機動戦士ガンダム エロ短編集 女達の地獄の黒史録 作:みなぽん
機動戦士ガンダムΖΖ エル・ビアンノとルー・ルカ
第一章 大人の領分
硝煙の匂いがまだコックピットに染みついている。
激しい戦闘が終わり、パイロット控え室のベンチに身を投げ出したとき、私の耳は信じられないものを捉えた。
隔壁の薄い仕切りの向こう、物陰のスペースから漏れる衣擦れの音と、ルー・ルカの挑発的な囁き声。
「……ジュドー、次の出撃まであと一時間だけど、足りるかしら?」
ルーの声は蜜を含んだように甘く、それでいていつもの勝気な響きを失っていなかった。私は息を殺し、仕切りの隙間からその光景を覗き見てしまった。
ジュドー・アーシタが壁に背を預け、ルーが彼のパイロットスーツの前合わせを爪先で弄っていた。二十五歳になった彼の顔には、シャングリラの頃のあどけなさはもうない。けれど困ったように眉を寄せる表情は、あの頃のままだ。
「ルー、ここでか?」
「エゥーゴじゃ日常茶飯事よ。次の戦闘で死ぬかもしれないのよ。生きているうちに生きてる実感が欲しいじゃない」
ルーはそう言って、彼のパイロットスーツを乱暴にはだけさせた。彼の晒された胸に、ルーの細い指が這う。私は息を呑んだ。ルーの目には、戦場で研ぎ澄まされた情熱が揺らめいていた。
ルーはゆっくりと膝を折り、ジュドーの前に跪く。その動作には迷いがなかった。まるで何度も繰り返したかのように、自然で、当然のように、彼女はジュドー自身を口に含んだ。
「……ッ、ルー」
「んっ……静かにして。誰かに聞こえるわ」
ジュドーが声を抑えるのとは対照的に、ルーはむしろ濡れた音を立たせて彼を愛撫した。頬を窄め、舌を這わせ、喉の奥まで彼を受け入れる。その姿は、同じ女性の私から見ても背筋が痺れるほど扇情的だった。ルーの長い睫毛が震え、頬が紅潮し、時折上目遣いにジュドーの反応を窺う。
ルー・ルカ。エゥーゴの志願兵としてアーガマに着任した彼女は、いつだって私たちとは違う世界の人間だった。正規の軍人として訓練を受け、大人の女性としての余裕を身に纏っている。私たちシャングリラのジャンク屋上がりとは、住む世界が違うのだと、その光景が残酷なほどに教えていた。
ルーは立ち上がり、自分のスーツのジッパーを下ろした。何の躊躇いもなく、彼女はジュドーに身体を預けた。壁に押し付けられ、ルーの細い腰をジュドーの手が支える。互いの体温が混ざり合う音、呼吸が荒くなる音、肌と肌が触れ合う微かな摩擦音。
「あっ、ジュドー……もっと、奥まで……」
「ルー……ッ」
ルーの声が甘く漏れる。戦闘で張り詰めた神経が解き放たれるような、切迫した快感の吐息。ジュドーが腰を打ち付けると、ルーは首を反らし、金色の髪を振り乱して彼の肩に額を押し付けた。
私は目を逸らそうとした。けれどできなかった。胸の奥が焼け付くように痛く、喉の奥が干からびたように渇いた。これは嫉妬だ。鮮明な、混ぜ物のない、純粋な嫉妬だった。
ジュドーの腕の中にいるのはルーだ。あの大人びた、勝気で、でも時折見せる脆さが美しい、ルー・ルカだ。私じゃない。
事の後、ルーは乱れた髪を指で直しながら、平然とした顔で控え室を出て行った。その横顔には、ある種の戦利品を掲げるような満足感があった。通りすがりに私と目が合い、ルーは薄く笑った。
「見てた? 悪いことしちゃったわね」
その声に棘はなかった。ただの事実確認のように、彼女は言った。そして、エゥーゴでは日常的な行為なのだと、まるで天気の話でもするように告げた。
「戦場ではね、誰かと肌を重ねないと発狂しちゃうの。私たちはいつ死ぬかわからないんだもの。だから、これは生存戦略よ」
ルーの言葉が胸に突き刺さった。生存戦略。なら、私にもその戦略が必要だ。ジュドーと共に戦い、共に生き、彼の隣に立つための。
第二章 不慣れな反抗
それから二日後の夜、私はジュドーの個室を訪ねた。
ノックの手が震えていた。ドアが開き、ジュドーが私を迎え入れる。部屋は狭く、パーソナルベッドと小さなデスクがあるだけだった。彼は不思議そうに私を見た。
「エル? どうしたんだ、こんな時間に」
「……ジュドー、話があるの」
理由は何でもよかった。作戦の相談でも、メカの整備の件でも、何でも。とにかく私は彼の部屋に来た。ルーと同じ場所に。ルーと同じ夜に。
ベッドに腰を下ろした私の膝は小さく揺れていた。ジュドーが隣に座る。彼の体温が近くに感じられた。
「ルーとやったって、聞いたわ」
直接すぎる言葉に、ジュドーは一瞬絶句し、それから苦笑した。
「……誰に聞いた」
「見たのよ、私が。あんたたち、控え室で……」
沈黙が流れた。私は唇を噛み、自分の膝を見つめた。ここから先は、私が切り開くしかない。ルーのように、自然に、当然のように。
けれど、私の手はパイロットスーツのジッパーにかけたところで止まった。指先が冷えている。心臓が早鐘を打ち、腹の底が熱い塊になってうねりを上げている。ルーはあんなに自然だった。迷いも羞恥もなく、ジュドーに触れた。でも、私は。
「エル、無理しなくていい」
ジュドーの声が優しくて、かえって腹が立った。優しくされるのが一番怖い。彼の優しさは、妹に向けるそれと同じかもしれないから。
「無理じゃない!」
私は叫ぶように言って、ジッパーを一気に下ろした。スーツの内側の空気が肌に触れ、鳥肌が立った。ワンピースの下に何も着ていない私の身体が、露出していく。ルーならもっと綺麗に、もっと色っぽくやるはずだ。でも、私にできるのはこれが精一杯だった。
スーツを脱ぎ捨て、ブラウスのボタンを震える指で外す。キャミソールが露わになり、その下の肌が部屋の空気に晒された。ジュドーの目が私の身体を捉える。私はその視線に耐えながら、スカートのホックを外した。
下着だけになった私の身体は、ルーのそれとは明らかに違っていた。ルーは引き締まった軍人の身体をしていた。大人の女性の曲線がはっきりとしていて、自分の身体を熟知している。でも、私の身体はまだ発展途上で、自分でもどこをどう見せればいいのかわからない。胸はそこまで大きくなく、腰のラインも薄い。
ルーに負けたくない。その一心で、私はブラジャーのホックを外した。小さな胸が揺れて、乳首が冷たい空気に触れて硬く尖った。顔が熱い。恥ずかしさで目が潰れそうだ。でも、ここで引き下がるわけにはいかない。
「エル……」
ジュドーが私の名前を呼ぶ。その声に、今まで聞いたことのない響きがあった。私は目を閉じ、彼に身を預けた。
彼の手が私の肩に触れた。ルーに触れたのと同じ手だ。でも、触れ方は違った。ルーには熱く、貪るように触れていた手が、私には慎重で、壊れ物を扱うように柔らかだった。それが少し悔しかった。子供扱いされているようで。
「私も、ルーと同じことがしたい」
私の声は掠れていた。ジュドーは黙って、私をベッドに導いた。シーツの冷たさが背中に触れる。彼が上に覆いかぶさり、私の顔を覗き込む。あの深い瞳が、私だけを見ている。その瞬間だけは、ルーもプルも誰もいなかった。
ジュドーの唇が私の首筋に触れた。熱い吐息が肌を滑り、私は小さく声を漏らした。ルーはこんな時どうするのだろう。もっと色っぽい声を出すのか、もっと積極的に彼を求めるのか。わからない。私はただ、天井を見つめながら、彼の手が私の身体を這うのを感じていた。
彼の掌が胸を包み、指先が乳首を弄る。電気が走ったような感覚に、腰が跳ねた。
「っ、ん……!」
声が裏返る。ルーならもっと余裕を持って彼を愛撫を返すのだろう。でも、私はされるがままだった。彼の手が脇腹を滑り、下腹部に触れる。私の太ももが無意識に挟まり、彼の手を拒んでいる。自分の身体なのに、言うことを聞かない。
「力抜いて、エル。大丈夫だ」
ジュドーの声が耳元で囁かれ、私はようやく太ももの力を抜いた。彼の手が下着の中に入り込み、濡れた場所に触れる。羞恥で顔が沸騰しそうだった。ルーの時のあの濡れた音が、今は私の身体からも漏れている。
「や、待っ……ジュドー、恥ずかし……っ」
「恥ずかしがることない。エル、お前綺麗だよ」
その言葉が胸に突き刺さった。綺麗だなんて、お世辞でも嬉しい。でも、ルーにも同じことを言っているのかと思うと、胸が痛い。
ジュドーの指が私の中に入った時、私は声を殺してシーツを握りしめた。異物感。熱い。痛い。そして、少しずつ、痛みの向こう側に別の感覚が芽生え始めた。ルーはあの時、ジュドー自身を受け入れていた。私の指一本でこれなのに。
「……入れるぞ」
ジュドーの小さな合図。私は頷いた。目を固く閉じ、彼を受け入れる準備をする。でも、準備なんてできるはずもなかった。
先端が触れた瞬間、身体が竦んだ。太い異物がゆっくりと押し込まれる。私の身体が悲鳴を上げ、目の端に涙が滲んだ。
「いっ……! 痛い、痛いよジュドー……!」
「少しの間だけ。我慢できるか?」
彼が止まってくれるのを感じて、私は頷いた。鼻息を整え、力を抜く。ルーはどうだったのだろう。あの時、ルーは痛がっていなかった。むしろ自ら腰を動かしていた。私とルーの差が、この一瞬に集約されているようで悔しかった。
少しずつ、彼が奥へ進む。痛みは引いていき、代わりに満たされる感覚が広がった。身体の奥が熱くなり、背骨に沿って甘い痺れが這い上がってくる。
「……動くよ」
ゆっくりとしたストローク。彼が腰を引いて、また戻る。その繰り返し。最初はただの摩擦だった。けれど次第に、摩擦が快感に変わった。内側の敏感な場所を彼が擦るたび、腰が勝手に浮き、声が漏れる。
「あ、あっ……んっ、ジュドー……!」
私の声が高くなる。ルーのように甘く艶やかな声が出せない。でも、私は私の声で鳴いた。必死に彼にしがみつき、背中に爪を立て、足を絡めた。
彼が深く入るたび、身体の芯が溶けていくようだった。頭の中が白くなる。思考が途切れ、ただ彼の体温と、彼の吐息と、彼の鼓動だけが世界のすべてになった。
「エル……ッ」
ジュドーが私の名前を呼んで、深く突いた。熱が腹の底に注ぎ込まれる。私は彼の背中にしがみついたまま、声にならない声を上げて震えた。
事の後、彼の腕の中で息を整えながら、私は天井を見つめていた。ルーと同じことをした。でも、何かが違う。ルーにはあの控え室で感じられた、切迫した生存本能のような熱があった。私には、ただの嫉妬と、必死の虚勢しかなかった。
ジュドーは優しかった。それは確かだ。でも、その優しさは妹に向けるそれと同じかもしれない。そう思うと、胸の底が冷えた。
部屋を出た時、廊下の角に人影があった。ビーチャ・オーレグだ。彼はそこに立ち尽くし、虚を突かれたような顔で私を見ていた。私はジュドーの部屋から出てきたのだ。乱れた髪の、肌の赤い、事後の雰囲気を纏った私を、彼は見たのだ。
ビーチャの目が揺れていた。その目に何が映っていたのか、私は見ないことにした。
第三章 選ばれない場所
プルが来てから、ジュドーが変わった。
エルピー・プル。あの不思議な少女がアーガマに現れてから、ジュドーの目は彼女を追うようになった。戦場で、食堂で、廊下で。彼の視線がいつもプルを見つけている。ニュータイプ同士の共鳴と呼ばれるものを、彼らは持っていた。私にはない、彼らだけの波長。
ある夜、私はまたジュドーの部屋を訪ねた。ルーと同じことを、もう一度。今度はもっと上手に。もっと大人びて、もっと魅力的に。そう思って。
けれど、ドアの向こうから聞こえた声に、私は足を止めた。
「……ジュドー、私と一緒にいて」
プルの声だった。透明で、切実で、私が真似できない種類の声。
「プル……」
ジュドーの声が柔らかい。ルーに向けた熱とも、私に向けた優しさとも違う。もっと深い、もっと根源的な共鳴。私はドアの隙間から見た。
プルがジュドーの胸に額を押し付けていた。そしてジュドーの手が、彼女の頭を撫でていた。そこにあったのは、私が何度も見てきた妹リィナに向けるそれと同じ手つきだった。いや、もっと深い。もっと切ない。
プルが顔を上げ、ジュドーが彼女を見つめた。そして、初めて彼から望んで唇が重なった。
ルーの時は、ルーが誘った。私の時は、私が来た。でも、プルの時は、ジュドーが自ら彼女を選んだ。
彼はプルをベッドに導き、その小さな身体を包み込むように抱いた。プルの服が一枚ずつ脱がされ、白い肌が露わになる。ジュドーの手が彼女の頬を包み、首筋を滑り、肩を撫でる。その手つきは、ルーに向けた貪欲な熱でも、私に向けた慎重な優しさでもなかった。ただ、純粋な愛しさがそこにあった。
「プル、お前は……」
「んっ、ジュドー……好き、大好き……」
プルの声が震える。ジュドーが彼女の中に入る時、プルは涙を流していた。痛みの涙ではない。もっと深い、感動と歓喜の涙だった。
私は見ていた。全部を見ていた。ジュドーがプルの中で動くたび、プルの声が高くなるたび、二人の呼吸が重なるたび。私の胸は冷たく、熱く、そして砕けた。
ルーには負けないと思った。でも、プルには勝てない。最初から勝負になっていなかった。ジュドーが選んだのはプルだった。ルーでもない、私でもない。
廊下に蹲った私の目から、涙が止まらなかった。自分では彼の一番になれないのか。シャングリラからずっと一緒だった。ジャンク屋仲間として、パイロットとして、共に戦ってきた。それなのに。それなのに。
第四章 夜の底へ
プルを失った日、ジュドーは壊れた。
あの戦闘で、彼はプルを守れなかった。彼の腕の中で、プルの命の灯が消えた。その時のジュドーの顔を、私は忘れない。叫びも涙もなく、ただ虚空を見つめた彼の顔。魂が抜けたようだった。
ルーが私の肩を掴んだ。
「エル、ジュドーを慰めに行くわよ」
ルーの目にも涙が光っていた。けれど、彼女は行動する。それがルー・ルカだ。悲しみを抱えたまま、彼女はジュドーの元へ向かおうとした。慰めのセックス。エゥーゴの生存戦略。生きている実感を、肌の触れ合いで確かめる。
私も続こうとした。プルの代わりにはなれないけれど、せめて彼の痛みを分かち合えるなら。そう思って足を踏み出した時、太い腕が私を引き止めた。
「エル」
ビーチャだった。
「放して、ビーチャ。私、行かなきゃ」
「行くな。お前が行ってどうなる」
ビーチャの声は低く、荒れていた。彼の目は赤く、何日も眠っていないようだった。リーダー格として、艦長代理として、彼は皆を背負ってきた。その重圧が顔に刻まれていた。
「お前がジュドーのところに行って、どうなる。お前が傷つくだけだ」
「放してって!」
私は彼の手を振り払った。けれど、ビーチャは离さなかった。むしろ強く、私の腕を掴んだ。痛い。でも、その痛みが妙にリアルだった。
「エル、聞いてくれ」
「何よ!」
「俺は……お前が好きだ」
廊下に声が響いた。ルーは既に角を曲がって見えない。私とビーチャだけが、薄暗い廊下に残されていた。
ビーチャの告白は、不器用だった。ひねくれ者の彼らしい、不器用で、痛々しい告白。その目に宿る光は、長い間秘めてきたものがようやく弾けたのだと告げていた。
「ずっと好きだった。ジュドーの隣にいるお前を見るたびに、胸が焼けた。お前がジュドーの部屋から出てきたあの夜も、わかってた。全部わかってた。それでも、好きなんだ」
ビーチャの手が私の頬に触れた。荒れた指先。ジャンク屋の手。整備士の手。たくさんの傷を刻んだ、仕事の手。
「なんで俺じゃダメなんだ。なんでジュドーなんだ」
その問いに、私は答えられなかった。なぜジュドーなのか。最初から決まっていたわけじゃない。ただ、気づいたときには彼を好きだった。シャングリラの空の下で、ジャンク屋の仲間として、いつの間にか。
「ビーチャ、私は……」
「わかってる。お前の気持ちはジュドーにある。わかってるよ」
彼はわかっていた。そして、それでもなお、私を引き留めた。
「でも、俺にくれ。今夜だけでも。俺に見せてくれ。お前がジュドーに向けているものを。半分でもいい。いや、十分の一でもいい」
彼の部屋に引きずり込まれた。いや、正確には、私は抵抗しきれなかった。足が棒のようで、心が空っぽで、行く当てがなかった。ジュドーの元へ行こうとしていたのに、ビーチャの腕の中にいた。
部屋のベッドに押し倒され、ビーチャが私の服を脱がせた。ジュドーは優しく丁寧に脱がせたけれど、ビーチャは違った。震える手で、でも力強く、まるで壊れそうな自分を必死に繋ぎ止めるように、私の服を一枚ずつ剥いだ。
「エル、エル……」
彼は私の名前を繰り返した。祈りのように。呪いのように。私の胸が露わになり、下着が取り払われ、全てが晒された時、彼は一瞬息を止めた。
「……綺麗だ」
その言葉が、不意に胸を突き刺した。ジュドーも同じことを言った。でも、ビーチャのその言葉には、もっと切実な響きがあった。たった一人の少女を何年も見つめてきた男の、重みのある言葉。
彼の唇が私の胸に触れた。首筋、鎖骨、胸の谷間、脇腹。ジュドーが辿った場所と同じ場所を、ビーチャの唇が這った。でも感覚は全く違った。ジュドーが触れた場所が懐かしく愛おしく感じられたのに対し、ビーチャが触れた場所は新しく熱く疼いた。
「んっ…ビーチャ…」
「俺でいい。俺でお前を忘れさせてやる。ジュドーもルーもプルも全部忘れさせてやる」
彼は強引だった。ジュドーが私に向けていた慎重さや優しさはなかった。彼はただ、自分の想いをぶつけてきた。長く押し殺してきた情熱を私に叩きつけてきた。
彼が私の中に入った時、私は声を殺した。ジュドーの時とは違う痛み。もっと直接的で、もっと暴力的な侵入。彼は私の身体を開き、奥まで貫いた。
「いっ…! 痛い…!」
「エル…エル…」
彼は私の名前を呼びながら激しく腰を打ち付けた。ジュドーは私の反応を見ながら動いていたけれどビーチャは自分の衝動のままに動いた。彼の独白のような行為。私に向けられているようで実は自分自身への答えを出すための行為。
「なんで俺じゃダメなんだ。なんでジュドーなんだ」
彼は繰り返した。腰を打ち付けながら、私の耳元で何度も何度も。その問いに私は答えられない。ただ声が漏れるだけ。
「あっあっ…んっ…ビーチャ…!」
彼のセックスは激しかった。ジュドーの時のような余裕も優しさもない。ただ純粋な欲望と嫉妬と独占欲が入り混じった行為。彼は私の身体を自分のものにしようとしていた。ジュドーの痕跡を上書きしようとしていた。
最初の中出しは早かった。彼は低く唸り深く腰を押し付け熱を注ぎ込んだ。腹の底が熱い。ジュドーの時とは違う熱の注がれ方。もっと大量で、もっと粘着質な熱。
「エル…」
彼は一度果てたけれど止まらなかった。再び動き出し今度はもっと激しく私を貫いた。彼の執念が私の身体を追い詰める。二度目の中出しは長かった。彼は私を仰向けにしたまま私の足を肩に担ぎ深く深く突き上げた。
「いやっ…もう無理…ビーチャ許して…」
「まだだ。まだ足りない。もっと俺を見てくれ。もっと俺を感じてくれ」
彼は私の足を下ろし今度は四つん這いにさせた。背後から彼が入ってくる感覚に身体が震えた。この体位はルーがジュドーに見せた姿だ。あの時ルーは獣のように腰を振っていた。私はそれができなかった。ただ膝が崩れそうになりながらビーチャの動きに揺られるだけ。
三度目の中出しは明け方近くだった。彼は私の背中に胸を押し付け耳元で息を弾ませながら最後の一滴まで私の中に注ぎ込んだ。
「エル…好きだ。ずっと…ずっと…」
彼の声が遠い。身体中が熱くて重い。彼のものが私の中に溢れ腹の底が彼の熱で満たされていた。頭の中がぼんやりとしていた。
身体の変化は心の変化だった。ジュドーを想っていたはずの心がビーチャの熱で溶かされていく。彼の指の形が肌に残り彼の吐息が耳に残り彼の熱が身体の奥に残る。物理的な痕跡が心に刻まれ元の形を変えていく。
明け方の光が窓から差し込んだ時私はビーチャの腕の中にいた。彼は眠っていた。疲れ切った顔に少しだけ安らぎがあった。私は彼の顔を見つめた。ひねくれ者で不器用ででも仲間思いのリーダー。ずっと私を見ていてくれた人。
胸の痛みはまだ消えていない。ジュドーを想う気持ちはまだ残っている。でも、今の私の身体はビーチャのものだ。三度の中出しで私の身体は彼に完全に服従していた。心はまだついていけていないけれど身体はもう彼を受け入れている。
これが愛なのか執着なのか同情なのかわからない。ただ確かなのは今夜の私の身体はビーチャ・オーレグのものだということ。
終章 星の彼方へ
戦争は終わった。
ジュドーはルーと共に木星へと旅立った。彼の隣にはルーがいた。プルを失った彼を支えるのはエ
ゥーゴの志願兵として彼と戦い抜いたルーだった。彼らの間にはもう言葉はいらない。戦場で肌を重ね生きる実感を分かち合った二人。木星の長い旅路を共にする彼らには、その絆があればいい。
見送りのデッキで私はジュドーを見た。彼は振り返り私に手を振った。いつもの困ったような笑顔で。
「エル元気でな」
「ジュドーも」
それだけのやりとりだった。長い間想い続けた相手との別れがあっさりしていることに私は少し笑った。あんなに苦しかったのに。あんなに嫉妬して、足掻いて、泣いて。それが終わってみればたったそれだけだった。
ビーチャが私の隣に立っていた。彼の手が私の手を握っている。私の手はビーチャの手の中にあった。ジャンク屋の手。整備士の手。私の手と同じ手。
「行こうかエル」
ビーチャの声がした。私は頷いた。
「うん」
私たちはジャンク屋をオープンした。シャングリラの流儀で、廃材を拾い集め価値あるものに再生する仕事。ビーチャと私は共同で店を切り盛りした。朝は二人で店を開け昼は客を相手にし夜は二人で帳簿をつけた。
夜はビーチャが私を抱いた。あの夜のような激しさではなく、もっと穏やかで、もっと丁寧に。彼は私の身体を知っていた。どこを触れば声が出るか、どこを愛撫すれば腰が震えるか。あの夜から続く行為の中で彼は私の身体を学び私も彼の身体を学んだ。
「エル今日も綺麗だ」
彼は必ずそう言った。そして私は少しずつその言葉を信じるようになった。ジュドーが言った時はお世辞に聞こえた。でもビーチャが言うと重みがあった。何度も私を抱き何度も私の中に注ぎ何度も私を泣かせた男の言葉には、それだけの重みがある。
ある夜ベッドの中でビーチャが言った。
「俺でお前を幸せにできるかわからない。でもずっと隣にいる。それだけは約束する」
私は彼の胸に額を押し付けた。あの時ジュドーにしたように。でも、その時の感覚は全く違っていた。ジュドーにした時は不安と嫉妬と期待が入り混じっていた。今はただ安心感があった。
「ビーチャ」
「ん」
「私もずっと隣にいる」
彼の手が私の頭を撫でた。その手つきはジュドーが妹に向けるものともルーに向けるものともプルに向けるものとも違った。ビーチャ・オーレグがエル・ビアンノに向ける唯一無二の手つき。
戦争が終わって数年が経った頃私たちのジャンク屋は軌道に乗った。客は増え従業員も雇うようになった。ビーチャは艦長代理としての経験を活かし経営を見事に切り回した。私は情報収集の腕を活かし仕入れルートを開拓した。
ある日店の倉庫でジュドーからの通信が入った。木星から届いた長距離通信。映像の向こうでジュドーは笑っていた。ルーが隣にいた。彼女も笑っていた。二人の間には穏やかな空気が流れていた。
「エル元気にしてるか?」
「ええまあね。ビーチャとジャンク屋やってるわ」
「そうか。そいつはいい」
短い通信だった。ジュドーは変わっていた。戦争の中で彼は多くを失い多くを得た。プルを失いルーを得た。そして彼は彼なりの答えを見つけたのだろう。
通信が切れた後私の目から涙がこぼれた。なぜだかわからない。ただ、涙が止まらなかった。ビーチャが倉庫に入ってきて私の背中を見つめた。
「エル」
「…なに」
「泣いてるのか」
「泣いてないわよ。目にゴミが入っただけ」
ビーチャは何も言わず私の背中に手を置いた。その手の温かさがシャツ越しに伝わった。私は振り返り彼を見た。ひねくれ者の顔。不器用な顔。でも私の知るすべての顔。
「ビーチャ」
「ん」
「帰ろう」
「ああ」
私たちは店を出た。空には星が見えた。木星はあの方向だ。ジュドーとルーがいる方向。プルの魂が漂うかもしれない方向。
私はビーチャの手を握った。彼の手が握り返す。あの夜から続く二人の物語はまだ続いている。終わりのない物語。答えのない物語。
ビーチャと歩きながら私は思った。ルーはジュドーの一番になれたのだろうか。ジュドーはルーを愛せたのだろうか。それは彼らにしかわからない。ただ確かなのは彼らは共にいるということ。戦場で肌を重ね生きる実感を分かち合った二人が共にいるということ。
そして私はビーチャの一番になれたのだろうか。ビーチャは私を愛せたのだろうか。それは私たちにしかわからない。ただ確かなのは私たちは共にいるということ。あの夜から続く絆で結ばれた二人が共にいるということ。
若さとは何だったのだろう。嫉妬と欲望と虚勢と必死さ。それら全てが入り混じった混沌とした季節。私たちはその季節を生きた。肌を重ね涙を流し叫びそして歩いた。
シャングリラの空の下で始まった物語は木星の彼方へと続いている。私たちの物語はこの小さなジャンク屋の中で続いている。それぞれの青春を超えて若者たちは歩き始めた。
終わりのない道を。答えのない問いを抱えながら。
ビーチャの手が私の手を強く握った。私はその手を握り返した。
星が瞬いていた。私たちの上で変わらず瞬いていた。
(了)