※この作品はR-18です。

さよならコブラツイスト 〜美墨なぎさと弟・亮太〜   作:黒沼むつみ

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ROUND2──「変なことしてないでしょうね?!」

「だだだだだだだだ!」

呼吸と共に拳を撃ち込む撃ちつける逃げる暇なんて与えるものか。

捌(さば)かれた手の隙間、ザケンナーの着ぐるみのようなずんぐりした拳が割り込んでくる。

閃光のようなストレート。

クロスした両手で防いだのに体が宙に浮く。まずい、打ち上げられた。

逃げ場のない空中、視界の端に白いフリルがひらめいたかと思うと抱き留められていた。

「ブラック!大丈夫?!」

キュアホワイトが。

ほのかがわたしを抱えたままビルの壁面を蹴る。

完璧なお姫様抱っこから地面に降ろされてちょっと照れる。

王子様みたいじゃん、ほのか。

轟音を立ててザケンナーの拳がアスファルトに突き刺さる─けれど、私たちはもうそこにいない─嵐のような石つぶてが吹き付ける─それが何?

地にめり込んだ丸太のような腕をおもいきり抱きしめる─あなたの来た場所へ帰してあげる。

軸足を地面に突き刺して振り下ろした両手の向こう、宙を舞うザケンナーの胸をホワイトのドロップキックが撃ち抜いた。

今だ。

 

ホワイトがわたしの左手を握る。

 

──来い。

掲げた右手を空から真っ黒な稲妻が貫いた。

力(ちから)が体の中を荒れ狂っている。

チリチリと全身が日焼けしたみたいにピリつく。うなじが逆立ち、わたしはゆっくり息を吐く。

握った手から気持ちが伝わってくる。

そうよ。私たちは絶対に負けない。

 

『『プリキュア・マーブル・スクリュー!!』』

 

唱和する私たちの手から光の濁流が放たれた。

 

ザケンナーをまっすぐに貫いて。

反動で押し戻される。

ブーツのかかとがアスファルトをギリギリと砕いて悲鳴をあげる。

さあ帰りなさい、あなたの家に。

 

私たちの手から光が消えて、

全てが終わった時。

なぜかそこには大きなしゃもじが転がっていた。

 

▽  ▼  ▽

 

お腹が空いたと大騒ぎするメップルを

カードで満腹にしてあげて家路を急ぐ。

いいなあ妖精はごはんにお金かからなくて。

「ただいまあ〜きょうのご飯何?」

ローファーを脱ぎつつ玄関から声をかける。

ザケンナーたちと闘うのは大変だけど

それよりも何よりもお腹がすく。

部活の後に今日はやってきたものだから

おやつを食べる時間も取れず、まっすぐ家に帰る羽目になった。

たこ焼き食べたかったな・・・

 

・・・変だ。

みんないるはずなのに声が返ってこない。

それに、いつもならお母さんの作る夕飯のにおいがするはず。

おそるおそるドアを開けると、

リビングはドツクゾーンさながらの張りつめた空気が漂っていた。

お母さんとお父さんはテーブルを前に座ったままむずかしい顔をしている。

奥に、亮太がカーペットの上で正座したままうつむいていた。

うわ、よほどのことをしたのかな。まさか犯罪・・・とかじゃないよね・・・

「・・・ただいま」

気まずい空気を察しながら二度目のあいさつを繰り返した時、それが目に入った。

テーブルの上、蛍光ピンクの文字が踊る雑誌。

シャツの前を大きく開けた女の人が微笑んだ表紙に。

「ヒミツの姉弟」

『お姉ちゃんと、二人きりで・・・?』

そんな文字が並んでる。

 

これは。

ひょっとして。

「亮太、部屋に戻ってなさい」

体温を感じさせない声でお母さんが言うと

亮太はのろのろと立ち上がってリビングを出ていった。ゾンビみたいな足取り。

嫌な予感がする。

わたしも部屋に戻ったらダメ?

「なぎさ、ちょっとここ座って」

ほら来た!

伺うようにお母さんの正面に座ると雑誌が嫌でも目に入る。

「なぎさ・・・あんた亮太と変なことしてないでしょうね?!」

悲鳴みたいな大声だった。

 

「へっ、変なことって何!?」

「変なことは、その、変なことよ!こ、この、この本みたいなこと!」

「あ、ありえない!そんなわけないじゃんお母さんてば!ほほほんと、ほんとだってば!」

だめだ、全然口が回らない。

まるでバレバレの嘘をついているみたいに体が震える。

いや何もないって言ったら・・・確かに嘘なんだけど。

でも一回だけだったし。

あれは亮太が・・・本当にかわいそうだったから。

「亮太のね・・・部屋から。こういう本がね、何冊も出てきたの」

お母さんが手をつっかい棒にしてテーブルにもたれかかる。グスグスと鼻が鳴る。

うわ・・・泣いてる。

大丈夫だって、男の子たちこんな本いつも見てるじゃん。だからさ、ほら。

お父さんは目を閉じたまま天を仰いでる。

答えがあたまに降ってくるのを待ってる人みたいに。

帰ってからずっと黙ったままだ。

・・・これひょっとして本当にまずい、やつ?

ああそれにしても・・・お腹が空いた。

 

お母さんがポツリ、ポツリと話し出す。

部屋から見つかった雑誌と。

・・・スパッツ。

亮太はバドミントンの試合のために自分で買った、

と言い張ったそうだ。

なんにつけてもおこづかいをくれ、というくせに。

やっぱりそれは・・・わたしのだったのだろう。

一度だけと約束したあれが、亮太をおかしくしてしまったのかも。

時々、視線がへばりついて離れないような気がするから。

・・・あのことはもちろん、誰にも言ってない。

いや、1人だけ・・・ほのかに相談したら

ものすごい顔をしたあと、

テキセツだったかはギロンのヨチがあるわ、とかむずかしいことを言ってだまってしまった。

だから、もう誰にも言うつもりはない。

 

あの時、亮太は苦しそうで、

とても放っておけなかった。

知識としてはなんとなく、知ってたから

固くなった弟の・・・気持ちを落ち着かせてあげようとした。

リボンを使ったのは、とても手で触れる勇気がなかったから。

好きな人のだったらそう出来ただろうか。

でもわたしはお姉ちゃんで、

弟を助けるのに、精一杯で。

震える自分を見せたくなくて、目を閉じさせた。

終わった後の、顔の熱さを覚えてる。

 

・・・わたしはみんなが好きだ。お父さんも、お母さんも、もちろん、生意気だけどかわいい・・・亮太も。

みんなを守らなきゃ。

「わたし・・・卒業したら一人暮らしするから。ね」

自分の口からそんな言葉が出てくるのを

ひとごとのように思いながら、お母さんの手にふれた。

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