【悲報】異世界風俗、嬢の平均年齢が500歳を超えている 作:フレキシブルコーギー
本日は休日なり。
朝から燦々と降り注ぐ陽光のなか、俺は風俗街のメイン通りをぶらぶらと歩いていた。
目的はただひとつ。ボルンが教えてくれたスライム風俗、その名もスライムパラダイス……。
「えーっと、どこかな……?」
看板を一枚ずつ確認しながら、大通りをうろうろと歩く。
ボルンの話ではメイン通りのちょっと外れとのことだったが、風俗街は路地が入り組んでいるせいで初見の店はなかなか見つけられない。
割と風俗街に通っているつもりなのに、未だに全貌が見えてこないあたり……この風俗街は巨大だ。
「それにしても……」
風俗街は相変わらず、カオスの一言に尽きる。
目から光線で魅了♡メデューサ専門店……店先の石像が、ぜんぶ驚いた顔のまま固まっている。
あれは客なのか?大丈夫なのか?
八本触手同時プレイ・タコ娘の壺洗い……触手だけが暖簾の隙間からにゅるにゅると覗いている。
あれを見て暖簾の奥にいると想像するのはタコの化け物なのだが……多分上半身は可愛い女の子なんだろう。
だよな?
空を見上げれば、ハーピーの呼び込み嬢が数人、翼をはためかせてチラシを撒いていた。
入り乱れる種族、飛び交う甘ったるい呼び込みの声、地面に落ちた宣伝用の羽根飾り。
混沌としているのに、どこか平和。この街の風物詩といえば、まぁ風物詩なのだろう。
そんなことを考えていたときだった。
「お兄さん♡ 遊んでかない?♡」
頭上から、ぱさぱさと羽ばたく音と共に声が降ってきた。
次の瞬間、何かが俺の背中にがっしりとしがみついてきた。首に腕が回り、肩のあたりに羽根がふわりと触れる。
振り返らずとも分かる。ハーピーだ。
「お兄さん♡ ひとり? ノリノリで遊んじゃう?♡」
彼女は俺の背中に張りついたまま、顔を覗き込んできた。瑠璃色の髪をばさばさと揺らし、大きな瞳をきらきらさせている。
小柄で健康的な小麦色の肌。翼は美しい瑠璃色で、逆光を受けて透き通るように光っていた。そして腰から下には、細い鳥の脚……。
おぉ、可愛い。
でも、今日の目的はハーピーではないのだ。
「えーっと、すいません。今日はスライムのお店に行きたいので……」
俺がそう言うと、ハーピー娘はむっと頬を膨らませた。
「えー? ノリわるーい! 空で一発抜くの、気持ちいいよ~♡」
なんかギャルっぽいな?
語尾の伸ばし方、やたら明るいテンション、人懐っこい距離感。異世界にもギャルは存在するらしい。しかも空で一発抜く、などと大変に刺激的な提案をしてくる。
「それに、スライムの店なんて、つまんないって~。ゼリーみたいなの抱いて、なにが楽しいの? 人間はもっとこう……血色のいい体温のある生き物を選ぶべきだと思うんだけど~」
「いや、まだ行ったことないんで、とりあえず経験してみようかなと……」
正直、目の前のハーピーともやりたい……。だが、あまり遊びすぎると金が……。
「ねーねー、遊ぼうよ~」
ハーピー娘は俺の正面に回り込み、腕に抱きついてきた。胸が俺の肘に当たる。
(おぉ……!?)
すげぇ。
硬い。
貧乳だからだ。脂肪が少ないから、骨と筋肉の感触がダイレクトに伝わってくる。
「アンタ、今、失礼なこと考えたでしょ」
「そ、そんなことは……」
そんなことは……ある。でも言わない。俺は勇者だからな。人を傷つけることは言わないんだ。
胸が硬いとは夢にも思っていない。防具みたいに防御力が高そうだとも思っていない。
「んふふ~♡ でも許してあーげる♡ ハーピーにとって、貧乳はステータスなんだから」
「そうなんですか?」
「そうそう。巨乳のハーピーは飛ぶの遅いの! デブは出来損ないなの! だから私みたいなスレンダーがエリートハーピーなの♡」
彼女は翼をぱっと広げ、胸を張って宣言した。
(エリートが風俗嬢になるものだろうか……)
というのはさておき、巨乳すぎると飛行にも支障が出るのか。空飛ぶ種族にとって体重管理は死活問題らしい。
俺としては巨乳ハーピーと遊んでみたい気もするけどな。だっておっぱいが大きい方がいいし……。
いや、やめよう。今日はスライムだ。目的を忘れるな。
そうこうしているうちに、俺は風俗街を再び歩き始めていた。ハーピー娘は俺の腕にしがみついたまま、ずっと離れなかった。
(この子、全然離れねぇ……!?)
「お兄さん。スライムの店、行きたいんだって?」
ハーピー娘が、俺の顔を覗き込んできた。
「あそこ、すごい奥まった場所にあるから、初見の人は絶対見つけられないよ~?」
「え……そうなんですか?」
なんてことだ。ボルンから詳しい場所を聞かなかった俺も悪いが、そんな見つけづらい場所の店をお勧めするボルンも大概である。
「そうなの! だからぁ……」
ハーピー娘はにんまりと笑った。
「私が飛んで連れてってあげようか?♡」
……なにが目的だろうか。
俺が眉をひそめると、彼女は翼の先で、すぐそこにあるカフェのテラス席をちょいと指し示した。
「喉が渇いたなぁ。誰か奢ってくれる素敵なお兄さんはいないかなぁ」
そういうことか。彼女は、中々逞しいハーピーのようだ。
♢ ♢ ♢
結局、俺はハーピー娘と風俗街のカフェで向かい合っていた。
街の喧騒から一歩入ったそこは、白いパラソルが何本も並ぶ開放的なテラス席で、風俗街にあるとは思えないほど洒落ている。
客席には、これから出勤前といった風情の異種族の風俗嬢たちが思い思いに寛いでいた。
猫耳の獣人が欠伸をし、人魚が大きな水槽付きの特等席で尾を濡らし、アラクネの女性が器用に糸で編み物をしている。
「すみませーん! これとー、これとー、これとー、あとこれとこれとこれもー!」
ハーピー娘が注文をまくしたてる。出てくる出てくる。山盛りの料理がテーブルいっぱいに並べられていく。
果物の盛り合わせ、焼き立てのパン、スープ、メインの肉料理、デザート、そして見るからに高そうな泡立った飲み物。
(おいおいおい……)
俺は頭のなかで財布の残高を計算し始めた。銀貨が音を立てて消えていく気がする。
「あのう、そんなに食べて太らないんですか? さっきデブは出来損ないとか言ってたような気がするんですけど……」
「私はデブらないから、いくら食べてもいいんでーす♡」
マジかよ。
彼女は得意げにフォークを突き立て、料理をぱくぱくと平らげていく。恐ろしい勢いで。
空を飛ぶために無駄な脂肪を燃焼する体質なのか、それともただ単に胃袋の位置が別次元にあるのか。
「あのー、少し遠慮してくれません?」
「え~? お兄さん、私に奢ってくれるんでしょ~? 男の見せ所だよ~?♡」
彼女は無邪気に笑った。……こいつ、小悪魔だ。しかも空を飛ぶタイプの。
この手の女の子に流されるのは、どこの世界の男も一緒だ……。
♢ ♢ ♢
俺は空の上にいた。
「お兄さん、動かないでね~♡動くと危ないよ~♡」
「は、はい……」
両肩をハーピーの脚でがっしり掴まれて、地上数十メートルの高さを運ばれている。
「おぉ……」
思わず声が漏れた。
下から見上げるのとはまったく違う景色だ。赤や青の屋根がモザイクみたいに並び、石畳の大通りが白い糸のように街を貫いている。
遠くには王城がそびえ、その向こうに果てしない地平線へと続く草原と森。
(すげぇ……これが異世界か……)
召喚されてからずっと地面を這い回って生きてきた俺にとって、この眺めは感動的だった。
風俗街で年齢詐称ババァと戦ってきた日々も、こうして見下ろせば、ちっぽけなものに見える。
「あれが王城! その手前のとんがり屋根が大聖堂で~、その横の綺麗なのが王立魔法学院!」
ハーピー娘が楽しそうに解説してくれる。彼女の話によると、王都は複数の区画に分かれており、その内の一つ……巨大な区画を風俗街が占領しているらしい。
「風俗街、想像の三倍くらいデカくないですか?」
「だって王都の税収の何割かは風俗街が稼いでるし」
この街の経済、大丈夫か?
風俗で税収を支えている王都。どことなくエッチな響きがあるが……俺も相当貢献してそうだな。
「あそこが貴族街!あっちは貧民街で……あ、でも治安は言うほど悪くないよ?もっとあっちの方は騎士団の演習場があって……」
(空飛ぶガイド付き観光ツアーか……)
これなら、さっきのカフェの散財も「観光・案内料」だと思えば、あながち高くもないかもしれない。そう思い込もう。
だが、そんなことを考えていると……ふと疑問が湧いた。
(そういえば、この状態でどうやってエッチなことをするんだ?)
さっき彼女は「空で一発抜くの気持ちいいよ」と言っていた。
つまり、飛びながら……やる……のか? もし没頭してしまって、彼女が俺を掴む力を失ったら?
(いやいやいや、考えるのはやめよう。俺にはスライムがある)
スライム。柔らかくて、ぐにぐにしていて、地面の上で完結するスライム。空の心配がいらないスライム。今日の俺の目的は、あくまでスライムだ。
そのときだった。
「う……おえっぷ」
頭上から妙な音が聞こえた。
「……!?」
見上げるとハーピー娘の顔色が、あきらかにさっきまでとは違っていた。脂汗がこめかみを伝い、翼の羽ばたきが乱れ始めた。
「ちょ、どうしたんですか!?」
「た、食べすぎちゃったよ~……」
「どれだけ食べても平気とか言ってませんでしたか!?」
「平気とは言ってないよ。ただ太らないだけで……お゛え゛えぇ゛!」
「た、頼むから吐かないでください!」
今吐かれたら、絶対に俺の頭に降りかかる! 風俗街の上を、ハーピーのゲロを頭から浴びながら飛ぶ勇者がいてたまるか!
「うぷっ……もう駄目だぁ……お兄さん……落としてもいい……?」
馬鹿野郎、駄目に決まってるだろ。
空の上で交渉が始まった。だが……こちとら命がかかっているのだ。なんとかして、彼女に吐き気を忘れさせて、羽ばたく気力を取り戻させないと!
「ね、ねぇ見てください、あの雲! 白くて綺麗ですよ!」
「関係ないよ~」
「あっちの王城! ライオンの紋章がかっこいいですね!」
「もう羽根がぷるぷるしてきたよ~」
や、やばい……。こうなったら……。
「あなたの翼、すごく綺麗ですね! 瑠璃色の羽根が太陽に透けて宝石みたいですよ!あぁ、眩しすぎて目が焼けるぅ!」
俺はなりふり構わず褒め始めた。
「え、そう……?♡」
「もちろんです! これほど美しい翼は王都広しといえど、そういない! エリートハーピーって言うだけある!」
「んふふ~♡ もっと褒めて~♡」
「もちろんです! その髪も風に流れるたびにきらきらしてて、滝みたいだ! なんならこのまま歌でも聴かせてほしいレベル!あ~、ぼかぁ幸せだなぁ!こんな綺麗で美しくて可愛いハーピーさんと空の散歩が出来て!」
「んふふ~♡ もう、お世辞うまいんだからぁ……♡」
(調子に乗りやすいギャルで助かった……!)
おだてればおだてるほど、彼女の羽ばたきに力が戻っていく。気が逸れたおかげか、少なくとも飛ぶ気力は戻ったらしい。単純な体質で何よりだ。
そうして、なんとか俺は地面に着地した。
「し、死ぬかと思った……」
「オエッ、オエッ!!」
着地の瞬間、ハーピーが路地の隅で盛大に吐いた。派手な音がする。俺は見なかった。絶対に見ない。紳士とは、そういうものだ。
「ふぅ~すっきりした!♡ やっぱり吐くのは気持ちいいよね~♡」
ひとしきり胃の中身を空にした彼女は、ケロリとした顔で言った。あの苦しみはどこへ消えたのか。
(常習犯か?)
このスッキリ感、明らかに手慣れている。空の上で吐くことが日常になっている節すらある。
俺は地面に広がった惨状を視界の外に置いたまま、平坦な口調で話題を切り出した。
「あのう、ところで。スライムパラダイスって店はどこに……」
「んー? そこだよ」
ハーピー娘が、翼の先でとある方向を指し示した。
そこには、半透明の看板が煌めく一軒の店が。あれはスライムの看板……?ということは、あれがスライムパラダイス……!
「おぉ……! ……って、ちょっと待て」
俺は首をひねった。
さっきのカフェが向こうの方に見えるじゃねぇか。超近い。ていうか、カフェから徒歩一分もかからない距離だ。
「あの……初見の人は絶対見つけられないとか、言ってませんでした?」
「んふふ~♡」
彼女は悪びれもせず、いたずらっぽく笑った。
──こいつ、最初から俺をカモる気だったな。
スライムパラダイスは、カフェから徒歩一分。つまり俺は、飯を奢ったうえに王都上空を無意味に一周させられたのである。
……まぁ、少し周囲を見渡せば分かる場所ではあった。ただし俺はその間、ハーピーの顔を見ていたり、胸を見ていたり、カフェの風俗嬢たちの胸や尻を見ていたりした。
要するに。
(女に気を取られすぎた……)
店が見つけづらかったんじゃない。俺が女しか見ていなかったのである。
「お、お金返してくださいよ!こんなのってない!」
「いい勉強になったね? じゃ、そういうことで~♡」
彼女はぱたぱたと翼をはためかせ、あっという間に空へ舞い上がった。俺の財布から巻き上げた分をエネルギーに変えているのかと思うほど、軽やかな飛び立ちだった。
「や、やられた……」
空を飛べる種族に、地べたを這う俺が追いつけるはずもない。俺は彼女が霞んでいくのを見送るしかなかった。
最後に「またね~♡」と投げキッスらしきものをされたが、二度と会いたくない。
後には俺と、道端のアレだけが残された。
(……まぁ、空の旅は楽しかったけどな)
悔しいので、そこだけは認めてやる。
それにせっかくここまで来たんだ。ハーピーにぼったくられた分まで、今日はスライムを堪能してやる。
気を取り直して、俺はスライムパラダイスの扉に手をかけて、店内へと入る。
「……な、なんだこれ」
息を呑んだ。
そこは水面下に潜ったかのような空間だった。
店内いっぱいに青と緑の揺らめく光。壁も天井も、すべてが半透明のゼリー状の膜で覆われ、ゆっくりと脈打っている。
床はぷるんぷるんと弾むほど柔らかく、一歩踏み出すたびに足元が沈み、離すとぷるんと元の形へ戻る。
そして奥には……。
「おぉ……!?」
大きな円形のプールがいくつも並び、そのなかを色とりどりの半透明のスライムたちが、ゆったりと泳いでいた。
いや、泳いでいるというより、溶け合い、形を変え、時折、女性のシルエットを象っては崩れていく。
「いらっしゃいませぇ……♡」
水音のような、鈴の音のような……複数の声が重なって聞こえた。
振り返ると、入り口の横で小さなスライムがぷるぷると震えながら、人間の女性の形になりつつあった。
首が伸び、肩が形作られ、胸が膨らみ──。
「スライムパラダイスへ、ようこそ♡」