五月中旬。
連休中の浮ついた空気は完全に消え去り、二年B組の教室も、朝からどこかピリピリとした、特有の緊張感に包まれている。
「……なぁ
休み時間。
僕が自分の席で参考書を眺めながら、シャープペンシルを無意識に回していると、友人の
彼の机の上には、赤点が確定しそうな絶望的な空欄だらけのプリントが散乱している。
彼が連休中、どこで何をしていたのかは知らないが、少なくとも机に向かってカリカリと勉強していたわけではないことだけは確かだ。
「いいけど、
「バカ言え。あいつの周り見てみろよ。女子のガードが固すぎて、俺ら男子が近づける隙なんて一ミリもねえよ。うかつに声かけたら、親衛隊の女子たちに八つ裂きにされちまう」
彼女の周りだけ、ピリピリとしたテスト前の重圧とは無縁の、ふんわりとした薔薇色の空気が漂っているようにすら見える。
「
クラス委員長である
「ここはね、
「あっ……! 本当ですわ! さすが
「そんなことないよ。
「もったいないお言葉ですわ……それにしても、連休明けで皆様お疲れの様子なのに、
「ふふ、ありがとう
窓から吹き込む初夏の風が、
その姿は、一幅の絵画のように完成されていた。
「すげえよな、あいつ。マジで完璧超人だぜ。顔が良くて、運動神経抜群で、頭も良くて……おまけに子猫の世話までしてるなんてよ。俺らみたいな凡人とは住む世界が違うわ。なんで同じクラスにいるのか不思議なくらいだぜ」
「そうだな」
僕は、無表情のまま相槌を打ち、視線を自分の参考書へと戻した。
……可愛い子猫、ね。
連休中、彼女はどこにも行っていない。
親戚の家になんて行っていない。
ずっと僕の部屋で、服を全て没収され、首輪だけをつけられて、四つん這いでよだれを垂らしながら僕のおちんぽを求めて泣き叫んでいたのだ。
ふと、顔を上げた
彼女の瞳が、ほんの一瞬だけ、本当に一瞬だけ、子犬。
──いや、飼い主にすがりつく『雌猫』のように熱く濡れた色を帯びて僕を見た。
しかし、彼女はすぐにスッと視線を外し、再び
……無理してるな。
僕は静かにシャーペンを回しながら、彼女の僅かな異変を的確に見抜いていた。
GWの連休中、心身ともに完全に僕に従属し、快楽の海に溺れきっていた彼女。
そこから突然、学校という「他人の目」がある空間に引き戻され、しかもテスト前という重圧の中で『王子様』を演じ続けなければならない。
僕に数日間触れられていないという身体的な飢餓感と、期待に応え続けなければならない精神的なプレッシャー。
彼女の爽やかな笑顔の裏側で、その二つの感情がギリギリのバランスで鬩ぎ合っているのが、手に取るようにわかった。
「……
「えっ? ああ、ごめん。ちょっと考え事をしてた。ほら、ノート、ちゃんと写せよ」
「おっ、サンキュー! これで赤点は回避できるぜ!」
僕は再び窓際の『王子様』へと視線を向けた。
彼女の限界が来るのは、今日か、明日か。
どちらにせよ、僕が手を下すまでもなく、彼女は自分から僕の用意した檻へと転がり込んでくるはずだ。