【悲報】異世界風俗、嬢の平均年齢が500歳を超えている 作:フレキシブルコーギー
ゴルドン、ピギー、ヴァラー、そしてガルナ。
絵面だけを切り取れば魔王軍の幹部会議のようだが、実態は真昼間から安酒をあおる無職たちのしょうもない風俗談義だ。
勇者として異世界に召喚されたはずなのに、なぜ俺はこんなうだつの上がらない連中とテーブルを囲んでいるのだろうか。
「さて、タクミ」
ゴルドンが豚鼻から息を噴き出し、テーブルに身を乗り出した。
「お前さん、これまでにどんな店に行った?」
「エルフとドワーフと、あとはラミアです」
「なるほどな……まぁ初心者向けってとこか」
ヴァラーが腕を組み、頷いている。
ラミア風俗はともかく、五百歳を超えたエルフやドワーフの風俗が初心者向け扱いされるとは……。
この世界のバグった感覚には未だに慣れない。
「うめぇ〜、もう一杯!」
ガルナが空のジョッキを乱暴にテーブルへ叩きつけた。すでに三杯目だが、俺の金だということを分かっているのだろうか。
「いいか、タクミ。風俗街ってのは情報戦だ。看板やパネルを信じたら終わり。大事なのは、常連の口コミだ」
「口コミ……ね」
「そうだ。だから今日はワシらがお前さんにイロハを教えてやる」
ゴルドンがもったいぶって言う。
「まず、基本的なことからだな。この街の風俗嬢は、種族によって見た目詐欺のタイプが違う」
「見た目詐欺?」
「エルフとドワーフは見た目が若いのに実年齢がババァ。これはお前も知ってるな」
「はい」
「ハーピーとリザードマンは長命種じゃないから年齢詐称はあんまりねえ。でも、今度は写真詐欺が酷い。羽根の色を盛るとか、鱗の色を加工して、宝石みたいに見せるとか」
羽の色とか鱗の派手さとか俺にとってはかなりどうでもいい要素なんだが……異種族にとっては重要らしいな。
「ラミアは?」
「ラミアも人間と寿命が近いから、エルフほど年齢と見た目は離れねえ。写真修正はそこそこあるがな。でもよ、ラミアの嬢は全体的にドSで、締め付けで男を泣かせるのが趣味みたいなとこがあるから、そっちの覚悟はいる」
俺は黙ってエールを飲んだ。
メディはそこまで嗜虐趣味はない……だけど、尾で腰を固定されたままの中出し。その後のパパ呼び……。
あれはドSというより、捕食者に近い。
「お前は今日、どんな気分だ?若いのがいいとか、熟練のテクニックで癒されたいとか」
ヴァラーが身を乗り出す。
「そうですね……まだ試してない種族がいいです」
「よしきた。じゃあ俺からはリザードマンを推すぜ」
リザードマン……。屋敷にもいた。獣人と違って人間の姿とはかけ離れている種族だ。二足歩行のトカゲに近い。
「あいつらはなぁ、温浴プレイが売りだ。全身の鱗を磨いてもらうんだが、これがもう最高でな。奴らの肌は刺激的なんだ」
「ヴァラー、そりゃお前の趣味を押しつけすぎだぜ。鱗がある種族の風俗に週五で通ってる奴はお前くらいしかいねぇよ」
「うるせえな。ラミアの鱗、リザードマンの鱗、人魚の鱗……全部違うんだよなぁ。素人はその違いが分からんから困る」
鱗フェチとはこれまた珍しい性癖だな。彼は産まれる種族を間違ったのではなかろうか。
「俺からはハーピーを推すぜ」
ピギーがバンダナを直しながら言った。
「ハーピーはな、羽根の手入れが最高なんだよ。あのふわふわの羽毛で全身をくすぐられると、もうな、腰が抜ける。飛びながらのプレイは高いが、地上だけでも十分だ。ただ、一つだけ欠点があってな」
「欠点?」
「季節によって換羽期がある。その時期に当たると、部屋中が羽毛まみれになって、プレイ中にくしゃみが止まらなくなる」
「リアルな欠点ですね」
「あと卵をやたらと勧めてくる。その場で無精卵産んで、『これ産みたて!美味しいわよ!』って。風俗にそういう産地直送のサービスは求めてないっていうか……」
風俗の口コミとは思えない内容だった。
「あと、ハーピーは若いのが多い。ババァの見た目ならババァの年齢だ。安心だな」
言うほど安心か?
「おいおい、王道を忘れてねえか」
ゴルドンが指を鳴らした。
「ワシのオススメは獣人だ。獣人はな、耳と尻尾がもふもふだ。これだけでもう強い。しかも獣人は種族によって性格が全然違うから、好みのタイプが見つかりやすい。猫獣人はツンデレ、犬獣人はワンコ系、狐獣人は小悪魔。俺のオススメは猫獣人だ。最初は塩対応なんだが、慣れるとすり寄ってきて、最後は喉を鳴らす」
「ゴルドンさん、無職のわりにやたら通い詰めてますね」
「よせよ、照れるじゃねえか」
褒めてねぇよ。
そこへ、ジョッキを空にしたガルナがテーブルを叩いた。
「ちょっと待て、てめーら。ここに極上の女がいるってのに、なに他所の女を勧めてんだよ」
彼女は立ち上がり、ふさふさの灰色の尾を俺の目の前に突き出した。
「さわってみろよ。無料だぜ?」
「無料ほど高くつくものはないんで、遠慮します」
「はぁ!? これでも昔は魔性の女豹って呼ばれてたんだからな。いまは無職だけど」
俺の肩に腕を回してきた。酒くさい。近い。耳が当たってる。いや、おっぱいも当たってる。
「ガルナさんはオオカミなんだから女豹じゃなくて女狼なのでは……」
「うるせぇなぁ。今決めたアダ名なんだからどうでもいいんだよそんなもん」
だめだ、既に酔っ払ってしまったらしく会話が成立しない。
いや、最初からこんな感じか……?
彼女はけらけら笑い、ジョッキをあおった。尻尾がテーブルの下でぶんぶん揺れている。さっきからずっと俺の足に当たっているが、本人は気づいていないようだ。
「で、話を戻すけどよ」
ガルナが次のジョッキを手に、だらしなく身を乗り出してきた。
「あたしの一番の推しは、サキュバスだなぁ!」
ガルナの一言に、その場の空気がぴたりと止まった。
ゴルドンが眉をひそめ、ピギーが視線をそらし、ヴァラーに至っては苦虫を噛み潰したような顔でジョッキを口に運んでいる。
さっきまであれだけ好き勝手に種族のオススメを語っていた連中が、一瞬で口を閉ざしたのだ。
(え、なにこの空気)
俺は思わず首を傾げた。サキュバス。男の妄想が具現化したような淫魔である。
風俗の話題で出てくるのはむしろ当然すぎるほど当然じゃないのか? なんでみんな微妙な顔をするんだ。
「……サキュバス、か」
ゴルドンが重々しく口を開いた。
「あいつらは見た目から実年齢を判断するのは不可能な種族だし……」
「初心者にはオススメできんね」
サキュバスが見た目から実年齢を判断できない種族?
イマイチぴんと来ないな。エルフが長命なのは分かるが、サキュバスもなのか?
「サキュバスは寿命が長いんですか?」
「あぁ。あいつらはエルフやドワーフ以上に長生きだ」
ヴァラーがぼそりとつぶやく。
エルフやドワーフ以上の寿命……!?正直、サキュバスの寿命なんて考えたこともなかったが、それはすごい。
「ハイエルフやヴァンパイア並だぜ。千歳超えたクソババァの可能性も普通にあるからな」
「千歳……」
「そうだ。見た目は若い。実年齢は下手すりゃ四桁。おまけにサキュバスは加齢で魔力が増すから、年寄りほど強い。つまり見た目が若くて可愛くても、とんでもない化け物の可能性が高いってわけだ」
なにそれこわい。俺の知ってるサキュバスとは違う。
「この間、二千歳のサキュバスにレイプされて知り合いが死んだぜ」
ピギーがぽつりと言った。
「運が無かったな、あいつは」
一瞬、酒場の喧騒が遠のいた。
待て。今なんて言った。
「……死んだ?」
「そうだ。サキュバスってのはな、加減を知らねぇんだ。客を満足させて帰そうって発想がそもそもねぇ。自分基準で楽しくエロいことするだけだ。それでたまに、やりすぎてそのまま命まで持ってかれる」
「搾り取られて死ぬって。マジなのですか?」
「ああ。特に気に入られたら終わりだな。毎日ヤリまくって、ジワジワ弱らせるタイプもいれば、初回で一気に持ってくタイプもいる……」
俺の背筋に冷たいものが走った。
千歳超えのババァ。外見は若い美少女。加減を知らない。搾り取られて死ぬ。
──気に入られたら終わり。
「怖すぎだろ」
思わず声が出た。この世界の風俗、なにかが根本的におかしい。
まぁ、五百歳の風俗嬢が出てくる時点でおかしいんだけど。
俺は頭を抱えた。エルフとドワーフの年齢詐称風俗だけでも十分刺激的だと思っていたが、サキュバスに至っては命の危険まである。もはや風俗じゃない。モンスターハウスだ。
「でもよぉ」
ガルナが不満そうに唇をとがらせた。
「サキュバスはいいぜ? あいつら、なんつうかプレイが本気なんだよ。手抜きがねぇ。こっちが死ぬかもってスリルが逆にいいんだ。やるなら命がけ、これが風俗の真髄ってもんだろ」
「お前は単に、男を搾り取るサキュバスになりたいだけだろ 」
ゴルドンが呆れたように言った。
「そりゃあなぁ。あたしもあれくらい男を骨抜きにできりゃ、金に困らねえんだけどな ……なあタクミ、練習台になってくんねぇ?」
「えっ……」
ガルナの下品な誘いに俺が反応に困っていると、ピギーが呆れたように言った。
「おいタクミ。そいつ酔うと誰にでも同じこと言うからやめときな」
クソビッチじゃねぇか。
「うるせぇ!あたしはやりたいようにやるんだ!」
ガルナが吠え、他の三人が笑った。俺は笑えなかった。
別にガルナが嫌いとかじゃないんだが……サキュバスで人が死んだ話を聞いた直後に、そんな気分になれるはずもない。
(どうなってんだこの世界は……)
千歳超えのサキュバスが普通に風俗街で営業していて、しかもたまに客が死に、それが酒場の雑談レベルの話題として消費されている。
異世界、恐ろしいところだ……。
俺はエールを一気に煽り、それから深いため息をついた。
「……サキュバスはやめようかな」
「賢明だな」
「利口な判断だぜ」
「いいのかよタクミ! 命がけの快楽を味わわなくて!」
「味わいたくないです。俺は長生きしたいんです」
ガルナがぶつぶつ文句を言いながら五杯目のジョッキを空にした。尻尾がさらに激しく揺れ、俺の足をばしばし叩いている。
痛い。ついでに俺の財布も痛い。
──そのときだった。
「んん~……」
店の奥から、のそりとした気配が近づいてきた。
「ふわぁ……集まってんねぇ……」
欠伸混じりの声に振り返ると、そこにはタヌキの獣人が立っていた。
女だ。
ふわふわの茶色い耳に、腰の後ろには毛先の黒い太くふさふさした尾が伸びている。
髪は肩までのだらりとしたセミロングで、前髪が目にかかっている。顔立ちは可愛い。くりっとした目、小作りな鼻、少しふくれた唇。歳のころは三十代半ばに見える。
でも。
なんか、くたびれてる。
具体的にどこが、とは言えないが、とにかく全身から疲れ切った中年のおばさん感が漂っていた。着ているものも、よれっとした作務衣みたいな簡素な服で、襟元はだらしなく開いている。酒と煙草の匂いがぷんぷんした。
でも。
でもでも!
おっぱいがでかい。
でかすぎる。
作務衣の胸元がはちきれんばかりで、歩くたびにたゆんたゆんと揺れている。タヌキの獣人ってこんなに胸が大きいものなのか。いや、種族の問題じゃなくて、この人が特別なのだろう。
なんというか、すごいメスの匂いがぷんぷんする。さっきまでガルナの下品トークに辟易していたのに、別の意味で落ち着かない。
「おぉ、ポンコさん!起きてたのか!」
ゴルドンが手を上げた。どうやら顔見知りらしい。
「ポンコさん、こいつタクミってんだ。ほら、あのハズレ勇者だよ。今はエゼルディア家でベビーシッターやってる人間で、風俗街はまだ初心者でな」
「へぇ……」
ポンコと呼ばれたタヌキ女は、慣れた動作で俺の隣にどっかりと腰を下ろした。距離が近い。おっぱいが近い。そして煙草の匂いがすごい。
彼女はふところから細長い煙草を取り出し、慣れた手つきで火をつけた。ふぅ、と細く煙を吐く。
「悪いねぇ、煙草。やめらんなくてさ」
彼女はそう言いながら、わざとらしく俺のほうに煙を吹きかけてきた。むせた。くさい。けど、なんかエッチだ。
このくたびれた感じ、疲れ切った大人の女の色気。若い娘には出せない、何かが枯れた末の図太さ。
タヌキ獣人の寿命がどのくらいか知らないが、百歳超えてたらどうしよう。いや、獣人だからエルフやドワーフよりは短命だろうけど。
「で、坊や。どんなプレイがお望みなのぉ?」
ポンコは煙をくゆらせながら、じっと俺の目を覗き込んできた。くりっとした可愛い目なのに、その奥には何かこう、人生の酸いも甘いも噛み分けた末の諦念みたいなものが淀んでいる。
彼女はとても優しい人に違いない……。
「捕まえた女を檻に閉じ込めて、毎晩ドスケベ交尾して、無理やり子供を産ませるような拉致監禁プレイがいいのかい?」
とんでもない奴だった。自然にそんな発想が出てくる辺りヤバイ御方らしい。
「ごめんごめん。冗談だよ。でも坊やの顔、ちょっとそういう系の変態に見えたからさ」
「俺、そんな猟奇的な顔してます?」
地味にショックだった。
彼女は煙草の灰をぽんぽんとテーブルの灰皿に落とし、深く息を吸い込んだ。胸がたゆんと揺れる。見ちゃいけないと思いつつ、どうしても目が行く。
「そうねぇ……坊やにお勧めの娘はぁ……」
ポンコはふう、と煙を天井に吐き出した。
「アンデッドかなぁ」
「アンデッド? 」
「ゾンビとかスケルトンとか、幽霊系の嬢がいる店さ。いいよ、アンデッドは。なんたって、いくら乱暴にしても壊れない。首が取れても、くっつければまた動く。骨が折れても、すぐ再生する。いいよねぇ~」
「いや、俺は別に嬢を破壊したいわけじゃないんですけど」
「でぇ、最大の売り文句は、『耐久無制限・破損保証付き』。お兄さんみたいなクソドS変態人間にはぴったりだと思うけどねぇ」
「だから俺はクソドS変態人間じゃないって」
俺はそう言ったが、無視された。どうやら彼女の中では俺は猟奇的な危険人物になっているらしい。
ポンコはふうっと長く煙を吐き出し、「よっこらしょ」と掛け声を上げて立ち上がった。
「まったく、最近の若いのは頭が固くていけないねぇ~。風俗ってのはな、未知への探求なんだよ」
彼女は細い煙草を指に挟んだまま、ふらりとその場でステップを踏んだ。
酔っ払いの千鳥足かと思ったが違う。すり足で円を描く動きには、奇妙な滑らかさと規則性があった。
「おっ!」
ゴルドンが目を輝かせてテーブルを叩いた。
「始まったぜ!昼でも酔えば始まる、ポンコさん名物の夜語りだ! 」
「よっ! 待ってました!」
「ポンコ姐さん、夢を見せてくれぇ!」
酒場の酔客たちが一斉に囃し立てる。ジョッキを打ち鳴らす音をBGMに、ポンコは煙草の煙をふわりと空間に散らした。
紫煙が空中で渦を巻き、魔法のように薄絹のシルエットを描き出す。
「いいかい、坊や。この世界には星の数ほどの女がいる」
くたびれた声が、急に艶を帯びた。
ポンコが腕を振り上げる。よれよれの作務衣の下で、暴力的なまでの質量を持つ双丘が美しい弧を描いて揺れた。
「妖精は身体が小さいくせに、指名料は人間と変わらない。でも、人形みたいな小さな身体にはそれだけの価値はある。あれは一度味わえば、二度と人間の女には戻れない」
ぽん、と彼女が煙草の灰を弾く。
煙が散り、小さな羽虫のような幻影が俺の目の前を舞った気がした。
「そしてヴァンパイア。氷のように冷たい肌と、首筋に突き立てられる牙。血を吸われるたびに視界が白く飛び、魂が抜けていくような恍惚……翌日の強烈な貧血すらも、彼女たちが残した愛の痕として愛おしくなる……」
ポンコはくるりとターンを決め、顔にかかった前髪を色っぽくかき上げた。
タヌキしっぽが優雅に空を切り、作務衣の隙間から汗ばんだ白い胸元がのぞく。
「見た目も寿命も、常識だって違う女がごまんといる。でも、この街じゃ違いは欠点にならない。誰かの変わり者は、別の誰かの理想になるのさ」
──綺麗だ。
煙草と酒の匂いを撒き散らすおばさんのタヌキ獣人が、信じられないほど美しく見えた。
「だからこそ、坊や……」
ポンコが動きを止め、俺の目の前で顔を近づけてきた。
美しい舞いの余韻。タヌキの瞳が、妖しく光る。
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「お望みなら紹介するよ。私からの紹介なら割引がきくしぃ」
割引……?
急に現実的な単語が出て来たぞ。
「なんで割引がきくんです……?」
彼女は煙草の吸い殻を灰皿に押し付け、にやりと笑った。
「決まってるだろ。私がこの店のマスターだからさ」
「……」
沈黙。
「……はい?」
「ぽんぽこ亭のマスター、ポンコっていうんだ。よろしく、坊や」
俺はゆっくりと周りを見回した。ゴルドンもピギーもヴァラーもガルナも、当然みたいな顔でうなずいている。
知ってたのか。いや、知ってるに決まってる。常連なんだから。
「客を回せば、こっちにも手数料が入る……。あぁ、もちろんちゃんとした店しか紹介しないよ」
彼女は新しい煙草に火をつけ、ふぅと煙を吐いた。尻尾がゆらりと揺れる。おっぱいも揺れる。
「まぁゆっくり考えな。どうせみんな悩んだ末に、財布が空になるまで遊ぶんだからね」
ポンコはそう言って、また煙を吐いた。