかつけていたっけ。
いつもドタバタしながら登校していくのにそんな暇があるのだろうか。
そっと顔に近づける。
まずいことをしているという自覚はある。
見つかったらただじゃすまないかも。
・・・なんでこんなに気になるんだろう。
廊下の向こうからシャワーの音。
大丈夫、絶対帰ってこない。
・・・鼻を刺す、ツンとした甘い刺激臭。
制汗剤と、汗の熱が混ざったにおい。
お母さんが買ってきて忘れてた、
とろとろになった柔らかい桃みたいな。
そんなはずないのに指先がじっとり濡れている気がする。
なぎさの体温が布から染み出してくるみたいで──。
顔を押し当てたい。
この香りを吸い込みたい。
下腹に・・・キリキリとした・・・違和感。
ズボンが痛い。
ぼくのものが熱を持って、布地をパツパツに押し上げている。
なんで今、こんな時に。
となりの席のむっちゃんとエッチな本を見たときも
こんなにならなかったのに。なんで。
震える指でズボンのボタンを外し、ジッパーに手をかける。
片手でスカートを持ち直した瞬間、バランスを崩して布が顔にかかった。
視界が緑に埋め尽くされ、ひだが顔をなでた瞬間ここになぎさの下着が触れていたと気づき
ガクガクと腰が砕けた。
・・・目の端がチカチカする。
空気が薄くなったみたいであわてて息を吸い込む。視界が戻ってくる。
・・・パンツが、べっとりぬれていた。
それと、なぎさの制服にもすこし・・・かかってしまっている。
まずい。
これが何かは・・・知ってる。
みんなが話してたから。
どうしよう。そうだ、しょうこインメツだ。
なぎさの制服をベッドの横に寄せて固めるとズボンとパンツをまとめて脱いだ。
ズボンだけだとスースーして心ぼそい。
でもそんなこと言ってる場合じゃない。
ポケットに丸めたパンツを入れたまま洗面所に飛び込む。なぎさはもういない。
多分いつもの格好で牛乳でも飲んでるころだ。
いそげ、洗って洗濯カゴに入れてしまえば
「なに洗ってんの?」
心臓が止まるかと思った。
洗面所の大きな鏡になぎさがうつっている。
肩の後ろからのぞきこむみたいに。
ピンクのパジャマ。
髪の先が少し濡れたままでツヤツヤ光って。
えりから白い鎖骨がのぞいてる。
「どしたの?亮太」
「な、なんでもない」
怪しさ100%の返事をしてしまった。
「ふーん」
・・・気のない返事で出ていく。
いい加減な姉でよかった。そう思ったとたん
「亮太!!」
えり首をつかまれる。
背が高い強い勝てるわけがない
あっという間になぎさの部屋に放り込まれた。
なぎさの目が震えている。
「あんた・・・なにこれ?なにしたの?言って!」
バレた。しまった。
戻るなぎさを引き止めておけば。
でももう遅い。
どうしよう。
なんて言おう。
「亮太・・・わたしのスパッツがカゴからなくなってたのもそうなんでしょ?」
ちがう。ぼくじゃない。
・・・ちょっと借りたことがあっただけで。
見たこともないくらいなぎさの眉毛が吊り上がって。唇が震えている。
可愛らしいピンクのパジャマが不釣り合いすぎて不気味に見える。
「なんでだまってるの?!」
なぎさのボルテージがどんどん上がっていく。
そんなつもりじゃ。
どうしても言葉が出てこない。首をふる。
ちがう、ちがうんです。
「お母さんに言うからね!!!」
死んだ。と思った。
隊長に報告。
帝国の判決は、死刑。
・・・死刑じゃないかもしれない。
でも、きっと信じられないくらい怒られる。
家を出ていきなさいって言われるかも。
うちの子じゃないって言われるかも。
そんな子だって思わなかった、なんて。
へたり込む。体に力が入らない。
・・・おしっこをもらしてしまいそう。
ここから逃げ出したい。
でも今逃げたら。
ほんとうにおしまい。
「ごめんなさい!!!」
頭を下げる。
ふかふかのラグに頭を突っ込んで、
たくさんのハートにおでこをこすりつける。
「そんなつもりじゃ・・・その・・・」
「どんなつもりだったの。亮太。言ってごらん」
なぎさはびくともしない。
まっすぐにぼくを見ている。
目をそらしたい。
・・・黙ったまま、時間が過ぎる。
飲み込んだツバがやけに苦い。
「何したか言えるでしょ。お母さんに報告」
冷たい、感情のない声。
曲げたひざがガタガタする。
のどがふるえだしてふえみたいな音をたてた。
だめだ、謝らなきゃダメなのに。
ひぃい、ひぃいとのどがなって息ができない。
涙がわからないのにこぼれ落ちる、
なんで泣いてるんだろう、ごめんなさい、ゆるして。ゆるしてください。
どれもことばにならない。
のどがつまってしまったみたいにしゃっくりをくり返す、なぎさの顔がみえない、ごめんなさい。
おいださないで。
「亮太。こっち来て」
なにもみえない。
・・・ふわり、とあたたかいもので包まれる。
「亮太。・・・他の女の子にこういうこと、した?」
してない。絶対してない。ぶんぶんと首をふる。してません。
「そう・・・。ならよかった。
聞いて。
こういうことはね。された女の子はすごく傷つくの。
だからね、やっちゃだめ。
好きな女の子ができて、その子のことを考えてもいいよ。
でも、こういうことを女の子の持ち物にしたり、
そういうことを相手に言ったりしたらだめだよ」
うなずく。うん、と声が出た。
涙の混じったへんな声。
「わたしと約束できる?」
うん。
なぎさがぼくをずっと抱いてくれている。
肩のあたりにぼくの顔がピッタリついて。ピンクのパジャマが鼻水で汚れてしまう。
・・・いいにおい。
どうしよう。ぼくのズボンを押し上げて、またむくむくと大きくなっていく。
怒られたばっかなのに。どうしよう。
なぎさのおなかのあたりに、つん、と先が当たってしまった。急いで体を離す。
また怒られる。
・・・うつむいてずっとラグを見つめる。
このハートの中に逃げてしまいたい。小さくなってかくれてしまいたい。
怖い。
「ねえ。こっち向いて」
もういやだ。怒られるのはいやだ。
・・・顔を上げたらなぎさは、怒っていなかった。
変な・・・くしゃっとした・・・あたり付きアイスが外れた時みたいな顔。
「しょうがないなあ、亮太は」
そう言って頭をなでられる。
なんかないかな・・・そうブツブツ言いながらベッドの端に丸めてある制服から、
するすると取り出した。青と水色のぶあついリボン。
なぎさの制服の真ん中についてるやつ。
「一回だけだからね。・・・誰にも言っちゃだめだよ。約束、できる?」
なんだろう。なにをしてくれるんだろう。
わからないままこくりとうなずくと。
ぱちり、となぎさがぼくのズボンのボタンをはずした。
ぼくのがいきおいよく飛び出す。
空気に触れて、あっと声が出た。
「目をつぶって」
いわれるままに固く目を閉じる。
・・・先っぽがきゅっと包まれた。
やわらかい、布の感触。ちょっとゴワゴワして・・・でも、あたたかい。
ぐりっと先を軽くつぶされる。
あぐっ、と声が出てしまう。
「あ、ごめん!・・・痛かった?」
だいじょうぶ。うなずいてこたえる。
なぎさのにおいがする。
先っぽから全体にゆっくり広がっていく。
あたたかいきもち。はれつしそうなきもち。
熱のある指が布を通してぼくをこすりあげる。
ぬるぬるした先っぽが布に吸われてきゅ、と音を立てた。
ビリビリした熱がお尻のほうから上がってくる。
つま先立ちになる。立っていられない。
なぎさの肩に顔を押し付ける。パジャマのえりのなか、さっき見えた白い鎖骨。
暖かくてふわふわして・・・スカートの布と、同じにおい。
そう気づいた時、パリンと頭の中で音がした。
「あっあ・・・あっ・・・なぎ、さ・・・あっ」
もれちゃう、もらしちゃう、なぎさの手の中に。
腰が波打つ、ぐるぐる回る、おかしくなる。耳の奥がキンとする。
ビクビクするぼくのものがゆっくり握りしめられて。
なぎさの息がぼくの首をなでた。
気が遠くなる。
・・・気がついたら、なぎさのひざの上にいた。
ズボンもはかされていた。
「大丈夫?亮太。起きれる?」
「い、いま・・・何時?」
「さっきお風呂から出たばかりだよ。ちょっとしか経ってない」
・・・ものすごく長い時間だった気がする。
なぎさに・・・ぼくは。
「宿題はやったの?」
「ま、まだ」
「早くやっちゃいな、お母さんに怒られるから。ほら起きて」
むりやり背中を押されて起き上がる。
・・・いつものなぎさだ。夢だったのかな。
「これはわたしがクリーニングだしとくから。気にしないでいいからね。
はい、宿題やってお風呂入っちゃいな!じゃあ出てく!はい!」
紙袋に詰め込まれたなぎさの制服を横目に見ながら部屋を追い出される。
夢じゃなかった。
どこかふらついた足で自分の部屋に帰る。
・・・隊長、無事に帰還しました。
そうだ、パンツはかなきゃ。
自分でズボンのボタンをはずした時、
・・・なぎさのすごくいいにおいが、ふわっとしたような気がした。