乙女ゲー世界はモブにもヒロインにも残酷で厳しい世界です BITTER END ROUTE 作:氷破 熾央漓(ひば しおり)
最早完全に修復不可能にまで落ちいったかのように見えるリオンとオリヴィア。そんな状態で数日が経過し、学園行事の一つ修学旅行が始まる。
旅行先はランダムに割り振られるのだが、運命の悪戯かリオン、カーラ、オリヴィア、アンジェリカの四人は同じ旅行先へと割り振られてしまった。
その旅行先で事件が起きてしまう。
リオン達が住む王国と因縁深く過去には戦火を交えた公国の艦隊が、リオン達修学旅行中の生徒たちが乗る船を襲撃してきたのだ。
それも構成してるのは軍艦だけではない。数多のモンスターまでも多数引き連れて。
そして公国王女の名の下に告げられた勧告。
貴族の子弟たちは人質としては格好の的だったのだろう。
公国の王女と聞きリオンの前世の記憶が呼び覚まされる。それは公国の王女が魔笛の力でモンスターを召喚し操っていた設定。
リオンは怯えるカーラの肩を抱きよせ「大丈夫だ」と優しく語り掛ける。
そしてルクシオンに問いかける。
「パルトナーとお前の本体呼び寄せられるか?」
『既に此方に向かわせてます。ですが時間が掛かります』
「どれくらいだ?」
『三時間ほどかかるかと』
リオンは先ほど公国艦隊から告げられた言葉を思い出す。一時間後に攻撃を開始するからそれまでに身の振り方を決めろと言うものだった。
到着を待っていては攻撃が始まってしまう。
そうこう話してる内に公国の使者がやってくる。
自分の優位を笠に着た嫌味で横柄な態度で、無駄に立派な髭を湛えた男だった。
表情も目つきも言動もいかにも小狡そうなその男に、リオンはむしろ好機と捉える。
だがリオンの思惑と裏腹に近づく人影が。アンジェリカだった。隣にはオリヴィアも居る。
正義感の強く曲がったことが嫌いな彼女は率先して足を踏み出したのだろう。
だが下手に動かれては目論見が崩れるとリオンが立ちはだかる。
「どうするんですかアンジェリカさん」
「退けリオン。私が交渉する。いざとなればこの身を人質に他の生徒たちの助命を――」
「やれ、ルクシオン」
リオンはアンジェリカの言葉を遮るようにルクシオンに命令を下す。
リオンの命を受けルクシオンから小さな針が発射されアンジェリカに刺さる。
「リオン……一体何を……」
「アンジェ!?」
言いながら崩れ落ちるアンジェリカをオリヴィアが慌てて抱きとめる。
「……ただの麻酔です。暫く眠っててください……」
すでに意識を失ってるアンジェリカに向かい誰にも聞こえないほどの小声でリオンは囁きかけた。
「アンジェ!? どうしたんですか!? リオンさん一体何を!?」
「どうやら大分お疲れのようだねアンジェリカさんは。オリヴィアさん、部屋まで連れて行って差し上げたら? 一人じゃ無理なら誰か呼ぼうか?」
「要りません!」
オリヴィアが拒絶の声を上げたのは、彼女が知る以前のリオンなら誰かなどと言わず自分が手を貸してくれてた筈との思いがあったから。
だから思わず声を荒げてしまった。
そしてオリヴィアはアンジェリカをその背に負いそのまま船内へと消えて行った。おそらくアンジェリカの部屋へ向かったのだろう。
オリヴィアにアンジェリカを任せるとリオンは公国の使者に向け歩み寄る。
使者として降り立ったその男は公国の伯爵を名乗っていた。
この公国の艦隊の総指揮官は公国第一王女だったが、実際の指揮権を任されてるのは目の前の男の様であった。
リオンは男に向かい媚びた機嫌を伺う様な笑みを浮かべながら革袋を手渡す。
男は革袋の重さに目を見開き、袋の口を僅かに開けその中身が予想通りであったことに笑みを零す。
リオンもまたその仕草に笑みを返す。その笑みは公国の伯爵にとって媚び諂うものに見えただろう。
だがリオンにとってその笑みの真意はしてやったりと言ったもの。
見るからに上等な衣服に整えられたボリュームある髭をこれ見よがしに撫でて見せる姿はいかにも成金守銭奴といった印象。
金にがめつい男であれば懐柔は容易いと踏んでいたが予想通り。
そして交渉に入る。一時間ではあまりに短すぎるのでせめて三時間猶予が欲しいと告げる。
時間に余裕を持たせるだけでこれだけの金子が手に入るのなら儲けものとばかりに伯爵は快諾する。
部下らしき男は、王女様の指示も仰がず勝手な事をされては困りますと抗議を上げたが、伯爵は現場からでないと分からない高度な政治的判断などとうそぶいて見せる。
そんな公国の伯爵とその部下を遠巻きに眺めながらリオンは安堵し、心の中で嘲笑う。だが直後気を引き締める。
気が変わってやはり一時間後などと言われては堪ったものではない。そして待つ。パルトナーとルクシオン本体の到着を。
一時間……二時間……そして約束の三時間が経過した。
公国の伯爵は時間になったと告げあらためて降伏か死かと投げかける。
次の瞬間公国の軍艦の一隻が爆炎を上げ高度を落としていく。
その様子にリオンは呟きを漏らす。
「間に合ったようだな……」
反対に伯爵はじめとした公国軍は驚き慌てふためいている。
そうこうしてる間にも次々と砲撃を受け公国の軍艦は航行不能に陥ってくる。
時間通り到着したパルトナーによる砲撃を受け瞬く間に次々と爆炎を上げ公国の艦隊は航行不能に陥っていき残すは公国の王女が乗る旗艦のみ。
その旗艦もパルトナーの砲の照準をぴたりと合わせられ行動を封じられてる。
モンスターは未だ残っているがそれを操る魔笛を持つ王女の旗艦を押さえてる今勝利は確定したようなもの。
その状況に安堵し油断したリオンの隙を突くように公国の伯爵が拳銃のようなものを懐から取り出し上空に発砲した。
打ち上げられたそれはまるで信号弾の様でその音と光に導かれるように新たなモンスター達が現れ襲い掛かってきた。
伯爵が打ち上げたそれは、魔笛の研究の過程で生み出された魔物を呼び寄せる道具。だが呼び出すだけで制御も効かない未完成品。故に呼び出されたモンスター達は現れるや否や無秩序に暴れ始め、その牙は公国の軍艦にも王国の船にも向けられる。
敗戦の責を負わされるぐらいならと共倒れを狙った伯爵の暴挙だった。
暴れ回り襲い来るモンスターの群れに船の生徒達はパニックに陥る。
パルトナーの砲では駆逐しようにも威力が大きすぎて乗ってる船ごと破壊しかねない。
ルクシオンにドローンや戦闘用ロボットの出撃を要請する。到着までに何としても凌がねばならない。
リオンは、怯え震えるカーラを安心させるように抱きしめ周りに目を配る。
麻酔により眠らせたアンジェリカは未だ部屋で眠っておりこの場に居なかったのは不幸中の幸いかもしれない。
オリヴィアも見当たらないが恐らくアンジェリカに付き添っているのだろう。
二人とも船内の部屋に居るのなら安全だろう。
周囲の他の生徒達に気を掛けながらも、あとはその腕に抱くカーラを護り切ろう。
そう思った時だった
「助けてリオンさん!!!」
それはオリヴィアの声だった。何故彼女がここに? アンジェリカと共に船室に居る筈では? そんな疑問を抱く間もなく、瞬間頭が真っ白になる。心の中はオリヴィアを気遣う気持ちだけで塗り潰され――
「リビア!!!」
気が付けばリオンはオリヴィアの下へ駆けだし駆けつけ群がるモンスターから彼女を護っていた。
直後我に返る。自分がもう二度と呼ぶまいと思ってた愛称【リビア】を何故口にした。
更に気付く。カーラを置いて駆けつけたという事実に愕然とする。
カーラの安否を確認するべく視界を巡らせたリオンの耳に彼女の悲鳴が飛び込んでくる。
声のした方に目をやればそこにはモンスターに首筋と手首に噛みつかれたカーラの姿。
「カーラ!!!!!」
リオンは血相変えて駆けつける。
噛みついていたモンスターの一体は向かってくるリオンを驚異と断じカーラから口を放し、牙の並んだ大口をリオンに向け襲い掛かる。リオンは懐から拳銃を抜き放つと握りしめた手ごとモンスターの口に捩じ込み撃ち放った。
口腔内から撃たれ絶命するモンスター。その様子にもう一体のモンスターはリオンに恐れ戦く様に逃げ出す。
リオンは逃げ出したモンスターには目もくれずカーラの下に駆け寄り崩れ落ちる彼女を抱き止める。
「カーラ!!」
彼女がモンスターに負わされた傷は深刻なものだった。
頸動脈を噛み裂かれ手首を喰い千切られ夥しい血を溢れさせていた。
リオンは手首を強く縛り首筋も押さえるも血は止まらない。
「ああ……! そ、そんな……カーラ! いやだ! 死なないでくれ!」
重傷を負ったカーラを前にリオンは助けを求めるように視線を彷徨わせるとオリヴィアと目が合う。
「オリ……リビア! 助けてくれ! カーラが……!」
縋るようなリオンの声にオリヴィアはすぐさま駆けつけ回復魔法をかける。オリヴィアが優れた回復魔法の使い手であることを知ってるリオンはこれで助かると安堵する。だが――
「ごめんなさい……私の魔法じゃ助けられません……」
「なっ!? 何を言ってるんだ!?」
「手首と頸動脈! 両方同時には治せないんです! それに失われた血まではどうにもならないんです! 幾ら回復魔法でも!」
オリヴィアの言葉にリオンの顔が絶望に染まる。両の眼から涙が溢れる。
「だから……せめてお別れの言葉をかけてあげてください……」
助からないと言いつつもオリヴィアは回復魔法をかけるのを止めない。それはせめて別れの言葉を交わす時間だけでも作ろうとしてだろうか。
カーラの残った方の手を握り、頬に触れながら、リオンは涙で頬を濡らし咽び泣きながら最後の言葉を紡ぐ。
「カーラ……愛してる。誰よりも……。だから俺の名前を……」
今までカーラは貴族の決まり事、身分が上の相手には家名か爵位で呼ぶという慣例を守り続けていた。
リオンは婚約者という間柄から名前で呼ばれるのを望んでいたが、カーラは自身の負い目などにもよるところもあり呼べずにいた。
自分にはリオンを名前で呼ぶ資格は無いと思ってたのだろう。
それに対しリオンは無理強いすることなく何時か自然に呼んでくれる日を待つつもりだった。
そして今それを悔いていた。
リオンに答えようとカーラは血で咽びながら口を開く。
「私……も、愛して……ます。リ……ォ……」
最後のカーラの唇の動きは【リオン】と紡ぐように動いた。だが声を発する力は残っておらず、そのまま事切れる。
「カーラァーーーッ!!!!!」
リオンは泣き叫ぶ。カーラの亡骸を抱きしめ、目から涙を溢れさせ咽が張り裂けんばかりに声を上げる。
悲しみに押し潰されそうなリオンの姿を目の当たりにしながらオリヴィアも涙を流していた。
「リオンさん……。あの……」
「リビア……。カーラとの……別れの、時間作ってくれて、ありが……とう。でも、ゴメン……今は、誰とも話したくないんだ……」
リオンはカーラの亡骸を抱きあげると自身の船室へと歩き出す。
それは、カーラと二人きりになるため。そしてこの場に居続けるとオリヴィアに酷い事を言ってしまいそうだったから。
――オリヴィアを助けようとしなければカーラが死ぬことは無かったんじゃないか。
――オリヴィアの回復魔法がもっと強力なら助けられたんじゃないのか。
そんな事を言ってしまえばオリヴィアの善意を、何よりカーラの死をも汚す様で言いたくなかった。
去り行くリオンを黙って見送るオリヴィア。
周囲では到着したルクシオンの手によるドローンやロボットたちによりモンスターの掃討が始まっていた。
次回、エピローグ
オリヴィアの神髄
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ヤンデレ、抱えた闇こそ真骨頂
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正統派ヒロインこそ本領