機動戦士ガンダム エロ短編集 女達の地獄の黒史録 作:みなぽん
青の檻、あるいは渇望の夜
コロニーの内壁に描かれた空は、あまりに完璧すぎた。雲の流れも、陽の傾きも、すべてがプログラムされた通りに進行し、マチュことアマテ ユズリハの日常と同じように欠片の狂いもない。
「マチュ、また委員会の手伝い頼まれちゃったの? 優秀ねえ」
同級生の何気ない言葉に、マチュは口角を十五度上げ、瞬きを三回してから小さく首を傾げた。「みんなが楽しめる学校にしたいだけだから」という、模範解答を添えて。
彼女は知っている。この角度の微笑みが最も敵を作らず、かつ優等生の仮面を強固にすることを。彼女は常に教室の中心から一歩引いた場所に立ち、空気の流れを読み、誰の琴線にも触れないように息を潜めている。無難な良い子。それがマチュ・アドナイという名の精密な檻だった。
だが、その檻の奥底で、彼女はひそかに舌打ちをしていた。
(退屈で死んでしまいそう)
心臓の裏側で、いつか来る破裂音を待ちわびているもう一人の自分がいる。彼女が求めているのは、整えられた花壇の平和などではない。土を掘り返し、泥にまみれ、血の匂いを嗅ぐような「アバンチュール」だ。日常の表皮を引き裂くような、痛みを伴う熱狂。それがなければ、彼女は自分が生きている実感を持てなかった。
放課後、誰もいなくなった校舎の裏手。空調ダクトの排気音が低く唸るそこだけは、人工的な静寂が少しだけ歪んでいた。
マチュはスカートのポケットに手を入れ、密かに隠し持っていた小さな金属片を指先で弄ぶ。それは先週、繁華街の裏路地で拾った、モビルスーツの破片だった。錆びつき、煤けたその鉄の冷たさが、彼女の乾いた喉を潤す唯一の水だった。
「そんなもの、何になるんだ」
背後から低く、砂を噛んだような声がした。
振り返ると、そこにいたのはカイエだった。学年一の問題児で、教師たちが「手のつけられない不良」と蔑む少年。彼は壁に背をもたれ、歪んだ校章のついたブレザーをだらしなく羽織っている。
マチュは瞬時に「優等生のアマテ ユズリハ」を演じる準備をした。眉を下げ、諭すような口調を作る。
「危険よ、カイエ。ここは立ち入り禁止区域だわ。先生に見つかったらまた停学になるわよ」
完璧な偽装。完璧な嘘。しかし、カイエは鼻で笑った。
「お前のその目、いつも嘘ついてるな。口じゃ心配してる風に言ってるけど、目が笑ってない。むしろ、俺が見つかって騒ぎになるのを期待してるだろ」
心臓を鷲掴みにされたような衝撃が走った。仮面の継ぎ目を暴かれた恐怖と、それ以上の眩暈のような歓喜。
「……何のことかしら」
「とぼけるなよ。その鉄くず、ただ拾ったんじゃないだろ。お前、何かを待ってるんだ。この退屈な世界が壊れるのを」
カイエはゆっくりと近づいてきた。彼の瞳には、マチュが隠し持っていたのと同じ種類の暗い火が灯っていた。彼もまた、この息苦しい平和に窒息しかけている人間だ。
マチュは後退りしなかった。するはずがなかった。彼女が長い間求めていたアバンチュールが、今、目の前に立ち上がったのだから。
「……壊れるなら、壊れればいいわ」
口をついて出た言葉は、自分でも驚くほど冷たく、そして甘美だった。それは彼女の内側で長く抑圧されてきた本音の結晶だった。
カイエはニヤリと笑い、ポケットから小さな端末を取り出した。「今夜、連邦軍の物資搬入ルートのゲートを封鎖するデモがある。治安部隊が出るぞ。面白くなりそうだ」
それは明らかに危険な誘いだった。参加すれば、無難な良い子の人生は終わる。停学どころか、補導され、両親や学校に失望される。
だがマチュの脳裏に浮かんだのは、怒り狂う母の顔でも、嘆く教師の顔でもなかった。硝煙の匂いと、サーベルの閃光、そして宇宙を舞う鉄の棺桶のイメージだった。
(そう、これよ)
これこそが、彼女が求めていたアバンチュール。日常という名の退屈な死からの脱出。
「……首輪、外すわよ」
マチュは金属片を強く握りしめた。掌に食い込む鋭い痛みが、彼女を現実へと繋ぎ止めた。
その夜、マチュはベッドから抜け出した。いつもの丁寧にアイロンをかけられたパジャマを脱ぎ捨て、地味な色の厚手のパーカーとジーンズに着替える。鏡の前には、見知らぬ少女が立っていた。優等生の仮面を剥がしとったその顔は、ひどく生き生きとし、同時に危うい狂気を孕んでいた。
繁華街の裏路地は、ネオンの光が届かない深い闇に沈んでいた。そこにはカイエと、彼の仲間たちがいた。彼らはマチュを見るなり、一瞬怪訝な顔をしたが、彼女の瞳の奥の暗い光を見て取ると、何も言わず仲間として受け入れた。
「行くぞ」
デモ隊と治安部隊が衝突する現場は、まさに日常が崩壊した混沌の坩堝だった。催涙ガスの白い煙が視界を奪い、怒号と悲鳴が響き渡る。爆音が鼓膜を震わせるたびに、マチュの心臓は歓喜のリズムを刻んだ。
逃げ惑う人々を尻目に、マチュは煙の中へと歩を進めた。足元にはガラスの破片が散らばり、どこかで誰かが倒れている。それは地獄の絵図だった。しかしマチュにとって、それは何よりも美しい光景だった。この世界は、こんなにも簡単に壊れる。そしてその破壊の只中に立つ自分は、こんなにも鮮烈に生きている。
「マチュ、危ない!」
カイエの声が聞こえたが、遅かった。暴走した治安部隊の車両が煙を突き破って突っ込んでくる。マチュは動かなかった。逃げるつもりもなかった。迫りくる鉄の塊を、彼女はまるで恋人を見るような目で見つめていた。
(ああ、来る……)
激突の瞬間、世界がスローモーションに歪んだ。その刹那、彼女の脳裏に奇妙な閃光が走った。それは未来の予感か、あるいはもっと遠くの宇宙で繰り広げられている戦火の残響か。
爆風が彼女を吹き飛ばし、アスファルトの上に転がった。痛みはなかった。ただ、頬に流れる温かい液体の感触と、自分の荒い息遣いだけが現実だった。
「生きてる……」
彼女は血に濡れた唇を震わせながら、笑った。それは教室で見せていた無難な微笑みとは似ても似つかない、獣のような、しかし美しい笑みだった。
暴動の余韻がまだ身体の奥で脈打っていた。治安部隊の車両に撥ね飛ばされた痛みは鈍い痺れとなり、それがかえってマチュの神経を研ぎ澄ませていた。
カイエたちの隠れ家は、コロニーの外壁にへばりつくように建てられた廃棄された整備ドックの一画だった。湿った鉄の匂いと油の臭いが混じり合うそこは、整然としたコロニーの居住区とは対極の異界だった。
「飲めよ。生き返るぞ」
カイエが差し出したのは、色のついた液体が入った粗末なグラスだった。アルコールの強い匂いと共に、甘く痺れるような香りが鼻腔をくすぐる。
「これは……?」
「ただの酒じゃない。南極から密輸したリラックス効果の高いハーブを漬け込んだやつだ。頭のネジを少しだけ緩めてくれる」
カイエはそう言ってニヤリと笑うと、自分のグラスを一息に煽った。
マチュは躊躇わなかった。日常の倫理も、優等生の規範も、あの暴動の炎の中に置き去りにしてきた。彼女はグラスを唇に当て、液体を流し込んだ。
喉を焼く熱さと共に、甘美な痺れが胃の底から全身へと広がっていく。血の巡りが良くなり、強張っていた筋肉が溶けるように解れていくのがわかった。
頬が熱く火照り、視界が少しだけ揺らぐ。
部屋の隅では、すでにカイエの仲間たちがその効果を確かめていた。粗い息遣いと衣擦れの音が響き渡る。男女の境界が曖昧になり、理性の堤防が決壊したかのように互いの身体を貪り合っている。それはまるで、さっきまでの暴動のエネルギーが行き場を失い、別の形の熱狂へと変換されたかのようだった。
獣のような喘ぎ声と肌のぶつかる音。それらはマチュの鼓膜を直接撫で回し、背筋にゾクゾクするような震えを走らせた。
(これが……壊れるって、こういうこと?)
思考が粘度を増し、甘い霧の中を漂うように曖昧になっていく。優等生のアマテ・ユズリハという仮面が溶け落ち、内側に棲んでいた野獣の皮膚がむき出しになっていくような感覚。
「こっちに来いよ」
カイエの低い声がした。彼は壁に背をもたれ、その大きな体をゆったりとくつろがせていた。その瞳は暗い炎を宿したまま、マチュを見つめている。
マチュはふらつく足取りで彼に近づき、その広い胸に身を委ねた。カイエの体温と、鉄と油の匂い。それは暴動の夜の硝煙の匂いと重なり、マチュの心臓を激しく打たせた。
カイエの大きな手がマチュの頬に触れ、血の汚れを親指で拭い去る。その優しくも粗野な感触に、マチュは目を細めた。
「いい顔になってきたな」
カイエの唇が耳元に触れ、低く囁く。その声だけで下腹部に甘い疼きが走った。
カイエの手がパーカーの裾から入り、素肌の上を這い上がってくる。その指先は驚くほど器用で、マチュの身体の敏感な部分を正確に探り当てていくようだった。
「んっ……」
喉から甘い吐息が漏れる。いつものように抑制する暇もなく、声が勝手にこぼれ落ちた。
ブラウスのボタンが外され、露わになった肌に外気が触れる。しかし寒さは感じなかった。身体の内側から猛烈な熱が噴き上げていた。
カイエはマチュの身体を抱き上げると、自身の膝の上に乗せた。彼の太ももの固い感触と、股間に感じる硬い膨らみ。マチュは本能的に腰を押し付けた。
「欲しいだろ? もっと壊れたくなるだろ?」
カイエの言葉は呪いのようだった。マチュは夢見心地のまま頷く。
下着が脱がされ、カイエの指が秘所に触れた時、マチュは雷に打たれたような衝撃を受けた。
既に溢れ出していた蜜が彼の指を濡らす。
「すごいな……初めてなのか?」
カイエの問いにマチュは答えられなかった。ただ小さく首を横に振ることしかできない。
その反応にカイエは満足そうに笑い指の動きを早めた。マチュの知らない部分を刺激され内側から湧き上がる奔流に翻弄される。
「あっ……やっ……ダメッ……」
未知の快感にマチュの身体は弓なりに仰け反る。カイエは彼女の体を支えながら巧みな愛撫を続ける。
「我慢するなよ。全部壊してみせろ」
その言葉と共にマチュは一度目の絶頂を迎えた。頭の中で真っ白な火花が散り思考が停止する。
しかしカイエは容赦しない。休む間もなく今度は己自身をマチュの秘所に押し当ててきた。
「怖いか?」
カイエの声は優しかった。マチュは荒い息をつきながら首を横に振る。怖くはない。むしろ全てを奪われたいと思っていた。
カイエはゆっくりと彼女の内部へと侵入してきた。
痛みと圧迫感があった。しかし不思議と恐怖はなかった。むしろ待ち望んでいたものが与えられた安堵感さえあった。
「力抜いてろ」
カイエは言い聞かせるように言うと動き始めた。
初めは異物感しかなかった。しかし徐々に慣れていきその動きに合わせて身体が反応し始める。
深く奥まで突き立てられる度に今まで経験したことのない快感が脳天まで駆け上がってきた。
「はぁっ……んんっ……」
声にならない呻きが漏れる。快感と苦痛がない混ぜになり嵐のように襲ってくる。
カイエはそんなマチュを見下ろしながら激しく腰を振り続けた。何度も何度も何度も執拗に責め立ててくる。
やがて二度目の波が訪れ今度は何も考えられなくなってしまうくらい激しいものが来た。
「イッていいぞ」
カイエは優しく言った次の瞬間今まで一番強く押し込んで来たかと思うとそのまま大量の精液を注ぎ込み始めたのだ!同時に凄まじい電流のような快楽が全身を貫いて行って再び意識が飛びそうになってしまった……。
それでも尚カイエは離してくれず最後の一滴まで搾り取るようにしてようやく終わった時にはもう完全に放心状態となっていた……
カイエは射精の後の短い静寂の中でマチュの汗に濡れた髪を梳いた。彼の呼吸もまだ少し乱れている。
「どうだ? 最高だろ」
マチュは朦朧とした意識の中で小さく頷いた。言葉を発する気力さえ残っていない。全身が怠くて熱を持っており思考も定まらない。
(これが……セックス? こんなにも暴力的で原始的で……そして気持ちのいいものなの?)
これまでの人生で培ってきた「優等生」「良い子」という概念が根底から覆された。それは教育や教科書からは決して学べない知識だった。生命そのものの根源に触れる行為。
カイエはマチュの身体を抱き寄せ額に口づけた。
「お前は面白い奴だな。普通の女は最初怖がるか嫌がるかなのに……お前は最初から壊されることを望んでたみたいだ」
カイエの言葉が霞んだ頭の中に染み渡る。否定できなかった。確かにマチュは自分を制御することができない何かをずっと求めていたのだと思うと恥ずかしさとともに不思議な充足感で満たされていることに気づいた。
「でもね……私は」
途切れ途切れにつぶやいた。「私はただ……毎日同じように授業を受けて友人たちと話して成績を良くすることばかり考えて過ごしているうちに自分が誰であるかも分からなくなってしまっただけなのかも……それで今日みたいなことが起きてそれを体験してみたらすごく楽しくて興奮しちゃっただけなんだと思う……」
するとカイエは優しく笑いながら答えた。
「それこそが本当のお前なんだろうな。表面だけ見て評価してる大人とか友達なんて馬鹿みてえだし気にする必要はないぞ」
そう言われてみると本当にそうだと思えた。今まで必死になって演じてきた姿など全て虚構であり意味など無いように思えた。それならばこれから先自分はどう生きるべきなのか?
「ねえ……私はこれから何をするべき?」
思い切って尋ねるとカイエは即座に返答してきた。
「簡単だよ! まずは朝までセックスだ!他の連中もギラギラした目でお前を見てるぜ」
カイエの言葉は、マチュにとって免罪符であり、同時に呪いの言葉だった。暗がりの中でギラギラと光る男たちの視線が、汗ばむ肌に突き刺さる。それはかつて教室で感じていた「優等生としての期待」の視線とは正反対の、肉食獣の獲物を見るような剥き出しの欲望の眼差しだった。
「さあ、好きにしろよ」
カイエがマチュの身体から離れそう告げると、それを待っていたかのように一人の男が近づいてきた。レイという名のその男は無骨な手でマチュの脚を強引に開かせた。
「先輩の次は俺だ。覚悟しろよ」
レイはそう言うなり猛った自身をマチュの中にねじ込んできた。カイエとは違う角度で内壁を擦り上げられ、マチュの口から悲鳴にも似た甘い喘ぎが迸る。
「ああっ! ンんっ!」
身体の奥底に眠っていた本能が火を噴く。優等生のアマテ・ユズリハなら恥じらい目を背けただろう。しかし今のマチュは違う。その快楽の奔流に身を任せたいと切望していた。
レイの激しいピストン運動に合わせてマチュの身体が揺さぶられる。その震える唇を別の男が奪った。ジンだ。彼はマチュの顎を掴み深く口づけると舌を絡めとった。息ができず苦しいはずなのにそれさえも甘美な拷問のように感じられ思考が溶かされていく。
さらにタクがマチュの胸にむしゃぶりついた。舌先で乳首を転がされ時折甘噛みされるたびに背筋に電流が走る。
「いゃぁっ……そこっ……ダメェッ!」
口を塞がれても抑えきれない声が漏れる。三人の男に同時に責められマチュは想像を絶する快感の坩堝に沈んでいった。前も後ろも上も下もない。ただひたすらに肉の喜びが全身を駆け巡る。
レイが最奥で果ててもすぐにジンが代わった。さらにタクが……。男たちは容赦なくマチュの身体を貪り尽くしていく。
「あぐっ! ああっ! またっ……イッちゃうぅっ!」
何度絶頂に達しても息をつく間もなく新たな波が押し寄せてくる。白濁した思考の中でマチュはただ叫び続けた。それはかつての自分を殺すための咆哮であり全てを委ねるための賛美歌だった。
やがて時間の感覚さえ曖昧になりただ快楽だけが全てになった時マチュは完全に壊れた。いや壊れたのではない。本来の姿に戻ったのだ。この熱い泥沼のような情交の中で初めて彼女は自分が生きていることを実感できたのだ。
「もっと……もっとぉっ! 愛してぇっ!」
乱れ叫ぶマチュの声が廃棄ドックの天井に響き渡る。それはもう優等生の声ではなかった。ただ快楽を貪る一匹のメスの甘い鳴き声だった。
夜が明ける頃にはマチュは疲労の極致にあった。男たちに注がれた白濁液が太ももを伝い落ちる。全身の筋肉が悲鳴を上げていたが心は不思議なほど清冽だった。
カイエが毛布をかけてくれた。その優しさにマチュは微笑む。
「朝だな」
カイエの言葉にマチュは空を見上げた。ドックの隙間から差し込む朝日が煤けた床を照らしている。
「うん……新しい朝ね」
マチュは呟いた。昨日までの退屈な朝とは違う。全てが新しく見えた。彼女は知ったのだ。自分が求めていたものは整えられた花壇などではなくこの泥と汗と体液にまみれた生々しい世界なのだと。
これから彼女はどう生きるのかまだ分からない。しかしこの夜の記憶が彼女を支えてくれるだろう。いつか来る破裂音を待ちわびるのではなく自ら音を立てて生きていくための力として。
マチュ・アドナイという名の檻は壊された。その破片の中から一匹の鮮やかな獣が立ち上がったのだ。青い空の下で彼女は今日もまた生きていく。渇望する夜を胸に抱きながら。