乙女ゲー世界はモブにもヒロインにも残酷で厳しい世界です BITTER END ROUTE 作:氷破 熾央漓(ひば しおり)
「リビア!? 一体どうしたんだ!? リビア!?」
駆けつけたアンジェリカはオリヴィアに駆け寄るとその顔に驚きの声を上げる。そしてすぐそばに立つリオンに声をかける。
「リオン! お前が居ながら一体どういうことだ!? まさか……お前がやったのか!?」
アンジェリカの問いにリオンは冷ややかな微笑みで返すとアンジェリカは驚きで目を見張る。
「お前……本当にリオンなのか……?」
その冷たい微笑みにアンジェリカは慄き呟いた。
「他愛無い口論、イヤ、口喧嘩みたいなものですよ。丁度いいからオリヴィアさんを連れて行ってくれませんか、アンジェリカさん」
「お前……どうしてしまったんだ?」
リオンの他人行儀な呼び方喋り方に、オリヴィアに対し冷たい態度にアンジェリカは驚きの顔を見せる。直後リオンの隣にいる女生徒に驚きの声を上げる。
「リオン! 何故その女と一緒にいる!?」
アンジェリカの言葉にリオンはうんざりしたように溜息をつく。
「またですか……その都度説明するのも面倒くさい。オリヴィアさん代わりに説明してくれない?」
リオンの言葉にアンジェリカはオリヴィアに視線を向ける。
「婚約者……だそうです。罠に嵌めた責任取ってもらうためだとリオンさん言ってました……」
「な……!? 正気か!? 自分を罠に嵌めた女を! いや、それよりも責任だと!? そんな弱みに付け込むような真似!」
「だったら空賊を手引きした罪で処刑しろとでもいうんですか? 随分冷たいんですね」
「ち、違う! そういう事を言ってるんじゃ! だが処刑は行き過ぎにしてももっと別の形で処罰を……!」
「処罰……ねえ。大体アンジェリカさんにそんなこと言う資格あるんですか?」
「どういう、意味だ?」
「そもそもコイツは命令されてやらされただけですよ? クソ伯爵令嬢に。元を正せばアンジェリカさんが貴族のクソ女どもの手綱をしっかり握っていればこんなことにならなかったんじゃないんですか? ねぇ公爵令嬢様?」
「そ、それは……!」
「公爵令嬢としての責務も十分に果たせなかったアンタに責任どうとか言う資格があるんですか?」
その言葉にアンジェリカが反論の言葉が見つからないかの様に黙り込む。
実際には件の伯爵令嬢の様な横暴女子をのさばらせる事になった女尊男卑は国策にも絡んでおりアンジェリカが公爵令嬢とは言えどうにかなるものでもなかった。
だが、彼女はプライドの高さから言い訳染みた言葉を発せられなかった。
黙り込むアンジェリカを前にリオンは溜息をつく。
「もう、いいですか?」
そう言ってリオンはカーラの肩を抱きその場を後にしようとする。
「ま、待て! 話はまだ終わっていな――」
アンジェリカの言葉にリオンは振り向くと傍らのカーラの肩を更に抱き寄せその唇に自身の唇を重ねて見せつける。
その口づけを目の当たりにしたアンジェリカは驚きで目を見開き、直後目を逸らしてしまう。
リオンは黙り込み目を逸らすアンジェリカを一瞥するとその場を立ち去る。
その際アンジェリカの目に涙が滲んでたのに気付いたがそれに目を背ける様に。
気付いてしまえば気持ちが鈍るからと。
そうして気付かぬふりで立ち去るのだった。
リオンとカーラが立ち去った後アンジェリカはオリヴィアの手を引き立たせる。
オリヴィアの瞳からは未だとどまることなく涙が流れ続けてるが、何時までもここにへたり込んでるわけにはいかない。
アンジェリカは自身の頬も涙で濡らしながらもオリヴィアの肩を抱き歩きながら考える。
一体何がいけなかったのかと。
そして三人で共に笑い合って過ごした楽しかった日々がもう戻らないのかと思うと、悲しみで胸が張り裂けそうになるのだった。
「あの……申し訳ありません」
アンジェリカともオリヴィアとも十分離れたところまで来たところでカーラは口を開いた。
直後リオンは振り向き乱暴にカーラの襟を掴む。
「何謝ってんだ……!? 勘違いしてんじゃねぇぞ? すべては俺が俺自身の為にだけ行ったことだ」
リオンはカーラを睨みながら底冷えするような低い声を発する。
リオンはオリヴィアともアンジェリカとも距離を置くのが二人にとっても最良と信じて、その選択に後悔などなかった。
いや、後悔してはならないと思った。
だが頭ではそう思い込もうとしても心はささくれ気が立ち、その声には苛立ちが滲みだしていた。
その声と眼光にカーラは怯えながら答える。
「も、申し訳ありません……! その……男爵があまりにもお辛そうにされてたので……」
「……お前に、何が解る……? お前なんかに俺の辛さが分かってたまるか! 俺の……!」
だが言いかけて済んでのところで言葉を飲み込む。
リオンが発しようとして飲み込んだ言葉。それは
――俺の気持ちが、惚れた女を諦めるために、好きでもない女を抱いた俺の気持ちが分かってたまるか!
どんなに苛立っていても決して口にしてはいけない言葉がある。
口に出さなかったとは言えそんな言葉を危うく口にしそうになった自分に対しリオンは自己嫌悪に陥る。
「……た、確かに私は男爵が苦しまれてる本当の理由までは分かりません。ですが……とてもお辛そうなのは分かります……。だって男爵、泣くのを堪えてる様なそんなにも苦しそうな顔されてますから……」
怯えながらも口にしたカーラの言葉にリオンは思わず自分の顔に手を当てる。
「それと……あの、ありがとうございました」
「何のことだ?」
「私の事、庇って下さったこと……。伯爵令嬢の命令でやらされてたと仰ってくれたこと……」
「やめろ! 感謝なんかするな! あんなのあの二人を遠ざけるためだけの方便で……!」
「理由は分かりませんが男爵があのお二方を遠ざけようとされてるのは分かります……。その為の方便だったとしても……それでも嬉しかったんです……」
「違う! 俺はそんな感謝の言葉受け取る資格なんかないんだ! だから……そんな目で見るな!」
後ろめたいかの様に視線を逸らせるリオンの袖を引きカーラが声をかける。
「……部屋に戻りましょう」
リオンはカーラの言葉に応えるように黙って歩き出す。自身の部屋のある寮に向かって。
そしてカーラもまた黙ってついて行くのだった。
「男爵……お辛いのなら、すべて吐き出してください。苦しみも後悔も……」
二人が部屋に着くとカーラはリオンに向かい両手を広げそう言った。
瞬間リオンはカーラにしがみつくように抱き着くとその胸に顔を埋めタガが外れた様に堰を切って泣き出した。
「リビア! アンジェ! ゴメン! ゴメンよ……! うわああぁぁぁっっ……!!」
そして自分が傷つけてしまった嘗て何よりも大切にしたかったはずの二人の名を叫ぶ。それも以前呼んでた親しみの証であった愛称で。
そんなリオンをカーラは優しく抱きしめ背中をさする。それはまるで幼子をあやす母親の様で。
そうして暫くの間カーラに抱き着き泣き続けたのだった。
「あのお二人が大事なんですね……」
今、ひとしきり泣いたリオンはカーラに膝枕してもらっている形。
カーラの言葉にリオンはバツが悪そうに視線を背ける。
「仲直りされないのですか?」
「そいつは出来ない……。今更そんな……」
「あのお二人ならきっと許してくれると思いますよ?」
「そういう問題じゃねぇんだ。俺は……俺なんかが二人の側にいちゃいけないんだ……」
「訳をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
カーラの言葉にリオンは一瞬口を開きかけるも直ぐ口を噤みかぶりを振る。
「言っても分かんねぇよ」
「でも口にするだけで気持ちが軽くなることもあります。言えずに溜め続けること自体が辛いこともありますから……」
「それは、カーラお前自身の事もか?」
「そうですね。あの伯爵令嬢に無理やり付き従わされてた不満や辛さ……。誰にも打ち明けられなかったのは苦しかったです。だから、実は企みがバレて自白させられた時、少しスッキリしたんです」
そう言ってカーラは寂しそうな悲しそうな笑みを浮かべる。
「私は、本当に愚かでした。そうなる前にもっと早く誰かに打ち明けてればよかったのに……」
「そうだな。でもそれが無理だったってのも分かってたんだろ?」
「そうですね。言っても握りつぶされて、そしてあの女から報復を制裁を……」
言いながらカーラは震えだし言葉も途切れてしまう。
「悪い……辛いこと思い出させちまったな」
震えるカーラの頬にリオンは手を伸ばす。
「優しいんですね男爵は……」
「なっ……何言ってんだ! 優しい男が脅して婚姻結んだり、無りやり抱くかよ!」
「そうですね。正直最初は怖かったです。でもその後軟化された態度で接してくださって……十分優しかったですよ。それに……」
言いながらカーラはリオンの袖を捲る。そこには初めて躰を重ねたあの日、リオンに差し出され謂われるままに噛みつき刻んだ歯型の痕
「初めての痛みに耐えかねる私を見かねて腕を差し出してくださって、私だけが痛い思いしないようにって……。あの時は言えませんでしたけど改めて言わせてください。ありがとうございました」
カーラの言葉にリオンは視線を逸らす。
「男爵が私を愛してないことも、男爵が本当に大事に思ってるのはあのお二方なのも、それなのにあのお二方と距離を置こうとされてることも。そしてそれが原因で苦しまれてることも。何よりその理由がお二人にだけは絶対に話せない……」
その言葉にリオンは振り向き目を見張る。
「大切な、大事な相手だからこそ言えないこともあります……。でも、愛していない私になら話せますよね? 話してみてくれませんか? それで男爵のお心が軽くなるのなら」
リオンに向かって微笑むカーラ。だがその笑みは何処か寂しげでもあった。
その悲壮な微笑みにリオンは語り始める。
自分が転生者だと言う事。
この世界が前世でプレイしたゲームそのものだと言う事。
オリヴィアが【主人公】で用意された運命の恋人が居て自分なんかには手の届かない存在だと言う事。
そして何より、このことは口が裂けても本人たちには言えない事。
リオンが話してる間、カーラは真摯に耳を傾け、黙って聞き入っていた。
そして全て聞き終えたあとも全てを受け入れるかのような静かで真っ直ぐな視線をリオンに向けていた。
「……やっぱ信じられねぇか?」
「そうですね。ほかの方から聞いたら信じられなかったかも知れません。でもお話しされてる時の男爵の顔はとても真剣で苦しそうで……そんなお顔でお話しされてる話が嘘とは思えません」
「それは……!」
「はい……私は男爵の話を信じます。若し他の誰も信じなかったとしても私は、私だけは信じます」
バッドエンドに求めるのは?
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多少の手心、慈悲や救いは欲しい
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残酷で悲劇的でこそ本懐 手心無用