【悲報】異世界風俗、嬢の平均年齢が500歳を超えている 作:フレキシブルコーギー
シェリル夫人からセリメラの世話も任せるという通告を受けて、俺はまず情報収集から始めることにした。
なにせセリメラという次女について、俺は名前以外のことを何も知らない。顔も知らなければ、部屋がどこかも知らない。
唯一分かっているのは、シェリル夫人が「ヴェーラより、ちょっとだけ難しい子」と言ったことだけだ。
(ちょっとだけ……ね)
ラミアのちょっとだけが、人間のちょっとだけと同義だとは到底思えなかった。
ともかく、まずは屋敷の使用人たちに話を聞こう。長く勤めている人たちなら、セリメラの人となりを知っているはずだ。
俺が最初に向かったのは厨房だった。
昼食の仕込みで忙しい時間帯だが、ドワーフの料理長はいつも通り大鍋をかき混ぜながら酒を飲んでいる。
「おう、タクミじゃねえか。どうした、腹でも減ったか?」
「いえ、ちょっとお聞きしたいことが」
「なんだ、改まって。どれ、酒でも飲みながら話せ」
「いや、今は勤務中なのでお酒はいいです」
昼間から酒を勧める使用人を初めて見た。いや、ドワーフ界隈では普通かもしれない……。
「料理長、セリメラ様ってどんな方ですか?」
「セリメラお嬢様……」
料理長の手が一瞬止まった。
「そうだなぁ……あのお方は、まぁ、なんというか……」
彼は言葉を探すように天井を見上げた。脂で汚れたエプロンで額の汗をぬぐい、ぐびりと酒をあおる。
「難しい御方だ」
「難しい?」
「ああ、難しい」
それだけだった。
「……具体的には?」
「具体的に言うとだな……」
料理長は再び天井を見上げた。今度はさっきより長い。鍋がぐつぐつと煮立っている。
「難しいんだ。まぁ……恥ずかしがり屋……っていうか?」
恥ずかしがり屋……。
「ヴェーラお嬢様も恥ずかしがり屋ですよね。俺には懐いてくれてるけど」
「いや、ヴェーラお嬢様とはまたタイプが違うっていうか……あぁまぁ、実際に見ればわかるさ」
イマイチ要領を得ないな。
「そうですか……ありがとうございます」
俺は厨房を後にした。
次に向かったのは庭園だ。
リザードマンが温室の前でハーブの剪定をしていた。彼はエゼルディア家に長年勤めている古株で、三姉妹が幼い頃から知っているはずだ。
「おぉ、タクミ。今日はヴェーラ様は一緒じゃないのかい」
「いまヴェーラお嬢様はお昼寝中で。ところでちょっとお聞きしたいことがあるんですけど」
「なにかな」
「セリメラ様って、どんな方ですか?」
リザードマンは剪定バサミをぴたりと止めた。爬虫類の顔は表情が読みにくい。でも、尾の先がゆらゆらと落ち着きなく揺れている。
「セリメラ様は……うん」
「うん?」
「そうだなぁ……思春期だと思うんだ」
「思春期、ですか」
「あぁ。ほら、あの年頃の娘はいろいろあるじゃないか。親に反抗したり、部屋にこもったり、家族と顔を合わせたがらなかったり。ラミアだって同じさ」
「ほう」
「うん。思春期だ。間違いない」
リザードマンは真面目な顔で何度も頷いた。
うん、うん、と。
(思春期……)
たしかにそれなら難しいのも説明がつく。
でも。
なぜだろう。このモヤモヤした感じ。
みんな、なにかを言いかけては飲み込んでいるような、そんな口ぶりだった。
俺はさらに足を伸ばし、ハーピーの経理係や、廊下ですれ違った獣人の雑役など、何人もの使用人に声をかけてみた。
「セリメラお嬢様?まぁ……難しいですよね」
「うーん、あの御方はちょっと……いや、なんでもない」
「静かな方だよ~。とっても静か。静かすぎるくらい~」
(なんなんだ、この歯切れの悪さは)
屋敷全体が示し合わせたように、具体的なことを言わない。
いや、言えないのかもしれない。何かを恐れて。
(ますます不安になるじゃないか)
そのときだった。
天井から無数の足音が聞こえてきた。見上げると、キリアが天井を高速で這い回っている。
「キリアさん!」
「うおっ!?」
俺が大声で呼ぶとキリアは驚いてバランスを崩し、あわや落下しかけた。なんとか梁にしがみつき、無数の脚で器用に体勢を立て直す。
「な、なんスか急に大声出さないでほしいっス!びっくりしてゴキブリ吐き出すとこだったっス!」
いつもゴキブリ口に含んでるな彼女は。
「で、なにか用っスか?」
キリアは梁からするすると壁を這い降りてきて、俺の目の前で停止した。今日も元気にムカデの下半身をくねらせている。相変わらず人懐っこい笑顔だ。
「キリアさんは、セリメラ様ってどんな方か知ってますか」
俺がそう聞いた瞬間。
キリアの笑顔が固まった。
「セリメラお嬢様っスか」
「えぇ」
「えっと、その、あの御方はですね」
キリアは明らかに動揺していた。ムカデの脚がそわそわと床を叩き、ポニーテールが左右に揺れる。
「セリメラお嬢様は、その、なんていうか」
「なんていうか?」
「えぇと、引きこもりの……暗い……陰キャ……というか」
キリアはそこまで言って、はっと口を押さえた。
「ち、違うんス!今のなしっス!私、何も言ってないっスから!!」
「引きこもりの陰キャ」
「あぁぁぁ……言っちゃった……!」
キリアは頭を抱え、ムカデの身体を丸めて縮こまった。もうダメだという感じで全身を小刻みに震わせている。
「セリメラ様に殺される……!私、まだ死にたくないっス……!ゴキブリ食べ放題の夢も叶えてないのに……!」
「ちょっと待ってください。殺されるってなに? それ、ヴェーラ様の次くらいに不穏な単語なんですけど」
ゴキブリ食べ放題とかいう単語で悍ましい光景を想像してしまったが、そこは華麗にスルーしよう。
「なんでもないっス!」
キリアは慌てて顔を上げ、無理やり笑顔を作った。ギザギザの歯がちらりとのぞく。
「と、とにかく!私はこれで掃除に戻るっス!タクミさんも、あんまり余計なこと聞きまわらないほうがいいっスよ!死にたくなきゃね!」
「いや、俺はこれからセリメラ様の世話を任されるんだが」
「ご愁傷さまっス!!!」
キリアはそれだけ言い残し、ものすごい勢いで壁を這い上がり、天井伝いに逃げ去っていった。
無数の足音が遠ざかっていく……。
「ご愁傷さまって……」
俺は一人、廊下に取り残された。
(この家、幼女からティーンエイジャーまで全員危険生物じゃねぇか)
俺は額に手を当て、深いため息をついた。
でも、やるしかない。
♢ ♢ ♢
とはいえ、闇雲に突撃して殺されるわけにはいかない。
俺は思考を整理した。
(引きこもりの陰キャ……)
つまりセリメラは、自室にこもってほとんど外に出てこないタイプなのだろう。
ヴェーラと違って人見知りというよりも、他人との接触そのものを避けている可能性が高い。
そんな相手に、いきなり「今日から世話係になりました、タクミです!」と部屋に乗り込んだら──。
(……殺される……のかな)
そういうことなんだろう。キリアの反応がすべてを物語っている。
(どうすっかな……)
廊下を歩きながら、俺は腕を組んで考え込んだ。
ヴェーラのときは、たまたま気に入られて一発で懐かれた。でも、今回はそうはいかない気がする。
「少なくとも、いきなり部屋に入るのは逆効果だよな」
恐らく彼女にとって自分の部屋は最後の砦だ。そこに無断で踏み込むのは宣戦布告に等しい。
「まずは距離を置いて……様子を見ながら……」
そんなことを呟きながら廊下を曲がったときだった。
「タクミさん」
静かな声が背後から聞こえた。
振り返ると、そこには一人のラミアのメイドが立っていた。銅色の鱗に、年かさの落ち着いた雰囲気。白いブラウスに深紅の前掛け。尾を優雅にくねらせながら、静かに俺を見つめている。
「あ、アゼルさん」
彼女は面接のときにいたメイドの一人だ。メディと並んで、俺の両足に巻きついてきたラミア先輩である。
「先ほどから廊下をうろうろなさっているようですが」
「あのですね……それが、そのう」
彼女はメディよりもベテランで、よく相談に乗ってくれるのだ。
俺は事情を説明した。セリメラの世話を任されることになったこと。屋敷中の使用人に話を聞いてまわったが、みんな歯切れが悪く、具体的なことを教えてくれないこと。そして、キリアが「引きこもりの陰キャ」と言いかけて逃げていったこと。
アゼルは黙って聞いていた。尾がゆっくりと床を這う音だけが、廊下に響いている。
「なるほど」
彼女は小さく頷いた。
「みな、セリメラ様を恐れておりますから」
「恐れてる?」
「えぇ。屋敷の使用人の大半は、セリメラ様のご機嫌を損ねたことがあります。そのたびに、それなりの報いを受けてきまして」
「報い……?」
「私はこれまで無事ですが、それは長く勤めていてコツを知っているからです」
アゼルは淡々と言った。メディに似た無表情だが、メディのように感情を隠している感じではない。本当に冷静なのだろう。
「それで、俺はどうすればいいんでしょう」
「簡単です」
アゼルはちろりと二又の舌を出し、空気を舐めた。
「セリメラ様は、お引きこもりのお陰キャです」
頭に「お」をつければいいってもんじゃねぇぞ……。
「ですので、部屋に無理やり入ると殺されます」
「殺されるっていう部分と、陰キャっていう属性がどうにも結びつかないんですが」
「陰キャだから危険なのではありません。セリメラ様が陰キャなうえに強いのです」
最悪じゃねぇか。
「……じゃあ、俺はどうすれば? 部屋に入ったら殺されるなら、世話のしようがないんですが」
「ご安心を。コツがあります」
アゼルは尾をゆらりと揺らし、一歩近づいた。
「セリメラ様が外の世界と接点を持たれるのは、お食事のときだけです」
「食事?」
「えぇ。セリメラ様は一日に一度、深夜にだけ食事を召し上がります。扉の前に料理を置いておくと、誰もいなくなった隙に回収して部屋で食べるのです」
うー、相当拗らせてるなぁ。
「それで、お食事のときにどうするんです?」
「お手紙を添えるのです」
アゼルは懐から一枚の羊皮紙を取り出した。そこには、几帳面な筆跡で短い文が綴られていた。見本らしい。
「『セリメラ様、本日の夕食はドワーフ料理長特製の生卵三種盛りでございます。お口に合えば幸いです。何かご要望がございましたら、この紙の裏にお書きください』……といった具合に」
「手紙……なるほど」
直接顔を合わせずにコミュニケーションを取る、ということか。
「セリメラ様は、直接話しかけられるのを何より嫌います。でも、手紙なら大丈夫です。いままで私も、ずっと手紙でやり取りしてきました」
「それで、返事は来るんですか?」
「たまに」
「たまにですか……」
「でも、たまにで十分なのです。返事が来た日は、こちらの存在を認めていただけたという証拠ですから」
アゼルはそう言って、わずかに微笑んだ。
「手紙で少しずつ距離を縮めて、そのうち警戒心が解けたら、直接お会いする。それがいまのところ、唯一の方法です」
「……どのくらいの期間が必要なんです?」
「私の場合は五年ほどかかりました」
「五年!?」
「はい。いまではたまに、『うるさい』『消えろ』『飯はまだか』『殺すぞババァ』などのお手紙をいただけるようになりました」
それ、全然距離縮まってなくね?むしろ罵倒が増えてるだけでは……。
でも、アゼルは誇らしげだった。彼女の中では、罵倒の手紙をもらえるということが信頼の証なのだろう。
俺はこめかみを押さえた。だけど、他に方法がないのも事実だった。
「わかりました。食事に手紙を添えてみます」
「それがよろしいかと」
アゼルは満足げに頷いた。
アゼルのアドバイスはありがたかった。さすがベテランメイドだ。
「ありがとうございます、アゼルさん。助かりました」
「いえ。タクミ様がセリメラ様の世話を引き受けてくださって、私も嬉しいです」
「アゼルさんは、セリメラ様のこと……」
「はい。物心つく前から見てきましたので、私にとっては孫のようなものです」
「孫……」
孫?孫だって?
妹でも、娘でもなく、孫……だと?
アゼルさんはいくつなんだ?見た目は三十代くらいにしか見えないが……いや、聞かないでおこう。この世界で年齢を気にし始めたらキリがない。
「ところで、セリメラ様のお部屋は?」
「エゼルティア家の居住棟の奥から二番目の扉です。近づけば分かります」
「何で分かるんです?」
「廊下の空気が重くなりますので」
ラスボスの部屋かよ。
「では、私はこれで」
アゼルは一礼し、銅色の尾をくねらせながら廊下の奥へと這い去っていった。
俺は一人、その場に立ち尽くす。
(手紙、か)
考えたこともなかった。
勇者として異世界に召喚されて、風俗にハマって、ベビーシッターになって。そして今度は、引きこもり(殺傷能力高め)と文通である。
(とんでもない勇者だな、俺は)
まあいい。やるしかない。
「でも……」
俺は気付いた。
メールやSNSなら前の世界で何度も書いたことがある。
だが、紙に文章をしたためて誰かに送るような、まともな手紙を書いた経験は一度もない。
まして相手は貴族令嬢だ。
「ちゃんとした手紙って……どう書けば……いいんだ?」
♢ ♢ ♢
「……と、いうわけなんですよ」
俺は、ぽんぽこ亭でいつもの面子に相談していた。
ゴルドン、ピギー、ヴァラー、ガルナ。いつも通りの光景だ。違うのは、話題が風俗じゃなくて手紙の書き方ということだけ。
「なるほどなぁ」
最初に口を開いたのはゴルドンだった。スーツ姿で豚鼻から息を噴き出し、腕を組みながら深く頷く。
「ベビーシッターも大変な仕事だな」
「給料いいけどな」
ピギーがバンダナを直しながらぼそりと言った。
「でもよぉ、それってベビーシッターの役割じゃなくね?」
ガルナがジョッキを傾けながら茶々を入れる。
「言われてみれば……」
たしかに、俺はベビーシッターとして雇われたはずなのに、気がつけば引きこもりと文通する段階に入っている。職務内容の拡大が激しい。
「無職でよかったぜ」
「ほんとだぜ」
無職たちが頷き合っている。こいつら無職であることに誇りを持ちすぎてないか。
「で、手紙の書き方だっけか」
ゴルドンがテーブルに身を乗り出した。
「いいか、タクミ。まず給料を書け」
「は?」
「月銀貨二十五枚、部屋と飯つき。これだ。女は生活力を見るからな。安定した収入がある男はモテる。これは鉄則だ。オークの世界でもな」
「あの、話聞いてました? 俺が書くのは求婚状じゃないんですけど。お嬢様へのあいさつ文です」
「お嬢様だって女だろ。女はみんな生活力を見てる」
何を言っているんだこいつは。お嬢様を口説こうとしてるわけじゃないんだが。
「甘ぇな、ゴルドン!」
ヴァラーが大声で割り込んだ。ジョッキをテーブルに叩きつける。酒がこぼれた。
「女ってのはな、強い男が好きなんだ! 生活力とか給料とか、そんなもんじゃねぇ! とにかく強さを見せろ!」
「……手紙でどうやって強さを見せるんです?」
「拳で紙を破れ!」
紙が破れたら読めねぇだろ。
「それとこう書け!『いつでもかかってこい!ぶっ殺してやるぜ!』ってな!」
「喧嘩を売る手紙から始めるやつがどこにいるんですかね……相手は雇用主の娘なのに」
さすがドワーフ風俗を襲撃したオーガは言うことが違うな。なんの参考にもならないが。
「おいおい、みんな的外れだな」
ピギーがバンダナの下からにやりと笑った。
「タクミ、こう書くんだ。『殺さないでください』……ってな」
「それが一番真っ当に聞こえた自分が怖い」
目的が明確だ。命乞い。シンプルで分かりやすい。間違ってはいない。でも、間違ってはいないんだけど、なにかが決定的におかしい。
「っていうか」
ガルナがジョッキを空にして、だらしなくテーブルに顎を乗せた。灰色の狼耳がぴこぴこ動いている。
「そもそもよ、なんで手紙なんだ? 会いに行けばいいじゃねぇか」
「それが、部屋に入ると殺されるらしくて」
「はぁ? なんだそりゃ。よく分からんが……じゃあ手紙にお前の匂いをつけて送ればいいんじゃねぇか?」
「匂い?」
「そうだ。匂いで親近感を抱かせればいいんだよ。手紙を一晩抱いて寝れば、お前の匂いが染みつくだろ」
「それ、獣人の手紙の書き方ですよね」
「そうだけど?」
「人間に勧めないでください」
「じゃあパンツを同封しろ」
「変態じゃねぇか!」
どこの世界に、初めての手紙に自分のパンツを同封する奴がいるんだ。パンツを送りつけるとか、もはや犯罪だ。
「なんだよ、せっかくいいアイデアだと思ったのに」
ガルナは不満そうに尻尾をばたばたさせた。
その時だった。
「アンタらさぁ~……真面目に答えてあげなよぉ」
その声にテーブルの全員が振り返った。
カウンターの奥から作務衣を着た女性がのそりと歩いてくる。煙草をくわえ、ふぅと紫煙を吐き出す。巨乳がたゆんと揺れる。
ポンコだった。
「話は聞いてたよぉ。坊や、手紙の書き方に困ってんだって?」
「えぇ、まあ」
「手紙なら、人魚の風俗店に行けばいい……」
俺は首をかしげた。
「人魚の風俗店って……タマゴにザーメンぶっかける孕ませプレイが流行ってるっていう、あの人魚ですか?」
「そうそう。魚ソープで働いてるミレーネは昔、港で代書屋をやってたんだとさ」
「代書屋?」
「字の書けない船乗りや商人の代わりに、手紙を書いてたのさ。恋文から遺言まで、何千通も書いてる。手紙のプロだよ」
「手紙のプロ……!?」
たしかに頼りになりそうだ。何千通もの手紙を書いてきたベテランなら、引きこもりのラミアに送る最適な文面も知っているかもしれない。
「でも、そのミレーネさんは風俗嬢なんですよね? 手紙の相談だけってわけには……」
ポンコは煙草の灰をぽんぽんと落としながら、にやりと笑った。
「店で指名してやりな。アンアン言わせまくった後なら、手紙くらい書いてくれるだろ」
どうして手紙を書くために風俗へ行くことになるんだ……。
俺は頭を抱えた。
手紙を書いてもらう為に風俗店に行く。それを合理的と言える人間が、この世にいるだろうか。
「あのぅ……ポンコさんが手紙を書くとかは……?」
「あたしが書くと脅迫状になるけど、それでもいいかい?」
よくねぇよ。何者なんだよアンタはよ。
そんなやり取りを見て、無職たちがわいわいと騒ぎ始めた。
「いいじゃないか、ついでに人魚も味わえる」
ゴルドンが笑う。
「二度美味しいってやつだな」
ピギーも頷いた。
「タクミ、人魚のタマゴにぶっかけてこい!俺は鱗にかけたいから、タマゴは趣味じゃないが……まぁ何事も経験だよな」
ヴァラーが頷きながら言った。
「でも人魚のおまんこって気持ちいいらしいぜ。タマゴにぶっかけるより中出しのがよくね?」
ガルナが身を乗り出す。
(こいつら……)
でも、まあ。
他に方法もないし。人魚の風俗も未経験だし。
手紙のプロに教えてもらえるなら、それに越したことはない。
「紹介状を書いてやるからさぁ。ちょっと待ってな」
さらさらと筆を走らせ、最後にぽんと判を押す。
「はいよ」
「ありがとうございます、ポンコさん」
俺は紹介状を受け取り、畳んでポケットにしまった。
「ミレーネもババァになってから、指名ががくっと減ってねぇ。若い男が行けば喜ぶよ。たぶん久しぶりの客だろうし」
……ババァ?久しぶりの客?
「あの。ミレーネさんって何歳なんです?」
俺の言葉に、ポンコは煙草の煙を輪っかに吐き出しながら、にやりと笑った。
「それは……行ってからのお楽しみってことで~」
その笑顔が、妙に含みのあるものに見えたのは俺の気のせいだろうか。