「お待たせいたしましたわ。……あら?」
その直後。
書架の向こう側から、分厚い参考書を何冊か抱えた
少し遅れて、「ぷはぁー、生き返ったぜ!」と缶ジュースを片手にした
そして、顔に浮かんでいた『発情した雌猫』の熱を完璧に消し去り、いつもの涼しげで知的で、誰もが憧れる『学園の王子様』の顔へと切り替えたのだ。
「おかえり、
「ええ。
「もちろんだよ。ボクも復習になるしね」
二人の距離が近づき、
「ここの図形問題なんだけど、補助線をここに引くと分かりやすいよ。ほら、こうやって三角形を作れば……」
「あっ……なるほど! そういうアプローチがありましたのね! 私、公式にばかり気を取られて、図形の性質を見落としておりましたわ。
「あはは、
完璧な笑顔。
完璧な声のトーン。
誰も、彼女がたった数秒前まで、机の下で僕の指をしゃぶり、涎を垂らしながら中出しを強請っていたことなど、微塵も気づいていない。
「おっ、俺にもその問題教えてくれよ! 全然わかんねえ!」
ジュースを飲み終えた
「いいよ、
「うおー! すげえ! 一発で理解できた!
「それは買い被りすぎだよ。ボクはただ、自分が理解したことを伝えてるだけだから」
普段なら、この息の詰まるような『王子様』の演技に疲弊しているはずなのに、今の彼女はどこか生き生きとして、内側から溢れ出るようなエネルギーに満ちている。
その理由は、他でもない。
僕が出した『トップ十に入ったらご褒美』という密約が、彼女のモチベーションを限界まで引き上げているからだ。
早く勉強を終わらせて、テストを完璧に乗り切って、ご主人様にめちゃくちゃに犯されたい。
その猛烈な熱が、彼女の脳をフル回転させ、難解な数式を次々と解き明かさせていく。
「……日向くんは、どこまで進みましたの?」
ふいに、
僕は自分の開いている、ごく平均的なレベルの問題集を指差した。
「僕は、この基礎問題を一通り終わらせたところだよ。あとは間違えたところを復習するくらいかな」
「そうですの。日向くんはいつも、可もなく不可もなくといった成績ですわね。もう少し上を目指してみてはいかがかしら?」
「僕は平均点が取れれば十分だからね。あまり目立つのも好きじゃないし」
僕が適当に躱していると、
「そんなこと言わずに、一緒にやろうよ、
クラスメイトを気遣う、優しい王子様としての振る舞い。
だが、その瞳の奥には、「ボク、こんなに頑張ってるよ! 褒めて!」という、僕に対する強烈なアピールが込められていた。
「ありがとう、
僕は苦笑いを作って、
そして。
机の上では完璧な優等生を演じている
……本当に、懲りないな。
僕は表情を変えず、自分の靴の先端で、
僕は、平然と自分のノートに数式を書き込みながら、机の下でまだ微かに震えている
「……ふふっ」
僕は誰にも見えないように、口角を少しだけ上げて微笑んだ。
窓の外では、秋の夕日がゆっくりと沈みかけ、図書室の静寂の中に、鉛筆の音だけが心地よく響き続けていた。