※この作品はR-18です。

【悲報】異世界風俗、嬢の平均年齢が500歳を超えている   作:フレキシブルコーギー

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25.【悲報】一晩で既婚者になっていた

朝。俺は自分のベッドで目を覚ました。

 

妙に身体が重い。昨夜、メディに一晩中搾り取られたせいだ。尾で巻きつかれ、説教され、それでいて最終的には彼女のほうが夢中になって──。

 

ぼんやりと天井を見上げていると、視界の端で何かが動いた。

 

「おはようございます、あなた」

 

声のしたほうを見る。

 

メディが長い尾を床に這わせ、ベッド脇に控えていた。すでにメイド服に着替えている。手には俺の執事服。

 

「その呼び方、昨夜だけじゃなかったんですか……」

 

「なぜです?」

 

メディは小首をかしげた。無表情。でも、尾の先だけがゆらゆらと揺れている。

 

「妻が朝になったら妻でなくなると思ったんですか」

 

「そもそも結婚した覚えがないんですけど……」

 

「ラミアにはよくあることです」

 

俺は頭を抱えた。そのうち「ラミアにはよくあること」で戦争が起きそうだ。

 

黙って彼女の動きを見る。彼女は手と尾を器用に使って俺にシャツを着せていく。

 

ベルトを締め、襟を正し、それから──。

 

すぅ……。

 

彼女は俺の首筋に鼻を近づけ、ちろりと二又の舌で舐めた。

 

「人魚の匂いは、だいぶ薄くなりましたね」

 

「その確認方法やめてもらえます?」

 

「では、他の女の匂いを付けないでください」

 

「……善処します」

 

「善処、ですか」

 

メディの目が、すっと細くなった。

 

「善処では足りません。次に他の女の匂いを付けて帰ってきたら、今度はもっと厳しいお仕置きが必要ですね」

 

「お仕置きって……」

 

「尾で巻いて、三日三晩、寝室から出さないで交尾しまくります」

 

「それ死ぬやつだ!!」

 

途中で干からびるの確定じゃねぇか。

 

 

 

♢   ♢   ♢

 

 

 

部屋を出て、本邸へ続く廊下に入ると……何人かの使用人たちがいた。

 

朝の点呼を終えた清掃係、厨房から戻ってきた調理助手、それから──。

 

「おはようございますっス!」

 

天井からキリアがぶら下がっていた。

 

相変わらず無数の脚で梁に張りつき、ポニーテールを逆さに垂らしている。

 

「おはようございます、キリアさん。朝から天井掃除ですか」

 

「そっス! ついでにゴキブリも捕まえちゃったっス! 見る?」

 

「見ません」

 

キリアは壁を這い降りてきて、俺とメディの真正面に着地した。

 

そして──。

 

「んん……?」

 

くんくん、と。

 

彼女は鼻をひくつかせ、俺とメディの匂いを交互に嗅ぎ始めた。

 

「……」

 

キリアの動きが止まった。

 

「あれれ?」

 

もう一度、くんくん。

 

「タクミさんとメディさん、同じ匂いするっスね」

 

「……え」

 

俺はぎくりとした。

 

「しかもメディさん、尾巻きの匂いがするっス」

 

「尾巻き?」

 

「ラミアの女が、番に一晩中巻きついたあとの匂いっスよ。こう、むわっとした匂い。フェロモンっていうか」

 

「そんな細かい匂いの分類があるの!?」

 

俺が叫ぶとキリアは笑った。口の端からギザギザの歯がのぞく。

 

「あるんスよ。虫族だって匂いで色々分かるんス」

 

キリアは大声で廊下中に響き渡る声を張り上げた。

 

「ようやく番になったっスよー! タクミさんとメディさん、めでたくご懐妊──じゃなくて、ご成婚っスー!!」

 

「メディさんが!?」

 

「ついにやったか!」

 

使用人たちがわらわらと集まってくる。

 

リザードマンの庭師がハサミを咥えて這い出てきた。獣人の雑役がぱたぱたと走り寄り、ハーピーの経理係が羽をはためかせて天井近くでホバリングしている。

 

洗濯室からはケンタウロスの洗濯係が巨体を揺らして現れ、図書室からはフェアリーの司書が羽音を立てて飛んできた。

 

「番だって!?」

 

「相手は新人のタクミか」

 

「人間のくせにやるじゃねぇか」

 

「でもラミアの番って大変だぜ」

 

「ああ、一生逃げられないしな」

 

すげぇ勢いで噂が広がっている!

 

「待って! 結婚してませんから!」

 

俺は叫んだが、誰も聞いていなかった。

 

「メディさん、なんとか言ってください!」

 

「尾巻きの匂いというのは、少し、恥ずかしいですね」

 

メディは微かに頬を赤らめて俯いた。

 

そこじゃねぇだろ。

 

「はいはい、そこまで。道を塞がないでください」

 

静かな声が廊下に響いた。

 

現れたのは銅色の鱗を持つラミアのメイド──アゼルだった。ベテランの風格を漂わせ、尾を優雅にくねらせながら進んでくる。

 

「朝から騒がしいですね。何事ですか」

 

「ア、アゼルさん。みんなが俺とメディさんが結婚したって……」

 

「ああ」

 

アゼルは軽く頷いた。

 

「番になったんですね。おめでとうございます」

 

「なってないです」

 

「でもみなさん、少し落ち着いてください。正確には、まだ仮番です」

 

仮番。

 

その言葉に、ざわついていた使用人たちが少しだけ静かになった。

 

「仮番?」

 

「えぇ」

 

アゼルは俺に向き直り、淡々と説明を始めた。

 

「ラミアの男女関係には、大きく分けて三段階あります」

 

「三段階……」

 

「第一段階は匂い相手。互いの匂いを好み、頻繁に身体を寄せる関係です。人間でいう恋人未満、というところでしょうか」

 

(匂い相手……そんな緩い関係が一段階目なのか)

 

「第二段階が仮番。一晩を共に過ごし、眠っているあいだも尾を巻きつけた相手のことです。伝統的には、正式な結婚の候補と見なされます」

 

つまり婚約者ということか。

 

俺は昨夜のことを思い出した。

 

メディは一晩中、俺に尾を巻きつけていた。寝ている間も、ずっと。

 

いや、ていうか以前もそうされたような……?

 

「第三段階が正式な番、つまり婚姻です。これには本人同士の宣言と、そして巣を共有する契約が必要になります」

 

「つまり……俺とメディさんは、まだ結婚していないんですよね?」

 

「えぇ。まだ正式には」

 

俺は胸を撫で下ろした。法的には未婚。それならまだ──。

 

「ただし」

 

アゼルは続けた。

 

「メディがあなた以外の男を選ぶことは、ほぼなくなりました」

 

俺は固まった。

 

「仮番になったラミアは、強い執着を相手に抱きます。これは本能に近いもので、理性では抑えられません。もう──」

 

「もう?」

 

「他の男には目もくれません。尾も巻きません。一生」

 

「急に責任が重い!?」

 

俺はメディを見た。彼女は無表情のまま、尾の先だけを満足げに揺らしている。

 

風俗も辞めてしまうのだろうか。

 

「……メディさん、最初から仮番にするつもりで?」

 

「はい」

 

「説明は?」

 

「説明したら逃げると思いましたので」

 

「確信犯じゃねぇか!」

 

 

 

♢   ♢   ♢

 

 

 

俺は厨房の片隅で頭を抱えていた。

 

ヴェーラの世話が一段落し、ほっと一息ついたところだ。昼食の準備をしているドワーフの料理長が、大鍋をかき混ぜながら酒を飲んでいる。

 

「どうしたタクミ、浮かねぇ顔だな」

 

料理長が野太い声で話しかけてきた。

 

「ちょっと色々ありまして」

 

「色々? ああ、メディの旦那になった件か」

 

「仮番です。まだ正式じゃありません」

 

「仮番も何も、ラミアの女がああなったらもう逃げられねぇよ」

 

料理長はぐびりと酒をあおり、豪快に笑った。料理中の鍋に酒が入りそうで心配になる。

 

「ドワーフの結婚だって大変なんだぜ。女房の機嫌を損ねるときゃ、一撃でぶっ飛ばされるからな」

 

「一撃……?」

 

「うちの嫁はな、鍛冶場でハンマー振り回してるような奴でよ。新婚の頃、俺が浮気したと思われてハンマーで追いかけ回された」

 

「浮気したんですか」

 

「してたんだな、それが」

 

してたのかよ。

 

「ラミアの女ってのはな、一度番に決めた相手は死ぬまで離さねぇ。浮気しても、喧嘩しても、それでも離さねぇ。そういう生き物だ」

 

「……」

 

「人間からすりゃ重いかもしれねぇが……ドワーフから見れば理想の女房だぜ。それに女遊びも禁止されてるわけじゃねぇだろ。相手が怒らない程度に楽しめばそれでいいのさ」

 

料理長はそう言って、また酒をあおった。

 

「そんなもんですかねぇ」

 

「そんなもんさ。人生ってのは」

 

なんか深いな……。

 

浮気してハンマーで追われた男の助言を信じていいのかはよく分からないが……。

 

でも、完全に間違っているとも言い切れない気がした。

 

 

 

♢   ♢   ♢

 

 

 

 

夜、俺は自分の部屋で寝転がっていた。

 

さすがに今夜はメディも自宅へ帰っている。病気の妹もいるし、毎晩こちらへ泊まるわけにはいかないのだろう。

 

彼女の尻尾がないとちょっと寂しい気もするが、今夜は一人で眠れる。静かな夜だった。

 

「うっうっ……疲れた」

 

散々な一日だった。

 

朝起きたら妻(自称)がいて、キリアに騒がれて、屋敷中に広まって、ラミアの三段階を聞かされて……。

 

でも。

 

ここでの暮らしは、にぎやかで、みんな優しくて、俺のことを気にかけてくれる。

 

異世界に放り出されて、戦力外通告されて、風俗にハマって、それでもなんとか生きている。

 

(仮番ねぇ……)

 

俺だってメディのことが嫌いなわけじゃない。

 

他の男を一生選ばないと言われた重さは怖い。でも、俺のいないところで別の男を選んでほしいかと聞かれれば、それも違う。

 

(まぁ、仮番だし、結婚じゃないし……いいか)

 

どうやらドワーフの料理長の適当な人生観に影響されてしまったらしい。

 

いや、元からか……?

 

そのときだった。

 

こんこん、とノックの音。

 

「タクミさん。起きていらっしゃいますか」

 

アゼルの声だった。

 

「はい、どうぞ」

 

扉が開き、アゼルが這い入ってくる。手には一通の封筒。

 

「お嬢様からの返信がきました」

 

「え?」

 

俺は跳ね起きた。

 

「もうですか? 手紙を出したのは昨夜ですよ」

 

「えぇ。先ほど、トレーの下に返事が。こんなに早いのは初めてです」

 

アゼルの声はどことなく弾んでいた。彼女の手紙にも返事が来たのだろうか。

 

俺は封筒を受け取った。高級な羊皮紙。でも、俺が出したものとは別の、シンプルな白い封筒だった。

 

(まさか、こんなに早く返事が来るとは……)

 

俺の心臓が早鐘を打つ。

 

(もし上手くいってたら……少しは距離が縮まるかもしれない)

 

もしかしたら、「これからよろしく」とか「まずは手紙で話しましょう」とか、そういうポジティブな返事かもしれない。

 

素晴らしい前進だ。やはり手紙のプロに任せてよかった……!

 

俺は震える手で封を切った。アゼルも、いつの間にか隣で俺の手元を覗き込んでいる。

 

便箋を開く。

 

そこには──。

 

たった一言。

 

乱暴な、でも達筆な文字で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『殺してやる』

 

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