※この作品はR-18です。

【悲報】異世界風俗、嬢の平均年齢が500歳を超えている   作:フレキシブルコーギー

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51.殺すか、惚れさせるか

「うむ。うまかったぞ。まともな食事にありつけたのは、実に久方ぶりだ。褒めて遣わす」

 

「そりゃあ、どうも……」

 

テーブルの上には、空になった皿が何枚も積み重なっている。運ばれてきた料理の八割を彼が平らげ、俺の口に入ったのは付け合わせのパセリくらいだ。

 

俺は頬を痙攣させながら、ヴァンパイアの大食いショーを指をくわえて見守るしかなかった。

 

しかもこの男、食べるだけじゃない。ひたすら喋りまくるのだ。

 

『いやぁ、参ったよ。ニンニクの大規模栽培に出資しないかと持ちかけられてね。月利五十パーセント。いま思えば疑うべきだった』

 

ヴァンパイアがニンニクの栽培投資で騙されるとは。そもそも月利五十パーセントの時点で怪しんだ方がいいと思う。

 

「それでだね、貴殿」

 

アルヴェインはナプキンで口元を拭いながら、話を本題に戻した。

 

「ヴァルグランの令嬢に孕ませ宣言をして、いま追われているのだったか」

 

「俺の話、聞いてました? 俺が孕ませ宣言されて、理不尽に追いかけられてるんです」

 

なんでみんな俺のことを孕ませ宣言した側だと認識するんだ。

 

俺の顔か? 俺の顔に孕ませたいって何か書いてあるのか?

 

「しかしヴァルグランか。あの一族は、相変わらずなようだな」

 

彼はグラスを傾け、高い酒を優雅に口に運んだ。

 

「相変わらず……というと、何かご存じなんですか?」

 

「いやなに。三百年前のことを、ふと思い出してね」

 

三百年前。度々出てくる時代。つまり彼は、少なくとも三百歳以上ということか。

 

「ヴァルグランの先祖──勇者パーティの一角だった英雄はな、勇者にぞっこんだった。並々ならぬ執着を抱いていたのを、ふと思い出してな」

 

(……ぞっこん?)

 

ヴァルグランのご先祖さまが、勇者に、ぞっこん。

 

「えーっと……ヴァルグランのご先祖の英雄というのは、女性の方なんです?」

 

「いや、男だ」

 

「……?」

 

「じゃあ、勇者のほうは女性だったんです?」

 

「いや、男だ」

 

おかしいな。

 

両方、男。ぞっこん。

 

理解が追いつかない。いや、理解したくないのかもしれない。

 

「まぁ、そういうわけでな」

 

アルヴェインはグラスを置き、深紅の瞳を細めた。

 

「貴殿がいきなり、令嬢とやらにあの宣言をされた理由は察しがつく」

 

──え?

 

「ど、どういうことですか!?」

 

俺は思わずテーブルに身を乗り出した。

 

(ついに……! ついに謎のドスケベ宣言の理由を知ってる人物が現れた……!)

 

リディアがなぜ俺に「交尾して孕ませてほしい」と言ったのか。

 

あの場で理解できず、噂は歪み、気づけば俺が加害者扱い。そのすべての起点になった謎が、いま解き明かされようとしている。

 

(よかった……! 俺が高い酒と料理を奢ったのは、無駄じゃなかったんだ……!)

 

ちんぽ丸出しの変態露出狂に金を吸い取られただけじゃなかった。意味があった。ちゃんと意味があったんだ。

 

俺は感動で目頭が熱くなった。

 

「落ち着きたまえ」

 

アルヴェインは、興奮して立ち上がりかけた俺を手で制した。優雅な仕草でグラスをくるりと回す。

 

「原因がわかったところで、いまの状況は解決しないぞ」

 

「え? そうなんですか?」

 

「そうだ。彼女がなぜあの言葉を口にしたか。その理由を知ったとしても、すでに噂は広がり、騎士団は動いている。原因の解明だけでは、この流れは止まらん」

 

(……たしかに)

 

理由がどうあれ、もうガルナが騎士を半殺しにしている。シェリル夫人は宣戦布告を送りつけている。

 

原因の追求は後回しで、いまは目の前の火事を消さなければ。

 

「では、どうすれば」

 

「簡単なことだ。原因ではなく今の状況を、いかに利用して解決するか。それを考えるのだ」

 

「今の状況を、利用?」

 

「そうだ」

 

彼は指を一本、ぴんと立てた。白い手袋に包まれた人差し指が、ランプの灯りを反射してかすかに輝く。

 

「貴殿には、利用できるものが二つある」

 

一拍。

 

「ひとつは余の力を借りる、ということだ」

 

力を借りる。

 

この下半身裸で無一文で、借金まみれのおじさんの?

 

(正直なところ、力なんて微塵もなさそうなんだが……)

 

俺の困惑を読み取ったのか、アルヴェインはにこやかに微笑んだ。

 

「貴殿は余に食事を奢ってくれた。そして喉を潤すための酒も」

 

彼は俺をじっと見つめながら、続けた。

 

「ならば、その恩は必ず返さねばならぬ。これでも余は、借りを返さぬ恩知らずではないのでな」

 

彼は優雅にグラスを傾け、最後の一滴を飲み干した。からんと氷が鳴る。

 

「余はね……呪いの魔法を、少々嗜んでいてな」

 

ぱちん。

 

白い手袋に包まれた指が、軽やかに鳴らされた。

 

「!?」

 

瞬間、何もなかった空中に、真紅の霧が渦を巻いて現れた。それはぐるぐると形を変えながら、やがて人の頭蓋骨の形を成す。

 

眼窩の空洞がぎらりと輝き、歯のない顎がかちかちと笑っているように見えた。

 

ただの幻影じゃない。空気が震えている。ぽんぽこ亭のランプの灯りが一斉にちらつき、隣の席の客たちが怯えたように身を縮めた。

 

「貴殿が望むならば」

 

骸骨が、ぱん、と弾けて血煙に戻る。

 

「ヴァルグランの下につく者ども全て。老いも若きも、女子供までも。まとめて腐り落ちる呪いを掛けてやっても構わぬ」

 

「……え?」

 

殺す。

 

いま、この人はなんの前置きもなく殺すと言った。

 

「い、いや……別に、殺してほしいとかじゃなくて……!」

 

「何故だね」

 

アルヴェインは首をかしげた。深紅の瞳が、心底不思議そうに俺を見つめている。

 

「相手は貴殿を殺そうと向かってきているのだ。ならば、殺し返して何の問題がある。これは正当防衛というものだ。理屈は通っている」

 

「いや、関係のない女子供まで殺したら正当防衛じゃないでしょう」

 

「あぁ、なるほど」

 

彼は何かに思い当たったように、手を打った。血の霧が彼の肩のあたりで静かに渦を巻く。

 

「貴殿は、敵や無関係の者に情けをかける輩か。優しいのだな」

 

次の瞬間。

 

アルヴェインの身体が、霧のように揺らいだ。

 

気がつくと、彼はもう向かいの椅子には座っていなかった。

 

俺の真横。肩が触れ合うほどの距離に、銀髪のヴァンパイアが立っている。いつの間に移動したのか、まったくわからなかった。

 

「余は殺せるぞ」

 

耳元に、氷の針のような声が刺さる。

 

「例えそれが産まれたばかりの赤子であろうと。腹に子を宿した妊婦であろうと。一切の慈悲も情けもなく、殺してみせよう」

 

彼の指が、俺の首筋を撫でた。

 

冷たい。異常に冷たい。まるで死人のようだ。

 

「貴殿は短命種ゆえ、余の恐ろしさを知らぬのであろう。仕方あるまい。三百年も平和が続けば、人間はすぐに忘れるのだから」

 

爪が僅かに首に食い込んだ。

 

「見せてやろうか?」

 

ぞわり。

 

全身の毛穴が、一斉に恐怖で開いた。蛇に睨まれた蛙というレベルじゃない。自分が生き物ですらない、ただの肉の塊に感じられるような恐怖だった。

 

「呪いなど必要ない。余が、ほんの少し爪を動かすだけで。この酒場にいる下位種どもは全員、即死するぞ」

 

あぁ、そうか。

 

俺はようやく理解した。

 

こいつを見た瞬間に全身がすくんだ理由。シェリル夫人やコッペリアとは、まったく違う怖さの正体。

 

こいつは……本当に狂っているんだ。

 

コッペリアもたぶん、過去に凄惨なことをしてきたのだろう。勇者に姉妹を殺され、狂った憎しみを抱いている。

 

でも、彼女とは違うような気がした。

 

口元に浮かんだこの男の笑みが、その証拠だ。

 

こんな会話をしているいま、この瞬間、彼は心の底から楽しそうだった。

 

「遠慮することはないぞ。余としても、久方ぶりにまともな食事にありつかせてくれた礼がしたい。貴殿が殺してくれ、とひと言口にすれば、ヴァルグランの下につく者どもは今夜のうちに根絶やしだ。女子供も。乳飲み子も。全員の血肉がどろどろに腐り落ちて、肥料にもならない肉塊へと変わるだろう」

 

彼の声が、怪しく鼓膜に届く。

 

「あぁ、後ろ暗いか? バレるのが怖いか? ならばいま、この場にいるすべての者を始末してやろう。そうすれば、この話は貴殿と余だけの秘密──」

 

「──そういうのは、やめてください」

 

気がつくと、俺はそう言っていた。

 

なんでだろう。

 

相手は、俺なんかよりずっと強い。この酒場の全員を一瞬で殺せるというのも、たぶん誇張じゃない。首に添えられた指が、ほんの少し動くだけで、俺の命は終わる。

 

そんな相手に、なんでこんなことが言えるんだろう。

 

でも言わずにいられなかった。

 

「……ほう?」

 

アルヴェインの動きが止まった。

 

でも不思議なことに、彼は不機嫌そうな顔をしなかった。むしろ思いがけない玩具を見つけた子供のように、興味深げな表情を浮かべている。

 

「理由を聞いてもいいかな。それが最も手っ取り早く、確実な解決策だ。そうは思わないかね」

 

「俺は……相手を殺してまで、生き延びたくないんです」

 

綺麗事だ。自分でも、わかってる。

 

本当に殺されかけたら、俺だってどうするかわからない。命の瀬戸際で「殺すな」なんて言えるほど、俺は聖人じゃない。

 

でも──。

 

少なくとも、いまこの瞬間だけは。そういう方法を選びたくなかった。

 

「……」

 

アルヴェインは、静かに目を丸くした。それから──ゆっくりと目を閉じる。

 

長い沈黙が、ぽんぽこ亭を包んだ。

 

「そうか」

 

彼は、目を閉じたまま呟いた。

 

さっきまでの愉悦のこもった声とは違う。なにか、ずっと遠くを見ているような……。

 

「お前もそんなことを宣うか」

 

(……?)

 

いま、なんて。

 

俺が聞き返そうとした──そのとき。

 

「やいやいやいやい!!! このクソ変態ヴァンパイアジジイ!!!」

 

耳をつんざく怒号が、ぽんぽこ亭に炸裂した。

 

がばっ。

 

俺とアルヴェインのあいだに割って入ったのは、灰色の尻尾を逆立てたガルナだった。彼女は俺の襟首を掴んでぐいっと引き剥がし、アルヴェインとのあいだに自分の身体をねじ込む。

 

「タクミがよぉ、テメェみたいな外道の甘言に乗るわけねぇだろ! こいつはな、風俗好きなただのダメ人間だ! 人殺しなんてできるタマじゃねぇんだよ!」

 

なんかフォローになってるのかなってないのかよくわからないが、とりあえず来てくれてありがとう、ガルナ。

 

「寝言はなぁ、まずパンツを履いてから言えや、露出狂が!」

 

ガルナはアルヴェインの下半身を指さし、怒りの表情を浮かべた。よかった。俺以外にも、彼の露出にツッコんでくれる奴がいて。

 

割り込んできたのは、ガルナだけではなかった。

 

「アルヴェイン卿」

 

ポンコが煙草の煙をゆらりと揺らしながら歩み寄ってきた。

 

「御戯れは、どうかそこまでで」

 

彼女はさりげなく、店の奥へと視線を流した。

 

「あぁ。そう言えば本日はエルシェラ様もお見えのようで。それに、他の上位種の御方もお見えになっておりますよ」

 

アルヴェインの深紅の瞳が細められた。

 

(……なんだ?)

 

俺は無意識に、彼の視線を追っていた。

 

店の奥。ぽんぽこ亭の喧騒から少し離れた薄暗い席に、小柄な緑髪のエルフの少女が背を向けて座っている。

 

長い耳が髪の隙間から覗いているが、彼女は振り返りもしない。静かに、一人でグラスを傾けていた。

 

別の場所。黒い角を生やした大柄な男が、組んだ腕の上に顎を乗せ、ぎらりと光る目をこちらに向けている。

 

さらに窓際にもう一人。深く外套を被った何者かが、酒杯を持つ手をテーブルの上で止めたまま、微動だにせずアルヴェインを凝視していた。

 

誰も立ち上がらない。誰も声をかけない。

 

なのに──空気が……変わった。

 

さっきまで酒場中を押し潰していた悍ましい気配が、薄らいだ気がした。

 

「なるほど」

 

アルヴェインが笑った。

 

「今夜は随分と客入りがいいようだ」

 

「えぇ、お陰様で」

 

彼はゆっくりと、元いた席へと戻っていく。

 

俺には、ポンコとアルヴェインの会話の意味はよくわからなかったが……とりあえず、収まった……ということでいいのだろうか。

 

「タクミ、気をつけろよ」

 

ガルナが耳打ちしてくる。狼の耳が、警戒でぺたんと倒れていた。

 

「上位種ってのはなぁ、いまは大人しくしてっけどよ……本性はみんな、ああいう化け物なんだ。特に長命種は、根性がとことんねじ曲がってやがる」

 

俺は、その言葉ではっきりと理解した。

 

ぽんぽこ亭の面々がアルヴェインを恐れていた理由。

 

それは、金をたかられるからだけじゃない。こいつが残酷無比な存在だと、みんな知っていたからだ。

 

(上位種っていうのは、命令権なんて使わなくても……恐ろしいんだ)

 

だとしたら。大昔に命令権なんてものがあった時代の上位種は、いったいどれだけ悍ましい存在だったんだろう。

 

シェリル夫人は、勇者が酷い上位種をあらかた皆殺しにしたと言っていた。

 

でも……そこに、この男は含まれなかったのか……?

 

「興が削がれてしまった。今回は手荒な真似は控えるとしよう」

 

(興、か)

 

この男にとって人間の生死は、ただの娯楽でしかないらしい。

 

ガルナがまだ、ぐるると喉を鳴らしてアルヴェインを警戒している。

 

なんだろう。ガルナも十分やばい奴のはずなのに、いまは頼もしく見える。

 

「しかしだ」

 

アルヴェインが、くるりとグラスを回した。

 

「ならばこそ──もう一方の手段を利用して、この状況を打破するしかあるまい」

 

(もう一方……?)

 

あぁ、そういえば。さっき彼は二つ、利用できるものがあると言っていたな。

 

一つ目が彼の力を借りることで、いまそれが見事に破綻した。

 

しかし、あれだけふざけた一つ目だったんだ。二つ目もどうせ碌でもないに決まってる。

 

「なにも難しく考えることはない」

 

アルヴェインは、こともなげに言い放った。

 

「その令嬢、貴殿と交尾したいのだろう。ならば、その望みを叶えてやればいいじゃないか。──彼女の願いを利用すればいい、ということだ」

 

俺とガルナは、同時に顔を見合わせた。

 

「なぁ、タクミ」

 

「こいつ変態の上に、頭もおかしいっぽいぞ」

 

ガルナにそれを言われたら、もうおしまいだ。

 

だけど……本当にそうとしか言いようがない。

 

令嬢と交尾しろだって? それが原因で俺は追われているのに?

 

「冗談かと思うかね」

 

アルヴェインは涼しい顔で言った。

 

「いいや。これこそが、最も理に適った最適解だ」

 

最適解なら、さっきの皆殺し案はなんだったんだ。

 

さっきはまとめて腐り落とすとか言ってなかったか。選択肢の振れ幅が極端すぎる。

 

「よく考えるがいい。いま相手にすべきは、ヴァルグランの騎士団ではない。あの令嬢、ただ一人だ」

 

彼は指先でグラスの縁をなぞりながら続けた。

 

「ヴァルグランがいきり立っているのは、純潔なる令嬢が下賤な男に誑かされたという大義があるからに他ならぬ。ならば大義そのものを、消してしまえばいい」

 

「大義を?」

 

「そうだ。令嬢自身の口から、こう言わせるのだ。『私は騙されたのでも、辱められたのでもない。自らの意思で、この男を選んだのだ』と」

 

彼はゆっくりと瞬きをした。

 

「娘を守るために剣を抜いた家が、その娘本人から『余計なことをするな』と言われれば、どうなる。次に振るう剣は、もう娘のためではなくなる。ただの意地と面子だ。そして、そのような戦いほど脆いものはない」

 

うーん。

 

(そういうものなのか……?)

 

彼が言っていることは一理あるようにも思える。

 

「まぁ、つまりだな」

 

アルヴェインの口調が、急に軽くなった。

 

「あの娘を、貴殿なしでは生きられぬほど、とことん惚れさせればよい」

 

(急に雑になったな!?)

 

さっきまでの理路整然とした説明はどこへ行った。惚れさせればよいって、そんな原始的な解決策があるか。

 

「ち、ちょっと待ってくださいよ。俺が令嬢を誑かしたって言われて追われてるのに、本当にぞっこんにさせたら、それこそ相手の主張を事実にするだけじゃないですか」

 

「違う」

 

彼は首を振った。

 

「密かに誑かした不埒者と、公然と選ばれた男とでは、意味がまるで異なる。あちらは盗人。こちらは伴侶だ」

 

そうかなぁ。

 

ていうか、リディアは既に公然とあの宣言をしたんだが。街中で騎士団の目の前で。

 

あれは「公然と選んだ」にはカウントされないんだろうか。

 

それにあのレベルの宣言をするくらいだ。とうの昔に俺にぞっこんなのでは……。

 

俺の微妙な表情を見て、彼は言った。

 

「勘違いするな。交尾を望まれたことと、伴侶として選ばれたことは同じではない。必要なのは、あの娘が己の家と騎士団を敵に回してでも貴殿を庇うほど、明確に貴殿を選ぶことだ」

 

そう……なのだろうか。

 

「だがひとつ問題がある」

 

「……なんでしょう」

 

ひとつか? 本当に……。

 

「ヴァルグラン一族は、れっきとした上位種だ。上位種の女は下位種と同じ感覚で扱ってはならぬ。力も、本能も、価値観も、まるで違う。貴殿は上位種の女というものを知らなすぎる」

 

(まぁ……上位種の女性とセックスしたことはないな)

 

価値観が違うのは、リディアのあの爆弾発言で嫌というほど思い知らされたぜ。

 

「ならばこそ、だ」

 

アルヴェインは、ぱちんと指を鳴らした。

 

「上位種の風俗店に行き、上位種の女をとことん虜にする練習を積んでから、令嬢に会いに行くべきだ」

 

俺とガルナは、また顔を見合わせた。

 

「なぁ、タクミ。こいつやっぱり頭おかしいぞ」

 

俺もそう思う。

 

でも……彼の言うことも一理あるかも……? ていうかそれ以外に方法がないのも事実……。

 

「あー……まぁ……そうなんですかねぇ……?」

 

「そうだ」

 

下半身を露出した変態おじさんの言うことを、信じていいものかどうか。

 

少なくとも、さっきの「皆殺しにしてやろうか」よりは、百倍くらい常識的な案だけど。

 

「でも、いまヴァルグランの騎士たちが街中を走り回ってるんです。その上位種の風俗店とやらに行きたくても、外を歩いた瞬間に串刺しにされちゃいます」

 

「なんだ。そんなことを心配しているのか」

 

彼は、口の端を持ち上げた。

 

「上位種を抱えているような店は、たいてい超高級店だ。当然、迎えくらい手配してくれるぞ」

 

「迎えに来てもらったところで、街を移動したらやっぱり見つかるんじゃ……」

 

俺の言葉を、彼は指一本で遮った。

 

「では、こういうのはどうだ」

 

アルヴェインは空になったグラスを弄びながら──愉快そうに言った。

 

「地上からではなく空から迎えに来る店なら、騎士団もそう簡単には追えまい」

 

「空から?」

 

「そうさ」

 

そして彼は言った。

 

「空を飛ぶ女──ハーピーを抱きたまえ」

 

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