乙女ゲー世界はモブにもヒロインにも残酷で厳しい世界です BITTER END ROUTE 作:氷破 熾央漓(ひば しおり)
「嘘つき……」
それは中庭でオリヴィアと顔を会わせてしまったものの、気まずさから黙ってすれ違うつもりだったリオンの耳に届いた言葉。
その言葉にリオンは何のことだと言いたげに思わす振り向いてしまう。
「嘘つきって言ったんですよ! リオンさん、結婚に愛なんて求めないって言ってましたよね!?」
「お、おい。リビア……」
「アンジェは黙っててください!」
凄まじい剣幕でリオン達に掴みかからん勢いのオリヴィアをアンジェリカは宥めようとしたが、オリヴィアの声に黙り込み伸ばそうとした手も引っ込めてしまう。
「愛してないんだったら何でその人の事そんな大事そうに接してるんですか!?」
オリヴィアの言葉にリオンは返す言葉が見つからなかった。
あの日、リオンが心の内をカーラに吐露した日。あの日以来リオンとカーラの間の心の距離は狭まっていた。それは目に見える形での接し方にも表れてた。
リオンがカーラに接する態度も向ける眼差しもとても優しかった。それはとてもそこに愛が無いなどとは思えないほどに。
リオンから優しい眼差しを向けられるカーラ。
かつてオリヴィアに注がれていた優しい眼差し。
それを今独占しているカーラに対し嫉妬の心が湧きたつのをオリヴィアは押さえられなかった。
「ああ、そう言えば抱いたって言ってましたね。愛じゃないのなら体ですか? 女が抱きたかったんですか? 責任を理由に抱かせてくれる女だったから大事にしてるんですか? だったら言ってくれれば私の体を好きにさせてあげたのに」
言いながらオリヴィアは首元のリボンを解き上着のボタンを外し、ブラウザはボタンを外すことなく乱暴に開くと止めてたボタンが千切れ飛ぶ。
そして覗かせる豊満な双丘が形作る谷間。ブラウスの隙間からはブラジャーの端も垣間見える。
「どうぞ? 触りたければ揉みたければ好きにしていいですよ? きっとその女の貧相な体なんかよりも抱き心地は良いですよ?」
オリヴィアは自分の双丘を揉みしだきながら挑発的な煽情的な眼差しをリオンに向ける。
「私、アンジェみたいに綺麗じゃありませんよ……」
それはオリヴィアが時に心の内で、時に直接口に出してた言葉。
オリヴィアとて自身の容姿に自信がないわけでは無い。だが身近な親友のアンジェリカの公爵令嬢としての気高さ美しさに気後れしてたのも事実。
「でもね、そこのそんな女にだったら負けない程度の自信は有りますよ?」
その一方でアンジェリカ以外の女性になら負けないと言う程度の自尊心もあった。
オリヴィアの濁った眼差しにリオンは驚きと、そして悲しみにほんの少しの怒りも入り混じった顔を見せる。
「……そこまで言うのなら言ってやるよ。それはオリヴィアさんにとって聞きたくない言葉だと思うぞ?」
リオンは先ほどオリヴィアに言われた"嘘つき"と言う言葉を心の中で反芻し自問する。
自分はカーラの事を愛してるのか?と。
心の中で思い返す。カーラを娶ると決めて抱いたあの日から今日までの事。
初めは愛など無い関係のつもりだった。オリヴィアに諦めさせるためだけの形ばかりの婚約者。
だが彼女がこれまで歩んできた辛い人生に同情せずにいられなかった。
加えて前世の告白を信じて貰えた嬉しさ。
いつしかその気持ちは同情だけではなくなっていた。
躰を重ねるうちにその心までも通じ合っていた。
そして気付く。自分の心に芽生えた気持ちに。
その想いを乗せて口を開く。
「さっき、俺の事、嘘つきって言ったな? そう……かもしれねぇな。俺はカーラのことを――」
「いけません男爵! それ以上仰っては!」
リオンの言葉を遮ったのは他の誰あろうカーラであった。
カーラもまたリオンの優しさに心惹かれつつあった。
故にその言葉はカーラにとって何よりも欲してた言葉。
だが自身を咎人と責める彼女はそれを望むを良しとしなかった。
聞いてしまえば後には引けない。
聞きたくて、でも聞いてはいけない言葉。
「私には……その言葉をいただく資格はありません……。咎人の私には……」
言いながらカーラは両膝を着き両手を胸の前で組み、首を垂れる。
それはまるで首を差し出す罪人の様な謝罪の意を表した姿勢。
「私は……オリヴィアさんに酷いことをしました。本当に……申し訳ありませんでした。私は……学園を去ります」
「カーラ!」
「バルトファルト男爵……今まで、ありがとうございました。わずか数日でしたが貴方と過ごせた日々は幸せでした。でも……それが間違いだったんです。咎人の私が幸せを感じてはいけなかったんです。感じてしまった以上もうここに居る資格はありません」
「ま、待つんだカーラ……!」
膝を着くカーラの、学園を去るという言葉にリオンは片膝を着き身を寄せる。
「さようならバルトファルト男爵……。貴方がくれた温もりを胸にこれからも生きていけます」
そしてカーラは肩が触れるほど身を寄せてきていたリオンにだけ聞こえる小さな声で告げる。
「……貴方の真実は二人きりの秘密として墓場までもっていきます……」
カーラの言葉にリオンは胸の奥から熱いものが込み上げてくるのを感じ彼女のその腕を掴む。
「行くな! 行かないでくれカーラ! 俺は……俺の秘密を共有してくれた女を見放したりしない! 俺の共犯者になってくれると言ってくれた女の手を離したりしない! 退学なんかしないでくれ!」
「リオンさん!? 何を言ってるんですか!? 責任取って学園を去ると言うのならさせてあげればいいじゃないですか! そもそも私達を罠に嵌めた人がリオンさんと婚約なんてのが間違ってたんです! リオンさんは責任取らせるって言ってましたが、リオンさんに大事にされる事の何処が責任取らされる処罰なんですか! そうですよ責任と言うのなら学園を去る方がよっぽど責任の取り方の理に適ってます! それに秘密!? 共犯者!? 一体どういう事なんですか!?」
リオンの言葉に声を荒げたのは、それまで黙って話を聞いてたオリヴィア。
そんなオリヴィアの顔をリオンは静かに見つめ返す。そして未だ両膝を着いたままのカーラの隣で並ぶようにもう片方の膝を着き両膝を着く。
「オリヴィアさん。カーラの、婚約者の不始末は俺の不始末だ。俺からも頭を下げる。だからカーラを許してやってくれ」
言ってリオンは両膝を着いたまま頭を地面に付きそうな程深く下げる。
「止めてくださいリオンさん! そんな女なんかの為に頭を下げないでください! 何より、リオンさんは私と同じこちら側でしょ!? 同じく其の女に騙され嵌められた側でしょ!?」
「それは少し違う。俺は空賊【イベント】を事前に知ってた。だから正確には騙されたわけでも嵌められたわけでもない」
「バルトファルト男爵!? その事は――」
カーラが驚きの声を上げたのは、リオンが二人には話せないと言ってた前世の事を話そうとしてると察したから。
リオンはそんなカーラを手をかざし押しとどめる。
カーラがリオンのその横顔を見ればそこには決意が見て取れ、その意に従うべく口を噤む。
オリヴィアはカーラに対する苛立ちや嫉妬を滲ませながらもリオンの態度に戸惑いを感じる。
「オリヴィアさん、俺はずっと隠してきたことがある。それは俺には前世の記憶がある。そしてその前世でプレイしたゲーム――アンタに分かりやすく言い換えるのなら絵物語や戯曲みたいなものの話でこの世界の事を知ってた。当然アンタのことも」
「リ、リオンさん……? 一体何を言って……ふ、ふざけてるんですか!?」
オリヴィアはリオンの言ってることが分からないとばかりに戸惑いを露にする。だがリオンはそんな事お構いもなしに話し続ける。
そして一通り話し終わってオリヴィアを見詰める。
「バ、バカにしてるんですか!? そんな荒唐無稽な話信じろとでも言うんですか!? そんなバカげた話が私と一緒にいられない理由ですって!?」
「信じて貰えないか?」
言いながらリオンはオリヴィアと、そしてアンジェリカにも視線を向けると彼女の顔もまたリオンの話を信じられず戸惑ってるようであった。
オリヴィアの返事とアンジェリカの表情に自身の言葉が受け入れられなかったのを理解する。
「当たり前です! そんな――」
「カーラは信じてくれたよ」
遮るように発せられたリオンの言葉に、オリヴィアは思わず自分の口に手を当てて気付く。
自分の失言を。
「ち、違うんですリオンさん! 突拍子もない話に驚いてしまっただけなんです! 信じます! 信じますから! だから――」
オリヴィアは必死で弁明する。
そんなオリヴィアに向かいリオンは微笑みで返してくれたので安堵しかけるも直後気付く。
その微笑みはとても悲しげで寂しげで……そして失望の色までも浮かんで見えたようだったから。
「いいんだよオリヴィアさん。無理して信じる振りなんてしてくれなくて。俺が悪かったんだ。カーラが信じてくれたからアンタにも信じて貰えるかもなんて思ってしまった俺が」
「リ、リオンさん! は、話を! お願いですから話を……!」
必死で取り繕おうとするオリヴィア。だがリオンの瞳に浮かぶ色は先ほど同様、寂しさ悲しさ失望だけ。
「でもお陰で踏ん切りがついたよ。俺は、俺を信じてくれる女と――カーラと共に行くよ」
言いながらリオンは立ち上がり傍らのカーラの手を引き立たせる。
リオンの言葉にオリヴィアは取り返しのつかない過ちを犯してしまったと絶望感に包まれていく。
「リ、リオンさん! 私は――」
「サヨナラ、オリヴィアさん」
リオンから突き付けられた別離の言葉。言い放った表情はむしろ穏やかで、口にした声にも先日の様な冷たさはなかった。
だがその穏やかさに優しい口調に逆にリオンの気持ちが揺るぎないものであると理解してしまう。
取り繕う隙間もない絶望感を感じてしまったオリヴィアはそのまま膝を着く。
「行こう、カーラ……」
リオンはカーラの肩を抱き歩き始める。そしてアンジェリカと目が合うと軽く会釈する。冷たい態度ではない。だが他人行儀な距離を感じさせる仕草。
そうしてリオンとカーラは二人の元を立ち去るのだった。
二人から十分に距離が離れた後、リオンが口を開く。
「カーラ……その、出来ればオリヴィアさんを恨まないでくれ……。本当は優しい子なんだ。あんな子じゃないんだ。あんな責め立てる様なこと言うような子じゃ……」
リオンは申し訳なさそうにカーラの肩を抱き寄せながら言葉を告げる。
カーラはその手に自分の手を添わす。
「大丈夫です。気にしてませんから……。悪いのは、私ですから……恨まれて当然ですから」
「カーラ! でもそれはオフリーの……!」
「いいんです。男爵さえ分かっていただけるのなら……私にはそれで十分ですから」
「そうか……」
言いながらリオンは優しくカーラを抱きしめる。
(俺さえ……か。そういう意味じゃ俺も一緒かもな。俺も前世の話、結局あの二人に信じて貰えなかったけど、でもカーラに信じるって言って貰えて……。俺も、カーラにさえ信じて貰えればそれで十分さ)
次回修学旅行&公国軍襲来
そして――
オリヴィアの神髄
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ヤンデレ、抱えた闇こそ真骨頂
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正統派ヒロインこそ本領