【悲報】異世界風俗、嬢の平均年齢が500歳を超えている 作:フレキシブルコーギー
1.【悲報】異世界風俗、嬢の平均年齢が500歳を超えている
異世界召喚というものは、得てして期待外れに終わる。
俺がその事実を知ったのは、王城の謁見の間で王直々に戦力外通告を受けた瞬間だった。
「勇者殿、まことに申し上げにくいのだが……」
王はバツの悪そうな顔で、鑑定結果が記された羊皮紙をこちらに差し出した。
【スキル:体力+1】
それだけだった。
この世界には魔王もいなければ、復活した邪神もいない。かつてはそれなりの脅威があったらしいが、三百年前に当時の勇者パーティが全部倒してしまった。
以来、勇者召喚は「なんとなく伝統だから続けてるけど、正直もてあます」という位置づけになっているらしい。
つまり俺は慣例だから召喚されただけの、ハズレ枠だった。
王都での歓待は三日で打ち切られ、支度金として銀貨二十枚を渡された。
それで終わり。
王宮の役人は「ご自由に観光でも」と言い残し、そそくさと去っていった。
異世界に来て五日目。俺は無職だった。
もっとも、絶望するほどの話でもない。現代日本に未練はないし、銀貨二十枚あればしばらくは食っていける。
問題は、この世界で自分が完全に「役立たず」であることを、出だしから突きつけられた精神的なダメージだ。
「うーん……どうすっかなぁ」
そういう時は、むしろ開き直るに限る。
俺は王都の下町をぶらつくことにした。
石畳の道には露店が並び、冒険者崩れらしき男が酒をあおり、フードを被った怪しい連中が路地裏で取引をしている。なかなか雰囲気のある街だ。
「うひ……うひひ……兄ちゃん、変な草吸ってく?」
「……遠慮しときます」
そして、気がつけば俺は、ある一画に足を踏み入れていた。
看板の色が、急にピンクと紫に偏り始めたあたりで、なんとなく察した。
風俗街である。
この世界には人間以外の種族が普通に暮らしている。エルフ、ドワーフ、獣人、そしてゴブリンやオークといった、日本では「敵モンスター」扱いの連中も、ここでは普通に服を着て普通に会話し、普通に商売をしている。だから、そういう店の客層も多種族にわたるらしい。
さすがに初日から突撃する気はなかったが、物見遊山で通りを冷やかすくらいなら問題あるまい。
そんな軽い気持ちで歩いていると、一軒の店の前で足を止めているオークとゴブリンの二人組が目に入った。
オークはスーツのようなチュニックを着込み、ゴブリンは頭にバンダナを巻いている。どちらも小慣れた様子で、いわゆる常連の雰囲気を漂わせていた。
オークが俺に気づき、低く響く声で話しかけてくる。
「兄ちゃん、人間だな?ここはやめとけ」
「え?」
ゴブリンが甲高い声で続ける。
「ここは看板に偽りありのクソ店だ。嬢の平均年齢、たしか五百歳は超えてる」
五……百?
俺は思わず店先のパネルに目をやった。
キャッチコピーはぴちぴちの採れたて美少女がたくさん!♡
そこには十代後半にしか見えないエルフの美少女たちが、こちらに微笑みかけている……。
「でも、この写真……」
「写真詐欺だ写真詐欺。いや、写真っていうか実物も同じだが……エルフってのはそういう種族でな。あの見た目で五百年とか生きてる」
ゴブリンがパネルの中央を指差した。銀髪で清楚な雰囲気のエルフだ。
「こいつなんかラフィエルって名前だが、来月で五百二十三だ。俺の何代も前の先祖より年上だぞ」
「五百二十三……」
「俺たちゴブリンは寿命四十年だ。オーク族も似たようなものだ。五百年生きてるやつなんざ、もはや生きる化石だ。そんなのと金払って寝るとか、正気の沙汰じゃねえ」
なるほど。
つまり、種族間で寿命の感覚が違うから、若いの基準もババアの基準もまるで違う、と。
それは理解できる理屈だ。
だが、俺は異世界から来た人間だ。
エルフの五百歳がどれほどの老いなのか実感がない。
見た目は完璧に美少女なのだ。その情報だけで、俺の下半身は正直に反応していた。
「……まあ、一目見るだけだから」
俺が店の入口に向かうと、オークが苦笑した。
「人間のそういうところ、嫌いじゃないぜ。結果を報告しろよ、生きてたらな」
「あ、あぁ……」
俺は軽く手を振り、暖簾をくぐった。
入口の鈴が乾いた音を立てる。
店内は薄暗く、甘ったるい香が焚かれていた。カウンターの奥から、妙齢の女性店員が顔を出す。おそらくこの店の経営者だろう。人間……ではないな。耳の形からしてハーフエルフか。
「いらっしゃいませ。指名はお決まりですか?」
俺は壁のパネルをもう一度見る。
数十人の美少女。
全員、この世界ではババアと呼ばれる年齢層なのだろうか……?
だが、問題はそこじゃない。
俺が気にすべきは、彼女たちの見た目であり、スキルであり、あとはまあ、相性だ。
なにせ俺は、【体力+1】のハズレ勇者なのだから。
文句は言えまい……。【体力+1】とか何の役にも立たないし……。
「じゃあ、このラフィエルさんで」
その瞬間、店員の眉がピクリと動いた。
「お客様、人間ですよね?大丈夫ですか?うちの娘たち、みんなエルフの熟練者ばかりですよ」
「むしろ熟練者ってポイント高くない?」
店員は一瞬ポカンとした顔になり、それから笑った。
「あとで泣いても知りませんよ。三番のお部屋へどうぞ」
俺は短い廊下を歩きながら、自分の心臓が早鐘を打っているのに気づいた。
怖くない、怖くない、と自分に言い聞かせる。
相手は美少女だ。ただ、ちょっと年季が入っているだけだ。
そう、ほんの五百年程度だ。
ノックをすると、中から澄んだ声が返ってきた。
「どうぞ、開いてま~す♡」
俺は息を吸い、ドアを開けた。
中から、花のような、それでいて何かこう、陳皮のような、不思議な香りが漂ってきた。