※この作品はR-18です。

【悲報】異世界風俗、嬢の平均年齢が500歳を超えている   作:フレキシブルコーギー

12 / 45
12.副業OK

ヴェーラが目を覚ましたのは、午後の陽が茜色に変わる頃だった。

 

ラミアの幼児は、身体が十分に温まると長い眠りにつくらしい。メディからそう聞いてはいたが、まさか夕方まで起きないとは思わなかった。

 

「……お兄ちゃん、まだいる」

 

「約束しましたからね」

 

「えへへ」

 

彼女は寝ぼけ眼のまま俺の胸に顔をこすりつけ、それから名残惜しそうに尾を解いた。どうやら勤務時間はこれで終了らしい。

 

「じゃあね、お兄ちゃん!明日も来てね!」

 

「えぇ、必ず」

 

部屋を出ると、ちょうど様子を見に来たらしいメディと鉢合わせた。

 

「お疲れ様です、タクミさん。ヴェーラ様が初日からここまで懐くなんて、初めて見ました」

 

「そうなんですか。なんででしょうね」

 

「体温か、匂いか。……もしかしたら心の広さ?」

 

「たぶん体温です」

 

俺は心が広いタイプではない。風俗に通うために働いている時点で、心の大半は欲望でできている。

 

「いずれにせよ、助かります。明日もお願いしますね」

 

夕刻になると日勤の使用人たちが遅番と交代し、それぞれ寮や自宅へ戻り始めた。

 

「夕食は食堂に用意してあります。住み込みの使用人は日が暮れるまでに済ませてください」

 

ドワーフの料理長は遅番へ引き継ぎを済ませ、キリアは天井から「お疲れっス~」と手を振ってきた。リザードマンは温室の戸を閉め、ハーピーの経理係は帳簿を抱えて事務室へ。

 

メディも深緑の尾をくねらせながら玄関の方へ這っていく。

 

「メディさんは寮じゃないんですか」

 

「ええ。私は通いですので。では、お疲れ様でした」

 

彼女はそう言うと、そそくさと門の外へ消えた。

 

ずいぶん足早だった。いや、足はないから尾早というべきか。なにか私用があるのだろうか。

 

まあいい。俺は夕食を食べてから、部屋に行こう。

 

食堂では使用人たちが夕食を取っていた。俺もパンと肉料理を腹に入れ、それから寮の自室へ向かった。

 

俺に割り当てられたのは六畳ほどの個室だ。ベッド、机、小さなクローゼット、窓辺からは薬草園が見下ろせる。

 

安宿とは大違いだった。壁は厚く隣の獣人のいびきも聞こえないだろう。朝夕食付き。給料月銀貨二十五枚。

 

「この部屋、最高だな」

 

俺はクローゼットを開け、運んでおいた自分の数着の私服を取り出した。明日こそズボンが届くらしいが、今夜は私服で過ごすしかない。

 

……というか。

 

「よく考えたら、ズボンは私服でよかったんじゃないか」

 

ブリーフ一丁で屋敷を歩き回るより、手持ちのズボンを履くほうが百倍マシだった。

 

そう気づいた瞬間、今日一日の出来事が走馬灯のように蘇った。メディに確認するという発想すら浮かばなかった自分を殴りたい。

 

俺は私服に着替え、ベッドに寝転がった。

 

「……」

 

静かだ。

 

静かすぎると、余計なことを考えてしまう。

 

今日一日に見た使用人たちの姿。メディの深緑の鱗、行き交うラミアたちの優雅な尾の動き。

 

駄目だ。

 

疲れると性欲が湧いてくる。これはもう生理現象みたいなものだ。

 

仕事が終わった。給料も入る。夜は自由。

 

そうなると、行き先は一つしかなかった。

 

「……よし」

 

俺は起き上がった。自由時間だ。どこで何をしようが俺の勝手である。

 

……お嬢様には知られたくないけど。

 

俺は寮を抜け出し、夜の街へと歩き出した。

 

◇   ◇   ◇

 

夜の風俗街は今日も賑わっていた。

 

魔法の街灯がピンクや紫に瞬き、看板の前では様々な種族の男たちが品定めをしている。オーク、ゴブリン、獣人、人間、リザードマン。空を見上げれば羽を休めるハーピーまでいた。

 

「今日はどうしようかな……」

 

俺は通りをぶらつきながら、店先のパネルを冷やかしていく。

 

エルフ専門店。ドワーフ専門店。獣人専門店。ハーピー専門店。

 

どの店もパネルの写真は盛られているし、年齢詐称は織り込み済みだ。俺も成人したてという言葉に何の信頼も置いていない。

 

そんな中、ふと目に留まった看板があった。

 

「おっ……ラミアの店かぁ」

 

看板にはラミアの女性たちの写真が並んでいる。舌をちろちろと出したポーズや、尾を優雅にくねらせた姿が強調されている。

 

「ラミア……」

 

今日は朝から晩までラミアに囲まれていた。メディをはじめ、屋敷で働くラミアの女性たちは美人ぞろいだった。

 

鱗の色や体型は様々だが、総じて顔立ちが整っている。ラミアという種族全体が美形寄りなのかもしれない。

 

「せっかくだから、今日はラミアにしてみるか」

 

同僚を思い浮かべて風俗に行くというのも少しアレだが……まぁいいだろう。

 

俺は暖簾をくぐった。

 

カウンターに座っていたのは、初老のラミア女性だった。髪には白いものが混じり、目尻には皺がある。尾の鱗も艶がやや落ちている。六十代といったところか。

 

「……!?」

 

俺は感動した。

 

だって。

 

だって……!

 

「すごい!ちゃんとババァだ!」

 

「アンタ、ぶっ飛ばされたいのかい!」

 

受付のラミアは眉をつり上げたが、すぐに得心した顔になった。

 

「あんたもしかしてエルフやドワーフの店に慣れちゃってるクチかい?」

 

「まあ……いろいろと」

 

「あの年齢詐称種族どもと一緒にしちゃ困るね。ラミアは人間と同じ寿命なんだよ。だから見た目通りの年齢だ」

 

「へぇ……そうなんですね」

 

「ちなみに私ぁ三十三だ、文句あるかい」

 

普通に年齢詐称してるじゃねぇか。

 

「エルフの五百歳ババァにうんざりしてる人間は結構いるからねぇ。うちはそういうのに疲れた客が来るんだよ」

 

なるほど、見た目と実年齢が一致しているというのもそれはそれで……いいものなのかもしれないな。

 

「で、どうする?誰にする?」

 

受付嬢が壁のパネルを指したが、どの写真も妙に修正が入っている。肌が不自然に白かったり、尾の鱗が実物より派手な色に加工されていたり。

 

この世界にも写真詐欺は存在するらしい。年齢詐称と加工、どっちが悪質かはわからないが。

 

「うーん……じゃあ、お勧めでお願いします」

 

「はいよ。じゃあ五号室に行きな」

 

さて、誰が出てくるか。ランダム指名のスリルを楽しむのも、たまには悪くない。

 

俺は五号室の扉の前で立ち止まり、軽くノックした。

 

「は~い♡♡入ってきて~♡♡」

 

若い女の声だった。甘えた響きがあり、少なくとも受付の女性よりはずっと若く聞こえる。

 

(当たりか……?)

 

俺は扉を開けた。

 

部屋のなかは他の風俗店と似た造りで、薄暗い橙の照明が揺れている。ベッドは広く、壁には無難な風景画。

 

深緑色の長い尾が窓辺でとぐろを巻き、照明を受けて艶やかに光っている。

 

上半身は白いブラウス一枚で、細い鎖骨と豊かな胸の谷間が露わだった。顔は小作りで、大きな瞳はアーモンド型、唇は薄く微笑んでいる。

 

二十歳前後に見える、若々しい美人だった。

 

でも……。

 

 

「わぁ~!♡♡若い人間さん!♡♡わたしのこの……み……」

 

彼女の声は最後まで続かなかった。

 

彼女の笑顔が凍りついた。

 

(……!?)

 

俺も凍りついた。

 

深緑の鱗。小作りな顔。

 

そう、彼女は。

 

つい数時間前まで、屋敷で澄ました顔をしていた──

 

「……メディさん?」

 

そこにいたのはメディだった。

 

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