さよならコブラツイスト 〜美墨なぎさと弟・亮太〜 作:黒沼むつみ
・美墨 亮太(13歳/なぎさの三歳年下の弟)
ROUND1──「こんなこと考えたくない」
まるでそこだけ日が差してるみたいだった。
見たことのない服。
黒の細いズボン。
ふわふわのフリルがついた白い二重のスカートは、豪華なお菓子みたい。
みんなが振り向くんじゃないかってくらいの・・・かわいい、
とかじゃなくて・・・すごくきれいな人に見えた。なぎさが。
なんでぼくはすぐ声をかけなかったんだろう。
改札に人がいっぱいで近づけなかった?
久しぶりすぎて、なんて話しかけたらいいかわからなかった?
──そうじゃない。
違和感があったからだ。
後ろに立つ男と話している。
なぎさが首を振る・・・光がはじけるみたいな笑顔。
背が伸びた?・・・分からない。
こんなにきれいだったっけ。
何かを話してるけど遠くて聞こえない。
・・・その時、空気が急に冷えて、
日に焼けた、短髪の背の高い男が、なぎさの肩に手を置いていた。
何かを言うと、笑うなぎさも
あいつの肩を押しやるように触れて。
また、光がはじける。
冷たい汗が脇の下を流れていく。
・・・周りから真っ黒な水が押し寄せてくる。
とぷん。
くらい、ふかい、海の底。
砕けそうなほど水圧がかかって。
音が幕をへだてているように遠い。
ゆっくり息を吸う。
・・・そうだ、見つかったらどうしよう。
急いで背を向ける。
取り返しのつかないものを見てしまいそうで。
もし、手を繋いでいたら──
想像を振り切り、コンコースの
海水が、足にまとわりついて重い。
「ごちそうさま」
肉じゃがもサラダも全然のどを通らなかった。
部活終わりにちょっと食べてきたから、といいわけをして部屋に戻る。
ベッドに寄りかかって携帯を開いた。
写真フォルダの1番上に、一度だけデートしたクラスの女の子。
向こうの好意には気づいていたし、
超うらやましいとむっちゃんに言われたけど・・・ぼくにはピンとこなかった。
スクロールした1番下に、隠すようにして家族の写真がある。
本当はなぎさだけ切り抜きたかったけど、
見つかった時のいいわけを考えて、そのままだ。
ぼくと肩を組んで笑う、ピースサインのなぎさ。
・・・やっぱり、きれいになってた。
家を出ていってから一年ちょっと。
遠くからだったけど、
前はあんなにすらっとしてなかった。
黒の細いズボンがなぎさの足にぴったり張り付いて、
体をすごくきれいに見せていた。
携帯を閉じる。
写真を見ながらするのは、悪い気がして。
目を閉じ、思い浮かべる。
なぎさの声、匂い・・・リボンの感触、それと・・・今日みたはじけるような笑顔。
唇がひかっている気がした。
胸が大きくなったような。
気のせいかも。
でも記憶よりずっと変わっていて。
なぎさはあんなふうに笑うんだっけって思いながら、
そっと自分のペニスに手をやる。
ヒヤリとした感触。
なぎさにしてもらったことを思い出すとぐんぐん熱がこもる。
なぎさ、お姉ちゃん、そんな言葉を頭の中で繰り返す。
けれど、脳裏に割り込んでくる。
あの手が、なぎさの肩に。
どうしても隣のあいつが頭から離れない。
──最悪の想像がもう止まらない。
お菓子のようなスカートが乱暴にまくり上げられ、
開かれた服の下を、黒いズボンの中を、あいつの手がはい回る。
組みしかれたなぎさの息が白い。
想像の中の姉は、見たこともない顔で泣いていた。
下着をはぎとられ、後ろから押さえつけられる・・・あいつの指が肌に食い込む・・・
乱暴に打ち付けられる腰に身体が跳ねる・・・きれいな胸が弾んで・・・
吐きそうなくらいの嫌悪感に、みぞおちがギリギリと引き絞られる。
さっきまで食べていた夕飯をもどしそうなのに、
自分の熱が今までにないくらい猛り狂っている。
痛いくらいに
こんなこと考えたくない。
こんなことを。
考えたくない。
ぼくは頭がおかしい。
想像のなぎさがかすれた声をあげ、濡れた瞳から涙がこぼれた。
・・・べっとりとした欲望が自分のお腹の上に散っている。
最悪の感情で、姉を汚してしまった。
もう、取り返しがつかない。
汚れた塊を丸めてゴミ箱に捨てる。
・・・本当のことを確かめなければ。
なぎさがどこに住んでいるかは知らされてない。
けれど、時々遊びに来る時に持ってくるバイト先のたこ焼き。
あれはチェーン店の箱だった。
学校の近くに店が見つかれば、たぶん。