さよならコブラツイスト 〜美墨なぎさと弟・亮太〜 作:黒沼むつみ
最後の荷物を抱えてマンションを出る。
もうとっくに大きな家具は送ってしまったので
お父さんが運転する軽トラに載せたダンボールは片手で数えるくらいだった。
「なぎさ。出発するぞ。お母さん待ってるから」
ちょっと待って、と返事をして荷物を置いた。
マンションの入り口、
・・・あれからお母さんはわたしたちを2人きりにさせなかった。
わたしもお風呂上がりや・・・着替えをする時は気をつけるようにしたし、
服がなくなるなんてこともなかった。
けれど、どこか息苦しい一年ちょっとだった。
明日からなにかが大きく変わるわけじゃない。
制服も、学校も、隣にいる親友も変わらない。
高校生になるだけ。
この家を、出ていくだけ。
「ほら・・・なにしょんぼりしてんの亮太」
そっと肩に手を置く。
・・・前はよくコブラツイストかけたのに、
久しぶりにふれる気がする。
「また帰ってくるから!
お土産なにがいい?やっぱりおかし?」
カラ元気を張り上げる自分の声が震えていないか不安になる。
ちゃんとわたしはお姉ちゃん、ができているだろうか。
「・・・なぎさ」
そう呟いた亮太の眉がふるえてる。
ダメだ。ここで泣いたらダメだ。
「そろそろあんたも受験でしょ!わたしより成績いいんだから頑張んなさいよ!」
そう言って、ばんと背中を叩く。
「またね!」
手を振って窓から振り返ると、マンションを背にした亮太が小さく、小さくなっていくのが見えた。
シートに深く腰掛ける。
泣くもんか。
振り返るもんか。
こうしてわたしたちは、きっぱり、はっきり別れていった。
ぼくは、のろのろと鍵を開ける。
なぎさのいなくなった家はまるで
空っぽの舞台みたい。
誰かが出て、踊り出すのを待っている気がする。
空っぽになったなぎさの部屋。
ぬいぐるみも、クッションもない冷たい
ふわふわのラグだけが取り残されている。
──帝国は崩壊した。
好きに使っていいからね、と言っていた。
学習デスクと、ベッド。
壁に貼られたポスターのラクロス選手が視線を送っている。
もう戻ることのない誰かに。
ぼくは知っている、クローゼットの奥深く。
クリーニングされたなぎさの冬服がぴっちりとビニールに包まれてしまわれていた。
そっとあけてみる。
あのブレザー。スカート。
それから・・・ぼくを包んでくれたしましまのリボン。
顔を近づけるともう消えてしまっているはずなのに。
なぎさのにおいがする気がして。
息ができない。
はらはらとおちる水滴が制服に染み込んでいく。
お姉ちゃん。
ごめんなさい。
ぼくがあんなことをしたからなぎさが出ていく。
ぼくの代わりにこの家を出ていく。
出て行かないで、とは言えなかった。
ぼくを守ってくれたから。
それを無駄にはできないから。
どうかしあわせでいてほしいと願って、
あふれるはなと涙をすすった。