奉仕種族に転生したら変態お嬢様に飼われることになった件 作:もんも♡
朝。
小鳥のさえずりとともに目覚める、さわやかな使用人ライフ──
とはならなかった。
なぜなら僕は、お嬢様の私室の床で目を覚ましたからだ。
(……なんで床?)
寝ぼけた頭で記憶をたどる。
昨夜、お嬢様を三十回イかせて失神させて、タオルケットをかけて、照明を消して。それで、部屋を出ようとして──
(ああ、そうだ)
「いかにゃいでぇ……♡」
意識が朦朧としてるのに、僕の服の裾を掴んで離さなかったんだった。
指、一本一本剥がそうとしたけど、あれなんでだろう、人間の握力ってなんであんなに強いんだろう。
結局、その場に座り込んで、気づいたら寝てた。
(奉仕種族の鑑だな、僕)
自分で自分を褒める。
床で寝たわりに身体は痛くない。これもファムの種族特性だ。
人間に尽くすために進化した生物は、柳床で寝ても疲れが取れるようにデザインされている。どういう生き物だ。
「ん……」
ベッドの上から、寝言ともため息ともつかない声。
見上げると、お嬢様が薄目を開けていた。
「ショコラ。おはよう」
「おはようございます、お嬢様」
「なんで床に?」
「なぜでしょうね」
僕はさらりと流した。使用人として「あなたが離してくれなかったからです」とは言わない。プロだから。
お嬢様はむくりと起き上がり、ぐっと伸びをした。
ベビードールはぐちゃぐちゃで、乳首は依然としてこんにちは状態だ。
でも彼女はまったく気にする様子もなく、窓辺に歩み寄ってカーテンを開ける。
朝日が差し込む。
その光を浴びながら振り返ったカタリナお嬢様は──
「今日はいいお天気。絶好の学園日和ですわ……」
そこにいたのは、昨日の夜の獣とは別人だった。
目は爛々としていない。口調も落ち着いている。仕草は優雅で、背筋はピンと伸びている。
(……あ、これが『氷の白百合』モードか)
初日の応接間で見せた、完璧な貴族令嬢の顔。
つまり彼女は、朝起きたらちゃんとスイッチが切り替わるんだ。
「ショコラ、今日からあなたも学園に同行してもらいますわ。護衛兼お世話係として」
「学園に?」
「ええ。話は通してありますの。ファムを連れている生徒は他にもいますから、珍しくはありませんわ」
そういえば初日にそんな話をしていた気がする。「学園にも通っていて、身の回りの世話と護衛を兼ねられる奉仕種族を探していた」と。
「学園までは馬車で三十分ほど。それまでに朝の支度を済ませましょう。まずは……そうね、昨夜の汗を流したいから、お風呂の準備をお願いできるかしら?」
「はい、かしこまりました」
僕は立ち上がり、執事服についた埃をはたいた。
よし、今日は普通の業務だ。
普通の朝風呂の準備だ。
僕は浴室へ向かった。
公爵邸の浴室は、これまたとんでもない広さだった。
白大理石の床。壁には精緻なモザイク画。浴槽は優に十人は入れる大きさで、湯は魔法で常に適温に保たれている。
「すごいな……公衆浴場ぐらいある」
僕は魔法で湯を張りながら、思わずつぶやいた。
「あら、公衆浴場に入ったことがあるのかしら?」
「うわっ」
振り返ると、お嬢様が浴室の入り口に立っていた。
もう着替えてきたのか、シンプルな白いバスローブを羽織っている。でもベルトはまだ結んでなくて、前がほぼ全開だ。
「お、お嬢様、前が……」
「あら、ほんと。失礼」
彼女はこともなげにベルトを結んだ。恥じらいの「は」の字もない。
「それで、ショコラ。お湯はもう大丈夫かしら」
「はい、ちょうどいい温度です」
「ありがとう。じゃあ、服を脱いで」
「はい、かしこまりました」
僕は執事服のボタンに手をかけて──
「?」
手が止まる。
「どうしたの? 早く脱がないと学園に遅れますわ」
「いや、あの、僕も脱ぐんですか?」
「ええ。わたくしの身体も洗ってほしいから」
お嬢様はまるで天気の話をするみたいに言った。
「自分の身体は自分で洗えるけど、今日はあなたに洗ってほしいの。それも立派なご奉仕ですわ」
(……立派なご奉仕)
その言葉、たぶん里の教科書には載ってない意味で使われてる。
でも、拒否権はない。僕は奉仕種族だ。
「……わかりました」
僕は観念して、執事服を脱ぎ始めた。
例のボタンだけは慎重に避けながら。あれを間違えて押したら、また股間からこんにちはである。
全部脱いで、きちんと畳んで棚に置く。
振り返ると──
お嬢様もすでにバスローブを脱いでいた。
「……」
言葉を失った。
朝日に照らされた彼女の裸身は昨夜のベビードールで見たよりも、ずっと、はるかに。
白い。
そして、すごい。
昨夜は乳首に夢中で気づかなかったけど、あらためて見るとお嬢様の身体のバランスは驚異的だった。
肩は華奢で、鎖骨のラインは繊細で、腰はきゅっと絞られてるのに、胸とお尻だけがふんわりとボリュームを持ってる。
神様が「ここはこう、ここはこう」って狙って設計したみたいな、計算された曲線。
「どう? わたくしの裸、そんなにまじまじ見られると、さすがにちょっと照れますわ」
「…………すみません」
いや、照れてるようには見えない。
でも僕は素直に謝った。奉仕種族だから。
「それじゃあ、まずは髪からお願いするわね」
お嬢様は洗い場の椅子に腰掛けた。
プラチナブロンドが、するりと背中に流れる。
僕は手桶でお湯をすくい、そっと彼女の髪にかけた。
「ん……いいお湯」
安らかな声。
僕はシャンプーを手に取り、泡立ててから、ゆっくりと髪に揉み込んでいく。
「あ……気持ちいい……♡」
指の腹で頭皮をマッサージする。こめかみのあたりをぐるぐる、後頭部をぐいぐい、耳のうしろをそっと撫でる。
「んっ……♡ ショコラ、上手ですわ……♡ 狙ってる?♡」
「狙ってません」
本当に狙ってない。僕はただ、奉仕種族としてベストを尽くしているだけだ。
泡を洗い流して、次はトリートメント。
「お嬢様の髪、すごくきれいですね」
「あら、嬉しい。毎日手入れしてるんですのよ」
「わかります。指通りがぜんぜん違う」
「ふふ、あなたに褒められると、なんだか特別な気分だわ」
(……こうしてると、本当に普通の主従みたいなのに)
シャンプーの時間だけは、彼女もただの女の子だった。
でも。
「さあ、次は身体ですわね」
その声に、ほんのちょっとだけ、熱が混ざり始めた。
僕は新しいスポンジを手に取り、ボディソープをたっぷり含ませた。
「まずは背中から」
「ええ、お願い」
泡立ったスポンジを、そっと背中に当てる。
肩甲骨から、背骨に沿って、くるくるくるっと円を描く。
「ん……っ♡」
お嬢様の口から、ちいさな吐息。
僕は気にせず続ける。
腰のあたりを横にスライド。脇腹を、そっと撫でる。
「んふ……っ♡ そこ、ちょっとくすぐったい……♡」
(あれ? なんか声が甘くなってきた)
肩を首筋をうなじを。泡のついた手のひらで、ていねいに洗い流すように撫でる。
「はぁ……っ♡ ショコラ、あなたやっぱり……狙ってるんじゃ……♡」
「狙ってないです」
本当に狙ってない。奉仕種族の本能が、ご主人様を気持ちよくする最適なツボを自動で探してるだけだ。
断じて僕は変態ではないのだ。
たぶん。
「じゃあ、前も……いいかしら?」
お嬢様が、くるりとこちらを向いた。
泡まみれの両手でスポンジを握りしめる僕の前に、また巨乳が。
(平常心、平常心……)
僕はスポンジを胸元に──当てなかった。
代わりに、鎖骨のあたりからスタートした。
「まぁ、遠回りですのね」
「順序ですから」
鎖骨をなぞり、肩を揉み、腕を下り、手首まで。
右手が終わったら左手。
「じれったいですわ……」
お嬢様が不満そうに唇をとがらせる。でも目はすでにとろりと潤み始めている。
(さあ、ここからだ)
僕は意を決して、スポンジをお嬢様のお腹に当てた。
肋骨の下あたりを、くるくる、くるくる。
へその周りを、そーっとなぞる。
「んぅ……っ♡」
(よし、まだ大丈夫だ。まだ変態スイッチは入ってない)
次に、太腿。
膝から上へ向かって、両手で包み込むように洗う。
「あ……っ♡ そんな、太腿なんて……っ♡」
(あれ? 太腿も弱点なのか)
右足が終わり、左足。
そして最後に──
「お嬢様、胸をお洗いします」
「……っ♡ ええ……どうぞ……♡」
声がもう、夜のモードに片足突っ込んでる。
僕は泡をたっぷり含ませたスポンジを、そっと、お嬢様の左の乳房に当てた。
「んぁっ……!♡♡」
声のトーンが一段上がる。
でも僕は、あくまで「洗う」動きを崩さなかった。
スポンジで、乳房のふもとから頂点に向かって、ゆっくりと円を描く。
「あっ……♡ やっ……♡ それ、洗い方、えっちすぎ……っ♡」
「普通の洗い方です」
「うそ……っ♡ ぜったい、うそ……っ♡」
ふもと、外側、内側、頂点。
左右交互に、同じ動きを繰り返す。
泡が胸の谷間にたまって、とろりと流れ落ちる。
「あぁっ……♡ あっ、あっ、んっ……♡♡」
お嬢様の膝が、かくんと震えた。
「お嬢様、ちゃんと立ってください。洗えないです」
「ら、らってぇ……っ♡ きもちよくて……っ♡」
「まだスポンジですよ」
「す、すぽんじのくせにぃ……っ♡♡」
スポンジのくせに、とは新種の文句だ。
僕は仕上げにスポンジの角で乳首の先端をつん、とつついた。
「ひゃんっっ!!!!♡♡♡」
浴室に声が響く。
「……い、いま、ちょっとイッた……っ♡」
「スポンジでですか?」」
「す、すぽんじであんなとこ、つつかれたら、イくに決まってるじゃない……っ♡♡」
(決まってるんだ……)
僕はそっとスポンジを桶に置いた。
「では、泡を流しますね」
「ええ……っ♡」
手桶ですくったお湯を、肩からそっとかける。
泡が流れて、白い肌が露わになる。
露わになった胸の先端は、すでに硬く尖って、さっきよりもずっと濃い紅色に染まっていた。
「……ショコラ」
「はい」
「あと、五回だけ……♡」
「……」
「学園に遅れる前に、あと五回だけ、ここを……っ♡」
お嬢様は自分の胸に手を当てて、潤んだ瞳で僕を見上げた。
「直接、指で……っ♡ そしたら切り上げるから……っ♡」
(切り上げる、ね)
この人の「ちょっと」が三十回だったことを、僕は忘れていない。
でも。
「……わかりました。五回だけですよ」
「ええ……っ♡ 約束しますわ……っ♡」
この人の口から「約束」という単語が出ること自体が奇跡だが、まあいい。
僕はお湯で手をすすいでから、そっとお嬢様の胸に手を伸ばした。
「言っておきますけど、ほんとに五回だけですからね」
「ええ……♡」
「学園が終わったらいくらでもしますから、今は五回だけで」
「……♡」
(今、舌なめずりした?)
結局、浴槽の中で三回、洗い場で二回、合計五回の乳首絶頂(合計所要時間約二分)を経て、お嬢様はなんとか正気を取り戻した。
「ありがとう、ショコラ。すっかりさっぱりしたわ」
浴室から出てきた彼女は、また「氷の白百合」の顔に戻っていた。
すごい切り替えだ。
まるで二重人格を見てるみたいだけど、本人は完全に自覚的だからタチが悪い。
「さあ、学園に行く準備をしましょう。あなたも新しい制服を着てね」
「僕もですか?」
「ええ。学園にはファム用の制服があるの。ちゃんと手配してあるわ」
さすが公爵家。準備がいい。
というか、僕が来る前から全部手配してあったんだろう。例の奉仕種族資金で。
僕は自分の部屋に戻り、支度を済ませた。
学園指定のファム用制服は、執事服よりも軽装で動きやすかった。深緑のジャケットに、白いシャツ、同色のハーフパンツ。ポケットにはちゃんと「奉仕種族用」と刺繍が入っている。
(これ、学園ではけっこう普通の風景なんだろうか)
人間の生徒の横に小さなファムが控えてるのが。
そんなことを考えながら玄関ホールに向かう。
そこにはすでに制服姿のカタリナお嬢様が待っていた。
「……お嬢様」
「なぁに?」
「学園の制服、なんというか、その……」
彼女が着ている制服は、貴族学園らしく上品なデザインだった。白いブラウスに長めのプリーツスカート、紺のブレザー。清楚そのもの。誰がどう見ても、品行方正な公爵令嬢だ。
でも僕は知ってる。
この制服の下で、今朝も乳首が疼いてることを。
それどころか、たぶんスカートの中も、微妙に濡れてることを。
「ふふ、どうしたの? そんなに見つめて」
「いえ。制服、とてもお似合いです」
「あら、ありがとう」
カタリナお嬢様は、にっこりと微笑んだ。
それはもう完璧な、貴族の笑顔だった。
(この笑顔と昨夜のアヘ顔が同一人物のものだって、誰が信じるんだろう)
そんなことを思いながら、僕は彼女のあとに続いて馬車に乗り込んだ。
♢ ♢ ♢
王都の中心部にある王立ローゼンハイム学園は、貴族の子息子女が通う由緒正しき教育機関だ。
馬車を降りた僕の目の前に広がるのは、荘厳な石造りの校舎。手入れの行き届いた前庭。噴水の周りには制服姿の生徒たちが三々五々集まっている。
「カタリナお嬢様!」
「おはようございます、カタリナ様!」
馬車から降りた彼女に、何人もの生徒が声をかけてくる。
そのときのカタリナお嬢様の変わりようは、見事というほかなかった。
「ごきげんよう、皆さま」
さっきまで浴室で「あ゛っ♡」とか言ってた人と同一人物とは思えない、涼やかな挨拶。
背筋は伸び、視線は穏やかで、口元には微笑みをたたえているが、必要以上に親しみを見せない。
そう、「氷の白百合」だ。
近寄りがたいほど美しく、気安く話しかけることを許さない、孤高の令嬢。
「……すごいな」
僕がぽつりとつぶやくと、隣に立っていた別のファム……どうやら他の生徒に仕えているらしい小柄な女の子のファムが、こっそり耳打ちしてきた。
「ねぇ、きみ、カタリナ様の新しいファム?」
「え? あ、はい」
「大変だね……あの人、学園のファムたちの間では有名なんだよ」
「な、なにがです……?」
彼女は声をひそめて、言った。
「たまにトイレから、すごい声が聞こえるんだって」
(トイレで何をしてるんですかお嬢様)
「それと購買部に『媚薬入り紅茶の茶葉はありませんか』って真顔で問い合わせたこともあるって」
(購買部のトラウマを想像したくない)
「あと、保健室の先生が言ってたんだけど、『内に秘める衝動の鎮め方を教えてほしい』って相談に来たことがあるらしくて」
(中二病か?いや、内容は変態病なのは分かるんだけど)
「先生が『どうしたんだね急に』って聞いたら、『最近、夜も眠れないほどで……』って」
(不眠症の訴えに聞こえるけど……)
でも中身は不眠症じゃない。三十回イかないと寝れないっていう、生物のバグだ。
「よくそんな情報知ってるね……」
「ファムネットワークってやつよ」
彼女はいたずらっぽく笑って、自分のご主人様のもとへ走っていった。
(この学園にはファムネットワークなるものが存在するのか)
そしてその情報網に、カタリナお嬢様はしっかりマークされていると。
まあ、当然か。
僕達ファムにとって、人間の動向は一番の楽しみだ。悪い動向であれ、良い動向であれファムにとっては一番の感心ごとなのだ。
「ショコラ、何をしているの? もう授業が始まりますわよ」
遠くでお嬢様が呼んでいる。
今は聖母のような微笑みを浮かべて。
「今行きます!」
僕は小走りで彼女の元へ向かった。
校舎に入る直前、お嬢様が僕だけに聞こえる声でささやいた。
「お手洗いの場所、もう把握した?」
「してません」
「じゃあ、あとで教えてあげますわね」
「え?なんで……?」
♢ ♢ ♢
こうして僕の学園初日が始まった。
授業中、お嬢様は完璧な優等生だった。教師の質問にはそつなく答え、ノートは丁寧に取り、居眠りする生徒もいない静かな教室で、ひときわ凛とした姿勢で席についている。
(なんて真面目なんだ)
(なんて清楚なんだ)
(この人が少し前まで浴室で「すぽんじのくせにぃ」とか言ってたなんて、誰が──)
「カタリナさん、次の設問はどうかな?」
「はい、この魔法方程式の解は……」
(──誰が信じるんだろうな、ほんと)
僕は教室の後ろで待機するファム用の長椅子に座りながら、深いため息をついた。
あと数時間。
たぶん、お嬢様は「お手洗い」に行く。
そこで何が起きるかは、僕にも容易に想像がついた。
(ファムネットワークに、新しい伝説が追加されませんように)
それだけを祈りつつ、僕は二時間目の魔法史学の授業に耳を傾けた。