乙女ゲー世界はモブにもヒロインにも残酷で厳しい世界です BITTER END ROUTE 作:氷破 熾央漓(ひば しおり)
『本当によろしいのですか?』
「ああ、あの二人とは金輪際手を切る。所詮モブの俺が一緒にいていい相手じゃなかったそれだけさ」
空を征く飛行船。
飛行船自体はこの世界で普遍的なものだが700mに及ぶ大きさはこの世界でも群を抜く巨大さ。
その甲板で言葉を交わすは船の主で黒髪中肉中背鍛えられた体躯の少年と宙に浮く金属の球体。
リオン・フォウ・バルトファルトと、彼の相棒の灰色の球体ボディに赤いレンズを備えた人工知能端末ルクシオン。
前世でプレイした乙女ゲームの世界にモブとして転生してしまったリオンは期せずして主人公オリヴィアと悪役令嬢アンジェリカの両名と親密な間柄になってしまった。
だがそんな親しい間柄だった三人だったが、リオンとオリヴィアは仲違いし、そのことでアンジェリカをも怒らせてしまった。
そして決心した。関係を解消するには良い機会だと。
『オリヴィアはマスターに好意を抱いていたようにお見受けしました。そしてマスターもまたオリヴィアに好意を抱いていたのでは?』
「オリヴィアさんが俺を? そして俺がオリヴィアさんを? 話にならないね。それに、若し仮にそうだったとしたら尚更離れるべきさ。主人公様とモブの俺が付き合うとかあっちゃならないのさ」
確かにリオンはオリヴィアに好意を抱きつつあったし、オリヴィアもまた親友以上の想いをリオンに向けているように見えた。
反面貴族で男爵位を賜ってるリオンと平民であるオリヴィアとは婚姻を結べない。
いや、そもそもオリヴィアは【乙女ゲーの主人公】で、定められた運命の相手の【乙女ゲーの攻略キャラ達】が居た。
そしてその運命を感じさせる一幕があった。
そもそもリオンがこの場に居るのは空賊掃討の為。そしてその同行者に攻略キャラの内の二人――グレッグとブラッドが同乗していた。
その二人はオリヴィアのピンチに助けるためと体を張ってくれたのだ。
それはリオンには乙女ゲーのワンシーンの再現にも見えて運命の強い結びつきすら感じ、自身はここで引くべきと感じる。
やはり自分とは縁のない相手、いや縁を繋ぐべきではない相手とリオンは思ったのだった。
「そうさ、俺なんかが側に居ちゃ彼女の為にならないのさ……」
言いながら思い出されるのはオリヴィアと仲違いした時の事。
オリヴィアがリオンに言い放った言葉。
――どうして私にそこまで優しいんですか?
――私、平民ですよ?
――私に何を求めているんですか?
その問いにリオンは答えられなかった。
それはリオンがオリヴィアに親しく接する理由が彼女が【ゲームの主人公】だから。
そしてそんな理由告げられるはずもなかったから。
答えを出せず黙り込むリオンにオリヴィアが放った言葉、それは――
――理由が無いなら気まぐれですか?
――そんなのペットと変わらないじゃないですか!
――馬鹿にしないで! 私は人間です!
彼女がこのような言葉を発するに至った理由。
この空賊討伐の少し前、オリヴィアは横暴な貴族女生徒から心無い言葉を浴びせられ心に深い傷を負っていた。
その時言われた言葉は貴族は平民を人間扱いしたりしない。
友情なんか成立しない。
大事にしたとしてそんなのペット扱いみたいなものだと。
その言葉はオリヴィアの中に不信感を芽生えさせた。
リオンが自分を大切に扱うのはペットだからなのか、と。
そしてあのような言葉を放ってしまった。
その言葉はリオンの胸に深く突き刺さった。
それはリオンに距離を置く選択を決意させるほどに。
『本気ですか?』
オリヴィアと距離を置くというリオンの思いを確認するべくルクシオンが問いかけた。
「本気も本気。大マジさ。これからその本気を見せてやるよ。ルクシオン、船をウェイン領に向けろ」
『何をなさるおつもりで?』
「カーラのヤツを娶る。俺たちを罠にはめようとした女を娶ってみせればオリヴィアさんも俺に愛想をつかしてくれるだろ。オマケに婚活の悩みも消えて一石二鳥さ」
先にも述べたがリオンが今この空域に自身の飛行船と共に居るのは空賊討伐の依頼を受けその空賊を討ち果たした為。
更に言えばそれは偽の依頼でリオンを嵌める罠だったのだが、リオンの持つロストアイテムの超越的な力により難なく返り討ちにし逆に罠を看破してたのだった。
その偽の依頼をしてきたのがカーラだった。ウェインは彼女の実家の家名。
『ですがウェイン家は準男爵ですよ。男爵であるマスターの結婚相手は男爵家か子爵家でなければ釣り合わないのでは?』
「今回の空賊退治の手柄を押し付ける。ついでに今回の事でお家取り潰しになるであろうオフリー伯爵家の浮島も付けてやる。そうすりゃ準男爵家を男爵家に陞爵させるぐらい訳ないだろ。準男爵令嬢じゃなくて男爵令嬢なら婚姻相手として問題なく釣り合うしな」
オフリー伯爵家、そしてその令嬢。それは此度の偽の空賊討伐依頼による罠の黒幕。空賊討伐により空賊との繋がりも暴かれ取り潰しがほぼ決まっていた。
そのオフリー家の令嬢が取り巻きであるカーラに命令を下しやらせたのだった。
空賊の片棒を担ぐような真似、カーラはしたくなかったのだが伯爵家の力の前に準男爵家の娘に拒否権などなかった。
しかも性質の悪いことに逆らったら彼女の実家ごと叩き潰すとまで脅し。
因みにウェイン家はオフリー家の寄子ではあったが空賊との係わりは無かったため連座の処罰などは免れている。
『本当によろしいのですね?』
「少なくとも学園の男爵令嬢子爵令嬢どもよりはマシだろう。アイツラ女尊男卑の風潮に乗っかってマウント取ってくるような奴らばっかしだ。俺らに負い目の有るカーラならそんな真似できないだろうからな。それにこれから男爵家に陞爵させると言っても元は準男爵家だ。愛人や奴隷を連れてる男爵家や子爵家の女どもとは違う。これだけでも嫁に選ぶ条件として十分だろ」
『確かにそうかもしれませんが、私にはとてもマスターに釣り合う女とは思えません』
「くどいぞ。分かったらさっさとウェイン領へ迎え」
リオンの指示のもとルクシオンはパルトナーをウェイン領へと船首を向け発進させる。
700mを超える巨大飛行船パルトナーを人員も無く運航できるのも人工知能ルクシオンの力あっての物。
暫く後、ウェイン領を訪れ、そして当主に要件を飲ませたリオンはウェイン領を後にした。その隣に紺色の長い髪のスレンダーな体系の少女――カーラを伴って。
パルトナーのある船室のドアの前、そこにリオンとカーラは居た。
そこは空賊討伐にあたり同乗したカーラに宛がわれてた部屋。
カーラはまさか再びこの部屋に戻ってくるとは夢にも思っていなかった。
「いつまで突っ立ってるつもりだ」
苛立ちを含んだリオンの声にカーラはビクリと肩を震わせる。
恐る恐るリオンに視線を向けると冷たい視線と共に「さっさと入れ」との言葉が返ってくる。
「ハ、ハイ……!」
カーラは怯えを滲ませた声で答えドアを開け中に入る。
部屋に入った瞬間悲鳴が漏れそうになるのを飲み込む様に自分の口に手を当てる。
カーラが目の当たりにしたもの。
それは彼女が持ち込み使用した通信機。
正確には彼女の寄り親――オフリー伯爵令嬢に持たされ、空賊の襲撃手引きの為に使われた通信機。
だがその通信機はメチャクチャに壊されていた。
それはリオンのカーラに対する罠に嵌めた行為に対する怒りの現れにも見え、カーラは恐怖に震える。
リオンは震えるカーラの肩を乱暴に掴む。
「自分の立場、理解してるか?」
リオンの発した低い声にカーラは震えながら頷く。
リオンは肩を掴んだまま震えるカーラを引きずるように歩を進め、ベッドの前に立ちカーラを突き飛ばす。
ベッドに投げ出されたカーラにリオンは冷たい視線を向け口を開く。
「脱げ」
リオンの言葉にカーラは肩を震わせる。
「聞こえなかったのか? それとも意味が解らないとでも言うつもりか? 俺たちは婚約してこの先夫婦になるんだ。だったら解るだろ?」
それはリオンの選択、そして決意。
肉体関係をも結ぶことでこの婚約を確かなものとこの身に心に刻むための決断。
それは自分自身は勿論カーラにも力関係を叩き込むため。
だがカーラからの返事は無く怯え震え俯くだけ。
カーラの態度にリオンは苛立ちを見せる。
「それとも自分で脱ぐのより力づくでひん剥かれるのが望みか?」
リオンが襟元を乱暴に掴むとカーラは首を振る。
「だったらさっさとしろ」
リオンの低く凄んだ声にカーラは震えながら服を脱ぎ始める。だが下着姿になったところで手が止まる。
「未だ残ってるだろう」
リオンの苛立ちが滲む声にカーラは怯えながら残る下着も脱ぎ去り一糸纏わぬ姿になるも恥じらいから乳房と秘所からは手を退けれずにいた。
「自分の立場解っているのか……?」
リオンの低い声にカーラは全身を震わせながら両手を乳房と秘所から退ける。
そうしてその体を隅々まで晒すとその上からリオンは覆いかぶさる。
顔を近づけ唇を重ねようとするがその目に映るカーラの固く瞳を閉じ涙を滲ませ振るえる姿にリオンは何処か気持ちが覚めていくのを感じる。
或いは怯えるカーラに対する罪悪感だろうか。
「チッ……」
リオンは舌打ちを打つと自分の上着を投げるようにカーラにかける。
「興が削がれた……」
言って立ち去ろうとするとカーラが縋りつき腕に抱き着いてきた。
「ゴ、ゴメンナサイ……! 言う通りにしますから……! だから見捨てないでください! ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……!」
リオンがカーラを抱くのを止めた場合それは無理やり抱かれるのを免れられたなどと言うぬるいものではない。
むしろ婚約を対価に、免れる筈だった空賊を手引きした罪を科せられるということにもなりかねない。
怯えすすり泣くカーラにリオンは溜息を一つつくと「分かったよ……」とベッドに腰を下ろす。
「とりあえず泣き止め……。女が泣くのは嫌いなんだよ……イライラする……!」
リオンの声にカーラはビクリと肩を震わせ「スミマセン……」と零す。
だが泣き止めと言われ直ぐ泣き止めるものでもないと、リオンは顔を背けたまま泣き止むのを待つ。
やがて泣き止んだカーラが口を開く。
「申し訳ありません。お見苦しいところお見せしました……。覚悟は決まってます。どうぞ男爵の好きなようになさって下さい」
to be continued
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