※この作品はR-18です。

さよならコブラツイスト 〜美墨なぎさと弟・亮太〜   作:黒沼むつみ

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ROUND4+5──「じゃあ今すればいいじゃん」

〈ROUND4〉

 

なぎさが鼻歌を歌いながら前を歩く。

ぶんぶんと手を振って。

それに合わせてぼくの右手も揺れる。

 

なんどでも なんどでも たちあがりよぶよ♬

 

どこか調子っぱずれななぎさの歌声が朝の街に溶けていく。

「・・・何その歌」

「ん?バイト先で流れてた。亮太は知らない?」

「知ってるけど・・・」

割と重い歌詞だった気がするけど、お姉ちゃんが歌うとそうは聞こえないんだよな・・・と言いかけて飲み込む。

あれだけの事をしたのに、あの後なぎさはぼくを抱いて眠ってくれた。いっしょの布団は少し狭くて、でも暖かくて、泣きたくなるくらい幸せだった。

起きたらとっくに朝ごはんの時間を過ぎていて、2人で買い出しにでた。

太陽がアスファルトになぎさの形を切り取って。なぜかぼくはそれを踏みたくない。

慎重に、でも離れすぎないように、後ろを歩く。

「姉ちゃん、その・・・恥ずかしいよ」

「何が」

繋いだ手をぶんぶん回しながら笑う。

「じゃああんたが先歩きなさいよ、コンビニどこか知ってんの?」

「知らないけどさぁ・・・」

 

どうして分からないんだ 伝わらないんだ

ふふふふんふ〜ん♬

 

歌詞知ってんじゃないかなと思ったがつつかないほうが良さそうな気がする。

お姉ちゃんにはかなわないから。

 

▽  ▼  ▽

 

おかしペットボトル飲料グラタン幕の内弁当が

レジにカウントされた次の瞬間。

時間が静止した。

 

カゴの中に見知らぬもの。

何かは知っている。

見たことも聞いたこともある。

でも買ったことはない。

もちろんカゴには入れてない。

 

『究極!うすさ0.02ミリ!』

 

薄く丈夫である事をこれでもかと主張するキャッチコピー。

オシャレでぱっと見なんなのか分からないスタイリッシュな箱を店員がレジに通した。

なんであんなものが。

どっかでカゴに落ちたか。

 

動こうとした瞬間、手をつかまれた。

なぎさの真剣な瞳が虚空を見据えている。

レジも見てない。

ぼくも見てない。

無心の瞳。

無言の意思。

 

お姉ちゃんがロボットみたいな動きで会計を済ませる。

 

緊張感のない、のんきな電子チャイムの音に送り出されて店を出た途端。

なぎさがさくさくと早足になった。

ちょっと・・・ちょっと早くない?

 

「ちょっ・・・待ってよなぎさ」

「だって!」

 

立ち止まって。

うつむきながら絞り出すように。

「・・・亮太、中に出そうとするんだもん」

 

黙っちゃった。

コンビニ袋を持った指が白くなるほど握りしめられている。

ごめん、お姉ちゃん。

そうだよね。怖かったよね。

 

「ぼくが持つから」

袋を受け取る。

白くなった指を握り返して、今度はぼくが先を歩く。

ふたりで手を振りながら。

 

振り回される袋の中で箱が音を立てる。

大丈夫、今度は間違えない。

ちゃんとする。

 

──待てよ。

 

これつけたら何度でもしていいってことになるかな?

 

想像した途端、鼓動が早くなった。

早く帰りたい。

「ちょっと亮太、早くない!?」

そうかも。

 

その時、心によぎった。

ずっと気になってたこと。

聞かなきゃならない。

そうしないと、安心できないから。

 

 

〈FINAL ROUND〉

 

レンジの中。

昨日の残りのたこ焼きがゆっくりと回る。

カウントを見つめる2人。

経過を待つ、空白の時間。

 

──今しかない。 

意を決して亮太が放つ。

「その・・・あ、あいつと、キスは、したの?!」

 

「はあ!?ありえない!

先輩だって言ったじゃない!

なんにも・・・その、なんにもないんだって」

なぎさが口ごもるのは何かあったからではない。先制攻撃にあわてているだけだ。

 

「そもそも先輩は家来たことないし!」

「じゃああの、枕とか歯ブラシは?!ほらあの大きい縞々の!」

「あれはほのかが置いてったやつだってば!」

「ええっ?!」

ほのかさんと一緒の布団で寝てるの?!!と亮太は思ったが今の本題はそっちじゃない。

 

「だいたい亮太がなんでわたしのその、キスとか気にすんのよ!

わたしの、勝手じゃない?!」

 

「だっ!だって!・・・俺まだなぎさと、キス、したことない・・・から!・・・」

亮太渾身のクロスカウンター。

自分のダメージが大きそうな気もするが。

 

──亮太のうそつき。

なぎさは知っている。昔、居間のソファで寝こけていたときにこっそり亮太が自分の唇を奪ったこと。

半分起きていた、あの時の確かな記憶。・・・忘れるもんか。

──困らせちゃえ。

 

振り向きざま亮太の頬をつかみ唇を合わせる。

有無を言わせない。

見開かれる亮太の瞳を見ながらなぎさは目を閉じる。

 

・・・離れると2人の間に、透明の糸が引かれた。

 

「じゃあ今すればいいじゃん。

・・・2回目だけど。覚えてるよ?亮太」

得意げになぎさは姉の威厳を見せつけた。

これ以上ないくらいのドヤ顔。

恐るべきフィニッシュホールド。

ピシリと人差し指を向けて──

 

自分が、弟と大人のキスをした事に、気付いた。

 

──私、亮太とキス、したんだ。

 

顔が沸騰するようにあつい。

なんで今さらこんな事で赤くなるの、

もっとすごい事、しちゃったのに。

 

亮太を見ると。

耳まで真っ赤になってうつむいている。

過去を蒸し返されたことに気づいたのか。

今さらバツが悪いのか。

 

チーン!と最後のゴングが鳴って──

 

たこ焼きの入った電子レンジの前、

ゆでダコのような2人が黙っている。





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関連作品:なぎさとほのかの話
『いちばん近くに』
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