※この作品はR-18です。

【悲報】異世界風俗、嬢の平均年齢が500歳を超えている   作:フレキシブルコーギー

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43.孕ませ男の余命は二日

「もうだめだぁ! おしまいだぁ!」

 

俺はエゼルディア家の食堂の扉を勢いよく押し開け、絶望の叫びを叩きつけた。

 

突然飛び込んできた俺の絶叫に、昼食をとっていたメディとアゼルの手がぴたりと止まる。

 

天井に張り付いてゴキブリらしき虫を咀嚼していたキリアが、目を瞬かせた。

 

「な、なんスか急に。 世界の終わりでも来た顔してるっスけど……」

 

「俺は……俺はもう……ッ!」

 

声が震える。膝がガクガクと笑う。極度のストレスで、胃壁はとっくにキリキリと悲鳴を上げている。

 

「俺は……俺はもう、殺されるんだぁ……!」

 

三人が顔を見合わせた。

 

「タクミさん?」

 

「どうしたんスか、いったい!?」

 

メディがするりと椅子から降り、尾をくねらせながら近づいてくる。手が俺の額にそっと触れた。

 

「とにかく座ってください。今、温かいスープを――」

 

「いいんです、スープは。俺の人生はもう冷めきってるんで」

 

「なに訳のわからないことを言っているんです……」

 

アゼルが静かに席を立った。彼女の目が、いつもより真剣に細められていた。

 

「まずは落ち着いてください。何があったんですか?」

 

「タクミ! 話してみなきゃわかんないっス!」

 

キリアが天井をちょこちょこと這い、逆さにぶら下がりながら俺を覗き込む。

 

(……あぁ)

 

やはり彼女たちは、風俗街のろくでなし無職どもとは違う。ちゃんと俺のことを心配してくれている。俺の身に何が起きたのか、本気で気にかけてくれているんだ。

 

帰る場所って、こういうことなんだろうな……。

 

「おいおい、どうしたどうした」

 

厨房の奥から、酒を片手にドワーフの料理長がのっそりと現れた。彼はずんずんとテーブルに近づき、空いている椅子にどっかりと腰を下ろす。

 

「死人みてぇなツラしやがって。せっかくの飯が不味くなるぜ。何があったか、とりあえず吐いてみろや」

 

「実は……昨日、風俗街で……」

 

俺はかくかくしかじかと、ことの経緯を話し始めた。

 

ヴァルグラン家の令嬢騎士リディアが風俗街に現れたこと。

 

借金取りとゴブリンと指名手配犯と俺が「ズッ友」を偽装していたこと。

 

マンズリという単語をめぐって騎士団と風俗街の住人が全員で責任を押し付け合ったこと。

 

そして──。

 

俺は深く息を吸い、リディアの言葉をそのまま再現した。

 

「『私と交尾して、腹がパンパンに膨れるほど貴殿のザーメンを注ぎ込んで、孕ませてくれないか?』って言われて……」

 

食堂の時間が止まった。

 

「交尾?」

 

「ザーメン?」

 

「孕ませて?」

 

女性陣の視線が、じわじわと訝しげな角度に傾いていく……。

 

まるで変態を見るような目つきだ。

 

「い、いや、待ってください! 誤解です! 俺が考えたキモい妄想じゃないですよ!? 相手が! 相手の姫騎士様が真顔で言ってきたんです!」

 

言い訳臭いが、本当だ。あんな往来のど真ん中でそんなドスケベ発言をする時点で人として終わってる。

 

「でも、だったらなんでタクミが死にそうな顔してるんスか? モテたんなら万々歳じゃ──」

 

「そこです」

 

俺はテーブルに突っ伏した。

 

「その場にいた騎士たちが、『何故、リディア様が貴様のような薄汚い下民にそんなことを!』ってなぜか俺にブチ切れまして」

 

「えぇ……」

 

「それだけでも意味分かんないのに、今朝になったらもっと酷いことになってたんです」

 

「酷いこと、というと?」

 

「俺が貴族のお嬢様に向かって『絶対に孕ませてやる!』と犯行予告を出した狂人、ってことになってました」

 

「……なぜ?」

 

「俺が聞きたいです」

 

噂というものが伝言ゲームで悪化したのだろう。何しろ風俗街の連中は面白おかしく尾びれを付けて話すから……。

 

四人の視線が、俺の顔面に突き刺さる。

 

沈黙。

 

「……ぷっ」

 

キリアが吹き出した。ほぼ同時に、残り三人の肩も小刻みに震え始める。

 

「キリアさん、今笑いました?」

 

「な、なに言ってるんスか! 笑うわけないじゃないっスか! タクミの危機なんスよ!」

 

彼女は必死に口を引き締めている。でもムカデの脚の先が、ぷるぷると笑いを堪えるように震えていた。

 

「しかしよぉ」

 

料理長が髭をさすりながら言う。口元がひくひくしているのは見間違えだろう。

 

「災難だな、タクミ。お前さんは何も悪くねぇのによ」

 

「そう! そうなんですよ! 俺は一ミリも悪くないんです!」

 

俺は勢い込んで訴えた。

 

「なのにケンタウロスの騎士連中、『リディアお嬢様をたぶらかした貴様は万死に値する!』とか、もう完全に死刑執行前のテンションで!」

 

「処刑って……」

 

メディの尻尾が心配そうに揺れた。

 

「当のリディアさんは、俺がツッコミを入れる前に他の部下たちに『お労しや!』とか言われながら強制的に連れ去られてしまって。で、気がつけば俺は王国騎士団からお尋ね者です」

 

そして俺は──本題を切り出した。

 

「しかも……俺、変な二つ名までつけられて……」

 

「二つ名ぁ? なんだよ、言ってみろ。笑わねぇから」

 

「そうっスそうっス! あたしら仲間じゃないっスか!」

 

キリアが身を乗り出してきた。目は真剣そのものだ。

 

メディも、俺の手をそっと握った。

 

「大丈夫ですよ、あなた。何と呼ばれようと、あなたはあなたです。私の大切な旦那さまなんですから」

 

アゼルも静かに頷く。

 

「ええ。根拠のないレッテルでしょう。気にするだけ無駄です。私たちはいつでもタクミさんの味方ですよ」

 

あぁ。

 

なんて優しいんだ、この人たちは。

 

風俗街に生息する連中とは、人としての器が決定的に違う。俺は異世界に来て、この屋敷の皆に出会えて、本当によかった。

 

「……ありがとうございます」

 

俺は鼻をすすり、顔を上げた。料理長はそんな俺を見て安心したように、ジョッキを一口あおる。

 

そして、俺は言った。

 

「『孕ませ男』って……変なあだ名で呼ばれるようになって……」

 

瞬間。

 

「ぶふっ!!!」

 

料理長が、ジョッキの中身を鼻から噴射した。

 

キリアは口から食べかすを噴き出し、アゼルは顔を背けて肩を震わせ、メディは尾がびたんびたんと床を叩いている。

 

──今、全員笑ったな?

 

俺が睨むと、四人はすぐに真顔を作った。

 

「笑いましたよね? 今」

 

「い、いや……わ、笑ってねぇ……」

 

料理長がガチガチに引きつった顔で言う。真顔は一秒と持たなかったようだ。

 

「ち、違うんスよタクミ! 可哀そうだなって……んぶっ……思ってるだけで……!」

 

キリアは両手で顔を覆っているが、指の隙間から涙目が覗いている。

 

「可哀そうだなって思うときに口元が緩む生物、この世に存在します?」

 

アゼルは、まだ保っている。かろうじて。顔はそっぽを向いたままだが、声はなんとか平静を装っている。

 

「タクミさん」

 

「はい」

 

「お気の……毒……に」

 

「声、震えてますよ」

 

「気のせいです」

 

断言したが、耳の先が真っ赤だ。

 

俺はメディに縋るような目を向けた。彼女は慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。

 

「だ、大丈夫ですよ」

 

声が震えている。

 

「あなたは……ぶふっ……あなたはあなたです。どんな呼び名をつけられても……ふふっ……くっ……」

 

「メディさん、普通に笑ってますよね?」

 

「気のせいです」

 

「尾の先が痙攣してますけど……」

 

ぴくぴくぴく。

 

尾の先端が、断末魔のトカゲみたいに跳ねている。これで気のせいは無理がある。

 

「……はぁ」

 

俺は再びテーブルに突っ伏した。額がひんやりと木目に馴染む。

 

「いいんです。どうせ俺は風俗街のハズレ勇者です。孕ませ男です。これから街を歩くたびに子供に指差されて、風俗嬢には『あ、孕ませ男だ〜♡』って冷やかされて……うっうっ……」

 

どうしてこんなことに……。

 

心のなかでリディアという名を反芻する。全部、あのケンタウロス女騎士のせいだ。理不尽にもほどがある。

 

「安心してください、あなた」

 

ぐったりと机に突っ伏す俺の隣に、メディがするりと這い寄ってくる。ひんやりした尾が、テーブルの下で俺に巻きついた。

 

「あなたが孕ませ男と呼ばれていようと、私はまったく気にしませんからね」

 

「……本当ですか?」

 

「ええ。むしろ変な噂が独り歩きしているほうが、他の女が寄りつかなくて好都合です……♡」

 

喜んでいいのかわからない台詞が、慈愛に満ちた笑顔とともに投下された。

 

いいのか……? 夫が孕ませ男で……?

 

問題しかない気がするが、いまの俺にそれを指摘する元気はなかった。

 

その時、アゼルが居住まいを正し、静かな声で言った。

 

「しかし笑い事ではありませんよ」

 

ついさっきまで笑ってた女がそれを言うと、すごい説得力だな。

 

「ヴァルグラン家は、王国でも指折りの武門です。本当に敵対したのであれば、まずいことに……」

 

キリアが天井から逆さにぶら下がりながら、言う。

 

「でもでも、エゼルディア家も同じくらいの家格っスからね〜。さすがにこの屋敷へ直接なにか仕掛けてくることはないと思うっスよ」

 

エゼルディア家ってそんなに上位の家格なのか。

 

なんとなく金持ちそうだなとは思っていたが……俺がここで働けたのは、運が良かったのかもな。

 

それに、もし万一ここに刺客が送り込まれたとしても、この屋敷にはコッペリアがいる。

 

あの得体の知れないサイコパス自動人形が俺のために身を挺して戦ってくれるとは思えないが、うまいこと逃げ込んでヘイトをなすりつければ、刺客の一人や二人、ミンチにして返り討ちにしてくれるだろう。

 

俺に勇者としてのプライドはない。コッペリアの背後に隠れて生き延びる所存だ。

 

「ヴァルグラン家ねぇ」

 

料理長が腕を組んで言う。

 

「俺も名前だけは知ってるが……まぁ、名門ってくらいだな。細かいとこまではわからん」

 

「私も似たようなものです」

 

メディが言う。尾が俺のふくらはぎから離れ、代わりに彼女の指先がテーブルの上で思索のリズムを刻み始めた。

 

「ですが、そのリディア嬢とやらが、なぜ初対面のあなたにドスケベ孕ませ要求をしたのかは、今後の対策のためにも調べなければいけませんね」

 

「……それもそうか」

 

俺はため息をついた。結局のところ、相手がなぜ動いたのかを把握しなければ、こちらの次の手も打てない。

 

つまり、まずはヴァルグラン家の内情を調べる。

 

でも……ここにいるみんなは、これ以上のことは知らなさそうだ。

 

その時だった。

 

「ヴァルグラン家のことなら、多少は存じていますよ」

 

聞き覚えのない男の声がした。

 

声の方を向く。すると、食堂の隅の席で、スープを優雅に口に運ぶ影があった。

 

白い髪。白い肌。そして腰から下は──白い馬体。

 

(ケ、ケンタウロス……? まさか……もう刺客が!?)

 

俺が内心で慌てていると、料理長が声を掛けた。

 

「セローン、今日は珍しいな。屋敷勤務の日か?」

 

「えぇ。外回りが一段落つきましてね。久しぶりに料理長のビーフシチューが食べたくなったものですから」

 

(知り合い……? じゃあ、刺客じゃないのか……)

 

俺は心のなかで膝から崩れ落ちた。

 

隣のメディが耳打ちしてくる。

 

「彼はセローンというユニコーンの男性です。れっきとしたエゼルディア家の使用人です」

 

「ユニコーン……?」

 

よく見ると、彼の額からは、真珠のように白く光る螺旋状の角がすっと伸びていた。

 

ケンタウロスと体格は似ているが、前足のあたりの骨格がわずかに華奢だ。

 

あんな目立つ存在に気付かなかっただなんて、俺はよほど錯乱していたらしい。

 

セローンはハンカチで口元を拭うと、席を離れ、馬蹄を響かせながら俺の前まで歩いてきた。そして、胸に手を当てて一礼する。

 

「外回りと使者、貴族家への届け物を担当しております、セローンと申します。普段は屋敷の外におりますので、お会いするのは初めてになりますね。タクミ殿、以後、お見知りおきを」

 

まるで絵画から抜け出してきたような立ち居振る舞いだ。声音は澄んでいて、無駄な仕草が一つもない。

 

なんというイケメンだ……これは好感が持てるな。

 

「セローンさん。ヴァルグラン家についてご存じなのですか?」

 

アゼルが口を開いた。

 

だが。

 

セローンはアゼルのほうを一切見なかった。視線すら動かさない。

 

「……」

 

アゼルはわずかに眉を動かしたが、それ以上は何も言わなかった。慣れているらしい。

 

(……ん?)

 

なんだ? いま、あからさまに無視しなかったか?

 

俺の困惑を察したメディが囁いた。

 

「セローンさんはですね。非処女のことが大嫌いなんです」

 

「えっ……」

 

非処女が嫌いってなんだ。爽やかな顔で結構な思想を抱えてやがる。

 

……ん?

 

じゃあ、さっきアゼルさんを無視したってことは……。

 

「ということは、アゼルさんは……?」

 

「アゼルさんは未亡人ですよ。お子さんも三人います」

 

「三人!?」

 

「夫はずいぶん昔に寿命で。子供たちももう独立しています」

 

セリメラを孫みたいなものと言ってたけど、思ってた以上に人生の先輩だったらしい。

 

何歳なんだ、彼女は……? よく見たら耳が少しだけとんがってるから、もしかして純粋なラミアじゃないのかもしれない。

 

「私も以前は普通に会話できていたんですけど……あなたに処女膜を破られてから、無視されるようになりまして」

 

友好関係の維持条件が処女膜だったとは。

 

爽やかイケメンだと思った数秒前の自分をぶん殴りたい。

 

でもまぁ、ユニコーンだしな……。童話とかでも清らかな乙女にしか懐かないって言うし……。

 

俺はちらりとキリアを見た。彼女はセローンに対して特に気にした様子もなく、天井からぷらーんとぶら下がっている。

 

「あ、セローンじゃないスか。珍しいっスね~」

 

「おや、キリア殿。今日も処女膜から清らかな声が響いていますね。素晴らしい」

 

「あはは、キモいから死んでくれないッスか?」

 

ヤバいユニコーンのおかげで、このムカデ娘は処女であるという極秘情報を得てしまったが、間違いなくこの情報は俺の今後の人生において一ミリも役に立たないだろう。

 

(……ていうかどうやって処女を見分けてるんだ?)

 

ユニコーンの角に処女感知レーダーでも搭載されているのか。それとも一角獣特有の謎器官か。

 

俺の顔に浮かんだ疑問符を、セローンは見逃さなかったらしい。

 

「匂いがね……するんですよ」

 

「は?」

 

「処女膜から発せられる、乙女の芳香とでも言いましょうか。非処女の汚れた女性器とは決定的に異なる、純潔の匂いが」

 

こ、この御方は……何を言ってるんだ?

 

食堂の空気が、目に見えて澱んでいくのを感じる。女性陣から彼へ向けられる視線が、露骨に冷え切っていた。

 

「声もね、違うんですよ」

 

セローンは止まらない。

 

「非処女の声は、こう……奥に濁りがある。ワインに例えるなら、澱が残った状態に近い」

 

「奥に……濁り……?」

 

意味が分からない。こいつは俺と同じ言語を喋っているのか?

 

「想像してみてください。処女の女性が言葉を発するでしょう? すると声帯の清らかな振動が共鳴腔を通り、腹腔へと抜け、最終的に彼女の処女膜へと到達して美しい和音を奏でるのです」

 

え、きも……。

 

「到達しませんけど……」

 

セローンは俺の指摘に、笑みを深くした。悲しいかな、顔が整っているから様になってしまっている。

 

「タクミ殿、それは違う。あなたが感じ取れていないだけです」

 

(こいつは……やべぇ……)

 

まぁ、挨拶してアゼルさんをガン無視した瞬間から、特大の地雷臭はしていたけども。

 

セローンの瞳が、ゆっくりとキリアへ向けられた。

 

「キリア殿。参考までに、いま一度『あ』と発声していただけないでしょうか」

 

「嫌っス」

 

「ごく自然に。何も意識せず」

 

「死んでくれっス」

 

「今の『死んでくれ』、素晴らしい。濁りがまったくない。これこそが処女膜の──」

 

キリアは多足で壁を這いながら、セローンから物理的に距離を取った。

 

俺も取った。心の距離を。

 

(イトマルとは別の方向性で、触れてはいけない変態だったか……)

 

まだイトマルの方がマシだ。手紙への執着は理解できないが、ある程度共感は……まぁできなくもないし……。

 

(それにしても……)

 

非処女は駄目で、非童貞はいいんだろうか。俺はかなりのペースで風俗に通っているが、セローンは俺を無視していない。

 

男と女の違いか?

 

「おいセローン」

 

料理長が、呆れながら言った。

 

「気色悪ぃ講釈はしまいだ。このあいだも女衆から大クレームきてただろ。『生理的に無理』『お茶が不味くなった』『部屋の空気が汚れた』ってな」

 

「おっと」

 

セローンは大袈裟に肩をすくめ、胸の前に手をひらりと掲げた。

 

「これは失敬。つい処女膜の話題になると、我を忘れてしまう性分でしてね」

 

「性分で済むか、そんなもん」

 

料理長がうめいた。

 

セローンは何事もなかったかのように居住まいを正すと、俺へ向き直った。

 

「処女膜愛好の同志タクミ殿。この話は、いずれ二人きりでじっくり語り明かそうじゃないか」

 

「いつの間に俺は愛好家になったんですか」

 

「あなたの目が語っていますよ。純潔を尊ぶ瞳だと」

 

「えぇ……? 濁ってると思いますよ。風俗通いまくってるんで……」

 

「謙遜は美徳ですが、過ぎると傲慢ですよ」

 

メディ、アゼル、キリアの俺を見る目が、一斉に冷えた。

 

三人とも下水道に浮かぶ得体の知れない汚物を、さらに汚物で煮込んだ何かを見るような目だ。

 

誤解だ。これは誤解なんだ。俺はこんな変態と同類じゃない。俺の変態性はもっと健全な方向に振り切れているはずなんだ……。

 

「……さて」

 

セローンが、表情を引き締めた。

 

「ヴァルグラン家についてでしたね。私はこう見えても馬族の端くれ、同族筋の情報にはそれなりに通じております」

 

さっきまでの恍惚とした処女膜ヴィジョンが嘘のように消え失せ、涼やかな理知の光が瞳に灯る。

 

「ヴァルグラン家は、この王国において最大級の軍事力を抱える武家の棟梁です。現当主は騎士団元帥。先代は近衛総督。先々代は北方遠征で反乱軍を壊滅させた英雄──」

 

「は、はぁ……」

 

なんかよく分からんが、とっても偉くて凄い軍人の家だということは分かる。

 

「一族からは近衛師団や遠征軍の中核を担う将帥が絶え間なく輩出されています。王国軍の主要ポストの実に三割を、ヴァルグラン家の血縁者や傘下の武家出身者が占めています。あの家が総動員令を発すれば、国内の大小の武門が雪崩を打って参集すると言われているほどです」

 

想像の四倍くらいの物騒な情報が来た。

 

「まぁ、つまりですね」

 

セローンはそこで一旦言葉を切り、白い指を一本立てた。

 

食堂の空気が張り詰める。

 

彼は最高に爽やかな笑顔で、こう締めくくった。

 

「この国の全兵士、全軍人がこぞってあなたの敵になった、ということです。余命二日、といったところでしょうか」

 

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