※この作品はR-18です。

かっこいいボクの、かっこわるくて淫らな秘密   作:斑目朔

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今回は短め。


王子様のブザービーターと僕だけに向けた笑顔(前編)

 六月下旬。

 

 数日前から街をすっぽりと覆っていた分厚い梅雨前線の雲は、今日のこの日のために申し合わせたかのように姿を消していた。

 

 奇跡的な梅雨の晴れ間。突き抜けるような青空から降り注ぐ初夏の日差しが、湿気を帯びた空気をじりじりと熱していく。

 

「いっけえええええっ‼ そのまま押し込めぇっ‼」

 

「ディフェンス! ディフェンス‼」

 

「キャアアアアッ‼ (ひいらぎ)くぅぅんっ‼ こっち向いてえええっ‼」

 

 学園の総合体育館は、外の気温を遥かに凌ぐ熱気と狂騒に包み込まれていた。

 

 今日は一学期のメインイベントの一つである、クラス対抗球技大会の当日だ。

 

 午前中に行われた男子のサッカーやドッジボールの予選が終わり、午後からは体育館を全面に使って、女子のバスケットボールの決勝トーナメントが行われている。

 

 二階のギャラリー席は、応援する生徒たちの熱気でむせ返るようだった。メガホンを叩く音、バッシュがワックスの効いた床をきゅきゅっと摩擦する高い音、そしてホイッスルの音が入り乱れ、鼓膜をびりびりと震わせている。

 

 僕は、悪友の真宵(れん)や数人の男子生徒たちと一緒に、ギャラリー席の少し奥まった目立たない場所に陣取り、手すりに肘をついて眼下のコートを見下ろしていた。

 

「おいおいおい、マジかよ。今年のB組女子、強すぎねえか?」

 

「そりゃそうだろうよ。なんたって、俺たちのクラスには『学園の王子様』がいるんだからな」

 

 興奮して身を乗り出す(れん)の視線の先には、二年B組のゼッケンをつけた五人の女子生徒たちが、コートを所狭しと駆け回っている姿があった。

 

 いや、正確には、その中のたった一人の生徒に、体育館にいる全員の視線が釘付けになっていたと言うべきだろう。

 

 ──(ひいらぎ) 志穂(しほ)

 

 学校指定の半袖の体操服に、紺色のハーフパンツという飾り気のない出で立ち。

 

 しかし、彼女の百七十四センチという群を抜く長身と、無駄な脂肪の一切ないしなやかな肢体は、その簡素な体操服すらも一流ブランドのスポーツウェアのように見せてしまう。

 

 短い黒髪が、激しい動きに合わせてサラサラと宙を舞う。

 

 照明の光を弾く透き通るような白い肌には、玉のような汗が光っていた。

 

(ひいらぎ)様っ‼ 右ですわっ‼」

 

 コートの端で、クラス委員長の西園寺(さいおんじ) 麗香(れいか)が声を張り上げる。

 

 その声に反応した志穂(しほ)は、味方からのパスを空中でしなやかに受け取ると、着地と同時にトップスピードへと加速した。

 

 ダムッ、ダムッ、と重く正確なドリブル音が響く。

 

 立ち塞がる敵チームのディフェンダー二人。

 

 しかし志穂(しほ)は、表情一つ変えることなく、まるで踊るような鮮やかなステップで二人の間をすり抜けた。右へ行くと見せかけた鋭いフェイントに、ディフェンダーは完全に足をもつれさせて尻餅をつく。

 

「うおおおっ⁉ なんだ今のクロスオーバー!」

 

「アンクルブレイクじゃん! エグすぎ!」

 

 男子生徒たちから驚愕のどよめきが上がる中、ゴール下へと切り込んだ志穂(しほ)は、床を蹴って高く跳躍した。

 

 長い滞空時間。

 

 指先から放たれたボールは、美しい放物線を描き、バックボードに一度も触れることなく、スパッと小気味良い音を立ててリングのネットを揺らした。

 

『ピ──ーッ‼』

 

 得点を知らせるホイッスル。

 

 同時に、ギャラリー席に陣取る女子生徒たちから、鼓膜が破れそうなほどの絶叫が巻き起こった。

 

「キャアアアアアアッッ‼! (ひいらぎ)くううううううんっっ‼!」

 

「かっこいいっ! かっこよすぎるぅっ‼」

 

「私、(ひいらぎ)くんになら抱かれてもいいーっ‼」

 

 得点を決めた志穂(しほ)は、額の汗を手の甲で無造作に拭うと、歓声を上げるギャラリーに向かって、ふっと涼しげな『王子様の微笑み』を投げかけた。

 

 それだけで、何人かの女子生徒が腰から砕け落ちそうになっているのが見えた。

 

「……あいつ、本当に何者なんだよ。運動神経バグってんな」

 

 (れん)が呆れたようにため息をつく。

 

 僕は「そうだね」と短く同意し、無表情のままコート上の彼女を見つめ続けた。

 

 誰もが憧れ、焦がれる、完璧な学園の王子様。

 

 容姿端麗、成績優秀、そしてスポーツ万能。

 

 彼女がコートを走るだけで、汗を拭うだけで、微笑むだけで、何百人もの生徒が熱狂する。

 

 でも。

 

 昨夜の激しい交尾の後遺症で、彼女の腰や太ももにはかなりの疲労が溜まっているはずだ。

 

 しかし、志穂(しほ)はそんな素振りを微塵も見せず、むしろ僕の精液を体内にたっぷりと注がれたことでエネルギーが充填されたかのように、いつも以上にキレのある動きを見せている。

 

 僕の視線に気づいたのか、コートの上の志穂(しほ)が、一瞬だけギャラリーの僕を見上げた。

 

 そして、周囲の誰にも気づかれないように、ほんの僅かに、僕にだけわかる甘い眼差しを送ってきた。

 

 僕は口角を少しだけ上げ、ゆっくりと頷きを返した。

 

 それだけで、志穂(しほ)の足取りはさらに軽くなり、次のプレイへと走っていった。

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