※この作品はR-18です。

【悲報】異世界風俗、嬢の平均年齢が500歳を超えている   作:フレキシブルコーギー

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26.ぽんぽこ亭のろくでなし会議

ぽんぽこ亭の暖簾をくぐるなり、俺は叫んでいた。

 

「もうだめだ!おしまいだぁ!」

 

カウンターのポンコが煙草をくわえたまま一瞬手を止め、奥のテーブルからは聞き覚えのある野太い声が飛んでくる。

 

「お、タクミじゃねぇか。どうした、でけぇ声出して」

 

ゴルドンだった。隣にはピギー、ヴァラー、それにガルナ。いつもの無職四人組が昼間からジョッキを傾けてだらだらしている。

 

最高のろくでなしテーブルだ。

 

「話を聞いてくださいよ……!」

 

俺はずかずかと歩み寄り、空いている席にどっかりと腰を下ろした。ガルナが「お、タクミのおごりか?」と身を乗り出してくる。

 

「で、なにがあったんだよ」

 

ピギーが聞いてくる。

 

俺は出されたジョッキを一気に半分ほど飲み干した。安いエールが喉を焼く。ぷはぁ、と息を吐き、俺は重々しく口を開いた。

 

「俺……殺されるかもしれないんです」

 

四人が顔を見合わせる。

 

「殺される?」

 

「誰にだよ」

 

俺は昨日の出来事を掻い摘んで話した。

 

引きこもりの次女セリメラに手紙を送ったこと。人魚の代書屋ミレーネに丸投げしたこと。中身を確認しなかったこと。

 

返ってきた手紙には「殺してやる」と一言だけ書かれていたこと。

 

ちなみに、メディとの仮番騒動は些細な出来事なので言わなかった。言ったら最後、この無職どもが手を叩いて茶化すのが目に見えているからだ。

 

沈黙。

 

そして──。

 

「なんだ、そんなことか」

 

ゴルドンが豚鼻から息をぶほっと噴き出した。

 

「そんなことって……俺は殺害予告をされたんですよ!ラミアの令嬢に!俺の雇い主の娘に!嫌われたんです!何もしてないのに!」

 

「だから、そんなことかって言ってんだよ」

 

ゴルドンはこともなげにエールを一口飲み、ふぅと息を吐いた。

 

「タクミ……この街で生きてりゃ、殺害予告くらい誰でももらうぜ」

 

えっ……?

 

俺がきょとんとしていると、ピギーが肩をすくめた。

 

「脅迫状なんて日常だぞ。貰ったことないやつのほうが珍しい」

 

「そんなわけないでしょ。俺、日本で生きてきて脅迫状なんて一度も……」

 

「あぁ、お前は異世界人だったな。よく聞けよ、タクミ」

 

ピギーはしたり顔で人差し指を立てた。

 

「俺たちみたいなろくでなしにはな、脅迫状ってのは勲章みたいなもんなんだよ」

 

犯罪歴を実績解除みたいに語るな。

 

「そうそう。ワシなんか元妻から殺害予告が百二十通くらい来てるぜ」

 

なんかとんでもないことを言い出した。ゴルドンがバツイチだったという衝撃が何処かに飛んでいくくらい、とんでもないことを。

 

「離婚して結構経つが、いまだに週一で届く。内容は『殺す』『ぶっ殺す』『次の結婚相手を見つけたら殺す』『豚肉にして売り飛ばす』……バリエーション豊かだよなぁ」

 

だよなぁ、じゃないだろ。

 

俺は耳を疑った。ゴルドンは照れくさそうに頭を掻いている。

 

「浮気を疑われて離婚してからずーっと届いてるんだ。困ったもんだ」

 

「浮気したんですか?」

 

「したんだな、これが」

 

これと全く同じ会話をドワーフの料理長とした記憶があるが……二日連続で同じくだらない浮気オチを聞かされる勇者が、俺以外にいるだろうか。

 

「俺なんか借金取りから毎週脅迫状が届いてるぜ」

 

ピギーが胸を張った。誇らしげに。

 

「『今週中に返さなかったら臓器を売り飛ばす』『来週こそ命はないと思え』『お前のバンダナを剥いで首を吊るしてやる』……傑作だよなぁ、読み物としても面白いんだ」

 

一瞬、どんな状況でも飄々としてるピギーを尊敬しそうになったが……ただの借金を踏み倒すゴミという事実は変わらないのに気付き、間一髪で軽蔑できた。

 

「俺はなぁ、脅迫状を書く側だ」

 

ヴァラーが腕を組み、ふんぞり返った。

 

「脅迫状を書く……側……?」

 

「そうだ。この間、年齢を千歳偽ったクソババァをあてがったクソ風俗店にな、『ぶっ殺すぞ』って手紙を送りつけてやった。便箋五枚分びっしりと、字体は極太の赤インクでな。装飾文字も駆使した最高の手紙だ」

 

それは脅迫状というより犯行予告なのでは……?

 

「はいはい、じゃあ次、あたしの番!」

 

ガルナがずいっと身を乗り出し、一枚の皺くちゃな紙をテーブルに叩きつけた。

 

「あたしはなぁ、こんなのが王都にばらまかれてんだよ!へへ、すげーだろ!」

 

全員がその紙を覗き込む。

 

そこにはガルナの顔が描かれていた。絵だ。似顔絵。けっこう上手い。耳と尻尾の特徴をしっかり捉えている。

 

そして、その上には大きくこう書かれていた。

 

『指名手配』

 

シン、と静まり返る卓。

 

「なんだこれは……」

 

ピギーの声が震えている。

 

「おいおいおい、これ……」

 

ゴルドンが目をしばたたかせた。

 

「指名手配書じゃねぇか」

 

ヴァラーが直球で言った。

 

「ガルナさん……指名手配受けてるんですか」

 

俺はドン引きしながら言う。

 

「へへへ、まぁなぁ」

 

「なにやったんだよこいつ……?」

 

「強盗か……?」

 

「こいつならやりかねねぇ……」

 

三人がじりじりと後ずさる。俺も一歩引いた。

 

「なんだよみんな、親友を見る目つきが冷てぇなぁ」

 

「当たり前だ。犯罪者と一緒に酒飲んでたなんて知ったらこっちまで巻き込まれるからな」

 

至極真っ当な言葉なのだが、それを発したのがよりにもよってヴァラーなので俺はイマイチ賛同できなかった。

 

「安心しろよ~。罪状はたいしたことじゃねぇしさぁ」

 

全員が、恐る恐る罪状の欄に目をやった。

 

そこには──。

 

『無銭飲食を繰り返す悪質な狼獣人。現在までに確認されているだけで十七件。飲食店関係者は注意されたし。』

 

「クソみたいな罪状だな……」

 

ピギーが本音を漏らした。

 

指名手配されるような犯罪者って、もっとこう、強盗とか殺人とかそういうのじゃないのか。なんで無銭飲食十七件でお尋ね者になれるんだ。

 

まぁでも、ガルナがそんなに悪人じゃなくてよかった。

 

「あぁ、あとこれも」

 

ガルナはもう一枚、紙を取り出した。

 

『罪状:借金取り六名を半殺し。極めて凶暴につき注意』

 

あった。暴行罪あった。しかも半殺し。こいつやっぱりクソ野郎だ。

 

「これは正当防衛だ。あたしのツケを体で払えって言ってきたから、ぶん殴った。おかしいだろ、金の代わりに体で払えだなんてよ」

 

その言葉を聞き、ゴルドンが訝し気に言った。

 

「でもお前、いつもヤリたいヤリたいって叫びまくってるじゃねぇか」

 

「あたしにも好みがあるんだよぉ。タクミのおちんぽみたいなさぁ」

 

俺は頭を抱えた。

 

(こんなゴミの溜まり場で相談した俺が馬鹿だった)

 

でも。

 

でも、だ。

 

(こいつらしか相談できる相手がいないのも事実だ……)

 

俺がもう一杯エールを注文し、頭を抱えていると、ゴルドンが豚鼻から息を噴き出して言った。

 

「こういう時はまず、状況を整理するのがいい」

 

「整理つっても、タクミが人魚に丸投げして、帰ってきた手紙が殺害予告だったっつー単純な話だけどな」

 

「つーか普通、相手に出す手紙くらい中身見ろよ」

 

ガルナに正論を言われた。

 

言い返そうとしたが──。

 

「……はい、まじでその通りです」

 

言い返せなかった。ぐうの音も出ない。正論すぎた。

 

「まぁ今更言っても仕方ない。問題はその人魚がなんて書いたか、だろう」

 

その言葉に、俺たちは考える。

 

だが、考えても分かるわけがない。だって見てないんだから。

 

「いきなりおちんぽおまんこだの、下品な単語を書きまくったんじゃねぇか?」

 

ヴァラーが言った。だけど、それはない。ないはずだ。

 

「それだけは止めたはずです。だからない……」

 

俺がそう断言した、そのときだった。

 

「止めたから書かなかったとは限らないねぇ~」

 

ぬうっと、俺の背後から声がした。

 

振り向くと、ポンコが立っていた。煙草の匂いをぷんぷんさせて。手にはトレイ。どうやら配膳の途中で通りかかったらしい。

 

でかいおっぱいがトレイの上でたゆんと揺れている。見ちゃいけないと思いつつ目が行く。

 

「ミレーネはねぇ、いい代書屋なんだけど……ちょっとだけ癖が強いんだよ」

 

「癖?」

 

「盛るのさ。手紙も、話も、ちょっとだけ脚色しちまう」

 

「盛るって……」

 

ポンコは煙草の灰をぽんぽんと灰皿に落とし、ふぅと紫煙を天井に吐いた。作務衣の胸元が揺れる。

 

見ちゃいけない。見ちゃいけないが、見てしまう。

 

「昔、港で代書屋をやってた頃、別れ話の手紙を依頼されたのに、逆に燃え上がる恋文を書いて大変なことになったこともあるねぇ。あと、商売の交渉文を頼まれたら、いつの間にか『お前の鱗は宝石より輝いている』ってラブレターが混ざってたとか」

 

「なんでそんな重要なこと先に言わないんですか!」

 

「だって……面白そうだったしぃ……」

 

ポンコは煙をふぅと吐き、ふらりとステップを踏んで厨房へ消えていった。ふさふさのタヌキしっぽが、ひらひらと手を振るみたいに揺れていた。

 

俺はがっくりと肩を落とす。つまりミレーネは、俺が止めたことも平気で書くタイプの人魚だということだ。

 

「つーかよぉ、ミレーネっていうババァに直接問い詰めればいいんじゃねぇの?」

 

ガルナが言った。

 

俺もそれは考えた。だから、ぽんぽこ亭に来る前にミレーネの店に行ったのだ。

 

だが……。

 

「本人が卵の様子を見るから産休と言い張って、しばらく休むそうです……」

 

店を訪ねた時の光景が脳裏に蘇る──。

 

 

 

♢   ♢   ♢

 

 

 

受付の近くで、二人の人魚がひそひそと話していた。

 

「ミレーネ婆さん、タマゴ産休に入ったんだって」

 

「受精したかどうかも、まだ分からないんでしょ?」

 

「でも本人は、もう子供の名前を三百個考えてるらしいよ」

 

俺は何も聞かなかったことにして、静かに店を出た。

 

 

 

♢   ♢   ♢

 

 

 

「ぎゃははは!!産休だって!?」

 

話を聞き終えた四人は、一斉に大爆笑した。

 

「そりゃどうしようもねぇなぁ!」

 

「産休って!もしかしてタマゴにぶっかけたのかよ!」

 

「おいおい、パパ、こんなところで酒飲んでていいのかよぉ~」

 

やめろ。俺はパパじゃない。

 

「じゃあ、あたしらで推測するしかねぇなぁ!多分こう書いてあったんだ!」

 

ガルナはジョッキをあおり、尻尾をぶんぶん振りながら言った。

 

「『お前の蛇マンコに俺の極太チンポをぶち込んで、ラミアの子宮を人間ザーメンでパンパンに膨らませてぇんだ』とかよ!」

 

仮にそんなことが書いてあったのならば、返答に『殺してやる』と書いても不思議ではない。むしろ書かない方がおかしい。

 

「『お前の二又の舌で俺のちんぽの裏筋をちろちろ舐められながら、長い尻尾で腰をぎゅるぎゅる締め付けられて、もうわけわかんねぇくらい搾り取られたぁぁぁい!!』とか書いてあるかもな!ぎゃはは!!」

 

ガルナはもう完全に楽しんでいた。俺の不幸を肴に酒を飲んでいる。ちくしょう、指名手配犯のくせに。

 

「ま、とにかくだ」

 

ゴルドンが豚鼻から息を噴き出した。

 

「タクミ、一番悪いのは誰だ?」

 

「……手紙を確認しなかった俺です」

 

「その通り」

 

「異論なし」

 

「お前が悪い」

 

「自業自得だな」

 

四人が一斉に頷いた。息ぴったりだった。こういう時だけ団結しやがって。

 

俺は机に突っ伏した。

 

ひんやりと冷たい木の感触が、やけに心地よかった。

 

「うう……誰か助けて……」

 

「とはいえ、だ」

 

ゴルドンの声が頭上から降ってくる。

 

「このままお前が本当に殺されたら、俺たちも寝覚めが悪い」

 

「え?」

 

「というわけで、手紙を鑑定してもらおう」

 

「鑑定……」

 

手紙鑑定だって? 俺は便箋を見つめた。そこには『殺してやる』だけ。筆跡は達筆だが乱暴で、それ以外の情報は何もない。

 

「『殺してやる』しか書いてない手紙を鑑定出来るんですか……?」

 

「出来るやつがいるんだよ、ここにはな」

 

ゴルドンが笑った。

 

次の瞬間、ヴァラーが立ち上がり天井に向かって大声で叫んだ。

 

「おーい、イトマル! てめぇの出番だぞ! どうせ今日もいるんだろ!」

 

俺も天井を見上げる。四人も同じ方向を見ている。

 

ぽんぽこ亭の天井は梁が剥き出しで、無数の煙草のヤニと酒のシミが染みついている。そんな薄暗い天井の隅から──。

 

するするするする……っ。

 

白い糸が一筋、するりと垂れてきた。

 

「やぁ、呼んだかい」

 

糸を伝って降りてきたのは、一人のアラクネだった。

 

黒く艶やかな蜘蛛の下半身に、白いチュニックを着た上半身。人間の男の姿をしたその上半身は、細面でなかなかのイケメンだ。黒髪を無造作に垂らし、銀縁の眼鏡をかけている。

 

だが──。

 

「ひっく……ふぅ……」

 

完全に酔っ払っていた。

 

顔は赤いし眼鏡は斜めだし、手にはジョッキを持っている。真昼間からこの様子だと、こいつも無職なのだろう。

 

俺のろくでなしセンサーが、彼から発せられる強烈な社会不適合者のオーラを正確に受信している。

 

「こいつはイトマル」

 

ゴルドンが紹介する。

 

「風俗嬢から貰った手紙を自宅の壁一面に糸で吊るしてる変態だ」

 

え、きもっ。

 

「変態とは心外だなぁ」

 

イトマルはふらふらと千鳥足……いや、千鳥脚?で近づいてきた。八本も脚があるのに、全部が別方向へ酔っていた。

 

「僕はねぇ、コレクターなんだよ。店ごと、種族ごと、年齢ごと、感情ごとに分類して、壁に美しく飾ってるんだ。一枚一枚が僕にとっては宝物でねぇ……」

 

俺は心の中で確信した。間違いない。こいつは変態だ。

 

「タクミ、こいつはただの変態じゃないぞ」

 

ピギーが言った。

 

「糸で筆跡をなぞって文字の状態から書いた時の感情を読み取れるんだ」

 

……。

 

地味にすごいな!?

 

こんなところで飲んだくれてる場合じゃない特技だろそれ。王都の裁判所かどこかで雇ってもらえよ。

 

でも少なくとも、ピギーの風俗嬢の年齢確認というゴミみたいな特技よりは遥かに役に立つ。比べること自体が失礼なくらいだ。

 

無論、俺の【体力+1】とは比べるまでもない。

 

「おいイトマル、この手紙を分析してくれや」

 

ガルナが便箋をひょいと投げて寄越した。イトマルはそれを糸を伸ばして器用にキャッチする。

 

「いいねぇ……この手紙……」

 

彼は便箋を顔に近づけ、すぅっと息を吸い込んだ。

 

「……まだ未成熟なラミアの生理の匂いが染みついてるよぉ」

 

え、きもっ。

 

「どれどれ……」

 

イトマルは便箋をテーブルに広げ、細長い指で文字をなぞり始めた。指先から、ほんの数本の極細の糸がするすると伸び、羊皮紙の上を這っていく。

 

糸は『殺』の字の一画一画をなぞり、『し』『て』『や』『る』と順に辿っていく。

 

アラクネの糸は彼の感覚器官そのものなのだろう。糸が文字の筆圧やインクの滲み、わずかな震えまでも拾い上げている。

 

「これは……」

 

イトマルの目が、かっと見開かれた。酔いが一瞬で吹き飛んだかのように。

 

「これは……素晴らしい『殺してやる』だ!」

 

殺してやるに素晴らしいもクソもあるのだろうか……?

 

「ふむふむ……ふむふむふむ……」

 

彼は糸をさらに細かく動かし、文字の隅々まで調べていく。眼鏡の奥の目が、真剣そのものだった。

 

「これは……」

 

「これは……?」

 

俺が聞き返すと、イトマルは顔を上げ、びしりと人差し指を立てた。

 

「殺意38%、怒り42%……」

 

思ったより具体的な数値がきた。もっとこう、ふわっとした分析かと思ったら、バリバリの定量分析だった。

 

変態なのに。壁に手紙を飾ってる変態なのに。

 

「空腹10%」

 

腹減ってたのかよ。食べる前に読んでくれたのだろうか……。

 

イトマルはさらに糸を這わせ、文字の最後の一画まで丁寧になぞった。

 

「おぉ……?これは……」

 

彼は顔を上げた。

 

「な、なんなんですか」

 

俺はごくりと唾を飲み込んだ。

 

「興味7%」

 

「興味……?」

 

「それから──」

 

イトマルの声が、一段と跳ね上がった。

 

 

 

 

 

 

「寂しさ3%だ」

 

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