※この作品はR-18です。

変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来第2編・江戸での血車党との対決   作:shpfive03

10 / 42
その頃、江戸では、その二・『毒蛾くノ一楓』が語る血車党の未来

 

「バカなこと言わないで、誰が血車党なんかに!!」

 

毒蛾の化物そのものの姿をした化身忍者毒蛾くノ一から『化身忍者にならない?』などと誘われ、さすがに螢火は激昂した。

 

が、化身忍者毒蛾くノ一は、あっさりと答える。

 

「なら、今すぐにでも舌を噛んで自決したら?

 

私はあなたにそれが出来るとは思わないし、すべきではないとも思っているけど」

 

言いながら『毒蛾くノ一楓』は、かつて、自分が血車党に囚われの身となり、本当に舌を噛んで自決しようとしたことを思い出していた。

 

 

あの時、骸骨丸様が術をかけてくださっていなかったら

 

そして、自分を説得してくださらなかったら

 

とっくに自分は舌を噛んで、自らの命を絶っていただろう。

 

そして、自分がそこで自決したところで

 

既に両親もなく、孤児として服部組に育てられた自分の死に、誰かが何かの報いを施してくれるわけでもない。

 

使い捨てのくノ一が一人、『お役目失敗』で死んだに過ぎない

 

 

そんな伊賀が『正義』などであるものか!

 

 

螢火は、目の前の毒蛾くノ一のその言葉を聞いて怪訝に思った。

 

化身忍者毒蛾くノ一は、さらに

 

「少なくとも、あなたには夜叉丸という思ってくれる人がいる。そのことは忘れちゃダメ!、だから自決ならさせない。ただし」

 

と言うと、そこで言葉をいったん切り

 

「私たちに逆らい、ここから逃げ出そうというのなら、そして、無駄な抵抗をするというなら、その時は容赦なく殺す!、それは言っておくわ」

 

と威圧的に螢火に告げた。

 

螢火は、目の前の化身忍者による威圧的な言葉に反発心を感じながらも

 

この化身忍者の内面の『優しさ』のようなものを感じ、戸惑った。

 

その螢火の戸惑いを、化身忍者毒蛾くノ一は見逃さない。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「あなた、もちろん『天正伊賀の乱』のことは知っているわよね?」

 

化身忍者からの唐突な問いかけに、螢火は眉をひそめながらも頷いた。

 

「当然よ。織田の大軍によって我が故郷が蹂躙された、伊賀の者なら誰もが忘れることのない悲劇よ」

 

「そう、あなたたちはそれを『理不尽な悲劇』と教わるのね」

 

フフッ、と化身忍者毒蛾くノ一は冷ややかに笑う。

 

「でもね、当時の伊賀忍者が何をしていたか知っている? 金で雇われればどこの大名にも兵を貸し、諸国を混乱に陥れて天下をかき乱していた。織田信長に目を付けられたのは、それが理由よ。当時の伊賀忍たちは、ただ、あの乱世を泥をすすってでも生き残るために、そうするしかなかったの」

 

螢火は、化身忍者の言葉に強い反発を覚えながらも、反論の言葉を探すように身構えた。

 

「それは……生きるための戦いよ! 今のあなたたち血車党の悪行とは違う!」

 

「いいえ、全く同じよ!!」

 

化身忍者毒蛾くノ一は冷徹に、しかしどこか自嘲気味に言葉を重ねた。

 

「今の私たち血車党だってね、徳川の泰平の世の影で、生きていくために、滅ぼされないために必死で戦っているのよ。生き残るために手段を選ばない伊賀の過去と、今の私たちの戦い――いったい何が違うというの?」

 

螢火は息を呑み、目を見開いた。

 

「えっ……!? そんな……」

 

「これは紛れもない事実よ。今の伊賀でも、例えば古老の百地仙人あたりなら、その時代の生々しい実態を知っているはずだわ」

 

百地仙人というのは、現在の百地本家の当主、源太夫の父であり、今は『仙人』と号して、故郷の伊賀国名張で隠居生活をおくっている人物のことである。

 

「当時、天下統一を進めていた織田信長にとり、伊賀の忍軍は統治を阻む最大の敵対勢力であり、排除すべき邪魔者だった。今の徳川にとっての血車党と同じようにね」

 

化身忍者毒蛾くノ一は皮肉っぽく笑う。

 

「織田家は五万の正規軍を動員し、伊賀国で殺戮と略奪、暴行を繰り返した。女子供や老人まで総動員で抗戦したものの、結果は三万人以上の凄惨な虐殺……伊賀者なら誰もが血涙を流す歴史のはずよ」

 

螢火は唇を噛みしめた。

 

故郷に伝わるその惨劇の記憶は、もちろん知っている。だが、目の前の化身忍者が語るそれは、単なる過去の哀悼ではなく、あまりにも冷酷な「権力者の都合」としての歴史だった。

 

「だけど、あなたたちはその先を深く考えない」

 

化身忍者毒蛾くノ一は、さらに言葉を尖らせる。

 

「当時の徳川家康は、その織田の最も忠実な同盟者であり、伊賀が蹂躙されている間もただ傍観していた男よ。それが『本能寺の変』で信長が討たれ、上方にいた家康が三河へ逃げ延びる際、服部半蔵ら伊賀の生き残りが手を貸した――いわゆる『神君伊賀越え』ね。そこからよ、徳川が伊賀を重用し始めたのは」

 

螢火は息を呑んだ。

 

美化された恩義の歴史の裏にある、あまりにも打算的な政治の匂いに圧倒される。

 

「徳川は『自分の命を救った便利屋』だから伊賀を飼い慣らし、牙を剥く恐れのある他の忍軍は容赦なく潰そうとしている。我が血車党もね、決死の思いで立ち上がらなければ、今頃は歴史の闇に跡形もなく消し去られていたわ!」

 

螢火は、目の前の化身忍者が放つ凄まじい熱量と論理に圧倒され、言葉を返すことができなかった。

 

「言いたいことは一つよ。『権力者』という生き物は、都合の悪い敵対勢力に対して、簡単に『悪党』のレッテルを貼って殲滅を正当化するということ。だからといって、殲滅される側が『はい、そうですか』と首を差し出すわけがないでしょう!」

 

ここで化身忍者毒蛾くノ一は、射すくめるような視線を螢火へ向けた。

 

「あなたたち伊賀忍は、天下人となった徳川の後ろ盾があるから、『正義』を大義名分にできる。でもね、私たち血車党にだって生きるための言い分がある! そして――」

 

化身忍者毒蛾くノ一はフッと誇らしげに頭を上げた。

 

「血車党の持つ技術力は、あらゆる面で徳川の旧態依然とした技術を凌駕しているわ。現に、この私は化身忍者の力で空を飛ぶことすらできるし、必要とあらば、この江戸から摂津国の大阪、和泉国の堺へだって一瞬にして飛ぶことができる。あなたたち伊賀忍に、これほどの術が扱える?」

 

螢火はただ、圧倒されたまま、弱々しく首を横に振るしかなかった。

 

化身忍者毒蛾くノ一はクックックと笑った。

 

「あなたも化身忍者になれば、それが出来るかもしれないのよ。まあ、空を飛ぶことが出来るかどうかは、組み合わせる動物の能力にもよるけどね」

 

螢火は辛うじて

 

「少し、考えさせてほしい‥‥」

 

と答えた。

 

「いいわよ、私も最初は悩んだから。特にあなたの場合は夜叉丸への思いもあるだろうし、でもね」

 

化身忍者毒蛾くノ一は、骸骨丸のことを思い出しながら言った。

 

「化身忍者になったからって、別に人間体になれば、普通に男と抱き合うことだって出来るし、子供だって産めるのよ。そして『化身忍者』としての外見、能力は子供には遺伝しない。それが良いことかどうかはわからないけど」

 

そして化身忍者毒蛾くノ一は、近くにいた菊に合図する。

 

菊は、縛られている螢火に猿轡をかませた。

 

「私は、あなたが夜叉丸への思いを立ち切ってまで自決するとは思っていないけど、念のためね。あなたに急に舌を噛まれても、こっちが困るし」

 

そして猿轡をかまされた螢火を一瞥すると

 

「気が変わって、血車党に入る気になったら教えてね。あらためて話に乗るから。じゃあ!」

 

そう言い残し、今や『螢火そのものの姿に成り代わった菖蒲』、そして三人のくノ一たちと共に

 

化身忍者毒蛾くノ一は、この部屋から退出した。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「毒蛾くノ一様!」

 

部屋から出たところで、菊が思いきって化身忍者毒蛾くノ一に声をかけた。

 

「なぜ、あのような伊賀者に化身忍者に生まれ変わるチャンスをお与えになろうとするのですか?、それくらいでしたら、不肖、この私、菊の方が!」

 

『今や螢火そのものの姿になった菖蒲』、それに牡丹、桐の二人も、思わず菊のことを注視してしまった。

 

三人とも、菊がいずれは自分も化身忍者になりたいと思っていることは知ってはいたが、それにしてもだ‥‥

 

が、化身忍者毒蛾くノ一は穏やかに言った。

 

「菊、心配しなくてもいいわよ。私の方から骸骨丸様に、あなたのことを次期化身忍者候補として、既に推薦してあげているから。そして骸骨丸様からも」

 

確信ありげに化身忍者毒蛾くノ一はゆっくりと言った。

 

「今回の『毒蛾作戦』、『伊賀忍軍解体作戦』成功の暁には、あなたたち四人の功績を評価し、それぞれの希望を聞くというお言葉もいただいています。だから、あなたが心配することはありません」

 

が、菊は今一つ納得出来ずに

 

「では、なぜ、あのような伊賀者に化身忍者にならないかとのお誘いをされるのですか?」

 

と、重ねて化身忍者毒蛾くノ一に問う。

 

「我が血車党がこれから天下の中心を担うことが出来るようになれば、その世の中を動かすための中心となる化身忍者は、どのみち何人いても足りなくなる。それに」

 

ここで化身忍者毒蛾くノ一は、菊を諭すように言った。

 

「伊賀忍たちを内部から切り崩すためには、私たち血車党への協力者がもっと必要。そのための第一歩でもある。『血車党の理想』を説き、納得して、私たちの『仲間』になってもらわなくてはいけない」

 

菊は思わず、目の前の主を見直した。

 

「今、目の前にいるくノ一ひとり、説き伏せることも出来なければ、この先に困るのは我が血車党。だからこそ私はそれを踏まえて行動しているつもり。そして、今の我が党医術班は風華様一人に頼りきりとなっていることも忘れてはダメ」

 

ここで牡丹が口を挟む。

 

「では、そのために伊賀忍のカスミを我が血車党に」

 

化身忍者毒蛾くノ一は、その言葉に頷いた。

 

「そう。残念ながら風華様の補佐が出来るだけの人材は限られている。何しろ医術、忍術の両方に通じていなければならないし、そんな人材は頭数だけは多い伊賀忍でも限られている。もっとも」

 

ここで化身忍者毒蛾くノ一はククッと笑った。

 

「カスミの忍術なんて、正直大したものじゃないけどさ。何しろ手裏剣の投げ方だって、なかなか上手くならなかったくらいだし。所詮はお嬢様芸よ」

 

かつて、カスミや、百地本家の千秋たちと共に修行時代を過ごした頃を思い出しながら『毒蛾くノ一楓』は笑った。

 

「でも、カスミの医術についての知識は確か。だから、私もあいつが我が血車党にとって必要なことは認める。それこそ一人でも多くの『仲間』が化身忍者に生まれ変わるためにも、風華様を補佐する人間は必要!」

 

ここで化身忍者毒蛾くノ一は、部下である四人のくノ一に最新情報を伝える。

 

「前に相模川の入口、馬入に向かった人喰いカラスと再生化身忍者たちが、既に変身忍者嵐と、あの『出来損ないの裏切者』に決戦を挑んで敗れ、全滅したという報告が入った」

 

四人はエッ!、と驚きの表情を見せる。

 

変身忍者嵐は、そんなにも強いのか‥‥

 

「一応言っておくと、人喰いカラスは、あの『出来損ないの裏切者』に直接対決を挑んで斬られたそうよ、男の癖に大きな口を叩いてみっともない!」

 

四人のくノ一は重ねて驚く。

 

「でも、私たちにとっては逆にチャンスとも言えるわ」

 

化身忍者毒蛾くノ一は落ち着き払っている。

 

「カスミを捕らえ、我が血車党の一員にするためにもね。だが、そうなる前に『毒蛾作戦』の段取りは進めておく必要がある」

 

そこで化身忍者毒蛾くノ一は

 

「菊、わかっていると思うけど、ここから先、お前の役割は重要だよ!」

 

と目の前の菊に向かって言った。

 

「わかっております、毒蛾くノ一様!」

 

菊はキッパリと言った。

 

「江戸城内に潜入し、『毒蛾作戦』のための段取りを進めます。既に江戸城内への潜入の準備も進めております!」

 

化身忍者毒蛾くノ一は頷いた。

 

「うむ、そして牡丹と桐も、菊とともに江戸城内に向かえ。我らの本命は『毒蛾作戦』!、我が『七色の狂い粉』を江戸城内に撒き、将軍、大老などと称する徳川家の一味を手にかければ、その混乱で徳川の天下も維持は出来なくなる。地方の名古屋、和歌山、水戸などにいる徳川一門も主導権争いにならざるを得ず、天下は大混乱。それに乗じて」

 

化身忍者毒蛾くノ一は言い切った。

 

「我が血車党が天下を取るのだ!」

 

 

四人のくノ一たちは、その主の言葉に

 

「御意!」

 

 

と一斉に頷いた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

四人のくノ一に今後の作戦についての説明と指示をくだした化身忍者毒蛾くノ一は、その四人を送り出すと、今度は先ほど始末した伊賀忍者五人の死体を片付けていた血車党下忍たちを激励に行く。

 

既に五人の死体は蔵屋敷の中に運び込まれており、いかにも商家の使用人然とした三人の屈強そうな男たちが待っていた。

 

「イーッ!、ヨーウゥゥー!」

 

化身忍者毒蛾くノ一は、三人の男たちの前に立つと

 

「本当にありがとう」

 

と、深々と男たちに向かって頭を下げた。

 

「毒蛾くノ一様!、そんな」

 

男たちは、主である化身忍者から、いきなり心のこもったお辞儀をされ、やや、面食らう。

 

化身忍者毒蛾くノ一は、さらに言う。

 

「男と女では、どうしても体力の差はある。こういう仕事はくノ一たちには難しい、そして

 

このような面倒な仕事をお前たちがやってくれるからこそ、くノ一たちも存分に働くことが出来るんだ!」

 

三人の男たちは感服したように、自らの主である化身忍者を仰ぎ見た。

 

今まで、自分たちにこのような言葉をかけてくれた化身忍者がいただろうか?

 

思わず三人は異口同音にいう。

 

「毒蛾くノ一様、ありがとうございます」

 

化身忍者毒蛾くノ一は、それを聞いて頷く。

 

「我ら一人ひとりが心を合わせてこそ、血車党の未来は開ける。これからも頼むぞ!」

 

三人の男たちは一斉に主である化身忍者に向かって深々と礼をする。

 

「はっ!」

 

化身忍者毒蛾くノ一は満足そうに頷くと

 

「ここからは私の仕事だ」

 

といい、両手で印を結ぶ。

 

「血車忍法、傀儡使い!」

 

そう叫ぶと、化身忍者毒蛾くノ一は念をこめた。

 

すると、完全に死んでおり、鮮血にまみれていたはずの五人の伊賀忍者たちの死体がゆっくりと立ち上がる。

 

その目は虚ろであったが、忍び装束を汚していたはずの鮮血はいつの間にか見えなくなっており、五人の死体は、まるで生きている人間であるかのように立ち上がると、そのまま並んだ。

 

思わず三人の男たちも目を見張る。

 

とは言うものの、五人の生命は既になく、いわば傀儡人形として動いているのに過ぎないのだが‥‥

 

化身忍者毒蛾くノ一は、その五人の死体に対して指示をする。

 

「お前たちは、これから四谷の伊賀組屋敷まで行き、そこで『私の意思』を体現せよ。血車党に逆らうものの末路を見せてやる!」

 

五人の死体は虚ろな表情で頷く。

 

その様子を見ながら三人の男たちは、自分たちの主である化身忍者の底知れぬ力に、あらためて感嘆していた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

化身忍者毒蛾くノ一は『仕事』を済ませると、今度は再び『蛍火が閉じ込められている部屋』に戻った。

 

勿論、今度はくノ一たちの同伴はない。

 

とは言うものの、この部屋には黒覆面に迷彩柄の忍び装束を着た二人の血車党下忍が見張りとして待機していたのだが

 

「イーッ!、ヨーウゥゥー!」

 

化身忍者毒蛾くノ一が声をあげ、部屋の中に入ると、見張りをしていた二人の下忍たちは、自分たちの主に向かって、深々と頭を下げる。

 

「猿轡を暫し、外してあげなさい」

 

化身忍者毒蛾くノ一の指示を受け、下忍が縛られている螢火の猿轡を外す。

 

「ふうっ!」

 

さすがに猿轡をかまされて苦しかったのか、螢火は一息ついた。

 

「イーッ!、ヨーウゥゥー!」

 

化身忍者毒蛾くノ一は目の前の螢火に対して

 

「どう、気が変わったかしら?」

 

と尋ねる。

 

螢火は内心の動揺は隠せずにいたが、それでも気丈に返事をする。

 

「いいえ!」

 

化身忍者毒蛾くノ一は予想通りの反応に頷きながら、両手で印を結ぶ。

 

そして彼女の姿は人間体である『上月楓』の姿に戻った。

 

「あなたは!」

 

楓の姿を見て、驚く螢火。

 

藤林組、服部組と、所属は違うとはいえ

 

以前、多くの伊賀くノ一から選抜されて北九州の有馬に赴いた楓のことは、螢火も知っていた。

 

「納得できないようだから、あえてこの姿になってあげたわよ!」

 

悪戯っぽく楓は螢火に向かってウインクして見せた。

 

「そう、上月楓が伊賀くノ一だったのは過去の話。今の私は血車党の化身忍者毒蛾くノ一。私は『自分に出来ないことを人にやりなさいなどというほど無責任ではない』つもり、それを伝えにきたの」

 

螢火は縛られている自らの体を震わせる。

 

「あ、あなたは伊賀を裏切ったの?」

 

楓は微笑んで見せた。

 

「そうよ、そして、あなたにも裏切りなさいとさっきから言っているのよ」

 

 

螢火はそれを聞き、激しく動揺していた。

 

「少しお話ししましょうか?」

 

楓は螢火に声をかけた。

 

螢火は動揺を隠せないまま、頷く。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

螢火は目の前の楓に向かって言った。

 

「私はさっきまで、あなたが生粋の血車党の、恐らくは中忍だと思っていた‥‥」

 

それを聞いた楓は微笑む。

 

「ええ、今の私は正真正銘、血車党の中忍よ。そして今、この江戸にいる血車党の下忍たちは全員、私の指揮下にあり、今回の作戦計画の責任者も、この私」

 

楓は

 

そして今回の『毒蛾作戦』、『伊賀忍軍解体作戦』が成功すれば

 

現在、骸骨丸様が頭を兼任しておられる戦闘班の、新たな頭としての地位も約束されている。

 

その言葉は内心だけにとどめたが、その彼女の思いは自信となって表れ、目の前の螢火を圧倒する。

 

「そうではなく‥‥」

 

弱々しく螢火は言った。

 

「つい最近まで伊賀忍者としての『意思と覚悟』を持っていたはずのあなたが、まるで生まれた時から血車党で育ってきたのだと言わんばかりに『血車党の正義』を熱っぽく語る、その変化に驚いているの‥‥」

 

楓はしてやったりと言わんばかりにニヤリとする。

 

「私、何か間違ったこといってたかしら?」

 

螢火は弱々しく首を振る。

 

「私には分からない‥‥。」

 

が、そこで気を取り直した螢火は

 

「でも、私は夜叉丸が、そして朧(おぼろ)さまをはじめとする藤林組のみんなが好き!、御公儀が正義かどうかなんてことなんかより、私はみんなを裏切ることなんかできない!」

 

と、その心情を吐露する。

 

朧というのは、現在の藤林家の当主である長門の一人娘であり、藤林組のリーダー的な存在のくノ一のことである。

 

そして、その朧が、ゆくゆくは婿養子をとり、藤林組の次の世代を担うことが期待されていた。

 

「じゃあ、みんなで血車党に来ればいい」

 

楓はあっさりと言った。

 

「藤林は伊賀では力を持っていても、服部や百地とは違って、徳川からそれほど評価されているわけじゃないし、それなら思いきって血車党につくのも考えだと思うわよ。我が血車党は来るものは拒まない」

 

螢火は泣きそうな顔になった。

 

「心配しなくてもいいわよ」

 

と楓はニヤッとする。

 

「既に四谷の伊賀組屋敷には、あなたの姿をした菖蒲が向かっている。そして、あなたに成り済まし、伊賀忍軍の切り崩し工作を進めてくれる。そして、先の忍兵衛たち五人も、今、伊賀の組屋敷へ向かったところ。こちらは着々と手を打っているわ。そのうちに夜叉丸にも会わせてあげる。勿論、あなたと同じく、私たちの虜にした上でね」

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

「あなたが自分から心変わりして、私たち血車党の『仲間』になってくれることを期待しているわ」

 

そこまで言うと化身忍者毒蛾くノ一は

 

「どのみち、『顔盗みの秘術』を使っている間は、あなたと蛇丸(おろちまる)を殺したりはしないから安心して。じゃあ、また猿轡をしてもらうわ。あなたの気が変わるまで、これは何回でも繰り返す」

 

そこまで言うと楓は、目の前の血車党下忍に指示をし、再び螢火に猿轡をかませた。

 

「あなたの心が変わるのを待っているわ」

 

楓はそう言い残すと、後のことは下忍たちに任せることとし、部屋を出た。

 

部屋には縛られ、猿轡をかまされた螢火と、見張りの下忍二人が残された。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

楓の姿のまま部屋を出た化身忍者毒蛾くノ一の目の前に、煙と共に骸骨丸が姿を現した。

 

「骸骨丸さま」

 

直ぐに化身忍者毒蛾くノ一は、楓の姿のまま、自身が敬愛する骸骨丸に向かって、恭しく一礼する。

 

「毒蛾くノ一、計画は今のところ順調のようだな」

 

骸骨丸は優しさを感じさせる口調で、目の間の『楓の姿をしたままの化身忍者』に声をかけた。

 

「はっ!、既に服部組の手の者五人を返り討ちにし、そのまま傀儡人形として四谷の伊賀組屋敷に送り返して差し上げました。もっとも」

 

『楓の姿をした化身忍者』は、そこでフフッと笑った。

 

「今や伊賀組屋敷などと言っても、ただの焼け跡に人が集まっているだけの場所、何やら急場凌ぎに架設の小屋を作っているようですけど、それさえも出来るより前に焼け跡になったら、あそこの皆さん、どんな顔をすることやらと思うと、もう可笑しくて」

 

が、骸骨丸はそこで

 

「あえて言うが毒蛾くノ一、このような時こそ気を引き締めよ!」

 

とピシャリと言った。

 

「はっ!」

 

毒蛾くノ一楓は身の引き締まる思いを感じた。

 

やっぱり骸骨丸さまには威厳がある‥‥

 

そして骸骨丸はあらためて、今回の用件を告げた。

 

「変身忍者嵐と、あの『出来損ないの裏切者』が、明日、相模の国四之宮を出発し、恐らく、この江戸には昼頃に到着するであろうとの知らせが入った」

 

毒蛾くノ一楓は神妙に頷く。

 

「そして、その到着する場所は、まさに四谷の伊賀組屋敷のはず、とすれば、わかるな!」

 

骸骨丸に対して、毒蛾くノ一楓は

 

「なら、結果的にはいい案配で傀儡人形たちを向かわせたことになりますね」

 

と答える。

 

「骸骨丸さまは、嵐たちが江戸の伊賀組屋敷に到着した、その場で直ぐに傀儡人形たちの爆発に巻き込まれて一巻の終わり、という結末をお望みですか?」

 

さすがに、これには骸骨丸は

 

「変身忍者嵐を見くびってはならぬ!」

 

と釘を指す。

 

「あいつが、その程度の爆発でくたばってくれるなら、私もここまで苦労していない。まあ、伊賀忍どもに対する示威としてなら意味はあるし、嵐たちに対するささやかな『歓迎』という意味なら面白いから、それをやることに反対はしないが」

 

そう言って骸骨丸はハハハと笑った。

 

「変身忍者嵐というのは、それほどまでに恐るべき相手なのですか?」

 

さすがに毒蛾くノ一楓も緊張感をおぼえる。

 

「ああ、それは間違いない」

 

骸骨丸は頷く。

 

「だが、そんな奴にも弱点はある、それがカスミだ!」

 

毒蛾くノ一楓は、今、自分が虜にしている螢火が、許嫁である夜叉丸にいかに心を奪われているか、ということを思い出した。

 

骸骨丸さまが、それほどまでに警戒する変身忍者嵐

 

その人間体であるハヤテは、『あの』カスミごときに、そこまで惚れているというのだろうか?

 

ちょっと信じられないような気もするが‥‥

 

「まあ、信じなくてもいいぞ」

 

骸骨丸は苦笑する。

 

「だが、作戦の実行は、それを念頭においてくれ」

 

毒蛾くノ一楓は、骸骨丸の言葉に対して頷いた。

 

「お任せください、骸骨丸さま!」

 

それを聞いた骸骨丸は

 

「毒蛾くノ一、では、頼むぞ!」

 

と言い残し、その場から煙と共に姿を消した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。