機動戦士ガンダム エロ短編集 女達の地獄の黒史録 作:みなぽん
魔女の褥
戦後、彼女は静かなコロニーの片隅でかつての自分を殺して生きていた。
窓の外には人工の星空が瞬きパルダ・コロニーの夜は深く、優しい。サイド6のこの居住区はジオン軍による連邦の残党狩りからも遠くただ平穏だけがあった。シイコ・スガイはベッドの上で夫の腕に抱かれながら、自分が今ここにいることを時折不思議に思う。
「シイコ」
夫の声は低く耳の裏をくすぐる。彼の掌が彼女の腰のくびれをゆっくりとなぞり、その先にある柔らかな膨らみを確かめるように包み込む。戦場で100機以上を屠ったその手が今はこんなにも無防備に、一人の男に愛撫されている。
「……ん」
彼女は短く息を吐き、目を閉じる。彼の指先が肌の上を這うたび身体の奥から熱が滲み出てくるのを感じた。この男は優しい。優しすぎるほどに。戦争を知らない男だった。いや、知っていても彼はそれを表に出さない。彼にとっての「戦後」とは、ただ彼女とこうして肌を重ねる時間の連続でありそれで十分だと思っているようなところがあった。
彼の唇が彼女の鎖骨をなぞり胸の頂に触れた瞬間、シイコは小さく身を震わせた。
「冷たい?」
「……ううん、違う」
彼女は首を振る。夫は安心したように微笑み、彼女の中に指を滑り込ませる。ゆっくりとまるで壊れ物に触れるように。その丁寧さが、時に彼女をもどかしくさせた。
「もっと……」
思わず強く彼の背中を抱き寄せる。爪を立ててしまわないよう、指先に力を込めるのを堪えながら。
「シイコ、愛してる」
彼の言葉が、ぬるま湯のように耳に流れ込む。彼女の脚が彼の腰に絡まり彼が彼女の中に深く入ってくる。熱い。確かにこれは心地良い。肉体的な快楽は確実にそこにあった。彼女は声を抑えながら、夫の抽送に身を委ねる。
だが、その瞬間、彼女の脳裏を過ったのは夫の体温ではなかった。
高Gが身体を軾ませモニターに映る照準が敵機を捉える瞬間。トリガーを引く指先の感覚。機体を急旋回させ、ワイヤーフックを敵の装甲に撃ち込む。支点を中心に自分と機体が遠心力で振り回される。常人では失神する負荷。それを彼女は「生きている実感」として全身で味わっていた。
あの時の、全身の血が沸騰するような感覚。死と隣り合わせの中で自分が誰よりも明確に「自分」だった時間。
夫の腰の動きが速くなる。彼女は彼の背中に爪を立てまいと、代わりにシーツを握りしめた。
「……あっ……、ん……!」
快感は確かに高まっていく。彼の熱いものが自分の中を満たし身体がそれに応えようとする。彼の名前を呼ぼうとして、喉まで出かかってなぜか言葉にできなかった。
代わりに浮かぶのは赤い機体の残像。シャアの赤いガンダム。仲間を殺した機体。復讐の対象。追い続けた存在。あれがあったからこそ、彼女は戦場に立ち続けられた。憎しみが彼女を生かしていた。
しかし、ゼクノヴァでシャアは消えた。復讐の対象を失った彼女は燃え尽きたように退役し、この平穏な場所に流れ着いた。夫と出会い結婚し、子供を産んだ。それは彼女の本心から望んだことなのかそれとも単に「戦争が終わったから」そうするものだと思い込んでいただけなのか。
今もわからない。
「……シイコ、いくよ」
夫が彼女の内側で果てる。彼女の身体もそれに応えるように痙攣し一瞬、思考が空白になる。気持ちいい。確かに気持ちいい。だが、果てた後のこの虚しさは何なのか。
彼女は荒い息を整えながら、天井を見上げた。夫が隣で満足げに彼女の髪を撫でている。
「シイコ、疲れた?」
「……少しだけ」
「おやすみ」
彼が彼女の額にキスをする。彼女は小さく笑みを返した。作り笑いだとは、自分でも思わなかった。ただ反射的にそうなった。
彼は幸せそうに眠りにつく。規則正しい寝息が聞こえてくる。彼女はまだ眠れない。身体は満たされているのに、心のどこかに穴が開いている。
「……私は、何をしているんだろう」
声に出さず、唇だけで呟く。
一年戦争が終わって何年経った。戦場にいたあの頃の自分は、確かに狂っていた。死と隣り合わせの日々の中で撃墜数を重ねるたびに、自分が自分でなくなっていく感覚があった。それでもあの時にしか感じられない「生」があった。
夫の愛は温かい。彼女を包み込み守ってくれる。だが、それは時に彼女の皮膚の上を滑るだけで内側まで届かないことがある。彼は彼女の過去を知らないわけではない。それでも、戦場で何が起きていたのか体感として理解することはできないだろう。
彼女は静かに起き上がりベッドの端に座る。窓の外には、コロニーの遠景が見える。人工の地面人工の空。
この閉じられた世界の中で、彼女は「シイコ・スガイ」という一人の女であり、妻であり母である。だが、心の奥では今も「魔女」が息を潛めている。
「……また、飛びたい」
その言葉は、彼女自身の耳にすら届かないほど小さなものだった。
数年後、彼女は赤いガンダムが現れたという報を聞き、家族を置いて再び戦場へ向かうことになる。誰にも本当の理由を告げられないまま彼女は再び機体に乗り込むだろう。愛する家族がいても、満たされない何かを抱えたまま。
その結末がどうなるのかを、彼女はまだ知らない。
ただ、ベッドの上で夫に抱かれながら、彼女は毎晩のように思うのだ。この温かい腕の中よりもあの冷たいコックピットの中にこそ、自分が還るべき場所があるのではないかと。
「……ごめんね」
彼女は眠る夫の頬に指を触れ、目を閉じた。
雨音が、コロニー内の人工降雨システムから静かに響いていた。
魔女の還帰
クラバの特設モビルスーツデッキは、民間の警備会社ドミトリーが秘密裏に設営した地下ドックだった。換気ダクトから油と金属の匂いが混じり、冷たい空気が循環している。
シイコ・スガイは専用色に塗装されたゲルググの腹部コックピットに滑り込んだ瞬間、久しく忘れていた感覚が足の先から這い上がってくるのを感じた。
「……いい」
呟いた声は自分でも驚くほど潤んでいた。
起動シーケンス。メインモニターが展開し、外部カメラがクラバの対戦フィールドを映し出す。廃棄されたコロニーの残骸を再構築した巨大な立体空間。かつて彼女が戦場で飛び回っていた空間と同じ匂いがする。
MAMAMAJO。それが彼女のエントリーネームだった。ママにして魔女。滑稽な響きだ。だが、この名前こそが今の自分のすべてを表している。
「戦闘開始」
無機質なアナウンスと同時に、シイコの意識が切り替わった。
身体の力みが抜け、感覚が鋭敏になっていく。モニターの向こうの敵機の動きが手に取るようにわかる。対戦相手は二機。マチュとシュウジ。若いパイロットだ。だが、シイコにとって年齢は関係ない。敵は敵だ。
ゲルググがスラスターを吹かし、残骸の隙間を縫うように加速する。久しぶりの高Gが身体をシートに押し付ける。肩の骨がきしむような圧迫感。
「ああ……ああ……!」
彼女は息を漏らした。痛い。だが、この痛みこそが彼女を生かしていた。
軽キャノンに乗っていた頃を思い出す。あの鈍重な機体で彼女は100機以上を撃墜した。スティグマ攻撃。ワイヤーフックを敵機に打ち込み、それを支点に急激な加減速を行う荒技。乗機の限界を超える機動。常人には理解できない狂気の戦術。
ゲルググの右腕に仕込んだ小型ワイヤーフックを展開する。スティグマ攻撃の再現。この機体用に調整した装備だ。
敵機の一機、マチュの乗る機体が射程に入る。シイコはワイヤーを発射した。鋭い金属音と共にフックが敵機の装甲に食い込む。
「もらった」
支点を中心にゲルググが急旋回する。遠心力が身体をシートに押し付け、視界の端が赤く歪む。血が沸騰するような感覚。死と隣り合わせの高機動。この瞬間だけ、彼女は完全に「自分」だ。
旋回の遠心力を利用して加速し、敵機の背後に回り込む。ビーム・ライフルの照準がマチュの機体を捉える。
トリガーを引く。
光条が敵機の背部パックを貫通した。爆発。四散する装甲片。モニターの向こうで光が弾ける。
「……!」
その瞬間、シイコの身体の奥で何かが弾けた。
戦闘は続いた。もう一機、シュウジの赤いガンダム。赤い。あの赤。シャアの赤。憎しみが再燃する。だが、今はまだ倒せない。まずは感触を確かめる。この戦闘の感触を。
最終的にシイコはマチュの機体を撃破し、シュウジの赤いガンダムを圧倒した。スティグマ攻撃の連続使用で相手の息の根を止めるように追い詰める。勝利。久しぶりの勝利。
「戦闘終了」
アナウンスが響く。モニターの向こうで爆発の残光が消え、静寂が戻る。
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シイコはコックピットの中でシートに深く沈み込んでいた。
呼吸が荒い。心臓が早鐘を打っている。だが、それは恐怖や疲労のせいではない。身体の奥底、子宮の深い場所から猛烈な熱が湧き上がってくるのを感じていた。
「……なに、これ」
彼女は自分の身体の異変に気づく。太ももの内側が痙攣している。ノーマルスーツの内側が湿っている。汗だけではない。戦闘の興奮が性の領域に直結している。
敵機を撃った瞬間、あの光が弾けた瞬間、彼女の身体は快感を感じていた。戦闘の興奮、勝利の高揚、死を回避した安堵。それらがすべて絡み合い、一つの激しいエクスタシーとなって彼女を襲っていた。
「……あ」
抑えようがない。
シイコは震える手でノーマルスーツの胸部ロックを外した。気密の解除音が狭いコックピットに響く。内側に着ているインナーが汗で肌に張り付いている。彼女はさらに手を伸ばし、腰の接続部を外す。
ノーマルスーツの前が開き、肌が外気に触れる。
「ああ……」
彼女の手が、震えながら自分の身体に伸びた。
コックピットの微かな振動がシートを通じて身体に伝わる。機体の余熱が狭い空間を暖めている。あの熱、あの圧迫感。戦闘の記憶がまだ身体に残っている。
指が下腹部を滑り、下着の上から自分の熱に触れた。
「濡れてる……」
信じられないほど濡れていた。戦闘が終わった直後だというのに、いや、戦闘が終わったからこそ。彼女の身体は戦闘を終えてもなお興奮状態にあり、そのエネルギーが行き場を失って性に転化している。
下着をずらし、直接指を当てる。
「んっ……!」
電流が走ったような感覚。彼女はシートに背を預け、脚を少し開いた。狭いコックピットの中で、膝を曲げるのがやっとだ。だが、そんな窮屈さすら心地よかった。まるで戦闘中の圧迫感の延長にあるようで。
指を動かす。戦闘中の感覚を思い出す。
ワイヤーを撃ち込んだ瞬間の反動。機体が急旋回する時のG。敵機が爆発する瞬間の光。トリガーを引く指の感覚。あの指が今は自分の最も敏感な場所を蠢いている。
「あ、あ、あ……!」
声が漏れる。誰もいないとはわかっていても、声を抑えようとして逆に高くなる。指の動きが速くなる。彼女の腰がシートの上で跳ねる。
「殺した……あたしが、殺した……!」
敵機を撃破した瞬間の快感を反芻しながら、彼女は激しく指を動かし続ける。戦場での「生」の実感が、今は明確に性的な快楽となって彼女を支配していた。
「いい、いい、いい……!」
彼女の背中が弓なりに反る。コックピットの天井が近い。閉鎖空間。閉じ込められているという感覚が、かつてコックピットの中で何度も死を覚悟したあの感覚と重なり、さらに興奮を高める。
「もっと、もっと……」
彼女は自分の中に指を入れ、激しく動かした。戦闘中の感覚がフラッシュバックする。高G、急旋回、照準、撃墜。それらがすべて一つの快感として彼女の中で爆発する。
「ああああっ……!」
彼女は声を殺しきれず、コックピットの中で絶叫した。身体が痙攣し、シートの上で数秒間跳ね続ける。潮吹きの感覚。熱い液体が指を伝い、シートのカバーに染みを作る。
数分後、シイコは力なくシートに沈んでいた。
ノーマルスーツは前が大きく開き、汗と体液で濡れた肌が冷たい空気に触れている。呼吸は徐々に整ってきたが、身体の奥にはまだ微かな震えが残っていた。
「……狂ってる」
彼女は呟いた。自分が狂っていることを知っている。戦闘で人を殺して興奮し、その興奮で自慰に耽る女。夫と子供が家で待っている。平和な家庭がある。それを捨ててここに来て、こんなことをしている。
だが、同時に彼女は久しぶりに「生きている」と感じていた。夫の腕の中では決して感じられなかったこの感覚。身体の奥底から湧き上がる、原始的で暴力的な「生」。
彼女はノーマルスーツを整え直し、深く息を吐いた。
まだ足りない。一度では足りない。彼女はすでに次の戦闘を渇望していた。次は赤いガンダムを。シュウジの乗るあの赤い機体を。シャアの残像を。自分の手で葬り去りたい。
「……すごい気持ちよかった」
シイコは冷たいモニターの光に照らされながら、微笑んだ。その微笑みは、戦場で「魔女」と呼ばれた女のものだった。
夫のことを一瞬だけ思い出す。ごめんね、とまた心の中で呟く。だが、その謝罪は以前よりも軽かった。彼女はもう戻れないところまで来ていることを知っていた。
ゲルググの駆動音が低く唸る。それはまるで彼女の内なる獣の唸り声のように聞こえた。
魔女の呪縛
それからシイコ・スガイは、クラバのバトルに取り憑かれたように出場し続けた。
週に一度が二度になり、二度が三度になり、最後にはほとんど毎日のように地下ドックのゲルググに乗り込むようになった。家では夫が待ち、幼い娘が笑う。夕食の食卓を囲み、風呂に入り、寝物語を聞かせる。そうした日常の隙間に、彼女は密かに戦場へ還る。
回数を重ねるごとに感覚は鋭くなり、同時に抑えが効かなくなっていった。
初めは戦闘終了後のコックピットでの自慰だけで済んでいた。だが、次第にそれだけでは満たされなくなった。戦闘で燃え上がった身体の熱は、一人の手では冷ましきれなくなっていた。
最初の相手は、ドミトリーの整備班長だった。
その日もシイコは敵の機体を撃破した。スティグマ攻撃の連続使用で機体を酷使し、ゲルググは各所に過負荷の痕を残していた。
「スガイさん、今日も派手にやりましたね」
整備班長のカツオ・ラミンは、戦闘後の整備点検のためコックピットハッチを開けた瞬間、異常な気配を感じ取った。シイコはシートに深く沈み込み、ノーマルスーツの胸部ロックを外したまま荒い呼吸を整えていた。
「……整備、お願い」
彼女の声は掠れていた。目が潤んでいる。頬が紅潮している。カツオはそれが戦闘の興奮だけではないことを瞬時に理解した。整備班長という立場上、パイロットの戦闘後の状態は何度も見てきた。だが、これほどの熱を放つパイロットはいなかった。
「……あの、スガイさん?」
カツオが声をかけると、シイコはゆっくりと顔を上げた。その目は、戦闘中の「魔女」の目だった。獲物を見つけた猛禽類のような、底なしの飢えを含んだ瞳。
「カツオくん」
彼女は彼の名を呼んだ。それだけだった。だがその二文字に含まれた響きが、カツオの背筋を走った。
整備用プラットフォームの上で、二人の影が重なる。カツオは妻帯者だった。だが、戦闘直後のシイコ・スガイが放つ圧倒的な女の磁力に抗えるほど、彼は強くなかった。
シイコはカツオの作業着の胸元を引き寄せた。油と金属の匂いが染み付いた布地。その粗野な感触が、彼女をさらに昂ぶらせた。
「触って」
たった二語。だが、その言葉は拒絶を許さない響きを持っていた。
カツオの震える手が彼女の腰に触れる。ノーマルスーツの開いた前から覗く肌は、汗で湿り、異様なほどに熱かった。シイコは自分からカツオの首に腕を巻き付き、唇を重ねた。
「んっ……」
深い接吻。舌が絡み合う。シイコの口腔から漏れる吐息が、カツオの理性を溶かしていく。彼女の手がカツオの作業着のベルトに伸びる。ズボンの前を探り、すでに硬くなっているものを布越しに掌で包み込む。
「スガイさん、ここじゃ……」
「いいの」
彼女は短く答え、カツオをコックピットの中に引き込んだ。
狭いコックピット。シートの上で二人の体が重なる。シイコはノーマルスーツの下半身の接続部も外し、下着ごと脚を露わにした。整備用ライトの青白い光が、彼女の白い太ももを照らす。
「早く」
彼女は自分の脚を開いた。待ちきれないというように腰を浮かせる。カツオはもはや逆らえなかった。ズボンを下ろし、既に限界まで張り詰めた自身を彼女の前に晒す。
シイコの手がそれを握り、先端を自分の濡れた割れ目に導く。
「ああっ……!」
挿入の瞬間、シイコは大きな声を漏らした。戦闘の余韻がまだ身体の中に残っている。その上に肉の熱が加わり、電気的な快感が脊髄を駆け上がる。
カツオの腰が動き始める。シイコはシートに背を預け、開いた脚をカツオの腰に絡めた。狭いコックピットの壁が近い。閉鎖空間。戦闘中と同じ圧迫感。それが彼女をさらに昂ぶらせる。
「そう、そこ……もっと、強く……!」
シイコの声がコックピットに響く。カツオは夢中で腰を振った。清楚な人妻。母親。戦場の魔女。そのすべてが今、彼の腕の中で獣のように喘いでいる。
シイコの脳裏で、記憶が渦を巻き始めた。
カツオの腰の動きに合わせて揺れる身体の奥で、過去の映像が弾けるように蘇る。
一年戦争。サラミス級巡洋艦の薄暗い居住区。
あの頃もそうだった。戦場から還るたび、彼女の身体は火がついたように熱かった。コックピットの中で敵を撃ち、モニターの向こうで光が弾けるのを見るたび、子宮の奥が痺れるような感覚があった。まだ若かった。二十代前半。自分の身体の何が起きているのか理解できなかった。
最初は同僚のパイロットだった。戦闘直後、互いの生を確認し合うように抱き合った。相手の名前さえ覚えていない。ただ熱かった。生きていることを肌で確かめ合った。
それが次第にエスカレートしていった。
戦闘が終わると、彼女は自室に整備クルーたちを招いた。
サラミスの個室は狭かった。ベッド一つと小さなデスクがあるだけ。だが、その狭い部屋に男が何人も入ってくる。整備班の男たち。甲板要員。CICオペレーター。戦闘が終わったばかりの彼らもまた、死と隣り合わせの極限状態から解放された直後で、身体中に過剰なアドレナリンが残っている。
「シイコさん、今日もすごかったな」
最初の男が部屋に入ってくる。若い整備兵。シイコは戦闘着のままベッドに腰掛け、男の手を取って自分の腰に導く。
「触っていいよ」
彼女の声は優しく、誘うような響きを持っていた。男の手が戦闘着の上から彼女の胸を揉む。シイコは目を閉じ、戦闘の残響を反芻する。撃墜した敵機の数。爆発の光。トリガーを引いた指の感触。
二人目が入ってくる。三人目。
狭い部屋に男たちの体が溢れる。汗と油と金属の匂い。戦場の匂い。シイコはその匂いの中で、戦闘着を脱がされ、肌を晒す。
「シイコさん、綺麗だなあ」
誰かの声。誰の声かはわからない。手が太多了。胸を、腹を、太ももを、同時に何本もの手が這い回る。彼女はそれを拒まない。むしろ、もっと触ってほしいと身をよじる。
最初の男が彼女の中に入ってくる。
シイコは短く叫び、男の背中に爪を立てる。二人目の男が彼女の口に自身を差し入れる。三人目は彼女の手に握らせる。狭いベッドの上で、体が折り重なる。
「いい、いい、もっと……!」
彼女の声は部屋の外にまで漏れていた。他のクルーが聞いている。だが、誰も咎めない。戦場では誰もが狂っていた。明日死ぬかもしれない。今この瞬間だけが「生」なのだ。
男が代わる。次の男が彼女の中に入る。次。次。彼女は数え切れないほどの男に抱かれながら、そのたびに戦場の記憶を反芻する。敵機が爆発する瞬間の光。それが快感として身体を貫く。
「あっ、あっ、ああっ……!」
シイコの声がコックピットに響く。カツオの腰の動きが速くなり、彼女の意識が現在に引き戻される。だが、過去と現在は既に混ざり合っている。カツオの顔の向こうに、サラミスの薄暗い部屋が重なる。
「もっと強く……!」
シイコはカツオの背中に爪を立てた。サラミスの夜、何人もの男の背中に爪を立てたのと同じように。男たちの呻き声が耳元で重なる。カツオの声と、かつての男たちの声が融合する。
「殺した……撃墜した……!」
彼女の口から戦闘の言葉が漏れる。カツオはその意味を正確には理解できない。だが、彼女の身体の激しさに圧倒され、ただ本能のままに腰を振り続ける。
シイコの中で、殺戮と性が一つになっている。敵機を撃つ指が、男の肉を握る指と同じ。トリガーを引く感覚が、絶頂に向かう感覚と重なる。死を与えることと、生を貪ることが、彼女の中で同じ回路に繋がっている。
「あ、あ、ああああっ……!」
彼女は背中を反らし、絶頂に達した。カツオも同時に彼女の中で果てる。熱い液体が注がれる感覚。シイコはそれを戦闘終了の安堵のように受け入れる。
カツオとの行為が整備ドックの秘密になってから、すぐに次の段階へと移行した。
一度の火蓋が切られると、彼女の中で何かが決壊した。戦闘後の熱は、一人の男では冷ませない。かつてサラミスで何人もの男を求めたように、彼女は整備クルー全員を求めるようになった。
その日、シイコはシュウジの赤いガンダムを撃破寸前まで追い詰めた。シャアの赤。残像。憎しみが頂点に達し、スティグマ攻撃を連続で叩き込む。機体が悲鳴を上げ、身体が限界を超える。そのすべてが快感だった。
戦闘終了後、整備クルーたちがコックピットを開ける。シイコはシートの上で脚を開き、潤んだ目で彼らを見上げた。
「みんな、来て」
その声は、サラミスの夜と同じだった。戦場の魔女の声。男を惹きつけ、呑み込む声。
整備クルー五人が、狭い整備プラットフォームの上でシイコを囲む。ノーマルスーツが剥がれ、白い肌が露わになる。男たちの手が一斉に彼女の身体に伸びる。胸を揉み、乳首を捏ねり、太ももの内側を撫で、割れ目に指を差し入れる。
「んっ、あっ……!」
シイコは仰向けになり、男たちの手に身を委ねる。複数の手が同時に身体を這い回る感覚。かつてサラミスで味わったあの感覚。戦闘の高揚がまだ身体中に残っており、それが男たちの手によって増幅されていく。
最初の男が彼女の中に入る。同時に二人目が彼女の口を塞ぐ。三人目の手が胸を弄る。四人目が彼女の手の中で硬くなっている。
五人目がそれを見ながら自身を慰める。
「ああ、いい……もっと、もっと……!」
シイコの声は地下ドックの鉄壁に反響する。男たちの荒い息遣いと肉のぶつかる音。油と汗と体液の匂いが混ざり合う。戦場の匂い。生の匂い。
男が代わる。次の男が彼女の中に入る。太さが違い、形が違い、動きが違う。だが、どの男も同じように彼女を求め、同じように彼女の中で果てる。
シイコは目を閉じる。
サラミスの夜。男たちが代わる代わる彼女を抱く。戦闘が終わるたびに部屋に招き、朝まで続くこともあった。艦内の誰もが知っていた。だが、誰も止めなかった。戦場ではそれが「普通」だった。明日死ぬかもしれない。今を生きるしかない。肌を重ね、体温を感じ、互いの生を確認する。それが戦場の論理だった。
シイコはその中で、自分が戦闘と性の呪縛に囚われていることを知っていた。敵を殺すほどに興奮し、その興奮を性で消費する。性の余韻が薄れると、また戦場を渇望する。殺戮と性が互いを呼び寄せ、彼女の中で終わりのない螺旋を描く。
「殺した……撃墜した……もっと殺したい……!」
彼女の口から戦場の言葉が漏れる。男が腰を打ち付けるたびに、彼女の身体が跳ねる。戦闘中の高Gと、性行為の衝撃が、身体の中で同じ感覚として蘇る。
三度目の男が彼女の中で果てる。四度目の男が入ってくる。シイコは脚を開いたまま、次々とやってくる男を受け入れる。身体の中に複数の男の痕跡が蓄積されていく。熱い。粘り気がある。だが、それでもまだ足りない。
「もっと……もっと来て……!」
彼女の目は狂っていた。戦場の「魔女」の目。獲物を貪る獣の目。清楚な人妻の面影はどこにもない。ただの雌。肉を求め、快楽を求め、生を貪る雌。
乱交が終わった後、シイコは整備ドックの片隅で横たわっていた。
身体中が男の体液で粘つき、太ももの内側は赤くなり、腰は動かすのも辛いほどに疲労している。だが、彼女の顔には、夫の腕の中では決して浮かばないような、深い充足の表情があった。
天井を見上げる。地下ドックの冷たいコンクリート。整備用ライトの青白い光。この場所が、今の彼女にとっての「戦場」であり、「家」だった。
かつてサラミスで、朝になって男たちが部屋から出ていく後、彼女は一人でベッドに横たわり、同じように天井を見上げていた。その時感じたものと、今感じているものは同じだ。
「私は狂ってる」
呟く。だが、その言葉に恐怖はない。ただの事実として受け入れている。狂っている。だが、狂っているからこそ「生きている」。夫の腕の中で感じる平穏な「生」ではなく、血の沸騰するような、暴力的で原始的な「生」。
彼女はゆっくりと起き上がり、散乱したノーマルスーツのパーツを拾い集める。身体を拭き、整え、家に帰る準備をする。妻に戻る。母に戻る。だが、その仮面の下には、常に「魔女」が息づいている。
夫の作る夕食を食べる。娘の寝顔を見る。風呂に入り、夫と同じベッドで眠る。そのすべてが、次の戦闘へ向かうための休息のように感じられる。
殺戮とセックス。その二つが彼女の中で呪いのように渦巻き、終わりのない螺旋を描いている。ゼクノヴァでシャアが消えた後、一時的に止まっていたその螺旋が、再び回り始めた。
赤いガンダム。
シュウジの乗る赤い機体。あれを撃墜するまでは、この螺旋は止まらない。いや、撃墜しても止まらないだろう。シャアの残像を破壊しても、彼女の中の「魔女」は消えない。消えないとわかっていても、彼女は戦い続ける。
家に帰る道中、コロニーの人工空が夜の色に染まっている。シイコは歩きながら、次の戦闘のことを考えていた。次はもっと激しく。もっと速く。もっと深く。限界まで身体を酷使し、その果てに訪れる快感のことを。
夫と娘が待つ家のドアの前に立つ。深呼吸。表情を整える。鍵を開ける。
「お帰りなさい」
夫の優しい声。
「ただいま」
彼女は微笑む。その微笑みは、戦場で敵を屠る直前に浮かべるものと、どこか似ていた。
夜、夫が寝た後、シイコはベッドの端に座り、窓の外の人工星空を見上げる。
身体の奥に、まだ男たちの感触が残っている。太ももの内側に、微かな痺れがある。だが、それは次の戦闘への渇望に変わるまで、そう時間はかからない。
「ごめんね」
眠る夫の頬に触れる。その指先には、まだ別の男の匂いが残っているかもしれない。だが、夫は気づかない。気づこうともしない。
シイコは目を閉じる。瞼の裏に、赤いガンダムが焼き付いている。それを追い詰め、撃ち貫き、爆発の光に身を焼かれる瞬間を想像する。その瞬間に訪れるであろう、底なしの快感を。
魔女は還った。そして、もう二度と戻ることはない。
コロニーの人工降雨システムが、静かに雨音を響かせ始めた。それはまるで、彼女の罪を洗い流すことのできない涙のように、終わりなく降り続いた。
明日は噂のガンダムとの対決が待っている。そして運命の瞬間が来る。
夫の顔が浮かんだ。娘の笑顔が浮かんだ。人工星空の下で一人眠れなかった夜が浮かんだ。優しすぎる時間。温かすぎる腕。だがそれでは足りなかった。
コックピットが崩壊していた。
ビーム・サーベルがゲルググの背部を貫通しコックピットブロックに達していた。だ
意識が薄れゆく中で、彼女は思い出していた。