乙女ゲー世界はモブにもヒロインにも残酷で厳しい世界です BITTER END ROUTE 作:氷破 熾央漓(ひば しおり)
「はい……私は男爵の話を信じます。若し他の誰も信じなかったとしても私は、私だけは信じます」
カーラの返事にリオンは思わず目頭が熱くなり、それを隠す様に目元を片手で覆い顔を背ける。
リオンは前世の話はオリヴィアにもアンジェリカにも話せなかった。
話して信じて貰えなかったらそこに埋めようもない溝を作ってしまうであろうことが恐ろしくて話せなかった。
カーラに話したのは所詮形だけの婚約者だから。たとえ信じて貰えなくても一向に構わないと思ってたから。
だがカーラからの信じるという言葉にリオンは胸を熱くせずにいられなかった。
「なんで……なんで信じられるんだよ……! こんな……こんな酷い男の事を……!」
信じてもらうつもりなんか無かった筈だった。
なのに信じると言う返事を貰えた時、心の底で喜んでる自分が居た。
それは、信じて欲しいと思って話したのだと言う事に気づいてしまった事。
「男爵……本当に酷い人はそんな風に苦しんだりしません……。それに、ずっと話せなかった思いを意を決して話したのに、それを信じて貰えなかったらそれがどんなに辛いか分かりますから……」
言われてリオンは思い出す。空賊先遣隊を降しそしてカーラがオフリーの令嬢に命令されてやらされたとを自白した時の事。
あのとき果たしてどれだけその言葉を信じてやれたのだろうか。
身分を笠に着た上位貴族に無理矢理従わされる辛さは身に染みていた筈だった。父の本妻から妾の子と虐げられてきたリオン自身が誰よりも。他の誰に理解できずとも自分だけは解ってあげなければいけなかった筈なのに。
全てを話して尚それでもオフリーや空賊の一味のように扱われたカーラがどれだけ辛かったであろうか。
そして思い出されるのは自白を詰め寄るべくリオン自身が発した言葉。
――こっちも遊びじゃねぇんだよ
この空賊討伐を前世知識で知ってたリオンはプレイしたゲームイベントの再現程度にしか思っていなかった。
加えて自身が所有するロストアイテムの超越的力を以てすれば、人々に怖れられる空賊だろうと容易く討ち取れることも。そして実際その通りだったことも。
それに対しカーラは家族を人質に取られてるも同然の状況で意に添わぬ空賊の手引きをやらされ、しかもそれが失敗に終わり恐怖で押し潰されそうになってたのでは。
リオンは自分の方こそイベント――遊び気分で臨んでいたのではないのか。
「ゴメン……」
リオンの口から思わず零れる謝罪の言葉。
その言葉にカーラは気にしないで欲しいと言うかの様に首を振り優しい眼差しを向ける。
「でも……俺はこの世界の異物で存在しちゃいけないイレギュラーで……」
「でしたら、私は咎人ですから共犯者にしてください。イレギュラーと咎人でならお似合いで釣り合うかもしれませんね」
「お前……おかしなこと言う奴だな」
そう言ってリオンは呆れ交じりの苦笑を浮かべる。だがその顔は何処かすっきりとした憑き物が落ちた様にも見える笑顔。
そんなリオンの笑顔にカーラも笑顔で返す。
そしてどちらともなくお互い顔を近づけ唇を重ねる。
それはついばむ様にそっと触れて重ねるささやかなキス。
だが今までで一番心が通い合った優しいキス。
「その……今更なんだが……ゴメン。お前にとって初めてだったのに……無理やりひどい抱き方しちまって……」
リオンの謝罪にカーラは一瞬瞠目し、そして微笑を浮かべる。それは嬉しさとほんの少しの呆れも含んだそんな微笑み。
「本当今更ですね……。でも、その心遣い嬉しいです。それにさっきも言いましたが痛くて怖いだけじゃありませんでしたから」
言いながらリオンの腕の傷跡を愛おし気に撫でる。
「悪りぃ……。それで、その……本当今更なんだがあの日のやり直しがしたい。出来るだけ優しくするから……いや、違うな。やり直しなんて物言い傲慢だよな……。あんな酷い抱き方されたのに、また抱かれたいなんて思える訳ないよな。カーラ、お前が望むなら今後お前に指一本触れたり――」
言いかけたリオンの言葉を遮る様にカーラの唇が重ねられる。
「今まで何度もしてるんですからそんな今更おことわり入れなくてもいいですよ……。今度は優しく抱いてくれるんですよね?」
「ああ、勿論だ。なるべく優しく、心を込めて……」
リオンの言葉にカーラは優しい微笑みで返す。
「どうぞ、私の身も心も男爵のものですから……」
そして二人は躰を重ねる。
カーラの躰を愛撫するリオンの掌も唇も舌も、どれもが優しく温かだった。
とてもとても丁寧で丹念で、それは初めての荒々しく乱暴だったそれとは同じ人物によるものとは思えないほど。
リオンに抱かれながら、優しい愛撫にカーラの目から涙が溢れる。
「カーラ!? 未だ怖かったか!? それとも痛かったか!?」
カーラの涙にリオンは戸惑いの声を発すると、カーラは涙を浮かべたまま微笑み静かに首を振る。
「違うんです男爵。コレは嬉し涙です。男爵の手が優しくて温かで……それがとても心地よくて幸せで……」
今までもリオンに抱かれるたびその瞳から涙が伝う事は度々あった。恐怖、怯え、痛み……。
だが、今流れる涙はそのどれとも違った。
今カーラの心を満たしているのはそのどれとも違う喜びや嬉しさ温かさであった。
そんな満ち足りたカーラの微笑みにリオンの胸も優しく暖かな気持ちで満たされていく。
「そうか……。じゃあこのまま続けて良いんだな?」
リオンの問いにカーラは柔らかな微笑みをたたえ静かに頷く。
その微笑みに応えるようにリオンも微笑み返すと優しく唇を重ね、再び愛撫を続ける。
リオンの愛撫により汗ばみ艶かしく血色を帯びる肌。あの時の様に媚薬は用いられていない。だがその肌はその時より遥かに艶やかに上気していた。
心が通じあい、心の込もった愛撫の前に最早媚薬など不要だった。
「……もう、挿れてもイイか……?」
「はい……。私の方はいつでも迎え入れる準備は整っています……」
こらえ切れない様に、だが気遣うように切な気に語りかけたリオン。それに対しカーラは全てを包み込むような微笑みで答えた。
ゆっくりと気遣うようにリオンの分身が挿入される。
そしてそれに合わせるようにカーラの口から漏れる声。
それは満ち足りた艶めいた声。
始めての時のような悲痛な叫びではない柔らかで甘い嬌声。
「……カーラ」
「はい、男爵……」
カーラに挿入したリオンはゆっくりと動き始め、そしてそれは徐々に速度を増していく。
だが、決して自分本意な独りよがりな動きではない。
カーラの声に、鼓動に、表情に、その全てに意識を傾けながらそれらに合わせられていた。
リオンに抱かれながらカーラの胸の内はこの上ない程の喜びに満たされていく。
やがて一つに繋がった二人の交わりは頂点を迎える。
リオンとの交わりに気持ちが満たされるのを噛み締めるカーラ。
その一方で理解している。どんなに優しく扱われても決してそこに愛は無い。愛を望んではならない。リオンが真に愛してるのは自分ではないことを理解しているから。
それでも、たとえそこに愛は無くとも嬉しかった。
今まで触れたことのない向けられたことのない優しさが嬉しかった。
そんな優しさをもって抱いてくれてる相手を、躰を重ねてる相手を――リオンを支えたいと思った。
リオンが本当に大事に思ってるのが自分でなくとも、それでもリオンに尽くしたいと思うのだった。
「なぁ、大丈夫か? 痛く、なかったか?」
「はい。大丈夫です。とても、心地良くて、とっても幸せ……でした」
「そうか……」
リオンはその胸に抱いたカーラの髪を優しく撫でる。
「あと……今回は終わった後も一緒にいてくれるんですね」
その言葉にリオンは気まずそうな顔を浮かべ「……悪かった」と呟く。
リオンは初めてカーラを抱いて以来何度も躰を重ねてたが、その度に事が済むと早々に部屋を後にしていた。
形だけの婚約に必要以上に情を移したくなかったから。
「いえ、責めてるんじゃないんです。確かに今までは事が済むと部屋を出て行かれて寂しかったです。でも、今回は一緒にいてくださって嬉しい……です。ありがとうございます」
カーラの言葉に応えるようにリオンは優しく唇を重ねる。そして気恥ずかしそうに口を開く。
「その……俺も心地良くて気持ち良かった。今までだって気持ち良くないわけじゃ無かったよ。でもな、正直言うと後味が悪かったんだ……」
言いながらリオンは気まずそうな表情に。
その表情にカーラは「スミマセン」と零す。
「いや、謝らないでくれ。謝らなきゃいけないのは俺の方で。お前を傷付ける様な酷い抱き方しちまって、それで勝手に気まずい思いして。でも今回、カーラの安らいだ表情見て、それでやっと気付くなんて。遅くて鈍過ぎるよな……」
リオンの言葉にカーラは微笑みを浮かべながらゆっくり首を振る。
「そんな事無いです。遅くなんてないです。今こうして気付いていただけて、男爵にも心地良いと感じていただけて、それで私も十分嬉しいです」
「カーラ……」
リオンはカーラの想いに応えるように優しく抱きしめる。
思えば歪な婚約だった。心の伴わない形ばかりの婚約。
それはカーラの心を、そしてリオン自身の心をも蝕み苛み縛りつける結果になったが、そこからは目を背けていた。
だが背けていた目をカーラに向け彼女の心を知った。
知ってしまえばもう無下になど出来なかった。
それはカーラの、そしてリオンに絡み付き蝕んでいた苦しみから解き放つに至った。
そして想う。
この手に抱かれた少女を。
自分の苦しみを受け止めてくれた彼女を。
カーラを大切にしてあげたいと強く想うのだった。
あの日の諍いでリオンとオリヴィアの仲は修復困難なほど亀裂が深まったかのよう。
その事にリオンの心が痛まないわけではない。だがその一方でその事実を受け入れつつあった。
コレで良かったのだと。袂を分かつと決めた以上は未練は捨てるべきだと。
もうこの先関わる事も無いだろうと。
だが、疎遠になったとはいえ同じ学び舎で学ぶ間柄。何かの拍子に顔を合わせる事から完全に避けることは不可能。
その日も中庭で出くわしてしまう。カーラと連れ立って歩くリオンと、アンジェリカと連れ立って歩くオリヴィアと。
そして気まずそうにリオンは視線を逸らしそのまますれ違おうとする。
視線を合わさないまま、すれ違う二人。だがすれ違い様オリヴィアが発した言葉がリオンの耳に届く。
「■つき……」
次回、オリヴィアのターンで、再び修羅場です
オリヴィアの神髄
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ヤンデレ、抱えた闇こそ真骨頂
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正統派ヒロインこそ本領