奉仕種族に転生したら変態お嬢様に飼われることになった件 作:もんも♡
午後の授業。
科目は「王立魔法基礎理論」。由緒正しき学園らしく、教科書は分厚く、教師の声は心地よいぐらいに平坦で、教室には適度な睡魔が漂っていた。
窓際の席では、女生徒がこっくりこっくり船を漕いでいる。後ろの席では、男子生徒が教科書を立てて完全に寝ている。
そんな中、カタリナ・フォン・ローゼンベルクは──
完璧な姿勢で授業を受けていた。
背筋は伸び、視線は教師に注がれ、ノートを取る手は淀みない。その横顔は、まさに「氷の白百合」の名に恥じない凛としたものだった。
(すごいな、お嬢様)
僕は教室の後方、ファム用の待機席からその姿を見つめていた。
ついさっきトイレであれだけのことをしたのに、もう完全に切り替えている。この二面性こそが彼女の最大の武器であり、最大の謎だ。
教室のあちこちには、他の生徒たちのファムも控えている。
ミルフィはご主人様の隣で教科書を開くお手伝いをしていた。パウロは窓際で静かに佇んでいる。リゼは目を閉じて瞑想状態だ。
全員、奉仕種族の鑑だった。
静かで控えめで、必要なときだけ動く。
(僕も見習わないと)
そう思って、僕も背筋を伸ばした。
と、そのとき。
「ん?」
お嬢様の口から、かすかな吐息が漏れた。
(?)
気のせいか。
僕はもう一度、背筋を伸ばした。
「……っ、は……っ」
まただ。
今度は明らかに、声にならない声。
しかもノートを取る手が止まっている。ペン先が小刻みに震えているのが、後ろからでもわかる。
(ま、まさか)
僕はそっと耳を澄ませた。ファムの聴力は人間よりちょっとだけいい。教室のざわめきの中から、お嬢様の声だけを拾う。
「……あ……あぁ……♡」
(うわ、なにか呟いてる)
聞こえるか聞こえないか、ぎりぎりの小声。
「……おまんこ……疼きますわ……♡」
(もう発情してる!?)
「オナニーしたい……♡♡♡」
(しーっっっ!!)
「……オナニーしたいオナニーしたいオナニーしたいオナニーしたい……♡♡♡♡」
その間も顔は涼しいままなのが、さらに怖い。口元はわずかに微笑んですらいる。でも口の中では「オナニーしたい」が無限ループしている。
この人、表情筋と発声が完全に分離してる。
(落ち着け、落ち着くんだ僕)
状況を分析する。
さっきトイレで奉仕したばかりだ。確か四回イかせて、最後におしっこも出た。あれで一旦リセットされたはず。
でも、もう性欲ゲージが溜まっている。
エロステータスの表示を思い出す。
『完全再充填まで推定4時間』
(……はっ)
待て。あの4時間って、全容量の話だ。
お嬢様の性欲ゲージ最大値はSSS級。つまり、4時間で満タンになるけど、その手前でもじゅうぶん「疼く」レベルには達するんじゃないか。
たとえるなら、バケツに水が溜まっていくようなものだ。満杯になるのが4時間後でも、半分溜まった時点で底の方はもう水に浸かってる。
そしてお嬢様の「半分」は、常人の「満タン」よりはるかに多い。
(まずいまずいまずい)
このままだと何が起きる?
授業中に爆発したら?
教室の真ん中で、清楚な公爵令嬢が「オナニーしたい」と叫びながら制服を脱ぎ始めたら?
(……お嬢様の人生が終わる)
いや、もうだいぶ危ういところまで来ている気もするけど、まだ終わってない。まだ「カエルの幽霊」でごまかせるうちはセーフだ。
でもこれはさすがにごまかせない。
教室のど真ん中だ。教師がいる。クラスメイトがいる。他のファムたちもいる。
ここで爆発したら、氷の白百合どころか「伝説の変態」として歴史に残る。
(なんとかしないと……)
僕は静かに立ち上がった。
ファムの待機席から移動するのは目立つ。でも、今はそれどころじゃない。
そっと教室の壁伝いに、お嬢様の席へと近づく。
途中、ミルフィと目が合った。
彼女は一瞬で状況を察したらしく、「がんばって」という顔で小さくうなずいた。
(ファムネットワーク、頼もしい)
僕はお嬢様の席のすぐ後ろに到着した。ここは窓際でカーテンがかかっていて、教師からは死角になる。
ような気がする。
「お嬢様」
小さく呼びかける。
「……はっ」
お嬢様の肩が、びくんと跳ねた。
振り返った彼女の顔は、外見こそ氷の白百合だったが、目が完全に据わっていた。サファイアの瞳の奥で何かが爛々と燃えている。
「……ショコラ」
「お嬢様、大丈夫ですか」
「大丈夫じゃありませんわ」
小声での会話。
「また疼いてるの……♡♡」
「さっき四回もイったばかりですよね」
「足りませんわ♡♡」
(即答か)
「……わたくし、もう……ダメかも……♡♡」
「ダメって」
「ここで、いま、服を脱いで、あなたのおちんぽにおまんこ擦り付けたい……♡♡♡」
「ダメです絶対にダメです」
「でも♡♡もう、疼いて、疼いて……♡♡♡♡」
お嬢様の手が、震えながらスカートの裾に伸びる。
(やばいやばいやばい)
僕はとっさに、お嬢様の手を握った。
「……え?」
「落ち着いてください。手を握りますから」
指と指を絡める。汗ばんだお嬢様の手は、熱かった。
「ショコラの手……あったかい……♡♡」
「はい。あったかいです。だからパンツの中に入れようとしないでください」
「……ばれた?♡」
「バレバレです」
手を握ったまま、僕は魔法で自分のポケットから小さなノートを取り出した。奉仕種族は常に筆記具を携帯している。ご主人様の命令をメモするためだ。
僕はノートにこう書いて、お嬢様に見せた。
『放課後まで耐えてください。そしたら何回でもイかせますから』
お嬢様はそれをじっと見つめてから、自分のペンを取って、ノートに書き足した。
『何回?』
(……交渉してきた)
僕は書く。
『望むだけ』
お嬢様が書く。
『百回でも?』
僕はペンを走らせる。
『百回は死にます。五十回で』
お嬢様が即座に返事を書く。
『七十回』
『六十回』
『六十五回でどうですの』
『なんでそんなに具体的なんですか』
『交渉事はわたくしの得意分野ですの。お父様仕込みですわ』
(公爵家の英才教育、こんなところで発揮しないでほしい)
『わかりました。六十五回です』
『交渉成立ですわね。あなた、いい奉仕種族になるわ』
『ありがとうございます。でも手をおまんこに滑り込ませようとするのをやめてください』
『ばれた?♡』
『バレバレです』
この間も、教室の前方では教師が淡々と魔法理論を解説している。
「──ですから、魔力収束式の第三項は、術者の精神状態に大きく依存します。特に初心者は、雑念を払うことが重要で──」
(お嬢様の雑念、いまめちゃくちゃです先生)
僕はお嬢様の手を握り続けた。
そのままだと手だけでは足りなくなるかもしれないと思って、もうひとつ作戦を追加する。
僕はノートに書いた。
『お嬢様、魔法理論の授業に集中してください。性欲を抑えるには知的な活動が有効だそうです』
お嬢様が書き返す。
『でももう教科書の内容は全部理解してますのよ』
『じゃあもっと難しいことを考えてください。高等魔法方程式とか』
『あれも去年全部終わらせましたわ』
(この人、やっぱり天才なんだな……)
天才で、変態で、性欲SSS。神様はなぜこの三つを同じ人間に与えてしまったのか。
『じゃあ裸の人間がいるとして』
『なんですの急に』
『その人間を裸のまま前に立たせて、触らずに四時間キープする魔法を開発するとか。そういう高等な思考に逃げてください』
お嬢様は少し考えてから、猛烈な勢いでペンを走らせた。
『面白い発想ですわね。接触禁止の拘束魔法に持続時間延長を組み合わせて、触覚遮断フィールドを重ねがけすれば理論上は……』
(お、食いついた)
お嬢様は、みるみるノートに魔法式を書き始めた。手がもう震えていない。目も据わっていない。代わりに、学者が研究に没頭するときの、あの純粋な輝きが戻ってきている。
「……ふふ、これなら触らずにすむわ」
(怖いものを作ろうとしてる気がするけど、とりあえず危機は脱した)
僕はほっと息をついた。
そのとき、教師がこちらを向いた。
「カタリナさん、そこにいるのは君のファムかね?」
教室の視線が一斉に集まる。
「はい、先生」
お嬢様は、すでにいつもの氷の白百合に戻っていた。声も涼やかで、表情も穏やかだ。いまさっきまで「六十五回」の交渉をしてた人と同一人物とは、誰も思わないだろう。
「授業に関係ない行動は控えるように」
「申し訳ございません、先生。わたくしの体調が優れなかったものですから、お世話を頼んでおりました」
「そうか。大事になさい」
「ありがとうございます」
教師はそれ以上追及せず、授業を続けた。
お嬢様は、僕のノートに最後の一文を書いた。
『放課後、楽しみにしてますわね。六十五回、忘れないでくださいまし』
僕は無言でノートを閉じた。
どうやら今日も、僕の夜は長くなりそうだ。
「しくしく」
僕は誰にも聞こえない声で、いつもの呪文を唱えた。