※この作品はR-18です。

【悲報】異世界風俗、嬢の平均年齢が500歳を超えている   作:フレキシブルコーギー

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48.全面戦争、一人十殺

「面倒なことになったわねぇ」

 

しゅるるるるる……。

 

毛足の長い高級絨毯の上を、艶やかな藍色の鱗がゆっくりと滑っていく。

 

蝋燭の灯りが揺らぐたび、部屋のあちこちを這い回る蛇の尾が、妖しく光を放った。

 

「そ、それは大変ですね」

 

俺は精一杯の平静を装って呟いた。声が震えているのは、たぶん空調のせいだ。

 

身体も震えている気がするが、気のせいだ。

 

「ねぇ、タクミ」

 

琥珀の瞳が、目の前で細められた。

 

「貴方って、面白いわね」

 

エゼルディア家の女当主・シェリル夫人が、俺の耳のすぐ横で囁く。薄荷と麝香の混ざった吐息が、首筋をかすめた。

 

「そ、そうですか? 俺、近所では歩く睡眠薬って呼ばれるくらい、面白みのない男として有名なんですけど……」

 

「面白くない男、ねぇ……ふぅん……」

 

──現在。俺はシェリル夫人の私室にいた。

 

豪奢な椅子に座らされ、夫人の蛇身でぐるぐる巻きにされ、拘束状態にある。

 

(どうしてこうなった)

 

記憶を遡る。

 

ペペロンチーノ二世としての人形業務を終え、今日は休日。だから朝から惰眠を貪ろうとベッドにもぐりこんだ、その瞬間だ。

 

『タクミさん、奥様がお呼びですよ』

『抵抗は無駄ですよ、あなた』

 

部屋に雪崩れ込んできたアゼルとメディに、有無を言わさず拉致されたのだ。

 

メディの尾で巻かれ、アゼルの尾で足を固定され、引きずられるように館を移動し──そして気づけば、シェリル夫人の前に座らされていた。

 

アゼルはともかく……メディ。お前は俺の仮番だろうが。夫を生贄に差し出す妻が、どこの世界にいるんだ。

 

悲しいね。異世界生活って、とっても悲しいね。

 

「ねぇ」

 

不意に、シェリル夫人の顔がずいっと眼前に迫った。

 

縦長の瞳が、値踏みするように俺を覗き込む。二又に分かれた細い舌が、ちろりと空気を舐めた。

 

「安心なさい。貴方は、ちゃんと面白いわ」

 

彼女の口元が、ゆっくりと弧を描く。

 

「──この私に、ヴァルグラン家との外交問題で、余計な手間を取らせるくらいには、ね」

 

心臓が、でかい音を立てた。

 

「ヴァルグラン家から、エゼルディア家へ正式な抗議文が届いたのよ」

 

シェリル夫人は優雅に髪をかき上げながら続けた。

 

「『そちらの屋敷の卑しい使用人が、我が家の純潔なる令嬢を誑かし、公衆の面前で孕ませ云々の破廉恥な狼藉を働いた。これは武門の誇りに対する由々しき問題である』……だそうよ」

 

(逆だよ! 誑かしてドスケベ要求してきたのはそっちの令嬢だよ!)

 

喉元まで叫びが出かかったが、ぎりぎりで呑み込んだ。

 

しかし、これはまずい……。

 

向こうは俺の素性まで掴んでいる、と。道理でシェリル夫人にまで話が行くわけだ。

 

「も、申し訳ございません……!」

 

とにかく謝るしかない。誠心誠意、事情を説明して謝るんだ。

 

言い訳は三流のすること。逆効果だ。

 

ここは大人として、誠実に──。

 

「──でも、これ、俺のせいじゃないっていうかぁ? 悪いのは百パーセントあっちで。俺はただ、借金取りに追われてた友人を助けようとしただけで。ほら、俺って一応勇者じゃないですか。困ってるゴブリンを前にすると、放っておけなくて。そこへ突然ケンタウロスの群れが現れて、いきなり槍を向けてきて。もう完全に俺、被害者なんですよ。そう、これはもう被害なんです。俺は何も悪くないのに、なぜか孕ませ男とか呼ばれてて!」

 

謝ろうと思ったのに、舌が意思を持って動き出した。どうしたことだろうか。

 

まぁでも、言い訳の内容は事実なんだ。俺は悪くない。

 

俺の弁明を、シェリル夫人は黙って聞いていた。

 

ひとしきり喋り終えた俺が息を切らせていると、彼女はゆっくりと身体をくねらせ、距離を取った。

 

「そうね」

 

「え?」

 

「貴方のせいじゃないわ」

 

──通った……?

 

自分でペラペラと言い訳しておいてなんだが、こんな幼稚な弁明が通用するとは露ほども思っていなかった。

 

てっきり俺は、問答無用で絞め上げられ、全身の骨を粉砕される展開を覚悟していたのに。

 

「うぎゃあ!!!」

 

と思った瞬間、尾の締め付けが倍増した。みしりと骨が鳴る。

 

なるほどな、時間差巻き付きか。ちくしょう。

 

「でも貴方が原因なのは、事実」

 

シェリル夫人の細い指が、俺の顎をくいと掴んだ。強制的に、彼女のほうへ顔を向けさせられる。琥珀の縦長瞳孔が、間近でぎらりと光った。

 

「でもね……貴方がエゼルディア家の使用人であることも、事実」

 

彼女の瞳の奥で、何かがちりちりと燃えている。

 

怒りではない。むしろ──愉悦の表情を浮かべている。

 

「だから私は、貴方のことを守ってあげるわ」

 

「ま、守る……?」

 

現在進行形で貴女に全身の骨を粉砕されかけているのだが、この状況のどこに保護要素があるというのだろうか。

 

「組織の一員が、たとえ過ちを犯したとしてもまずは徹底的に庇い立てして守り抜く。それが、集団の理……」

 

シェリル夫人の尾が、俺の身体を締めつけたまま、ゆるりと蠢く。

 

「だから貴方を守ってあげる。貴方が孕ませ男という最悪の不名誉を背負っていようが、誰かを殺そうが、国家転覆を企てようが──まずは一旦、身内として一緒になって戦う。それが家を守る秘訣なの」

 

(なるほどな)

 

どうやら俺個人に好意があるわけではなく、極道映画の組長みたいな任侠の信条を持っているらしい。

 

それにしても……一旦ね。

 

一旦、か。

 

(一旦が終わったあと、俺はどうなるんだろうな)

 

ヴァルグラン家との騒動が片付いた暁には、シェリル夫人の尾でそのまま絞め殺されるんだろうか。

 

「役目は終わったわね。じゃあケジメを付けて貰うわ」と微笑みながら、肋骨をぽきぽき折られる未来がちらつく。

 

あと、俺は孕ませ男ではない。決して……。

 

「でも、よかった……ありがとうございます、奥様。話をつけてくれたんですね」

 

さすがはエゼルディア家だ。極悪非道な先祖を持っているだけのことはある。

 

おそらくシェリル夫人が、持ち前の美貌と高度な政治的知略を駆使して、相手をなだめすかしてくれたに違いない。

 

やはり脳筋の馬鹿一族とは外交の格が違うぜ。見るからに知略で動くタイプだもんな、この人。

 

「えぇ、話はつけたわ」

 

夫人はにっこりと微笑んだ。

 

「これからヴァルグラン家と全面戦争に入るから、よろしくね。目標は一人十殺よ」

 

そうかそうか、全面戦争か。

 

ついに戦争か。厳しい戦いになりそうだ。しかし一人十殺とはなかなか高いノルマだな。

 

俺は勇者とはいえ戦力外だし、戦闘力にはあんまり期待しないでほしいところだが……。

 

「──はいッ!?!?」

 

そうじゃねぇ!!!

 

全面戦争!?!?

 

「え、ちょ、じょ、冗談……ですよね……?」

 

「私、冗談って嫌いなの」

 

彼女は笑っていたが、よく見ると瞳は笑っていなかった。

 

「は、話をつけたんじゃなかったんですか!? いまそう言いましたよね!?」

 

「つけたわよ」

 

シェリル夫人は当然のように頷き、長い舌でちろりと空気を舐めた。

 

「『うるせぇ、全員まとめて絞め殺してやるから胴を洗って待っていろ』──そう、ついさっき文書で送っておいたわ」

 

(交渉のこの字もねぇ!!!)

 

血の気が、ざあっと引いていく。宣戦布告じゃねぇか……!?

 

この人……全然知力タイプじゃなかった。完全に武力タイプだった。

 

「お、奥様……? 相手は国中の軍人を束ねる武家なんですよね……? そんな相手と、まともにやりあったら……!」

 

エゼルディア家は武門じゃないはずだ。調薬と香料で財を成した、由緒ある家──そう聞いた。なんで武家相手にケンカを売れるんだ。

 

「大丈夫よ」

 

シェリル夫人は、ふふっと鼻で笑った。

 

「数だけは多いけど、ほとんどが雑魚よ。正面から相手をする価値があるのは、せいぜい一人か二人。傘下にいる上位種の数だって、うちのほうがずっと多いわ」

 

「……上位種?」

 

なんか少し前に聞いた言葉だな。なんだったか……。

 

「あぁ、貴方は異世界から来たんだったわね」

 

シェリル夫人は俺の顎から手を離し、代わりに自分の胸元にそっと指を当てた。

 

「私はハイラミア。メディは、ただのラミア。アゼルは……ハーフだから少し事情が違うけど。まぁ、外見だけじゃあんまり違いはわからないわね」

 

「……はぁ」

 

見た目はシェリル夫人が一番エッチだが。

 

まさかエッチだから上位種ってわけじゃないだろう。そんな基準なら風俗街のエロ年増ババアたちはみんな上位種だ。

 

「見た目が同じなら、何が違うんですか?」

 

「そうねぇ。筋力も魔力も段違いだけれど──」

 

一拍。

 

そして、シェリル夫人は言った。

 

「一番は命令権かしら。私が下位種のラミアに『自害しろ』って言えば、彼女たちは迷わずに短刀で自分の喉笛を掻き切るわね」

 

一瞬。

 

部屋の音が消えたような気がした。

 

(え?)

 

いま、この人はなんと言った……?

 

「な、なにを……?」

 

「同じ種族の下位種限定だけれどね。上位種の命令には、下位種は逆らえないの。異世界から来た人間には理解しがたいかもしれないけれど、この世界の存在に刻まれた、一種の本能みたいなものよ」

 

冷や汗が背中を伝っていく。

 

彼女は平然としている。それが余計に恐ろしい。

 

命令ひとつで同族を強制的に自殺させられるという狂った事実を、この女は「まぁ本能だし」の一言で片付けているのだ。

 

「あ、でも安心して」

 

シェリル夫人は、ぱんと手を合わせた。

 

「昔はもっと酷い上位種がいっぱいいたんだけどね。三百年前の勇者が、あらかた皆殺しにしてくれたから。いま残ってる上位種は、比較的温厚な奴ばかりよ」

 

──全然安心できねぇ!

 

なんだこの世界は。勇者も大概やべぇ奴じゃねぇか。

 

それに複数の上位種に矛盾した命令をされたらどうなるんだ……? まさか脳がエラーを起こして爆発でもするのか……?

 

ていうか。

 

俺の目の前で、現在進行形で俺の肋骨をミシミシと圧迫しているこのハイラミア様が比較的温厚な部類に含まれるのだとしたら……。

 

絶滅した上位種はいったいどんなサイコパスだったんだ?

 

想像するだけでちびりそうだ。

 

俺が全身の力を抜き、震える膝をどうにか宥めていた、そのときだった。

 

「──ふふっ」

 

シェリル夫人が、突然悪戯っぽく笑った。

 

「ちょっと、脅かしすぎたみたいね」

 

「……え?」

 

「半分本当で、半分は冗談よ」

 

彼女は長い尾を揺らしながら、くすくすと喉を鳴らした。

 

「大昔の上位種には、たしかにそういう強制命令の力があったらしいわ。自害しろと言えば自害して、踊れと言えば死ぬまで踊った。でもね──いまは、その能力もずいぶんと薄まってる。少なくとも私は、誰かに自害を命じたりできないわ。安心して」

 

「……そう、なんですか」

 

よかった。

 

全身の力が、どっと抜けた。そうだよな。そんな理不尽がまかり通るわけがない。

 

同族に「死ね」と言っただけで死ぬような狂った世界で、正気を保って生きていけるはずがないんだ。

 

……いや、でも。

 

「大昔は、あった」か。

 

三百年前のこの世界には、そういう能力を持つ上位種がのさばっていた。そいつらを皆殺しにしたのが勇者で、その結果として今日の平和がある。

 

(……あぁ、良かった)

 

大昔のこの世界に召喚されなくて。心の底からそう思った。

 

「でも奥様。ひとつ腑に落ちないんですけど」

 

俺は首を傾げた。

 

「命令権っていうのは時間経過で薄まるものなんですか? 勝手に薄まるようなものじゃなさそうですけど」

 

「あぁ、それはね──」

 

シェリル夫人はそこまで言って、口を閉じた。

 

何かを考えている。いや、何かを──選別している。

 

「……まぁ、知りたいなら自分で探求しなさいな」

 

彼女はさらりと髪をかき上げ、いつもの妖艶な微笑みに戻った。

 

「せっかく異世界から来たんだもの。謎を追うのも、この世界での楽しみ方のひとつでしょう?」

 

「はぁ」

 

(正直、命を狙われてるわ貴族同士で戦争になりかけてるわで、探求もクソもないと思うんだが)

 

上司に逆らえる立場ではないので口には出さない。大人だから。

 

「そういえば、貴方」

 

不意に、シェリル夫人の声のトーンが変わった。

 

「ぽんぽこ亭に入り浸ってるんですってね。聞いたわよ」

 

(だ、誰だそんな個人情報をチクったのは!!!)

 

俺が薄汚い風俗街の飲み屋で、無職のオークやゴブリンや指名手配犯とつるんで、クズみたいな話題で盛り上がっているだなんて──。

 

いや、待て。

 

よく考えたら、初対面のときに「昨日エルフのババァと寝たわね」と言い当てられた時点で、俺の評価はもうどうしようもなく地に落ちている。

 

いまさら酒場通いがバレたくらいで、何かが変わるわけがない。

 

ならヨシッ。

 

「あそこは色んなものが煮詰まって混沌としているけれどね」

 

シェリル夫人は咎めるでもなく、むしろ愉快そうに言った。

 

「客にも上位種がたまに紛れてるから。話を聞いてみるといいわ」

 

「えっ? あんな掃き溜めみたいな場所に、上位種が……?」

 

(いたかな、そんなやつ)

 

常連客を脳内で検索する。

 

オークのゴルドン(無職)。ゴブリンのピギー(無職)。オーガのヴァラー(無職)。ガルナ(無職&指名手配中)。

 

あとは社会不適合の酔っ払いたち──。

 

うーん……。いたかなぁ、そんな無職。

 

しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。

 

「あのぅ、奥様」

 

俺はおそるおそる手を挙げた。

 

「ヴァルグランと戦争になるかもしれないって話でしたけど……そんな状況で、酒場にふらふら遊びに行ってる余裕、あります……?」

 

「タクミ」

 

彼女は、ゆっくりと俺の頬に手を伸ばした。

 

「貴方がもし、ヴァルグランとの争いを本気で止めたいなら──」

 

琥珀の瞳が、真っ直ぐに俺を見つめる。

 

「貴方は、貴方がしたいように動きなさい。ぽんぽこ亭とあの風俗街は貴方が、貴方らしくいられる場所でしょう?」

 

(……どういう意味だ?)

 

もしかして馬鹿にされてる? 「お前には薄汚い場所がお似合いだ」みたいな?

 

それって普通にひどくない? 仮にも使用人に向かって?

 

でも……。

 

戦争を止めたいなら、俺らしく。

 

俺らしくって、なんだ?

 

俺はハズレ勇者だ。スキルは【体力+1】だけ。

 

剣も持てなければ、魔法も使えない。戦場で役に立つことなんてひとつもない。そんな俺が、自分らしく戦争を止める方法なんて……。

 

そのとき。

 

ぎゅるるるる……っ。

 

俺の身体に巻きついていたシェリル夫人の長い尾が、一気に解かれた。

 

「わぷっ」

 

突然の解放に、俺はバランスを崩して椅子からごろりと転がり落ちる。顔面から絨毯に突っ込んだ。

 

「さぁ。今日は休日でしょう」

 

シェリル夫人は笑いながら、床に転がる俺を優雅に見下ろした。

 

「ぽんぽこ亭にでも行って、羽を伸ばしてきなさいな」

 

この人、なにを考えてるんだろう。

 

まったく読めない。戦争だと言ったかと思えば、気楽に遊んでこいと言う。

 

でも、俺に拒否権はなさそうだった。そもそも拒否したところで、また尾で絞められるだけだ。

 

俺はよろよろと立ち上がり、服についた絨毯の繊維をぱたぱたと払った。

 

「じゃあ……お言葉に甘えて……」

 

背を向けかけたそのとき、ふと疑問が脳裏に浮かんだ。

 

「あの……そういえば」

 

「なに?」

 

俺は尋ねた。

 

「人間にも、上位種っているんですか? あと、命令権が弱まったって、具体的にはどこまで……」

 

ラミアにハイラミアがいるなら、人間にも何かいるのだろうか。

 

それに──弱まったということは、まだゼロではないということだ。そのイカれた支配系統が、いまもどこかで生きている。

 

ならば、種族・人間としては知っておきたい。人間の上位種と会わないようにしたいからな。

 

「……」

 

俺の質問が予想外だったのだろう。

 

シェリル夫人はきょとんと瞳をぱちぱちさせて、しばらく俺の顔を見つめていた。

 

沈黙。

 

(……聞いちゃいけないことだったか?)

 

不安になってきた。蛇の尾に巻きつかれるんじゃないかと身構える。

 

しかし彼女は、すぐに笑いを堪えるような表情になった。

 

怒ってはいない。むしろ──何か面白いものを見つけたような顔だ。

 

「ふふ……そうね。気になるわよね、それは」

 

シェリル夫人は優雅に尾をくねらせ、言った。

 

「人間の上位種はねぇ、貴方もよく知ってるじゃない」

 

「俺が……知ってる?」

 

人間の上位種に? いままでそんな大層な肩書きの奴と会った覚えはないぞ。

 

俺が眉をひそめて悩んでいると、シェリル夫人はあっさりと種明かしをした。

 

「人間の上位種は……勇者よ」

 

「──えっ?」

 

勇者。

 

勇者が、人間の上位種だって?

 

(うそだろ!?)

 

さっき彼女は言ったはずだ。上位種は筋力も魔力も下位種とは段違いだ、と。

 

でも俺は、そこらを歩いてる普通の人間に腕相撲で普通に負ける自信がある。スキルは【体力+1】だけだ。

 

そんな俺が、上位種?

 

でもシェリル夫人は嘘を言っている顔じゃない。これは本気だ。

 

じゃあ……ホントに?

 

「俺も、一応勇者なんで……普通の人間に対して、そういう命令権が使えるってことですか……?」

 

「まぁ、そういうことよ」

 

なんてこった。

 

俺も狂った世界のシステムに、ちゃっかり組み込まれていたのか。

 

いや、それよりも。

 

それよりもだ。

 

「じ、じゃあ!!」

 

俺は思わず前のめりになり、食い気味に叫んだ。興奮のあまり喉がひっくり返りそうになった。

 

「具体的にはどのくらい!? どんな命令までできるんです!? 普通の人間の、女の子とかに!!」

 

別に悪用しようと思ってるわけじゃない。

 

断じて。

 

俺は勇者だ。誇り高き勇者だ。たとえ戦力外通告を受けたハズレ勇者でも、心は聖なる使命で満ちている。

 

間違っても命令権を駆使して、街の美少女を意のままに操り、あんなことやこんなことといった邪悪で破廉恥なシチュエーションを合法的に企てようなどとは考えていない。

 

ただ、純粋な知的好奇心というか。

 

後学のために、ね?

 

勇者としての責務を負っている以上、己の権能の限界を正確に把握しておく義務がある。

 

そういうことだ。

 

「そうねぇ」

 

シェリル夫人は、俺の食いつきように苦笑しながら、尾の先でとんとんと自分の顎を叩いた。

 

しばらく天井を見つめて、そして──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全裸でアヘ顔ダブルピースを決めさせて、ガニ股で絶頂しながら大通りを歩け──くらいなら、命令できるわよ」

 

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