機動戦士ガンダム エロ短編集 女達の地獄の黒史録 作:みなぽん
アニメ『機動戦士ガンダムSEED』二次創作
カガリ・ユラ・アスハ
オーブ代表首長の私室は、今や重苦しい沈黙に支配されていた。
窓の外に広がる夜の海は、かつてカガリが心癒やした穏やかなものではなく、まるで国の行く末を象徴するかのように、漆黒の闇だけが波打っていた。
明日、カガリ・ユラ・アスハはユウナ・ロマ・セイランと結婚する。
政略だ。大西洋連邦との同盟を結び、このオーブという国を戦火から守るため。
亡き父、ウズミ・ナラ・アスハが遺したこの国を守るためならば、自分一人の身体など、いくらでも差し出せる。そう、理性ではわかっていた。頭では理解していたのだ。
だが、夜の帳が下り、式を明日に控えた静寂の中で、押し殺していた感情が心の内で牙を剥く。
指先が、左の薬指にかすかに触れる。そこには、アスランから贈られた指輪が、まだ確かな熱を持って存在していた。彼の温もり、彼の瞳、彼と共に歩むと誓ったあの日の記憶。それらすべてを、明日には捨て去らねばならない。
「……アスラン」
唇から漏れた名は、誰に聞かせるでもなく、空気に溶けて消えた。
彼には、何も言えなかった。国を守るという大義名分の前で、自分の想いなど口にする資格はない。彼には、もっと相応しい道があり、自分には、この国を背負うという呪縛がある。そう言い聞かせて、カガリはアスランへの想いを、自らの胸奥に鉄格子を下ろして閉じ込めたのだ。
その時、扉を叩く音が響いた。
控えめだが、押し開けるような力を感じるノック。カガリは息を呑み、瞬時に代表としての仮面を顔に張り付ける。
「入れ」
扉が開き、入ってきたのはユウナ・ロマ・セイランだった。
薄い睡衣の上から、葡萄酒でも煽ったのか、顔に紅をさしている。その目は、カガリを見るなり、ねっとりとした光を帯びた。
「カガリ、明日から君は僕のものだね。……式の前夜に、花嫁に挨拶に来るのは、セイラン家の古い習慣なんだよ」
ユウナは、薄い唇を歪めて笑った。その笑みには、夫となる者への敬意も、明日から共に国を背負う者への緊張もない。あるのは、オーブの代表首長という高嶺の花を、ついに手に入れたという征服感だけだった。
カガリは眉をひそめ、男らしい口調で返す。
「ユウナ、もう夜だ。明日は早いぞ。休んだ方がいい」
「君と一緒に休もうと思ってさ」
ユウナは、ゆったりとした足取りで部屋の中に入ってきた。
カガリは無意識に半歩退いた。それを見て、ユウナの目が楽しげに細められる。
「どうしたの? これからは一緒に寝るんだよ? 恥じらう年齢でもないでしょう、カガリ」
彼の手が、カガリの肩に触れた。
その瞬間、カガリの全身が強張った。拒絶。生理的な、抑えがたい拒絶反応が内側から湧き上がる。振り払いたい。この汚らわしい手を、叩き落としたい。だが、カガリの足は動かなかった。
振り払えば、今夜のうちに婚礼は破談になるかもしれない。ユウナのプライドを傷つければ、セイラン家は同盟の締結を渋るだろう。大西洋連邦の軍勢が、オーブの海を埋め尽くす光景が脳裏をよぎる。トダカ一佐の、アマギの、オーブの民の、絶望に歪む顔が。
……国のためだ。
……オーブを、守るためだ。
カガリは、拳を白くなるほど握りしめ、己を叱咤した。
身体など、ただの器に過ぎない。魂がアスランを求めて泣こうと、この身体だけは、国を守るために差し出す道具なのだ。
「……わかった」
短く答えたカガリの声は、震えていたのかもしれない。
ユウナは、カガリのその強張った表情を見て、愉悦に浸るようだった。彼は、この獲物が決して自分を愛していないことを知っている。だからこそ、その頑なな心を、身体ごとねじ伏せることが至上の快楽なのだ。
ユウナの腕が、カガリの腰を抱き寄せた。
男の匂い。酒と、甘い香油と、欲望の混じった生臭い息遣い。アスランの、潮風と鉄の匂いがした清潔な抱擁とは何もかもが違う。カガリは目を固く閉じ、息を止めた。
「硬いね、カガリ。僕が怖いの?」
耳元に吐き出される囁きが、蛇のように這い回る。
ユウナの手が、カガリの着物の合わせに滑り込んだ。冷たい指先が、熱を持った肌に触れる。
びくり、とカガリの肩が跳ねた。
「や……っ」
「明日には夫婦なんだよ。これくらい、普通だろう?」
ユウナは、カガリの抵抗を意に介さず、着物を寛げさせた。
夜気が肌に触れ、カガリは慄いた。剥き出しの肌を、ユウナの貪るような視線が舐め回す。その目は、カガリを「代表」としてではなく、ただの「雌」として見ていた。政略という名の鎖に繋がれた、自分の所有物として。
ベッドに押し倒される。
柔らかな寝台の感触は、しかしカガリには茨の床のように感じられた。
ユウナの身体が、圧し掛かってくる。重い。息苦しい。閉塞感。
「……っ、ぅ……」
口づけが落ちてくる。アスランとの、あの優しく魂が溶けるような口づけとは違う、唾液を塗りたくり、所有を主張するだけの、粗暴な侵犯。
カガリは唇を噛み締め、必死にその侵入を拒んだ。だが、ユウナは強引に歯列をこじ開け、舌をねじ込んでくる。
屈辱が、胃の腑から込み上げてきた。
違う。こんなのじゃない。アスラン、アスラン。
心の中で、愛しい男の名を、呪文のように繰り返す。自分を支える芯だけは、絶対に渡さない。この身体は汚されても、心だけは。
「ん……っ、ふ……ぅ」
口腔を蹂躙され、カガリは呼吸を奪われる。
ユウナの手が、カガリの胸部を鷲掴みにした。無遠慮な、痛みを伴う愛撫。アスランの手は、いつも温かく、カガリの痛みを包み込むように触れてくれた。それとはあまりにも違う、辱めのような触れ方に、カガリの目端から涙が滲んだ。
「いいよ、カガリ……僕のものだ」
ユウナの声は、興奮で掠れていた。
彼の足が、カガリの抵抗する足を強引に割り開く。
もはや、逃げ場はなかった。
「あ……ぅ……!」
ユウナが、カガリの内部をこじ開けるように侵入してきた。
鋭い痛みが、カガリの背骨を走り抜ける。生理的な悲鳴が喉まで出かかったが、カガリはシーツを握りしめ、それを堪えた。叫べば、自分が壊れてしまいそうだったから。
動き始める男の背中を、カガリは虚ろな目で見上げた。
天井の装飾が、揺らめいて見える。
ユウナが動くたびに、カガリの身体は揺さぶられ、肉体的な快楽など欠片もないまま、ただ痛みと屈辱だけが反復される。自分が今、見知らぬ男に組み伏せられ、身体を開かれているという事実が、脳を焼き切るほどの恥辱となってのしかかる。
……私は、オーブの代表だ。
……だから、耐えるんだ。
心が、千切れそうだった。
アスランの顔が、ユウナの肩越しに浮かんでは消える。
『一緒に行こう』あの時、彼が差し伸べてくれた手を、自分は振り払った。その手を選んでいれば、こんな辱めを受けることはなかった。だが、その手を選ぶことは、オーブを見捨てることだった。
カガリは、左の薬指に力を込めた。
そこにある指輪の、硬い感触だけが、今のカガリを現実の崩壊から繋ぎ止める唯一の命綱だった。
「カガリ……!」
ユウナの動きが激しくなり、吐精の予兆が伝わってくる。
カガリは、激しい生理的嫌悪に身をよじったが、逃げることはできなかった。
男の欲望が、カガリの最も深い場所に注ぎ込まれる。
熱い、粘着質な液体の感触。それは、カガリの身体を、決定的に汚した。
「は……っ、ぁ……」
ユウナが重い身体を退かしたとき、カガリはただ、壊れた人形のように横たわっていた。
胸が激しく上下し、呼吸は乱れている。太腿には、名残の液が不快な糸を引いていた。
ユウナは満足げにカガリの髪を撫でた。
「明日の式、楽しみだよ。……よく眠って、僕のお嫁さん」
そう言い残して、ユウナは部屋を出て行った。
広い部屋に、一人残される。
カガリは、震える手で、シーツを握りしめたまま、しばらく動けなかった。
身体の奥底に残る異物感と、鼻につく男の匂いが、消えない。
やがて、カガリはのろのろと起き上がり、バスルームへと向かった。
シャワーを浴びる。熱い湯で、何度も何度も身体を擦った。
皮膚が擦り剥けるほど擦っても、ユウナに触れられた感触は、染み付いて取れなかった。
「……ぅ、ぁ……」
我慢していたものが、熱い湯と共に溢れ出した。
カガリはシャワーの音に紛れて、声を殺して泣いた。
アスラン、ごめん。ごめんなさい。
許してくれとは言わない。ただ、ごめん。
カガリは、濡れた左の薬指に、再び指輪の感触を確かめた。
この指輪を外すことは、カガリにとって自分を殺すに等しい。
だが、明日になれば、この指輪は外され、ユウナの指輪がはめられるのだ。
それでも、今だけは。
この涙も、この痛みも、この汚れも、すべてはアスランへの裏切りであり、同時に、アスランだけが知るカガリの真実の証でもあった。
カガリは、熱い湯を浴びながら、赤く腫れた目で前を睨み据えた。
涙は、今だけだ。
明日からは、カガリ・ユラ・アスハとして、オーブの代表として、泥を啜ろうと生きていく。アスランへの想いを、この身体に刻まれた屈辱と共に、最も深い墓穴に埋めて。
「……私は、負けない」
震える声で、カガリは呟いた。
その声は、誰にも届かない夜の深淵へと、吸い込まれていった。
救出 アスランとセックス
アークエンジェルの廊下は、静寂に包まれていた。
格納庫での騒然たる空気が嘘のように、艦内は深い静謐に沈んでいる。カガリは与えられた個室の前で、立ち尽くしていた。背後には、アスランが静かに控えている。
式の最中に連れ出され、フリーダムの風に攫われた時のことは、まだ熱に浮かされたような暧昧な記憶の中にある。ただ、キラの手、ミリアリアの声、そして今、こうして自分の背中を守ってくれているアスランの気配だけが、唯一の現実だった。
部屋に入ると、自動ドアが音もなく閉じた。
二人きりの空間。
カガリは、震える手でドレスの裾を握りしめたまま、ベッドの端に腰を落とした。豪華な婚礼の衣装は、今はただ重く、皮肉なほど冷たい枷のように感じられる。
「カガリ」
アスランの声が、背後からかけられた。優しく、それでいてたしかな響き。それが、カガリの張り詰めていた糸を切った。
「……アスラン」
振り返ることすらできず、カガリはただ名前を呼んだ。その声は、自分のものとは思えないほど掠れていた。
目の奥が熱い。堪えていたものが、溢れ出そうになる。
アスランが、ゆっくりと近づいてきた。そして、カガリの前に膝をつき、見上げるような体勢で、その両手を包み込む。
彼の手の温かさに、カガリの喉が詰まった。
「戻ってきたな。……よかった」
ただ、それだけの言葉。責める言葉も、慰める言葉もない。ただ、自分がそこにいることを肯定してくれる、ただそれだけの声音。
カガリは、泣き崩れた。
「アスラン……ッ、ごめん、ごめんなさい……っ!」
「カガリ……?」
「私、お前に……お前に、謝らなきゃならないことが……っ」
カガリはアスランの手を強く握り返した。爪が食い込むほどに。伝わる彼の痛みだけが、今の自分にとっての救いだった。
「昨日の夜、ユウナに……抱かれた」
絞り出した告白。口にした瞬間、胃の腑が裏返るような羞恥と自己嫌悪が襲う。
身体に残る不快な感覚、ユウナのねっとりとした視線、無理やり開かされた感触、注ぎ込まれた粘着質な熱。それらが一気に蘇り、カガリは身震いした。
「あいつの手が、口が、身体中に……っ。汚れてしまったんだ、私は……!」
声を殺して泣くカガリの背を、アスランはただ黙って撫でていた。
怒りはないわけがなかった。ユウナ・ロマ・セイランという男に対する、殺意にも似た激しい憤りが、アスランの内で煮え滾っている。だが、今この場で爆発させるべきは、その怒りではない。
「……洗い流そう」
「え……?」
アスランの言葉に、カガリは涙で潤んだ目を上げた。
アスランは、静かに、しかし強い眼差しでカガリを見つめていた。そのエメラルドの瞳には、怒りも哀れみもなく、ただカガリという存在に対する深い愛と、彼女を救い出そうとする固い決意だけがあった。
「僕が、洗い流す。ユウナの痕跡も、屈辱も、全部。カガリがカガリに戻れるまで、僕が触れるから」
彼の手が、カガリの頬に触れた。涙を拭うように、親指が目尻を滑る。
アスランの匂い。潮風と、微かな鉄の匂い。いつも自分を安心させてくれた、彼だけの匂い。
「アスラン……」
「カガリ」
名前を呼び合うと、カガリの身体から強張りが抜けていくのがわかった。
アスランの手が、婚礼のドレスの留め具にかけられる。重く豪華な布地が、音を立てて滑り落ちていく。
下着姿になったカガリの肌に、艦内の空気が触れ、粟立った。
昨夜、ユウナに剥かれた時とは何もかもが違う。
あの時は、征服と略奪の視線だった。
今のアスランの視線は、傷ついた小鳥を労わるような、慈しみ深いものだった。
「綺麗だ、カガリ」
その一言が、カガリの胸に染み入る。
アスランの手が、カガリの肩に触れ、鎖骨を辿り、乳房を包み込む。
ユウナの粗暴な鷲掴みとは違い、アスランの手は優しく、確かめるようにカガリの曲線をなぞった。
掌から伝わる温もりが、冷え切っていた肌を内側から溶かしていく。
「ん……っ」
唇が重なる。
ユウナの唾液を塗りつけるような粗暴な口づけの記憶を、アスランの温かく柔らかな唇が上書きしていく。
舌が触れ合い、深く絡み合う。心地よい酸素不足。求め合うような、魂の交信。
アスランの手が、カガリの背中に回り、寄り添うように抱き寄せる。肌と肌が触れ合い、熱が伝播していく。
昨夜の冷たい夜気の中で震えていたカガリの身体が、今はアスランの体温で温められていく。
「アスラン、アスラン……っ」
カガリは、自分からアスランの首に腕を回した。
もっと触れてほしい。もっと熱くなりたい。ユウナに刻まれた汚れた記憶を、アスランの熱で焼き尽くしてほしい。
アスランは、カガリの切実な願いを感じ取ったように、愛撫を激しくした。
唇が首筋を這い、鎖骨の窪みを吸う。甘く鋭い刺激に、カガリは背を反らせた。
彼の手が、下着の下に滑り込む。指先が、ユウナに乱された場所に触れる。
ビクリ、とカガリの身体が跳ねた。一瞬、ユウナの手が重なったフラッシュバック。
「大丈夫だ、カガリ。僕だ」
アスランの耳元での囁きが、カガリを現実に繋ぎ止めた。
そうだ。これはアスランだ。私のアスランだ。
カガリは、強く目を閉じ、彼に身を委ねた。
アスランの長い指が、カガリの秘所を労わるように撫で上げる。
昨夜の無理やりな侵入とは違う、入念で優しい愛撫。指先が花芯を掠めるたびに、痺れるような快感が下腹に奔り、カガリの奥が濡れそぼっていく。
ユウナに抱かれた時には微塵も感じなかった、肉体的な快楽。それが、カガリ自身がアスランを受け入れる準備ができていることを告げていた。
「アスラン、来てくれ……っ。私の中に、お前をくれ……!」
カガリは、自ら足を開いた。
羞恥も憚らず、ただアスランを求める姿。ユウナに見せた屈辱的な抵抗とは違う、自分の意思による受容。
アスランは、カガリの左の薬指に光る指輪に口づけを落とした。
「この指輪の意味を、もう一度教えてくれ」
そう言うと、アスランはカガリの最も深い場所に、自らの熱を沈めた。
「あぁっ……!」
身体が裂けるような痛みは、なかった。ただ、満たされる感覚。
アスランの大きさと熱が、カガリの体内を埋め尽くしていく。ユウナに穿たれた空虚な穴を、彼の存在が完全に埋め合わせる。
異物感ではなく、充足感。
身体の奥底まで、アスランの熱が染み渡っていくのがわかった。
「カガリ……っ」
「アスラン……!」
動き始めたアスランの背中を、カガリは強く掻き抱いた。
彼が動くたびに、カガリの身体は波のように揺さぶられる。昨夜はただ苦痛と屈辱だった揺れが、今は甘い奔流となってカガリを飲み込んでいく。
激しく、それでいて優しい律動。
互いの呼吸が混ざり合い、汗が交わる。
アスランがカガリの深い場所を突くたびに、カガリの口から甘い喘ぎが漏れた。
「そこ、ぁっ、アスラン……っ!」
「カガリ、僕のカガリ……っ!」
ユウナが「僕のものだ」と言った時の、あの服従を強いる響きとは違う。
アスランの「僕のカガリ」という呼びかけは、互いが互いを所有し合う、対等な絆の言葉だった。
カガリは、自分の内部でアスランの熱が膨れ上がっていくのを感じた。
自分が汚れてしまったのではない。これこそが、自分が選んだ男との交わりだ。ユウナに刻まれた記憶など、この激しい快感の波が洗い流してくれる。
「あ、ああっ……っ! 頂点に、行く……っ!」
「カガリ……っ!」
二人の声が重なる。
カガリの奥が激しく痙攣し、アスランを締め付ける。その瞬間、アスランの熱がカガリの最も深い場所に注ぎ込まれた。
ユウナに注がれた時の、あの不快で粘着質な熱とは違う。
命の温もりのような、熱く力強い放出。
カガリは、自分の胎内がアスランの存在で完全に満たされる感覚に、身悶えした。涙が止めどなく流れる。それは、悲しみの涙ではなく、救済の涙だった。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
果てた後、二人は荒い息をついたまま、強く抱き合っていた。
アスランの熱が、カガリの身体の奥底に留まり続けている。それが心地よかった。
ユウナの痕跡は、もうどこにもなかった。アスランの汗も、吐息も、精も、カガリの全てを包み込み、浄化してくれた。
「……アスラン」
カガリは、アスランの汗ばんだ胸に顔を埋め、呟いた。
「ん?」
「ありがとう。……私、もう大丈夫だ」
アークエンジェルの個室に、二人の荒い呼吸音だけが響いていた。
激しい交わりの後、互いの汗と体温を分け合いながら、カガリはアスランの胸に顔を埋めていた。彼の心臓の音が、トクトクと耳に伝わってくる。それが、自分がここに生きて、愛する男の腕の中にいる何よりの証拠だった。
ユウナに抱かれた夜の、あの冷たく汚らわしい感覚は、アスランの熱と涙によって洗い流された。だが、カガリの胸の奥には、まだもう一つ、拭いきれない想いが燻っていた。
アスランが自分を救い出してくれたこと。自分の汚れを全て受け入れ、上書きしてくれたこと。その深い優しさと愛に対する、言いようのない感謝と、申し訳なさ。
そして、彼だけが自分の全てを満たしてくれるという、強烈な自覚。
「……アスラン」
カガリは、アスランの胸板に唇を寄せ、ちゅ、と小さく吸った。
「ん……カガリ?」
アスランが、汗ばんだ髪を優しく撫でてくる。その手の心地よさに、カガリは目を細めたが、身を起こした。
「……私が、お前を気持ちよくさせたい」
「え?」
突然の言葉に、アスランが目を丸くする。
カガリは、彼の上に跨るようにして覆いかぶさった。黄金の瞳が、真っ直ぐにエメラルドの瞳を見つめる。
「お前はいつも、私のことばかり考えてくれてる。さっきだって、私の中の汚れを洗い流すことで精一杯だったろう? ……私だって、お前が好きなんだ。お前の全部を知りたいし、お前を気持ちよくさせたいんだ」
それは、カガリなりの、精一杯の返答であり、愛の証明だった。ユウナに一方的に身体を弄ばれた屈辱を、自分の意思で愛する男に奉仕することで、完全に過去のものにしたかった。
カガリの視線が、アスランの鍛え上げられた腹筋を辿り、さらに下へと降りていく。
まだ息を潛めているアスランのモノが、カガリの秘所から溢れた双方の愛液で濡れ光っていた。
カガリは、震える手でそれをそっと包み込んだ。
「カガリ、そんなことしなくていい……!」
慌てるアスランの声を無視して、カガリは顔を近づけた。
熱い吐息が、先端にかかる。男性特有の、苛立たしげな匂い。それはユウナの、甘ったるい香油と欲望の混じった不快な匂いとは違った。アスランの生きた匂い。愛する男の、自分だけに向けられる情欲の証。
「……いいから、黙っててくれ」
カガリは、舌を這わせた。
ちゅぷ、と湿った音が静かな部屋に響く。
先端の割れ目を丁寧に舌先でなぞり、竿を根元から上へと舐め上げる。口内に広がる、塩気と苦味。本来ならば決して美味しいとは言えないその味が、今のカガリには甘美な蜜のように感じられた。それは、アスランの身体の一部であり、彼が自分に感じてくれている熱の証だからだ。
「うっ……カガリ……っ」
アスランの手が、シーツを強く握りしめるのが視界の端に見えた。
彼が声を殺して耐えているのがわかる。その健気さが、カガリの中の母性的な情愛と、少しの加虐心を刺激した。
カガリは、モノを口に含んだ。頬を窄め、舌で裹みながら、頭を上下させる。
「んっ……ちゅ……れろ……」
口腔内で、アスランのモノが急速にその体積を増していく。硬くなり、熱くなり、カガリの口を犯しにくるような勢い。
喉の奥に先端が当たり、えづきそうになるのを、カガリは必死に堪えた。苦しい。けれど、苦しい分だけ、自分が彼を深く受け入れられているという実感が湧き上がる。
ユウナは、ただ自分の欲望を処理するためだけに、カガリの身体を使った。口の中に押し込まれた時の、窒息しそうな恐怖と屈辱。
だが今、カガリが口に含んでいるこれは、恐怖など欠片もない。ただ、愛しい男を喜ばせたいという一途な思いだけ。カガリの手が、自分の愛液で滑るアスランの根元を握り、扱き上げるように動かす。
「はぁ……カガリ、すごいよ……っ、そんなことされたら、僕は……っ」
アスランの声が、甘く掠れる。彼が必死に理性を保とうとしているのがわかった。その余裕のなさが、カガリは嬉しかった。
「んむ……ちゅぱっ……あむ……」
カガリは、さらに深く咥え込んだ。喉の奥まで侵入してくる異物感に涙目になりながらも、一心不乱に舌を動かす。
先端の小さな穴を舌で突き、裏筋をなぞる。
アスランの腰が、ビクビクと痙攣し始めた。
「カガリ、でる……っ、離れて……!」
アスランの切羽詰まった声。だが、カガリは離れなかった。むしろ、強く吸い上げた。
「んっ!!」
ドクン、という強い脈動と共に、熱い液体がカガリの喉の奥に注ぎ込まれた。
苦い味が口内に広がる。カガリはそれを、喉を鳴らして飲み干した。一滴も零すまいとするかのように。
ユウナのものは不快で吐き出したかったが、アスランのものは、自分の内側に取り込める、愛の証だった。
「はぁ……っ、はぁ……」
解放された後、カガリは口元を手の甲で拭いながら、アスランを見上げた。
アスランは、荒い息をつきながら、信じられないものを見るような目でカガリを見つめている。
「……飲んだの?」
「あたり前だろ。お前のだからな」
カガリは、少し照れくさそうに、けれど誇らしげに鼻を鳴らした。
アスランのモノは、まだカガリの掌の中で失神しきってはいない。十分な弾力を取り戻しつつあった。
「……カガリ」
アスランが、急に身を起こした。
カガリの肩を抱き寄せ、その唇に深く口づける。自分の精の味がする唇を、お構いなしに貪る。
「んっ……!」
荒々しい口づけ。さっきまでの奉仕が、彼のスイッチを押してしまったらしい。
アスランの手が、カガリの身体を愛撫する。乳房を揉みしだき、赤く立ち上がった乳首を指で弾く。
「あっ、んっ……アスラン……っ!」
「カガリがそんなことするから……僕も、我慢できなくなる」
アスランの瞳が、情欲で潤んで光る。
カガリは、その瞳に心底惹かれた。自分が愛されている。自分が求められている。その事実が、身体の芯を熱く痺れさせる。
「いいぞ、アスラン。……私の中に、来てくれ」
カガリは、自ら足を大きく開いた。ユウナに開かされた時のような屈辱的な感覚はない。ただ、愛する男を迎え入れるための、誉れ高い開放感だけがある。
アスランは、カガリの腰を掴み、既に濡れそぼり蜜を滴らせている秘所に、再び硬度を増した自身を押し当てた。
「入るよ、カガリ」
「ああ……っ、来てくれ!」
ヌプッ、という水音と共に、アスランがカガリの奥底へと侵入してくる。
先程、洗い流されたばかりの胎内は、敏感になりすぎていた。アスランの形に馴染んだはずの場所が、さらに強い刺激を受け、カガリは背中を反らして悲鳴にも似た甘い声を上げた。
「ひゃあっ! あぁっ、アスラン……っ、おおきい……っ!」
「カガリ……っ、締め付けるな、出ちゃうよ……っ」
「だめっ……離すな……っ、もっと……奥まで……!」
アスランは、カガリの脚を自分の腰に絡ませ、更に深く繋がった。
子宮口を叩かれるような深い場所への打撃。カガリの目から、再び生理的な涙が溢れ出す。
「あっ、あっ、そこっ……あぁっ!!」
「カガリ、カガリ……っ、愛してるっ!」
アスランの律動が加速する。
互いの肌が打ち合う、ぱんぱんという淫らな音が部屋に充満する。
カガリは、アスランの背中に爪を立て、必死にしがみついた。汗が混ざり合い、体温が溶け合う。
ユウナに抱かれた時の、冷たく乾燥した痛みが、嘘のように消え失せていた。
今、カガリの中にあるのは、溶けてしまうほどの熱と、脳髄を痺れさせる快楽だけ。
アスランが動くたびに、カガリの内壁が彼を味わい、絞り上げる。自分の身体が、アスランの精を搾り取るために存在しているかのような、本能的な悦び。
「アスランっ、私も……私も愛してるっ! ずっと……お前だけだっ!」
愛の言葉を叫び合いながら、二人は貪り合う。
ただの性欲処理ではない。魂と魂が、身体という器を通じて激しくぶつかり合い、混ざり合う儀式。
「カガリ……っ、一緒に……っ!」
「あぁっ! いくっ、アスランっ、一緒に……っ!!」
最も深い場所で、アスランの熱が爆発した。
カガリも、その熱を受け取った瞬間、全身を痙攣させて絶頂に達した。
ドクドクと注ぎ込まれる、大量の愛の証。それがカガリの胎内を満たし、溢れ出す。
二人は強く抱き合ったまま、長い長い余韻に浸った。
荒い息が整っていく中、カガリはアスランの胸に耳を当てた。
トクトクと、早鐘を打っていた鼓動が、徐々に穏やかなリズムに戻っていく。
「……アスラン」
「ん……」
「……ありがとう。私、本当に、お前でよかった」
カガリは、左の薬指にはまった指輪に、自分の指を絡めた。
この指輪の意味を、もう二度と疑うことはない。どんな政治があろうと、どんな運命に翻弄されようと、この絆だけは、自分たちの真実だ。
アスランは、カガリの髪に口づけ、微笑んだ。
「僕もだ、カガリ。……もう、誰にも渡さない」
「ああ。……約束だぞ」
オーブの代表として、アスランと共に歩むことはできないかもしれない。
けれど、この心と身体だけは、永遠に彼のものだ。
カガリは、アスランの腕の中で、生まれて初めて心からの安らぎに包まれて、深くまどろみの中へと落ちていった。