※この作品はR-18です。

さよならコブラツイスト 〜美墨なぎさと弟・亮太〜   作:黒沼むつみ

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ROUND3──「中に出すから」

「散らかってるけど気にしないで」

なぎさの家はたこ焼き屋から一駅離れたアパートの2階だった。

下駄箱の上に花びん。らしくない。

「うがい手洗いしなさいよ!」

姉はいくつになっても口うるさい。

家を出てから大して日も経ってないけど。

 

短い廊下(ろうか)を抜けた瞬間、あっと声が出た。

ピンクのマットレス。ふかふかのラグ。

部屋にほんのりと漂う桃のような匂い。

立てかけられたラクロススティック。

見覚えのあるクッションとぬいぐるみが立ち並ぶ。

女の子だけの帝国、ここに再興。

バラエティで流れる曲が脳裏で再生される。

帝国の逆襲。

 

「街中で大きい声出さないでよね!

変な目立ち方したらバイトに行けなくなっちゃうじゃん」

麦茶とたこ焼きを差し出される。

半袖の制服。胸元にあのリボン。

ぼくがしてもらった時のあれとは違うやつ・・・と分かっていても落ち着かない。

なぎさがすとんと腰を落とすと

スカートが床に広がる。

下着が見えそうだ。

こんなに無防備だったっけ。

・・・そうだ、2人きりになるのも久しぶりだ。

「それで?なに結婚って」

盛大にむせた。

なぎさがニヤニヤ笑っている。

「いやあれはその、俺は」

「俺!俺だって!・・・もー大きくなっちゃって!

・・・久しぶりだから甘えたくなったの?」

バシバシ叩いてくる。

これだから頭が上がらない。

3歳上の姉なんて絶対君主と同じだ。

「学校どう?好きな子できた?」

「俺はそういうのは・・・」

言葉に詰まる。

なぎさの手の先で、つまようじに刺したたこ焼きが回っている。

ガラスの中で号令をかける時と同じ。

どうしたらあんな素早く出来るのだろう。

くるくる。くるくる。

・・・ピタリ。

「ねえ亮太。お母さん心配してるよ」

肩ひじをついて、ぼくの目をまっすぐ見ている。

分かっている。

なぎさはお姉ちゃん、がしたいんだと思う。

「わたしはここにいるから。・・・今日は帰りなよ」

いやだ。せっかく会えたのに。

それにお母さんに知らせたらどうなるか。

また引っ越すかもしれない。

もう会えないかもしれない。

 

沈黙が包み込む。

うつむいたぼくのほおのあたり、なぎさの視線がずっと突き刺さっている。

言葉を引き出そうと待っている。

「でも俺はなぎさが」

「わたしたちは姉弟(きょうだい)だよ」

 

言葉は届く前に両断された。

無慈悲な一撃。

アイム・ユア・シスター。

指揮官から血縁であることを明かされた映画のヒーローは悲痛に叫んでいたっけ。

 

・・・でもぼくは知ってる。

姉弟だってことは最初から分かってる。

分かっててここに来た。

知らない誰かだったらどんなに良かっただろう。

一緒に手を繋いで、デートして。キスをして。

普通だったら良かったのに。

こうならなかったのに。

でもぼくにはなぎさだったから。

なぎさが特別だったから。

特別だから・・・聞いておかなきゃならない。

 

「あいつは?たこ焼き屋の」

「誰のこと?」

「たこ焼き売ってたあいつ。日焼けしてる髪の短い人」

「・・・亮太、見てたの?」

「駅でこないだも見たよ。・・・付き合ってるの?」

「・・・今関係ないでしょ?」

「俺には関係あるんだよ!!」

迸(ほとばし)った。

おかしいと思っていた。

とっくの昔に気配だけがあった。

入り口の花びん。

洗面台の2本の歯ブラシ。

ベッドにピンクの枕の横、もうひとつ少し大きめな・・・水色の枕。

世にも恐ろしい間違い探し。

答えはひとつ。

帝国に、侵入者。

 

「なんでだよ!!なぎさ!!」

手首をつかみ立ち上がる。

あっさりとなぎさの体が浮いた。

ぼくより大きかった背は、もう大して違いがない。

投げ倒すように両手首をつかみベッドに抑え込む。

「亮太?!」

あの枕を払いのける。

邪魔をするな。

ぼくとなぎさの邪魔をするな。

なぎさの手がぼくの顔に食い込む。

きれいな爪がほおに刺さった。

ずっとラクロスをやっている姉。

力ではかなわないと思っていた。

でももう、そんなに怖くない。

力を込めて片手でブラウスの首元を引っ張ると

バチバチ、と音を立ててボタンが弾けとぶ。

フリルのついたブラがのぞいた。

なぎさの胸。

水着みたいなのじゃない、可愛らしい下着。

「あいつとしたんだろ!」

「やめて亮太!!」

「なんで俺じゃないんだよ!!」

片手を胸にすべらせる。

じっとりと汗の感触。

鼓動が手のひらから伝わってくる。

「してないってば!」

「嘘だ!!」

ブラの下に手を差し入れる。

指で形を変える膨らみ。

ずっと昔、盗み見たあの体。

静脈まではっきり見える。

蒸れて汗をかいた肌。

こんなになめらかだったなんて。

あいつがここに触れたなんて。

ぷっくりとした感触をつまみ、ねじり、引っ張る。

「いたっ、やめて、亮太やめ・・・」

なぎさの匂いがする。

甘い匂いを首筋から目眩(めまい)がするくらい吸い込む。

抑え込んだまま乳房を貪(むさぼ)る。

むりやり引っ張り出した先端をしゃぶるとなぎさが声を上げる。

「あっ・・・ひぃっ・・・」

わざと音を立てて吸う。

舌の先で感触が硬くなっていく。

飴玉みたいに転がしながら歯を立てると、

ぴくり、ぴくりと背をのけぞらせた。

「離れてよ、亮太!ダメだよ、わたしたち・・・」

だからなんなんだよ。

あいつとしたくせに。

あいつのからだの下で、こうしてたくせに。

ぼくじゃなんでダメなんだよ。

「なんでぼくだけのお姉ちゃんでいてくれないんだよ!」

 

スカートを捲(まく)り上げる。

可愛らしいショーツ。フリルがついた女の子っぽいやつ。

誰のためにはいていたのか。

想像するだけでキリキリと胃が締め付けられる。

あいつもこれを見たんだ。

足で蹴られる。

めちゃくちゃに暴れる両足をかかえて押さえ込み、腰を浮かして引きずり下ろした。

「いや!」

太ももに引っかかったショーツの上、足の間のかすかな裂け目。

「触んないで!!やめてよ!」

聞くもんか。

ひざの間に割って入り、はねのけようとする手をつかむ。

怖くなんかない。

もうお姉ちゃんなんか、怖くない。

組み合った手がやけに冷たい。

なぎさの目元に涙が浮かんでいる。

あいつじゃないから泣くの?

なんで泣くの?

ぼくは??

「ぼくはどうでもいいの?!」

すでにガチガチに昂(たかぶ)っている。

おさまらない。

あいつとせめて同じにならないと許せない。

ズボンの前を外すと熱を持ってそそり立つそれを押し当てた。

なぎさの体がこわばっている。

「やだ・・・やめて亮太。絶交だからね・・・」

子どもみたいな言い方だ。

ぼくより一足先に大人になったくせに。

 

お尻をつかみ、むりやり腰を突き出す。

まだ固く閉じているそこを割り開くように、

肉を押し分けて、ぼくがなぎさの中に入っていく。

「いぎっ・・・や、あっ、ああっぃぎっ」

なぎさの苦しそうな顔から大粒の涙がこぼれてあごにたまっていく。

荒い息がぼくの首筋に当たってあつい。

この顔をあいつも見たのだろうか、でも今見ているのはぼくだけだ。

ぼくだけの、お姉ちゃんだ。

「ぃひぃーっ!」

なぎさの喉が鳴った。

中はかたくて、まだ狭くて押し出されそうになる。

腰をぐりぐり押し付けると声を上げた。

「あぐっひっ・・・ひぎぃっ」

・・・獣みたいな声。

走った後みたいに肩で激しく息をしている。

ぼくの胸を拳でばんばん叩く。痛い。

両方の手首を片手で押さえ込んで腰を動かす。

全体重をかけて突き入れた。

スカートで結合部は見えない。

ただ、ねばついた音が聞こえる。

食いしばった歯の隙間からよだれが垂れていた。

うつろな瞳。

ぼくが見えているのだろうか。

「ぃやっ・・・あっ・・・ぅぐぁっ・・・ひぃっ」

乱暴に腰を打ちつけるとなぎさが泣く。

あのきれいなかっこいいお姉ちゃんはもういない。

泣いているなぎさがいるだけ。

見たことのない、めちゃくちゃに歪んだ顔。

「亮太・・・おねがい・・・ひゃめて・・・」

あいつにはそう言わなかっただろ?

イライラする。

振り切るように腰を突き出すと、なぎさの一番柔らかい奥に届いた。

耳に突き刺さる、にごった悲鳴。

 

ぬるぬるしたかたまりがぼくを包んでいる。

あつい。

シーツと肌が擦れる乾いた音が響く。

腰を抱き寄せる。

自由になった両手でなぎさがぼくを叩く。

でも、もう力がない。

全然痛くない。

「あぐっ…、ぇあ、はぁ…ひっ」

ひゅうひゅうとのどから息がもれる。

涙声混じりの吐息が耳に心地いい。

 

腰の後ろがゾクゾクする。

もうなのか。

「なぎさ、中に出すから」

そうだ。

これでもうずっと。

ずっとぼくのものだ。

あいつなんかに渡すもんか。

ぼくのなぎさだ。

「やめて!ほん、とに、やめて、ぇ・・・!」

ぼくの腰の動きで言葉がバラバラになる。

今更なんだよ、あいつとはしたくせに。

なぎさの名前を呼ぶ、耳元でささやき続ける、

このまま出してしまいたい。

中を染めてしまいたい。

そう思った瞬間、肩が何かにぶつかったように弾け飛んだ。

ベッドから飛ばされ、腰をテーブルに打ちつけた。

息が止まる。

ひりつくような激痛。

 

なぎさが、ぼくを突き飛ばした。

焦点が定まらない目をベッドに向けると、

抜けたそこからまき散らしたものがシーツを点々と汚していた。

 

・・・もう少しだったのに。

 

なぎさが泣いている。

顔を隠して、肩を震わせて。

空気が冷たくなっていく。

しゃくりあげる声が、鼻水をすする音が響く。

なんでそんなに泣くんだよ。

初めてじゃないくせに。

ぼくの初めてなのに。

「出てって・・・亮太。出てってよ!!」

・・・ため息をついて立ち上がる。

お望み通りにするよ。

そう思った瞬間。

 

凍りついた。

 

自分のものを染めている、赤。

なぎさの太ももからつたう混ざり合った薄ピンク色の体液。

 

まさか。

 

「なぎさ、あいつとは」

「してないって言ったじゃない!!」

 

のどの奥が冷たい。吐き気がこみあげる。

けれど、のどから何も出てこない。

深海から引っ張り上げられた。

このまま内臓が全部出てしまえばいいのに。

ぼくのものが、情けなく萎(しぼ)んでいく。

 

ぼくが、なぎさの初めてを。

 

むりやり。

 

あんなに乱暴に。

 

「嘘だ」

震える足で近づく。

乱れた制服。破られたブラウス。

しわくちゃになったスカート。

足元までずり下げられたショーツ。

ぼくがやった。

 

「・・・触んないで。出てって!

あんたなんかもう・・・知らない」

震える声。

 

「そんな、つもりじゃ・・・ ぼくは」

ぼくは?

何がしたかった?

なぎさと、したかっただけだろ?

できたんだろ?

 

ぼくの声がぼくを突き刺す。

言い訳の余地なんてない。

ぼくがやった。

ぼくがなぎさを汚してしまった。

また汚してしまった。

 

「出てってよ・・・亮太」

 

こんどはぼくが、追放される。

もうなぎさは守ってくれない。

 

平衡(へいこう)感覚がない。

どこが上か分からない。

箱に入れてめちゃくちゃに振り回されているみたい。

ぼくはどこに立っているんだろう。

いや、どこにも立っていないのか。

 

 

気がついたら、ラグに顔を埋めて泣いていた。

謝罪の言葉をくり返す。

ごめんなさい、許してください、勘違いだった、そんなつもりじゃなかったんです。

けれど、どの言葉も届かない気がする。

全てがうわすべりしていく。

ぼくの言葉がなぎさにとりつこうとして跳ね返されてしまう。

どれも価値を持たない。

きっとぼくがひどいやつだから。

なぎさの気持ちを全然考えなかったから。

 

どうしようもない。

立ち上がってフラフラと玄関に向かう。

出来ることはもうない。

ここから出ていこう。

・・・どこへ行こう?

 

 

右腕を誰かがつかんでいる。

遠いことのように感触がない。

冷たい、手。

 

「亮太」

なぎさがつかんでいる。

真っ赤な泣きはらした目で、ぼくをにらんでいる。

「何かいうことは、もうないの」

 

「・・・ごめんなさい」

「他には」

「・・・許してください」

「他には」

目をそらす。

もうない。

謝っても許してくれない。

ぼくが本当に言いたかったこと。

まだ言ってないこと。

 

「まえに、リボンでしてくれたみたいに・・・

ずっと、ぼくに触れてほしかった。

お姉ちゃんが誰かに触れるのが、いやだった」

 

なぎさの冷たい指がぼくの手のひらをなぞる。

 

「お姉ちゃんが・・・好きだから」

 

「そう・・・亮太。こっち向いて」

 

全身の骨が悲鳴を上げるくらいきしんだ。

「ぃーっ!」

「痛いでしょ、亮太」

なぎさがぼくをギリギリと抱きしめる。

めちゃくちゃに強い。

「わたしも痛かったよ」

「・・・ごめんなさい」

「うん」

胸が顔に押し当てられて。

あのリボンがまたぼくを包んでる。

布地に涙が溶けていく。

・・・消えてしまいたいのに、ぼくをはなさい。

 

深海から引き上げられたぼく。

さっきまで息ができなかったのに、

今はお姉ちゃんの海に包まれてる。

「仕方ないなあ・・・亮太は」

 

涙と鼻水でべしょべしょのリボン。

顔を上げると、なぎさの顔も涙の跡でいっぱいで。

「あーあドロドロ。・・・お風呂入ろっか」

 

くしゃっとした顔で、なぎさが笑った。

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