※この作品はR-18です。

【悲報】異世界風俗、嬢の平均年齢が500歳を超えている   作:フレキシブルコーギー

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5.冷たい館の熱い面接

翌朝、俺は西区の高級住宅街を歩いていた。

 

石畳の道は広く、街路樹は手入れが行き届いている。すれ違うのは背筋の伸びた執事や、買い物籠を抱えたメイドたちばかりで、下町の喧騒が嘘のような静けさだった。

 

やがて、周囲の屋敷よりひとまわり大きな邸宅が見えてくる。

 

白い大理石の壁に、深緑の蔦が這う三階建て。門柱には蛇がとぐろを巻く家紋──エゼルディア子爵家の館だ。

 

「……デカいなぁ」

 

門をくぐると、左右に薬草園が広がっていた。薄荷、洋甘菊、ラベンダー、その他見たこともない植物が整然と区画分けされている。さすが調薬と香料の名家。庭そのものが資源だ。

 

玄関扉の前には、ラミアのメイドがふたり控えていた。

 

ひとりは深緑の鱗を持つ若い女性。もうひとりはやや年かさで、鱗は落ち着いた銅色だ。どちらも腰から下が蛇で、長い尾を優雅にくねらせている。

 

制服は白いブラウスに深紅のスカートというか……蛇の下半身にはスカートは穿けないので、前掛けのようなエプロンを尾の付け根で留める独特の装いだった。人間サイズの常識では計れない、ラミアならではの文化だ。

 

「タクミ様でいらっしゃいますね。お待ちしておりました」

 

深緑のメイドがにこりと微笑む。口の端から、二又に分かれた細い舌がちろりと覗いた。

 

「奥様が客間でお待ちです。どうぞこちらへ」

 

屋敷のなかは、さらに冷涼だった。

 

石造りの廊下は天井が高く、足音がよく響く。壁にはラミアの美意識を反映した装飾が施されていた。

 

絵画は風景や静物が中心で、人物画が異様に少ない。鏡もない。ラミアは視覚よりも嗅覚と触覚を重視する種族だと、昨日職員から聞いたのを思い出す。

 

その代わり廊下の要所には香炉が置かれ、微かに甘い煙を揺らめかせている。薄荷と、麝香と、あともうひとつ、名前のわからない花の匂いが混ざり合っていた。

 

「こちらが客間でございます」

 

銅色のメイドが重厚な両開きの扉を押し開く。

 

客間は想像以上に広かった。天井からは魔導式のシャンデリアが下がり、足下には分厚い絨毯。壁一面には薬草や香料の原料が陳列されたガラス棚が並び、薬学の名家であることを主張している。

 

そして部屋の中央。

 

長椅子というより寝台に近い優美な椅子に、とぐろを巻くようにして座っている女性がいた。

 

エゼルディア子爵夫人だろうか。

 

彼女は、ゆっくりとこちらを向いた。

 

「あら、いらっしゃい」

 

年齢はたしか四十二歳だと職員から聞いたような気がするな。

 

だが、見た目はもっと若い。三十代前半と言われても通るだろう。黒髪は濡れたように艶やかで、後ろでひとつに束ねている。

 

瞳は縦長の瞳孔を持つ琥珀色。肌は人間よりやや青白く、陶器のような滑らかさだ。

 

問題は服装だった。

 

(エロ……)

 

彼女は、ほとんど裸だった。

 

いや、厳密には着ている。着てはいるのだ。

 

しかし布面積が少なすぎた。

 

胸元は深くV字に開き、豊満な乳房の谷間が露わになっている。というか、乳房の半分以上が露出している。辛うじて乳首だけが隠れているが、布地は薄絹でぴったりと貼りつき、その形をくっきりと浮き立たせている。

 

腰から下はもちろん蛇の鱗に覆われているのだが、上衣と鱗の境界……人間でいう腰骨のあたりで、服は終わっていた。

 

さらに言うなら、上衣そのものがもはやベールと呼んだほうがいい透明度で、鎖骨も、肩甲骨も、臍も、すべてが見えているに等しい。

 

ラミアの文化ではこれが正装なのか?

 

だが、俺からすれば、ほとんど裸の美女がとぐろを巻いているようにしか見えなかった。

 

「どうしたの、突っ立ってないで。中に入りなさい」

 

「失礼します」

 

俺は平静を装いながら、部屋の中央へ進んだ。彼女の正面、約三メートルの距離で立ち止まる。

 

「エゼルディア子爵夫人ですね。本日は面接のお時間をいただき、ありがとうございます。私はタクミと申します」

 

彼女は返事をせず俺をじっと見つめてきた。

 

いや、見つめているのではない。

 

嗅いでいるのだ。

 

彼女の二又に分かれた舌が、ちろりと空気を舐める。ラミアの嗅覚は舌で空気中の分子を分析する……。

 

「ふぅん」

 

夫人はゆっくりと首をかしげた。束ねた黒髪がさらりと肩を滑る。

 

「昨日、エルフの女と寝たわね」

 

なんで分かるんだよ。

 

「それも、相当なババァよ。相手の匂いが染みついてる。……五百歳ってところかしら」

 

「おそれいります。そのとおりです」

 

「飲食店で例えるなら、食べかけの菓子を持ち込まれた気分だわ」

 

彼女はうっすらと笑った。高慢な笑みだったが、どこか面白がっているようにも見えた。

 

「まあいいわ。私、エゼルディア子爵夫人のシェリルよ。よろしく」

 

「よろしくお願いいたします、シェリル様」

 

「『様』はいらないわ。奥様でいい」

 

奥様も様、ついてないか?まぁいいや。

 

「はい、奥様」

 

シェリル夫人は長椅子の背にもたれかかり、優雅に尾をくねらせた。鱗が照明を受けて、深い藍色に光る。

 

「さて、タクミ。あなた、履歴書を拝見したわよ。異世界からの召喚勇者。スキルは【体力+1】。王宮から戦力外通告を受けて、いまは無職……」

 

「情報流通が早すぎてぐうの音も出ません」

 

「エゼルディア家の情報網を舐めてもらっては困るわ。王都の薬と香料を牛耳っているのよ、うちは。噂は空気みたいに流れてくるものなの」

 

彼女はそこで言葉を切り、琥珀の目を細めた。

 

「で、なんでうちのベビーシッターに?」

 

「仕事を探していたら、斡旋所で紹介されまして」

 

「他にも仕事はあったでしょう。なぜラミアの家を選んだの?」

 

「……正直に言っていいですか」

 

「ええ。嘘をついたら舌でわかるから」

 

「給料が一番よかったからです」

 

シェリル夫人は一瞬、きょとんとした。

 

そして、くすくすと笑い始めた。

 

「正直ね。気に入ったわ。みんな『お子様が好きだから』とか『ラミアの文化に興味があって』とか、つまらない建前を並べるのよ。金が目当てで何が悪いの。労働の対価ですものねぇ」

 

「あと、住み込み寮完備で朝夕食付きだったのもポイント高いです」

 

「あら、そっちが本命?」

 

「半々です」

 

夫人は笑みを深くした。ちろりと舌が覗く。空気を舐めている。

 

「……驚いたわ。あなた、嘘を言ってない」

 

「嘘をついても分かると言われましたから、正直に答えただけです」

 

「人間はたいてい、面接の場で何かしら嘘をつくものよ。『子供が好き』『ラミアに偏見はない』『体力には自信がある』。みんな嘘。でも、あなたは違う。金と住居と飯が目当て、それだけ。そういう正直者は嫌いじゃない」

 

彼女は尾をゆっくりと動かし、俺の足下あたりを這わせた。鱗が絨毯を擦る、さらさらという微かな音。

 

「でもね、タクミ。正直なだけでは雇えないの。うちの子たちはラミアよ。人間のベビーシッターにとっては、それだけでリスクなの」

 

「リスク……ですか」

 

「ええ、あなたにとってもね。それに巻きつきによる骨折。長時間密着された際の低体温症。それから長女は反抗期で、たまに壁に穴を開ける」

 

壁殴りする子供がいるとは恐ろしい。いや、壁尻尾殴りか……。

 

俺の身体が壁より強靭だといいんだけど。

 

「聞いてます」

 

「そのうえで、あなたにそれが務まると思う?」

 

「思います」

 

「根拠は?」

 

「【体力+1】です」

 

シェリル夫人の眉がぴくりと動いた。

 

「……本気で言ってる?」

 

「本気です。俺にはこれしかないんで」

 

そう、これしかない。だから俺はそう思い込むしかない。

 

嘘じゃないぞ。本気でそう思ってるんだ。

 

「スキルってのはね、種族の基本性能に上乗せされるものなのよ。人間の基本体力に+1したところで、ラミアの幼児の締め付けに耐えられるとは思えないのだけど」

 

「正直、やってみないとわからないです。でも、俺はエルフの五百歳と丸一日やって生きてます」

 

夫人はしばらく沈黙した。琥珀の瞳が、値踏みするように俺を見据えている。舌がちろちろと空気を舐める頻度が増えた。

 

「いいわ」

 

彼女はにわかに笑みを浮かべた。

 

「テストをしましょう。実技試験よ」

 

「実技試験、ですか」

 

「そう。あなたの体力と、ラミアへの適性を見せてもらう」

 

彼女はそう言うと、長椅子からするりと降りた。

 

床に着地した下半身は、藍色の鱗に覆われた大蛇そのものだった。太さは俺の腿ほどあり、長さは優に三メートルを超えている。這うように移動する彼女の姿は、優雅でありながら原始的な威圧感があった。

 

「メディ、アゼル、入ってきて」

 

夫人が呼ぶと、先ほどの深緑と銅色のメイドふたりが扉を開けて入ってきた。

 

「奥様、お呼びでしょうか」

 

「ええ。テストを手伝って」

 

「かしこまりました」

 

三人のラミアに囲まれている。しかも全員、下半身が蛇。じりじりと尾を引きずりながら距離を詰めてくる。

 

「な、なにを……?」

 

食われるんじゃないよね?

 

「安心して。命までは取らないわ」

 

夫人は笑っている。獲物を見る目だった。

 

「あなた、体温が高めね?」

 

「いや、平熱ですけど……」

 

「私たちラミアにはわかるの。それはあなたの【体力+1】の副次効果かもしれない。代謝が常人より優れている証拠よ」

 

そういう解釈もあるのか。ただの+1じゃなかったのか。

 

……いや、多分気の所為だろ。そんな効果モリモリでたまるか。

 

「だからこそ、試したいの。あなたの体温が、私たちラミアにとって快適かどうかを」

 

夫人が手を上げると、ふたりのメイドが左右からにじり寄ってきた。

 

「メディ、アゼル。巻いて」

 

「はい、奥様」

 

次の瞬間。

 

するするすると、深緑のメイドの尾が俺の右足に巻きついた。同時に、銅色のメイドの尾が左足に絡む。

 

「え、ちょっ──」

 

ひやり。

 

鱗はひんやりと冷たく、それでいて滑らかだった。締め付けはまだ強くない。いや、これから本気になるのだ。

 

「じゃあ、段階を踏むわよ。まずはメディから。強度その一」

 

「かしこまりました」

 

右足に巻きついた尾が、ぎゅっ、と締まった。

 

「……っ、これくらいなら」

 

「そう。じゃあ、アゼル、その二」

 

左足が、さっきより強く締まる。

 

「……っ!」

 

血管が圧迫される感覚。でも、まだ耐えられる。

 

「さあ、ここからよ」

 

夫人は俺のすぐ目の前まで這い寄ると、琥珀の瞳で俺を見上げた。

 

身長差があるので、彼女は自然と見上げる形になる。胸元がさらに露わになり、あわや乳首がこぼれるかという至近距離だ。

 

「メディ、アゼル。その三」

 

「はい、奥様」

 

ぎゅうううっ……!!

 

左右同時に、さっきまでの三割増しの力で締め上げられた。

 

「ぐっ……!!」

 

さすがに声が出た。膝ががくっと折れそうになるのを堪える。両足の血流が止まりかけているのに、不思議と上半身にはまだ余裕があった。

 

【体力+1】、これがそうなのか? 血行促進、あるいは耐圧性能の底上げか。

 

「……あら?」

 

シェリル夫人が意外そうに声を上げた。

 

「まだ立ってる。普通の人間なら、いまので膝をつくはずよ」

 

「肋骨はまだ、折れてないです」

 

「ええ、そうね。じゃあ……」

 

夫人は振り返り、何かを判断するようにメイドたちと視線を交わした。

 

「私も混ざるわ」

 

「は?」

 

彼女は微笑んだ。それはもう、完全に獲物をいたぶる捕食者の笑みだった。

 

「最終テストよ、タクミ。私が直接巻きつく。それに耐えられたら、あなたを正式に採用する」

 

「まっ――」

 

言い終わる前に、彼女の尾が俺の胴体に巻きついていた。

 

太くて、重くて、それでいて驚くほど滑らかな鱗が、俺の腰から胸にかけて一気に絡みつく。

 

「ひっ……!」

 

冷たい。足に巻きついたメイドたちより、さらに冷たかった。変温動物の体温がじかに伝わってくる。

 

同時に、彼女の上半身が密着した。

 

豊満な乳房が俺の胸に押し付けられる。薄絹越しに、体温の低い肌と、なぜか熱く感じる胸の感触が混ざり合う。

 

「動かないで。いまから少しずつ締めるから」

 

耳元で囁かれる。二又に分かれた舌が、俺の首筋をちろりと舐めた。

 

「……っ!」

 

「あら、ここ、敏感なのね。いい反応」

 

彼女はくすくすと笑いながら、尾の締め付けを徐々に強めていった。

 

ぎゅるるるる……っ。

 

蛇の尾が、服越しに俺の全身を這い回る。冷たい鱗と、圧迫される苦しさと。同時に、彼女の上半身の柔らかさと、甘い薄荷のような吐息。

 

「どう?まだ耐えられる?」

 

「だ、いじょうぶ……です……っ」

 

「凄いわね、あなた」

 

夫人の声が、少しだけ感心した響きに変わる。

 

「普通の人間なら泣いて謝る強さよ、いまの」

 

「わかんない……です……でも……」

 

「でも?」

 

「奥様……いい匂い、ですね……っ」

 

一瞬、締め付けが緩んだ。

 

シェリル夫人がわずかに身を引き、琥珀の目をぱちぱちと瞬かせる。

 

「……へえ」

 

彼女の口元が、ゆっくりと弧を描いた。

 

「いま、圧迫されてる最中に、私の匂いのことを考えてたの?ふふっ……そうなの……」

 

彼女は尾をゆるゆると解きながら、俺から少し離れた。

 

メイドたちも、それに倣って尾を引いていく。

 

「テストは合格よ」

 

「……え?」

 

「採用。あなた、今日からうちのベビーシッターよ」

 

シェリル夫人はさらりと黒髪をかき上げ、高慢な笑みを浮かべた。けれど、その琥珀の目には、さっきより少しだけ親しみが混ざっている気がした。

 

「体力も、耐性も、感受性も申し分ない。なにより、正直なのがいい。嘘をつく人間に子供は任せられないから」

 

「……ありがとうございます」

 

「あと、もうひとつ」

 

夫人はつかつかと──いや、這い寄ってきて、俺の耳元に口を寄せた。

 

「あなた、下半身は反応してなかったわね。あれだけ密着したのに。もしかしてエルフのババァで満足しちゃった?」

 

「……してました。奥様の鱗に隠れて見えなかっただけで」

 

夫人は三秒ほど沈黙し、それから声を上げて笑った。

 

「あっははは!面白い人間!気に入ったわ!」

 

彼女は笑いながら、もう一度俺の首筋を舌でちろりと舐めた。

 

「これからよろしくね、タクミ。期待してるわ」

 

琥珀の瞳が、獲物をいたぶる愉悦にぎらついている。

 

俺は、この屋敷で無事にやっていけるのか……というより、この奥様の前で無事でいられるのか、急に不安になってきた。

 

でもまあ、月銀貨二十五枚だ。

 

それだけあれば、ラフィエルに会えるし、他の風俗にも行けるかも……?

 

「……こちらこそ、よろしくお願いします」

 

俺は平静を装い、深く頭を下げた。

 

足にはまだ、冷たい鱗の感触が残っていた。

 

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