六月下旬。
数日前から街をすっぽりと覆っていた分厚い梅雨前線の雲は、今日のこの日のために申し合わせたかのように姿を消していた。
奇跡的な梅雨の晴れ間。突き抜けるような青空から降り注ぐ初夏の日差しが、湿気を帯びた空気をじりじりと熱していく。
「いっけえええええっ‼ そのまま押し込めぇっ‼」
「ディフェンス! ディフェンス‼」
「キャアアアアッ‼
学園の総合体育館は、外の気温を遥かに凌ぐ熱気と狂騒に包み込まれていた。
今日は一学期のメインイベントの一つである、クラス対抗球技大会の当日だ。
午前中に行われた男子のサッカーやドッジボールの予選が終わり、午後からは体育館を全面に使って、女子のバスケットボールの決勝トーナメントが行われている。
二階のギャラリー席は、応援する生徒たちの熱気でむせ返るようだった。メガホンを叩く音、バッシュがワックスの効いた床をきゅきゅっと摩擦する高い音、そしてホイッスルの音が入り乱れ、鼓膜をびりびりと震わせている。
僕は、悪友の真宵
「おいおいおい、マジかよ。今年のB組女子、強すぎねえか?」
「そりゃそうだろうよ。なんたって、俺たちのクラスには『学園の王子様』がいるんだからな」
興奮して身を乗り出す
いや、正確には、その中のたった一人の生徒に、体育館にいる全員の視線が釘付けになっていたと言うべきだろう。
──
学校指定の半袖の体操服に、紺色のハーフパンツという飾り気のない出で立ち。
しかし、彼女の百七十四センチという群を抜く長身と、無駄な脂肪の一切ないしなやかな肢体は、その簡素な体操服すらも一流ブランドのスポーツウェアのように見せてしまう。
短い黒髪が、激しい動きに合わせてサラサラと宙を舞う。
照明の光を弾く透き通るような白い肌には、玉のような汗が光っていた。
「
コートの端で、クラス委員長の
その声に反応した
ダムッ、ダムッ、と重く正確なドリブル音が響く。
立ち塞がる敵チームのディフェンダー二人。
しかし
「うおおおっ⁉ なんだ今のクロスオーバー!」
「アンクルブレイクじゃん! エグすぎ!」
男子生徒たちから驚愕のどよめきが上がる中、ゴール下へと切り込んだ
長い滞空時間。
指先から放たれたボールは、美しい放物線を描き、バックボードに一度も触れることなく、スパッと小気味良い音を立ててリングのネットを揺らした。
『ピ──ーッ‼』
得点を知らせるホイッスル。
同時に、ギャラリー席に陣取る女子生徒たちから、鼓膜が破れそうなほどの絶叫が巻き起こった。
「キャアアアアアアッッ‼!
「かっこいいっ! かっこよすぎるぅっ‼」
「私、
得点を決めた
それだけで、何人かの女子生徒が腰から砕け落ちそうになっているのが見えた。
「……あいつ、本当に何者なんだよ。運動神経バグってんな」
僕は「そうだね」と短く同意し、無表情のままコート上の彼女を見つめ続けた。
誰もが憧れ、焦がれる、完璧な学園の王子様。
容姿端麗、成績優秀、そしてスポーツ万能。
彼女がコートを走るだけで、汗を拭うだけで、微笑むだけで、何百人もの生徒が熱狂する。
でも。
昨夜の激しい交尾の後遺症で、彼女の腰や太ももにはかなりの疲労が溜まっているはずだ。
しかし、
僕の視線に気づいたのか、コートの上の
そして、周囲の誰にも気づかれないように、ほんの僅かに、僕にだけわかる甘い眼差しを送ってきた。
僕は口角を少しだけ上げ、ゆっくりと頷きを返した。
それだけで、