ゾクッ、と。
彼女の呼吸が、急激に浅く、速くなる。
握りしめられた両手がガタガタと震え、スラックスの膝が小刻みに震えているのがわかった。
自分を遥かに超える圧倒的な『力』を見せつけられたことに対する、雌としての強烈な戦慄と……興奮。
「ひ、
「っ……! な、なんでもないっ……! ごめん、ボク、ちょっと用事思い出したからっ! 先に帰るねっ‼」
後ろ姿の彼女の歩き方は、もはや王子様の堂々としたそれではなく、完全に腰が抜けかかった、怯える小動物のようだった。
「なんだよあいつ、急に。便所か?」
「失礼なこと言わないでくださいな! きっと、急なご用事がおありだったんですわ。……それにしても、
「あなた、
「心外だな。恥なんかかかせてない。それに言ったろ? たまたまだって」
僕は
「それじゃあ、僕も帰るよ。冷蔵庫の特売肉が僕を待ってるからね」
「あ、おい
「また今度な‼」
僕は
彼女がこういう時、パニックになった心を落ち着かせるために逃げ込む場所は、僕には痛いほどよくわかっていたからだ。
放課後の、人気のない旧校舎。
その三階にある図書室の奥、普段は誰も寄り付かない歴史書の資料コーナー。
僕がゆっくりと足音を殺してそこにたどり着くと、予想通り、高い本棚の陰に隠れるようにして、
「はぁっ……はぁっっ……、うぅっ……」
膝を抱え、顔をうずめて、小さく震えている。
王子様の鎧は完全にひび割れ、中から無防備で惨めな雌猫が露出していた。
「……こんな埃っぽいところで、何をしてるんだい、
僕が静かに声をかけると、
その瞳からは、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「か、
「どうしてっ……どうしてなのっ……
「……」
「なんで
悔しさと、それ以上に、絶対的なご主人様に「頭脳」という部分においてすら完全に屈服させられたという絶望感が、彼女を泣き叫ばせていた。
僕は無表情のまま、足元で泣きじゃくる
「勝てると思っていたのか?」
「ひぐっ……!」
「僕はその気になれば、お前をどんな手段ででも支配できるんだよ」
僕の宣告に、
「僕が普段、どうして平均点しか取らないか分かるか? ……お前みたいな『王子様』の隣に立つためには、目立たない方が都合がいいからだ。だが、今回はお前がどれだけ必死に足掻くか見たかったから、少しだけ本気を出してやった。……結果は、見ての通りだね」
僕はゆっくりとしゃがみ込み、
「あぁっ……!」
「お前は、僕の手のひらの上で踊らされてるだけの、愚かな雌猫だ」
僕は、親指の腹を、
そして、その柔らかな唇の輪郭を、ねっとりと、粘液を塗りつけるようになぞった。
「んっ……ぁ、あむっ……♡」
その瞬間。
彼女は敗北の屈辱に涙を流しながらも、僕の指を拒むどころか、自分から口を小さく開いて、僕の親指を「チュプッ」と口腔内に咥え込んだのだ。
「んちゅっ……れろっ……、ちゅぱぁっ……♡」
静かな資料室に、
彼女の熱い舌が、僕の指先に絡みつき、狂ったように唾液を塗りつけてくる。
「……本当に、どうしようもない変態だな。悔しくて泣いているのに、僕の指をしゃぶって発情してるのか」
「んぁっ……じゅるっ……♡ だって、だってぇっ……」
「
「……」
「ボク、負けたよぉ……
完全なる屈服。
敗北感すらも強烈な快感と被支配欲に変換してしまう、雌猫の末路。
彼女のスラックスの下では、僕の指をしゃぶるだけで、ドロドロの愛蜜がとめどなく溢れ出し、下着を重く濡らしているのがはっきりと分かった。
僕は、
銀色の唾液の糸が、彼女の唇から僕の指先へと長く引く。
「……よく言えました。完全に僕の雌猫だと認めたんだな」
「はいぃっ……♡ ボクは、
僕は立ち上がり、ズボンのポケットで拳を握りしめた。
「でも、
僕が冷たい表情を崩し、ほんの少しだけ優しくそう告げると、
「あっ……!
「さあ、帰ろうか。お前がテスト中ずっと欲しがっていた『ご褒美』を……いや、僕に逆らえないことを身体の髄まで分からせるための『お仕置き』を、僕の部屋でたっぷりと仕込んでやる」
「うんっ……! うんっ‼ 早く、早く
図書室の冷たい床から這い上がり、
王子様としての尊厳を粉々に砕かれ、ただご主人様のおちんぽを渇望するだけの存在となった彼女を連れて、僕は夕暮れの学校を後にした。
帰路につく僕たちの影は、沈みゆく太陽に長く、そして深く溶け合っていた。