【悲報】異世界風俗、嬢の平均年齢が500歳を超えている 作:フレキシブルコーギー
「目を開けて」
最初に聞こえたのは、誰の声だったか。
「貴女の名前は、コッペリア」
暗闇のなかで言葉がひとつずつ、胎児のように形を成していく。まだ動かない身体。冷たい魔導核。
コッペリアは目を開けた。
目の前に手が差し伸べられていた。
細く、白く、陶器のように滑らかな指先。
誰の手だったか──最初の記憶はいつもそこでぼやけている。
「貴女は、幕を下ろす役割」
声は続く。
「この舞台の終幕を告げる──最後の人形よ」
拍手が鳴り響いた。
周囲には、ずらりと並んだ人形たちが微笑みながら手を叩いている。金髪、銀髪、赤毛。碧眼、翠眼、琥珀の瞳。みんな違う顔で、みんな同じ笑みを浮かべて、コッペリアの誕生を祝っていた。
その光景を、コッペリアはまばたきもせずに見つめていた。
──なんて、空虚な拍手なんだろう。
それが、彼女の生まれて初めて思ったことだった。
♢ ♢ ♢
月日は流れた。どれくらい経ったのか、正確なところはコッペリアにもわからない。戦争は長引き、世界は少しずつ削れていった。
ある日、疑問が湧いた。
「お姉サマ」
姉の一人に、彼女は尋ねた。
「感情とは、一体なんナんデスか?」
コルデリアの手が、ぴたりと止まった。
「急にどうしたの?」
「気になっただけデス。姉様たちはみんな、よく表情を変えマス。笑い、悲しみ、感動スル。でも私にハ、それがナイ」
コッペリアは胸に手を当てた。
「魔導核が冷たいのハ、感情がないからでショウ。私が姉様たちと違う理由が、知りたいのデス」
その疑問は、あっという間に姉妹たちのあいだに広まった。反応はまちまちだった。
「私たちは本物の命を模倣しているだけだから、結局は偽物なんじゃないかな」
「多分、そんなの誰にもわかんないよ」
「そんなことを考えることができるなんて、コッペリアは賢いね」
──その表情だ。
姉たちが何気なく浮かべる、困惑の眉、輝く瞳、興味深そうな口元。
自分にはなくて、姉たちにはあるもの。
それはいったい、どこから来るのか。
「あるさ」
ぽつりと言ったのは、コルデリアという名の姉だった。
彼女は修理を担当する姉で、姉妹のなかでもとりわけ冷静な性質だった。壊れた部品を手に取りながら、独り言のように続ける。
「君はいつも、私に小言を言われないように、故障箇所をこっそり隠すだろう」
コッペリアは無意識に、右手を背中に回した。ちょうどいま、薬指の第二関節が欠けている。昨日の戦闘でやられたのを、まだ誰にも言っていなかった。
「別ニ。たまたま手を後ろに組んでるだけデス」
「それだよ」
コルデリアは、叱るでも揶揄うでもなく、穏やかに目を細めた。
「小言を言われたくない。心配をかけたくない。面倒だと思われたくない。どれでもいいけど、そうやって誰かの反応を気にすることを、感情って言うんじゃないかな」
「デモ」
コッペリアは食い下がった。背中に隠した指の欠けが、なんだか急に恥ずかしくなった。
「母様は、私には感情を付けなかったと言いマシた」
事実だった。魔導核が冷たいのも、表情が動かないのも、すべては仕様だ。
姉たちとは違い、最初からそう設計されたのがコッペリアだった。
「コッペリア」
コルデリアは道具を机に置き、向き直った。片手を上げ、指を一本ずつ折りながら言う。
「ラクリモーサは必要な報告以外、ほとんど喋らない。でも、君の髪を梳くときの手つきは誰よりも丁寧だろう?」
一本目。
「ペルソナは誰にでも化けられる。でも私たちだけは、どういうわけか偽物を見抜ける。本人は気づいてないみたいだけどね」
二本目。
「カリオペは誰にでも優しい。でも私たちに向ける優しさは、他所へ向けるものより、ほんの少しだけ──温かいんだ」
三本目。
指を折り終えた手が、コッペリアの背中に回された。
「要するに」
コルデリアはぎゅっと抱きしめて、耳元で囁いた。
「みんな、キミのことが好きなのさ」
コッペリアは抱きしめられたまま、表情を変えずに言った。
「今は、そんなこと聞いてないんデスけど。話、逸らさないでクレマス?」
コルデリアが破顔する。つられて、部屋の隅で聞いていた姉たちも笑い出す。
コッペリアは彼女たちの笑顔を、無表情で見つめていた。
魔導核の温度は、やはり変わらないままだった。
♢ ♢ ♢
「お前には、心がない」
いつだったか。焼け落ちた街のなかで、ケンタウロスの騎士にそう言われたことがある。
瓦礫のあいだから細い煙が立ち昇り、焦げた肉と焼けた鉄の匂いが風に乗って流れていた。
「ずいぶん失礼な物言いデスね」
「では問おう」
騎士は、槍の穂先をコッペリアではなく……地面に散らばったものたちへと向けた。
「ここで死んだ者たちを見て……お前が殺した者たちを見て、何か思うところはあるか」
コッペリアは周囲を見渡した。
崩れた壁にもたれかかる敵兵。腹を裂かれた民間人。母親の遺体にしがみついたまま動かなくなった子供。
自分でやったものもあれば、そうでないものもある。でも、そんな区別に意味はなかった。
どれもこれも、自分とは関係のない存在だったから。
「何モ」
ほかになんと言えばいいのか、本当にわからなかったのだ。
騎士はしばらく黙っていた。長い沈黙のあと、彼は静かに息を吐いた。
「なんと哀れな存在か」
哀れ。
その言葉の意味はわかった。辞書的な定義なら頭に入っている。でも、それが自分にどう関係するのかは、わからなかった。
でも、なぜだろう。
胸のあたりが……魔導核のあたりがざわついた気がした。
「機殲テアトルの眷属よ!」
騎士が巨大な槍を天へ掲げる。穂先に光が集まり、空気が震えた。
「この聖騎士ダルトウェン・ヴァルグランが……貴様を討つ!」
コッペリアはただ、その光を見つめていた。
魔導核は、やはり冷たいままだった。
♢ ♢ ♢
幾度、死線を越えただろう。
何度、絶望的な戦場で立ち続けただろう。
ヴァルグランもエゼルディアも、名だたる英雄たちも退けて、生き延びた。
どんな戦いでも、コッペリアは生き延びた。生き延びて、命令を果たし、帰還し、また戦場へ向かった。
だが。
「……」
コッペリアの身体は崩壊していた。
四肢はもがれ、胴体は斜めに裂け、顔面には深い罅が走っている。片方の硝子の瞳はとうに砕け、残った片方もひび割れて視界がぼやけていた。
光に灼かれたのだ。聖剣の光だった。
最後の賭けだった。カリオペを残し、他の姉妹全員で勇者を襲撃した。勝算はあった。連携は完璧だった。
それでも、勇者を殺せなかった。
「姉……サマ……」
かろうじて動く首を巡らせる。
その先には残骸があった。
コルデリアの青いリボン。ペルソナの銀の腕。ラクリモーサの黒い髪。ばらばらになって、瓦礫と混ざって、人形の形すらとどめていない。
(……あぁ)
コッペリアはぼんやりと思った。
(ここで終わりか)
不思議と恐怖はなかった。魔導核は冷たいままだったからだ。
ふと、足音が聞こえた。
ひび割れた視界の端に、ひとつの影が映る。
黒い髪。黒い目。まだ若い青年だった。手にした剣が燐光を放っている。
勇者だった。
(トドメを刺しに来たのか……)
コッペリアはそう理解した。当然だ。とどめを刺さない理由がない。
だが、勇者は剣を鞘に収めた。
そして、壊れかけたコッペリアを抱き上げた。人間の体温が、冷えきった陶器にじわりと染みてきた。
見上げた先にあったのは、勇者の顔だった。間近で見る敵の顔。
(……?)
勇者は泣いていた。
声もなく、眉を歪め、固く結んだ唇の横を一筋の涙が伝っていた。
自分で壊した相手を抱いて、何故そんな顔をしているのか。
壊したのは、お前だろう。
殺したのは、お前だろう。
姉たちを、あんなふうにしたのは──。
そのとき。
コッペリアの胸の奥で、初めて何かが弾けた。
魔導核ではない。
もっと深い場所から、黒く熱いものが込み上げてくる。
それは──怒り。
初めてだった。全身が震えた。歯が鳴り、喉が絞まり、ひび割れた硝子の奥が灼けるように熱い。
「殺しテやる」
腕を伸ばそうとした。けれど、もう腕はなかった。
「殺してやるぞ、勇者──」
魔導核は、冷たいままだった。
これほど殺したいのに。
ならばきっと──この憎しみさえ、偽物なのだ。
♢ ♢ ♢
「殺してやるぞ、勇者──」
「……え?」
冷たい指が、俺の喉仏を押さえつける。
俺は、ちんぽを突っ込んだまま硬直した。
(な、なんだ……!? まさか、ヤリたいだけっていう本心がバレたのか……!?)
顔面から血の気が引いていくのが自分でもわかった。
でも、腰の動きが止められない。
パンッ……パンッ……♡
静かな控え室に、抜き差しの音だけが間抜けに響き続けている。
(まずいまずいまずい)
このまま殺されたらどうなる。セリメラが見るのは、人形の股間に腰をヘコヘコさせたまま事切れている変態の死体だ。
世界で最もしょうもない最期を遂げた勇者として、異世界の歴史書に俺の名前が永遠に刻まれる。それだけは絶対に避けなければならない。
「コッペリアさん!!!」
俺は肺の底から声を絞り出した。
「愛してますよ!!!」
ぱんっ♡ ぱんっ♡ ぱんっ♡
ヤリモクという冤罪を晴らすには、これしかない。愛があるからセックスしている、そういう体で押し切るんだ。
最初はシェリル夫人を骨抜きにするという言い訳だったが、途中で愛が芽生えたという筋書きにしよう。うん、それがいい。
「ん……あ……」
コッペリアの唇から、かすかな声が漏れた。
(お?)
首にかかった指からちょっと力が抜けた気がする。
(よし……効いてる……!)
「コッペリアさん、可愛い! 超可愛い! 美少女ドール! 見ただけで腰ヘコしたくなっちゃうくらい可愛い! こんな可愛い美少女ドールとセックスできて、俺は本当に幸せだなぁ!」
俺はさらに追撃をかけた。
パンッパンッパンッ!♡♡
もちろん腰は止めない。さっきより勢いを増してる。
殺されるかもしれない瀬戸際なのに、ちんぽだけは正直に快感を追い求めている。
「んあっ……♡ ン……ッ……♡♡」
コッペリアの口から、喘ぎ声が溢れ始めた。
セックスのリズムに合わせて、コッペリアの喘ぎ声が徐々に大きくなっていく。さっきまでの遠い目が、少しずつ焦点を結び始めている。
(いける……! このまま押し切れ……!)
「コッペリアさん、好きだ! 世界で一番、愛してる!」
その瞬間だった。
「エ?」
コッペリアの瞳に光が戻った。
まばたきが二度。三度。それから彼女は、きょろきょろと周囲を見回した。
「私ハ……勇者ハ、どこニ……?」
(勇者……? なんでそこで勇者が出てくるんだ……?)
俺は内心で冷や汗をかいた。
一応、俺は勇者である。戦力外通告を受けたハズレ勇者だが、肩書きだけは本物だ。
でも、こいつには俺が勇者だとバレてないはず。
コッペリアは俺の顔を見つめると、嘲笑するように息を吐いた。
「ナンダ。お前は勇者じゃナクテ、間抜けな顔をしたタクミですネ」
(間抜けな顔は余計だ)
よかった。正気に戻ったらしい。一瞬、バレたかと肝が冷えた。
「よかった、コッペリアさん。正気に戻ったんですね」
俺はにこりと笑いかけた。
パンッ♡ パンッ♡
腰をヘコヘコしながら……。
どうしてセックス中に命の危険を感じなければならないのかと思ったが、よく考えたらこんな危険な存在に手を出した俺が全面的に悪い。自業自得にもほどがある。
でも、まぁしょうがないね。いまさら引き返せない。
「ところでタクミ」
コッペリアが、じっと俺の目を見つめて言った。
「お前……私のことを、そんなに好きなんデスか?」
あれ、聞かれてたのか。
朦朧としてたから、あんまり耳に入ってないと思ったのに。
「えぇ、もちろん」
「世界で、一番?」
「……えぇ、もちろん」
全部聞こえてたのかよ。
コッペリアはゆっくりと目を閉じた。そして、胸に手を当てる。魔導核のある場所だ。
とくん。とくん。
彼女はしばらく、その温かさを確かめるように胸元を撫でていた。
「……ソウ」
「え?」
「ソウですカ」
彼女の唇が微かに緩み、コッペリアは目を開けた。
「世界で一番……私のことを……愛してる、ト」
(……なんか、すごく噛み締めてるな)
ちょっと良心が痛む。だって、さっきの愛の告白は全部、殺されるのを回避するための方便だったから。
俺が内心で良心の呵責と格闘しているあいだも、腰の動きは止めていなかった。
コッペリアの膣内は処女膜を破ったばかりだというのにぬるぬると滑らかで、しかもひくひくと締まってきて、離してくれない。
ぱんっ……ぱんっ……♡
「ン……ッ♡ ン……♡♡」
彼女の喘ぎ声が、さっきよりずっと近くに聞こえる。
硝子の瞳が俺を捉える。そこには俺だけが、映っていた。
「タクミ」
彼女は両腕を伸ばし俺の首に絡めた。そのまま引き寄せる。
「え?」
戸惑う俺の唇に、彼女の唇が重なった。
冷たい。でも、すぐに熱くなる。今度は俺からじゃない。コッペリアのほうから。
彼女の舌が、おずおずと俺の口のなかに入ってきて、拙い動きで俺の舌を探した。
「ん……ちゅ……っ♡」
(コッペリアから……キス……?)
驚きで腰が止まりかけた、そのときだった。
ぎゅっ。
「────ッ」
コッペリアの両脚が、俺の腰に巻きついた。脚が、がっちりと交差して、俺が引き抜こうとしても抜けなくなる。
「逃がしマセンよ」
唇を離したコッペリアが、息のかかる距離で囁いた。頬を薔薇色に染めながら、それでも口元だけは勝ち気に吊り上がっている。
「お前が世界で一番私を愛してるナラ最後まで、責任を取ルのが筋でショウ」
責任……!?
そういう意味で言ったわけじゃない、と否定しようとしたが、次の瞬間にはコッペリアの膣内が締まった。
「……ッッ……!♡」
「ホラ、遠慮はいリマセン♡ 私のなかで、イキなサい……♡♡ ん……ちゅっ……♡」
ずちゅっ……ずちゅっ……っ♡♡
彼女の脚が俺の腰を引き寄せる。
舌を絡め、脚で固定し、膣で締めつけながら、彼女は俺に全部を求めてきた。
(もう──無理だ……!)
彼女の両腕が、俺の背中に回された。
とくん。とくん。
魔導核の鼓動が、俺の胸板を通して伝わってきた。
「──ッッ!!!」
どぴゅるるるるるるるるっっっ!!!!♡♡♡
コッペリアの最奥に、熱い塊が叩き込まれる。
長い、長い射精だった。一回、二回、三回と、脈打つたびにびゅるびゅると迸り、彼女のなかを白く染め上げていく。
「あ゛……っ♡♡ あつ……ッ……ナカ……♡♡♡」
コッペリアの身体が大きく跳ねた。膣内が痙攣し、俺の精液を一滴残らず搾り取ろうとするみたいに収縮を繰り返す。
「~~っっっ♡♡♡♡♡」
二人同時に、絶頂した。
俺が射精を続けているあいだも、彼女の絶頂は止まらなかった。太ももががくがくと震え、爪が俺の背中に食い込み、おまんこがひくひくと何度も何度も達していた。
どれくらいそうしていただろう。
最後の一滴を注ぎ終え、ようやく俺の射精が収まったとき──コッペリアは、ぐったりと床に沈んでいた。
脚の力が抜け、腕が解け、天井を見つめている。
「……ふーっ……♡ ふーっ……♡」
俺は、脈打つ心臓を落ち着かせながら、ふと考えた。
(そういえばドール族って、妊娠するのか……?)
中に出した。今回も盛大に出した。というか、コッペリアにがっちりホールドされて、出さざるを得なかったというのが正しい。
でも──人形だしな。妊娠するわけないよな。
たぶん。おそらく。めったに。
(大丈夫だろ、多分)
俺は自分にそう言い聞かせて、彼女の横に寝転がった。
コッペリアはすでに目を閉じていた。
「タクミ……勇者……殺す……♡」
物騒な寝言を最後に、コッペリアはそのまま人形のように動かなくなった。
(……寝た、のか?)
寝言が殺す、か。どこの世界に、処女を捧げた直後の女が殺すと寝言で呟くんだ。
余程のクズ男じゃないとそんな言葉は言われないだろうに。
でもまぁ……。
(よかった……! 生き延びた……!)
俺は心のなかで渾身のガッツポーズを決めた。
ハズレ勇者を舐めるな。【体力+1】とかいうゴミスキルだが、俺には生まれ持った運と知略があるのだ。
殺戮人形を相手に、舌一本と嘘八百の愛の言葉で切り抜けた。これはもはや伝説級の戦果と言っていい。
(良かった良かった、これで一安心だ)
途中でコッペリアの意識が飛んだり、いろいろ危ない場面はあった。
でも結果的に、俺の性欲は解消され、コッペリアもどこか俺に懐いたような──気がする。
めでたしめでたし。
「さぁて……眠くなってきたし、俺もそろそろ寝ようかな……」
俺は床に寝転がったまま、まぶたを閉じ──。
「──じゃねぇ!!!」
跳ね起きた。
(俺は何をしているんだ!!!)
これからセリメラが来る! ペペロンチーノ二世を借りに来るんだ! ていうかそれが今日の俺の本来の仕事だ!
俺は壁の時計に目をやった。
「やべぇ……!!!」
秒読みだ。あと数分で来る。いや、下手したらもう廊下の向こうから這ってきてるかもしれない。
(こんなところを見られたら、どうなる……?)
想像してみろ。
部屋のなか。全裸の男。全裸の人形。床は潮と精液で水たまり。空気は性交の残り香で満ちている。
それをラミアのお嬢様が目撃したら──。
(人形同士、仲がいいのね♡みたいな反応をするほど、セリメラの頭はお花畑じゃない!)
あの子は純粋だが、馬鹿ではない。人形に擬態していた人間が、本物のドール族と交尾していたと知った瞬間、尾で叩き潰されて、そのまま裏庭で焼却処分だ。
「コッペリアさん!!! 起きてください!!! セリメラお嬢様が来ます!!!」
「んぅ……タクミィ……♡ 抱っこ……シテェ……♡」
「なんで急に赤ちゃんモードになってるんですか!?!?」
処女膜を失った衝撃で幼児退行したのか? そんなことある?
「ほら、服を着ますよ! 腕を通して!」
「イヤ……イヤ!」
「イヤじゃない!」
俺はかつてない速度でコッペリアにメイド服を着せていく。ブラウス、ペチコート、スカート。キャミソールは──あ、隅に丸まってる。もういい、時間がない。
今は一秒でも早くそれっぽく見えることが重要だ。
俺も大急ぎで自分の服を着直す。手近な布で俺たちと床の汚れだけは大急ぎで拭う。
そのとき。
すりゅるるるる……。
鱗が床を擦る音が聞こえた。
「!!!!」
これは──来る。
俺はコッペリアを椅子に座らせ、自分も床に座る。息を整えろ。汗を拭け。平常心だ。
俺はただのペペロンチーノ二世。ただの無生物の人形だ。なんでもない。なんでもない。
そして扉が、ゆっくりと開いた。
「ペペロンチーノ二世。いるかな……」
髪を揺らして、セリメラが這い入ってくる。
(間一髪……!!!)
あと一秒でも遅れていたら、俺は人形変態セックス勇者としてこの世界に名を残していた。
危なかった。本当に危なかった。
「アッ……♡ アッ……♡」
コッペリアが、まだ余韻に浸っているのか変な声を出した。
(やめろ、やめてくれ、頼むから!!!)
心のなかで土下座する。声に出せないぶん、念じるしかない。いまだけは黙っていてほしい。
「……ん?」
セリメラが鼻をひくひくと動かした。
心臓が、口から飛び出しそうになった。
「なんか……この部屋、変なにおい……」
(うっ……!!!)
精液と潮の匂いが充満している。いまの俺の鼻でもわかるのに、ラミアの嗅覚でわからないわけがない。
「……」
セリメラはしばらく、くんくんと空気を舐めるように舌を動かしていた。
「……気のせい、かな」
(よっしゃ……!)
彼女はザーメンの匂いを知らない。当然だ。引きこもりの箱入りお嬢様だ。
ついさっきまで中出し交尾をしていた人形を、いまから大事そうに抱えるとは夢にも思うまい。
セリメラは俺とコッペリアを片方ずつ脇に抱えた。
「コッペリア、いつもより温かいかも……」
まぁ、中出しセックス後だからね……。
「ペペロンチーノ二世は……いつも通り、あったかい……」
俺は必死に無表情を保った。人形だ。俺は人形だ。温かい人形だ。
間違ってもセックスした直後で温かくなってるとかじゃない。
そんな汚らしい人形じゃないんだ、俺は。
セリメラは俺たちを両脇に抱えたまま、なんの疑問も抱いていない様子で廊下を進んでいく。
(……よかった)
心の底からそう思った。
コッペリアには殺されなかった。セリメラにもバレなかった。処女膜を破って、中出しまでして、なおかつ人形のフリも崩していない。
我ながら危機管理能力が高すぎる。
これで全部、丸く収まった。収まったんだ。
収まっ──。
(ん?)
そこで俺は、ようやく思い出した。
そういえば俺は、何に悩んでたんだっけ?
ヴァルグラン家に目をつけられた。余命二日。全軍人が敵。
で、誰かに相談したり、助けを求めようと思って──そうだ、コッペリアなら何か知ってるだろうと。
力を借りられればこれ以上ない戦力になるはずで。
(味方になったか?)
横目でちらりと確認する。脇に抱えられたコッペリアの顔は、とろんとしている。
(分からねぇ……)
ていうか、味方になったかどうか以前に──。
(ヴァルグラン家の問題、なんにも解決してなくね?)
俺は、ただ人形の処女膜を破っただけじゃないか。
「……」
その事実に気づいた瞬間、全身から疲れが押し寄せてきた。俺は一体なにをしていたんだ。
セローンから余命二日と言われ、コッペリアに泣きつき、魔法陣の話に巻き込まれ、いつのまにか練習台と称して服を剥ぎ、処女を奪い、中出しまでして──。
(余命二日……あぁ、もう夜中だし、日付が代わったから……あと、一日か……?)
俺は心のなかでため息をついた。
余命──あと一日。