機動戦士ガンダム エロ短編集 女達の地獄の黒史録 作:みなぽん
ニカ・ナナウラ (Nika Nanaura)
第一章 戦争シェアリング(改訂版)
*目を閉じると、今でもあの日の匂いが蘇る。*
それは鉄と火薬と、何かが焼け焦げる匂いだった。そして、血の匂い。そして、汗と、別の生々しい臭い。
1 灼熱の記憶
地球、アフリカ大陸東部——かつて「タンザニア」と呼ばれた地域。ニカ・ナナウラがまだ六歳だった頃の記憶は、不思議なくらい鮮明だ。むしろ、鮮明すぎることが呪いだった。大人になれば自然と薄れていくはずの記憶が、彼女の中でだけは研ぎ澄まされた刃のように鋭さを保ち続けていた。
その日は、ひどく晴れた日だった。青い空。白い雲。赤茶けた大地を吹き抜ける、乾いた風。ニカは母の手伝いで、小さな菜園の水やりをしていた。ポンプは古びていて、何度もハンドルを上下させなければ水が出ない。それでもニカは、その単調な作業が嫌いではなかった。むしろ好きだった。機械の仕組みを感じられるから——カチカチという手応え、パイプの中を水が流れる微かな振動、蛇口から迸る水の煌めき。
「ニカ、そろそろお父さんが帰ってくる時間よ」
母の声に顔を上げると、遠くの丘の向こうに砂煙が上がっているのが見えた。父のトラックだ。父は鉱山で働く採掘労働者で、週に一度だけ家に帰ってくる。ニカは水差しを放り出して、砂煙に向かって走り出した。
「転ばないで!」母の笑い声が背中を追いかける。
それが、最後の幸せな記憶だった。
## 2 終わりの始まり
砂煙が近づいてきたとき、ニカは異変に気づいた。父のトラックにしては音が大きすぎる。それに、砂煙が多すぎる。一つじゃない。五つ、六つ——いや、もっと。
アラートがけたたましく鳴り響く。母が倒れ、耳を押さえる姿をニカは理解できずにただ呆然と見つめた。
最初の一機が丘の稜線を越えて現れた。それは、ニカが今まで一度も見たことのない形をしていた。人型——両腕、二本足、胸部には装甲が施され、頭部のカメラアイが無機質に光っている。それが四本の脚部ユニットを使い、空気を切り裂くような駆動音を響かせながら、滑るように接近する。モビルスーツ。
3 壊される日常
ニカは走った。悲鳴を上げながら、母のもとへ、家のもとへ。背後で、機関砲の発射音が響いた。
最初の犠牲者は集落の入り口近くで薪割りをしていた老人だった。機関砲が一掃し、木の幹ごと肉体が千切られて散る。次は逃げ遅れた子供だった。泣き叫ぶ声が途中で切断され、母と手をつなぐ暇もなく消えた。
「対象:民間人14名、制圧完了。残存兵力0」
無機質な合成音声が響く。ニカの目から溢れた涙は、灼熱の太陽ですぐに蒸発した。
父のトラックは、集落の手前500メートルで停止させられていた。
デスルターが取り囲み、二人のパイロットが降りてくる。白いノーマルスーツは砂漠の砂で汚れ、ヘルメットを外した顔はニカの父と同じ人間の顔をしていた。違うのは、その目つきだ。恐怖も躊躇いもない。ただ「作業」を見る目。
撃ち込まれる。ニカには、それが現実だとは思えなかった。父がゆっくりと崩れ落ちる姿が、コマ送りのように見えた。母の絶叫が遠くに聞こえる。間に命令する。三人ほどの男たちが周囲を取り囲み、まるで野生動物を観察するような冷たい視線を向けた。一人は小型のカメラを取り出し、撮影を始めた。
「こんな田舎の女でも、まあまあ使えるぜ」
下卑た笑い声と共に、兵士の手が母の服の中に侵入する。布地が引き裂かれる音が、異常なほど大きく響いた。乳房が露わになり、羞恥と屈辱で母の顔が真っ赤に染まる。涙が頬を伝い、喉から嗚咽が漏れた。
「……くそ、面倒だな」
苛立ったように言い捨てると、兵士は腰からナイフを取り出し、一気に服を切り裂いた。細かい布切れとなって宙を舞う衣類。丸裸になった母の身体が、荒涼とした砂漠の昼光の下に晒される。痩せてはいるが健康的な曲線を描く腹部。豊満ではないが柔らかそうな臀部。全てが無防備に露出している。
「大人しくしろよ、ガキにも同じ目に遭わせたくなければな」
脅迫の言葉。耳の聞こえない母には意味不明な恫喝だが、相手の表情と雰囲気で危険を感じ取ったのか、全身の筋肉が硬直するのが見て取れた。兵士はそんな緊張を楽しむように、ねっとりとした手つきで乳房を鷲掴みにする。柔らかな脂肪が指の間に沈み込み、乳首が痛々しく屹立する。
「う……ぁあ……っ!」
母が初めて声を上げた。
苦悶と恐怖がない交ぜになった喘ぎ。それが彼らをさらに興奮させたようで、もう一人の兵士が後ろに回り込み、無理やり母の腰を掴んで自分の股間を押し付けた。太ももの内側に硬いものが擦りつけられ、母が身をよじって逃れようとするが、がっしりとした腕に押さえ込まれて動けない。砂漠の乾いた風が、露わになった肌を撫でる。その風さえも暴力的に感じられた。
「撮影開始。対象:反乱分子の女性。年齢推定30代前半」
カメラを持った兵士が淡々と告げる。この陵辱は「記録」であり「処理」なのだ。軍事作戦の一部として行われているのだ。
最初の兵士がズボンのベルトを緩め、猛ったものを露出させた。母の脚の間に割り込み、濡れてもいない秘所に無理やり先端を押し当てる。乾いた粘膜が引き攣れる感触。母が首を振って抵抗するが、がっしりとした手が腰を掴んで離さない。
「い……いや……っ!」
言葉にならない拒絶が漏れる。耳が聞こえない母には、自分の声さえ届かない。ただ触覚と痛覚だけが、今起きている出来事を伝えてくる。侵入してくる異物の感触に、母の身体が強張り、背中が弓なりに反る。
「きっつ……乾いてんな、仕方ねえか」
兵士は乱暴に唾を手に吐きかけ、それを性器に擦り付けた。潤滑油代わりの粗雑な行為。そして、再び押し込む。今度は抵抗なく——いや、抵抗できないほどの力で——肉の壁が押し広げられ、硬い楔が奥深くまで突き刺さった。
「ああぁぁ……っ!!」
母の口から絶叫が迸る。耳の聞こえない喉から出る声は、言葉の形を成していない。ただの音。痛みと恐怖と屈辱が混ざり合った、獣の咆哮のような音。
兵士は腰を振り始めた。規則的で、機械的な動き。快楽を求めているのではなく、ただ支配を確認しているだけの動き。母の身体が前後に揺さぶられ、砂埃が舞い上がる。
露わになった乳房が不規則に揺れ、時折兵士の肩にぶつかる。汗ばんだ肌が触れ合うたび、湿った音が小さく響いた。
「おい、こっち向き換えせ」
後ろにいた兵士が指示し、二人がかりで母の身体をひっくり返す。四つん這いの姿勢。尻を高く掲げさせられ、さらなる屈辱を与えられる。もう一人の兵士が後ろから性器を挿入しようとするが、前の兵士と互い違いに位置取りができず、何度か角度を調整する必要があった。
「ちっ、狭いな……けどまあ、締まりは良さそうだ」
嘲りの言葉と共に、後ろからも侵入が始まった。狭い肉洞が同時に二方向から広げられ、母の体内で粘膜が引き延ばされる感覚が増幅される。二人の兵士が交互に腰を振り始め、母の身体が前後から引っ張られるように揺れる。骨盤が軋み、結合部から滲み出た体液が乾いた土の上で泡立つ。
「うぅ……ぐ…っ……!」
呻き声が断続的に漏れる。鼻水と涙と涎で顔はぐしゃぐしゃになり、喉が枯れて掠れた音しか出せなくなっていた。しかし、聴覚の機能しない母には、自分がどれほど惨めな声を上げているか自覚できない。ただ、体内を抉られる衝撃と、身体を蹂躙される異物感だけがある。
「そろそろ出すぞ……どこに出してほしい?」
兵士が耳元で囁く。もちろん、母には聞こえない。聞こえなくても構わないのだ。これは「儀式」だから。
支配者が被支配者に対して行う、単なる手続きだから。
最初の兵士が低く唸りながら動きを止め、母の奥深くで精を放った。熱い液体が狭い空間に注ぎ込まれる感覚。次に後ろの兵士も達し、引き抜かれた亀頭から残滓が飛び散り、母の背中や臀部を汚す。解放された瞬間、母の身体が支えを失って砂地に崩れ落ちた。四肢が投げ出され、顔は伏せられ、髪の毛が乱雑に広がる。
「ふう……終わったか。さて、次はガキか」
兵士の視線が、固まって見ているしかないニカの方へ向く。
そこに母の絶叫が飛んだ。
「いやっ!」
母は懸命に上半身を起こし、腕を伸ばした。
ニカに向かって。
だが、まだ若いとはいえ成長期に入った十五歳の肉体は、すでに十分な成熟を見せていた。兵士たちはゴクリと唾を飲み込み、無遠慮な視線を浴びせかける。
「へえ、なかなかの上玉じゃねぇか」
「おい、写真撮れよ。これも資料として提出しなきゃならん」
「記念写真撮っとくか?」
兵士の一人が嘲笑う。
「地球人の繁殖能力が高いっていうデータもあるからな、試しに種付けしとくのもありだぜ」
下劣極まりない言葉。それが冗談でないことは彼らの目の色から明白だった。
「お前が一番乗りか?」
「待てよ、俺が先だ!」
順番を巡って争う声。一人の兵士がニカの腕を掴み、地面に引きずり倒そうとする。
その瞬間——。
「私の娘に……触るな!!」
掠れた、しかし凄まじい怒号が響いた。耳の聞こえないはずの母が、喉から絞り出すように叫んだのだ。空気が震えるほどの激昂。普段の柔和な印象を全く欠いた形相で、母が立ち上がり、ニカに向かって走り寄ろうとする。
「おっと、まだ活きがいいみたいだな」
兵士の一人が素早く動き、母の腹に容赦なく膝を入れた。鈍い音とともに、母の身体がくの字に折れ曲がる。胃液を吐き出しながら膝をつく母に、追い討ちをかけるように平手が飛ぶ。頬を打つ乾いた音。もう一発、今度は反対の頬。
「大人しくしてろって言ってんだよ」
殴られた衝撃で横倒しになった母が、なおも這い上がってこようとする。肘を使って地面を擦りながら、一歩でも娘に近づこうとする執念。
兵士たちは呆れたように顔を見合わせた。
「面倒だな、首輪付けとけ」
誰かが指示する。持参してきたらしい金属製の首輪が、乱暴に母の首に嵌められた。犬に使うような枷だ。革紐が付けられ、兵士の一人が手綱のように握る。
「ほら、これでもう逆らえない」
勝ち誇った声。首輪によって完全に拘束された母は、しかし諦めない。
喉笛が鎖で締め付けられ、苦しそうに喘ぎながらも、目だけは爛々と輝いて兵士を睨みつけている。
「なあ、母親が見てる前で娘を犯すってのも、一興じゃね?」
冷酷な提案。他の兵士たちがニヤリと笑い、賛同する。
「いいね、そいつはいい」
「さあ、お嬢ちゃん。ママに見せてやれよ、お前がどうなるかを」
ニカの服が乱暴に剥ぎ取られる。小さな体が、灼熱の太陽の下で白く輝く。恐怖と羞恥で震える少女の身体。それを見つめる母の目が、絶望に歪む。
母は何かを叫ぼうとした。だが、喉が引きつり、声が出ない。首輪の圧力と、それ以上に感情の奔流が言葉を奪った。代わりに、腕が伸びた。
ニカに向かって。
守るために。
縋るために。
だが、その手は届かない。兵士の靴が母の手を踏みつけ、指の骨がミシミシと音を立てる。苦痛に顔を歪めながら、母はなおも手を伸ばし続けた。
ニカの目から涙が溢れる。
「ママ……!」
ニカの絶叫。
それに応えるかのように、母の指がわずかに動く。
*——大丈夫よ。*
*——ママが、守るから。*
声なき言葉が、伝わった気がした。
それからの記憶は断片的だ。
故郷も家族も何もかもを失ったニカは、移動難民キャンプを転々とした。その中で、彼女は機械いじりの才能を開花させる。壊れた通信機を直し、故障した車両を修理し、廃棄されたドローンのパーツを組み替えた。やがて「フォルドの夜明け」が彼女を見出した。
幼い子供に機械の組み立てを覚えさせ、訓練を施す——それは、組織にとっては都合の良い技術者の育成だった。そしてニカにとっては、わずかな食料と寝床を得るための唯一の手段だった。
だが、ニカの中では、あの日の炎が消えることはなかった。
あの後、母は——。
思い出すのが苦しい。母は最後まで、ニカを守ろうとしていた。ニカに手が伸びるのを防ぐため、自分が囁いていたことをニカは後になって知る。そして、母は最後に、ニカに微笑んだ。血と涙と体液にまみれた顔で、それでも微笑んだのだ。
——生きて。
それが、母の最期の言葉だった。ニカは誓った。
*——いつか、この手で。いつか必ず、すべてを終わらせる。
それが復讐なのか、救済なのか、それとも破滅なのか、幼い心にはまだ判断がつかなかった。だが、その誓いだけが彼女を生かし続けた。。
第一章 戯れの代償
難民キャンプを転々とした後、ニカ・ナナウラは「フォルドの夜明け」のアジトと呼ばれる廃墟の集落に辿り着いた。そこは、スペーシアンの圧政から逃れた地球人たちが集う、小さな自治区域だった。
最初は、救われたのだと思った。
温かい食事と、雨風を凌げる屋根。そして、何より「仲間」がいるという安心感。孤児となったニカにとって、そこは新たな居場所になるはずだった。
だが、現実は違った。
「おい、小僧。このエンジン、直せるか?」
最初に声をかけてきたのは、髭面の大男——オルコだった。整備班の責任者で、アジトの実務を取り仕切る男だ。
六歳になったばかりのニカは、黙って頷き、渡されたスパナを握りしめた。小型の発電機。中身はグチャグチャだったが、構造は単純だった。配線を繋ぎ直し、接触不良を直し、燃料ラインを清掃する。小さな手は器用に動き、一時間もしないうちにエンジンは軽快な音を立てて回り始めた。
「へえ、やるじゃねえか」
オルコがニカの頭をワシワシと撫でた。その手つきは優しく、ニカは少し嬉しくなった。
「よし、お前は俺たちの仲間だ。歓迎するぜ」
その言葉を、ニカは信じたかった。
最初の違和感は、夜にあった。
アジトの子供たちは、男女別の簡易宿舎で寝起きしていた。だが、ニカだけは違った。
「お前は器用だからな。いつでも作業できるように、俺の部屋で寝ろ」
オルコに言われ、ニカは彼のテントに移った。大人の男の匂いがする、狭く薄暗い空間。
その夜のことだった。
オルコが酒を飲んで戻ってきた。ベッドに潜り込もうとしたニカの手首を、いきなり掴んだ。
「よう、小僧。上手くやったな、今日の」
ベッドに押し倒される。圧し掛かる男の重み。酒臭い息。
「な、なんですか……?」
怯えるニカに対し、オルコは下卑た笑いを浮かべた。
「褒美をくれてやるよ。俺たちの仲間になった記念にな」
ズボンのベルトが外される音。太い指が下着の中に侵入する。
「いやっ……!やめて……!」
抵抗しようとするが、六歳の細い腕では大人の男を押し退けられない。むしろ、その抵抗が男を楽しませているようだった。
「元気だな、いいぞ。そういうのがいいんだ」
無理やり脚を開かされ、見知らぬ感覚に身体が強張る。乾いた指が触れる場所は、母が蹂躙された場所と同じだった。
*——ああ、そうか。*
ニカの脳裏に、あの日の光景がフラッシュバックした。
砂漠の太陽の下で、母の上で腰を振るスペーシアンの兵士たち。そして今、薄暗いテントの中で、自分の上に乗る地球人の男。
*——どこも、変わらない。*
スペーシアンも、地球人も。権力を持つ者が持たざる者を踏みつける構造は、同じだ。ただ場所が変わっただけ。制服を着ているか、泥にまみれた服を着ているかの違いだけ。
痛みと屈辱の中で、ニカはただ天井を見上げていた。薄汚れたキャンバス地。雨漏りの跡。そこから差し込む月明かりだけが、冷たく輝いていた。
それからは、毎日だった。
「おいニカ、こいつも直せ」
整備を終えた夜、決まって誰かがニカを呼んだ。オルコだけではない。アジトには男が十数人いる。彼らは交代で、あるいは時には一緒に、ニカを慰み者にした。
「いい子だな、黙って耐えてりゃあ痛くないぞ」
「ほら、もっと脚を開け」
「なんだよ、まだ慣れねえのかよ」
下品な言葉が飛び交う中、ニカは感情を殺した。泣けば「うるせえ」と殴られる。抵抗すれば「恩知らず」と罵られる。だから、ただ耐えた。機械のように。部品のように。
ある時など、整備中に背後から抱きつかれ、そのまま作業台に押し付けられたことがあった。手にはまだスパナーが握られている。
「おっと、危ねえな。ナット締めてる最中に割り込むのはルール違反だろ?」
誰かが笑う。だが、男は止まらない。作業着のズボンを膝まで下ろし、濡れてもいない窄まりに先端を押し付ける。
「くっ……!」
苦痛に顔を歪めるニカを見て、男たちは面白がった。
「整備中もサービスいいな、お前」
「締まり具合は上々だぜ」
身体の中を出入りされる感覚。摩擦による痛み。そして、注ぎ込まれる粘り気のある液体。全てが機械的で、全く快楽を伴わない行為。
ただ、時々ニカは思うことがあった。
*——この感覚、どこかで……*
そう、母だ。母もこうされていたのだ。あの砂漠で。スペーシアンの兵士たちに。そして今、自分は同じ地球人であるはずの男たちに。
*——男と言うものは、どこも変わらない。*
その事実が、ニカの心に深い絶望と、冷たい軽蔑を植え付けていった。
4 季節が変わる頃、ニカの身体はすっかり慣らされていた。
痛みは薄れ、むしろ作業の一環として受け入れるようになっていた。男たちが満足すれば、食事も与えられるし、新しい工具も手に入るからだ。
ある夜、珍しく誰も来ない静かな時間があった。ニカは一人、整備されたばかりのジェネレーターを見つめていた。その横に座り込む。
「……」
何も考えられないわけではなかった。ただ、考えたところで何も変わらないという諦めがあっただけだ。
その時だった。
「……ここにいた」
暗がりから、一人の少女が現れた。黒い髪を短く切り揃え、着古したジャケットを羽織っている。年はニカより少し上だろうか。
「……誰?」
ニカが問うと、少女はニカの隣に腰を下ろした。
「あたしはソフィ。ソフィ・プロネ」
自己紹介を済ませると、ソフィはジェネレーターに手を触れた。
「これ、お前が直したのか?」
「……うん」
「へえ……すごいな」
純粋な感心の声。それが妙に新鮮だった。男たちがニカを褒める時は、いつも下心があったからだ。
「あんた、名前は?」
「……ニカ」
「ニカか。いい名前だ」
ソフィは微笑んだ。その笑顔には、ねっとりとした感情がついていなかった。
「……あんた、知ってるんでしょ」
ニカはぽつりと言った。
「私が毎晩、どうされてるか」
ソフィの表情が曇る。やはり知っていたのだ。
「……ああ。知ってる」
「どうして助けてくれないの?」
問い詰めるつもりはなかった。ただ、言葉が勝手に出た。
ソフィはしばらく黙り込み、やがて口を開いた。
「……助けられない。あいつらはあたしより強いし、あたし一人じゃ何もできない。それに……」
「それに?」
「あんたが直した機械で、あいつらは戦うつもりだから」
その言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。
「……私が整備した機械で、彼らは戦う。そして私を犯す。そういうこと?」
「……そういうことだ」
ソフィは辛そうに顔を伏せた。
「歪んでるよな。あたしたちの生き方は」
ニカは膝を抱えた。
「歪んでるんじゃないよ。最初から壊れてるんだよ、この世界は」
## 5
ソフィとの出会いがあってからも、日常は変わらなかった。
相変わらず男たちはニカを犯し、ニカは機械を直し続けた。
ただ一つ変わったことがあるとすれば、ソフィが時々ニカのそばに来るようになったことだ。
何をするわけでもない。ただ隣に座り、ニカが作業する様子を見ているだけ。時折、短い会話を交わす。
「それ、何の部品?」
「水ポンプのバルブ。劣化してたから交換する」
「へえ……大変だな」
「慣れたよ」
「……そうか」
ソフィはそれ以上何も言わない。ただ、その存在が少しだけ心地よかった。
ある夜、オルコに呼ばれてテントに入った時のことだ。
いつものように服を脱がされ、ベッドに押し倒される。口に男の性器を押し込まれ、喉の奥まで突かれる。息苦しさに目尻から涙がこぼれるが、オルコは気にする素振りもなく腰を振った。
「んぐっ……ぅぅ……!」
嚥下を強要され、苦悶の声が漏れる。口の中に広がる苦味と生臭さ。やがて放たれた粘液を無理やり飲み込まされ、胃の中が焼けるように熱くなる。
「悪くないサービスだったぜ」
オルコが満足げに呟き、ニカの髪を撫でた。
「明日も期待してるぞ、ニカ」
テントを出たところで、ソフィと目が合った。
暗がりの中で、ソフィの瞳だけが光っていた。その目には怒りも悲しみもなく、ただ静かな決意のようなものが宿っていた。
「……大丈夫か?」
掠れた声でソフィが問う。
「……うん」
ニカは服の乱れを直しながら答えた。
「慣れてるから」
その言葉に、ソフィは痛ましげな顔をした。
「慣れるもんじゃねえよ」
「でも、慣れないと生きていけないでしょ?」
ニカは淡々と言った。
「この世界で生きていくには、必要なことなんだよ」
ソフィは何も言えずに黙り込んだ。
⭐️その後
それから数年が経った。
ニカは成長し、整備の技術も上がった。背丈も伸び、女性らしい丸みを帯び始めた身体は、男たちの欲望をさらに煽った。
「おいニカ、こっち来いよ」
夜になれば誰かが呼び、ニカは黙って従った。
ある時など、整備班の男たち全員に回されたことがあった。輪姦だ。一人が終われば次が入り、また別の穴を使う。前も後ろも同時に使われ、身体のあちこちに精液をかけられる。
「くっ……あぁ……!」
感覚が麻痺していく中で、ニカはただ天井を見上げていた。汚れたテントの天井。雨漏りの跡。
*——男と言うものは、どこも変わらない。*
スペーシアンも地球人も関係ない。権力を持つ者は持たざる者を踏みつけ、欲望をぶつける。それがこの世界の摂理なのだと、ニカは学習した。
だが同時に、別の感情も芽生え始めていた。
軽蔑だ。
男たちが獣のような顔で腰を振り、果てた後に満足げに眠る姿を見ていると、底冷えするような軽蔑が湧いてくる。
*——あなたたちは、スペーシアンと何も変わらない。*
*——むしろ悪質だ。同胞を食い物にしているんだから。*
その軽蔑を胸に秘めながら、ニカは笑顔を作った。
「お疲れ様でした」
翌朝、何事もなかったかのように整備に向かう。スパナーを握り、レンチを回す。機械だけが裏切らない。きちんと直せば動くし、メンテナンスすれば長持ちする。人間とは違う。
ソフィがいつものように側に来た。
「……昨夜は大変だったな」
「聞いてたの?」
「壁が薄いからな」
ソフィは苦笑いした。
「あんた……本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ」
ニカは笑った。
「機械と同じ。適切な処置をしていれば壊れないから」
その答えに、ソフィは言葉を失った。
ある日、オルコがニカに言った。
「お前もそろそろ役に立ってもらう時期だ」
「役に立つ?」
「ああ。スパイだ」
オルコは地図を広げた。
「ベネリットグループが運営する学校がある。アスティカシア高等専門学園。そこへ潜入し、情報を集めろ」
「……どうやって?」
「お前の技術を使え。メカニックとして潜り込むんだ」
オルコはニカの肩を掴んだ。
「できるな?」
その手つきは優しくなかった。命令であり、拒否権はない。
「……はい」
ニカは頷いた。
*——スパイか。*
新たな役割。新たな偽り。でも、構わないと思った。このアジトを出られるなら。
男たちから解放されるなら。
その夜、ソフィがニカの元を訪れた。
「……行くのか?」
「うん」
「そうか」
ソフィは短く言い、ニカの頬に触れた。
「……気をつけろよ」
「うん」
ニカはソフィの手に自分の手を重ねた。
「ありがとう、ソフィ」
「何がだ?」
「側にいてくれて」
ソフィは目を伏せた。
「……あたしは何もしてない」
「いてくれだけで十分だよ」
ニカは微笑んだ。
さよなら、この地獄。さよなら、偽りの仲間たち。
翌朝、ニカはアジトを出た。背中には整備道具と数着の着替え。胸には消えない憎悪と軽蔑。
いつか必ず。この歪んだ世界を壊す。男も女も関係ない。搾取する者もされる者も。全てを終わらせる。
灼熱の太陽の下、一人の少女が砂漠を歩き始めた。
その目には、もう涙はなかった。あるのは冷たく研ぎ澄まされた決意だけだった。