変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来第2編・江戸での血車党との対決 作:shpfive03
朝早くからハヤテは既に変身忍者嵐の姿に変身していた。
それと共にハヤブサオーも仮面をつけた黒い忍馬に『変身』している。
ハヤブサオーは嵐の変身にともない、現代風に分かりやすく言うと、時速100キロの走行速度と、それを数時間維持する持久力、幅100メートルの谷間を飛び越える跳躍力、1キロ先の敵を発見する視力を有するようになるのだ。
それが出来るのは、ハヤブサオーがハヤテの父、谷鬼十の手による『化身馬』いや、今では『変身馬』だからこそである。
谷鬼十が『人間化身の法』の術式を開発する際、まず愛馬ハヤブサオーを超能力を持つ馬として改造するところから着手し、そして、それは成功したのだ。
なお、この時代の普通の馬では成人男女の二人乗りでの長時間の乗馬は出来ない。
それが出来るのは『変身忍者嵐の忍馬』ハヤブサオーだけである。
早朝にもかかわらず、既に宿の者を含めた皆が起き、変身忍者嵐と、黒い忍び装束姿の千恵を見送るために多くの人たちが待っている。
タツマキ、カスミ、ツムジの三人がその場にいるのは言うまでもないことだが
その中には佐吉と紅葉の親子の姿もあった。
また、わざわざ河野代官も数人の伴と一緒に姿を見せている。
その河野代官は
「嵐殿、千恵殿、田村の渡船場には、既に専用の渡し舟を用意してありますぞ!」
と大声を張り上げた。
変身忍者嵐も
「河野殿、忝ない!」
と大声で返事をする。
そして、まず黒い忍び装束姿の千恵をハヤブサオーの鞍に乗せ、またがらせる。
鞍というのは一人用のものしかなく、当然、嵐は裸馬の状態のハヤブサオーにまたがることになる。
嵐は千恵の後ろに座ると、ハヤブサオーの手綱を持ち、その両ひざで馬腹をしっかり抑え、そして、前に乗っている千恵を体で支える。
以前もカスミやツムジを同じようにしてハヤブサオーに乗せ、それなりの距離を走ったことはあるが、千恵の身長は二人よりも、もう少し高く、正直、視界に不安はある。
が、言うまでもなく千恵を後ろに乗せるという選択肢は存在しない。
そんなことをしたら、間違いなく滑り落ちてしまう。
もし千恵が変身して空を飛び、嵐とハヤブサオーの後についてきてくれるなら、本当はその方がよかったのだが、残念ながら千恵の飛翔能力では、そこまでの速度は出せないという。
そして、ハヤブサオーに同乗するのであれば、千恵は変身することは出来ない。
嵐が後ろから千恵の体を支えるのに、『変身忍者千恵』の持つ羽が、どうしても邪魔になってしまうからだ。
だから嵐としては、本当はこのような方法で江戸へ急行するなどということはしたくなかった。
だが、千恵はそれでいいという。
嵐はあらためて自分の前にいる千恵に聞いた。
「千恵さん、本当に覚悟はいいな!」
千恵は躊躇うことなく
「はいっ!」
と答えた。
「最初、田村の渡船場までは慣らし運転もかねて普通に走る。だが、相模川の対岸にわたってからは全速力で駆けるから、そのつもりでいてくれ!」
そんな嵐に対して千恵は
「大丈夫ですよ」
と微笑む。
そこへ紅葉が大きな声で
「お姉ちゃーん!、また会おうね!!」
と千恵に向かって手を振る。
千恵も不自由な体勢ながら、それでも手を小さく振り
「紅葉ちゃん、またねー!!」
と大きな声で返事をする。
その瞬間、紅葉はとても可愛らしい笑顔を見せた。
一方、タツマキ、ツムジと一緒に嵐と千恵を見送るカスミだが
嵐と千恵の密着する姿を見て、やはり嫉妬のようなものを感じてしまう自分に気づかざるを得なかった。
もし、これが嵐の姿ではなく、ハヤテの姿だったとしたら‥‥
カスミは自分のその気持ちを追い払おうとした。
だが、そうしようとすればするほど、胸が苦しくなってしまう。
ハヤテさんの気持ちが、今や同じ『変身忍者』と呼ばれる身となった千恵さんに傾いてしまったら‥‥
そんなことはないと、カスミは懸命に自分に言い聞かせる。
そんなカスミの揺れ動く気持ちをよそに
この場を代表して千秋が述べる、
「嵐さん、千恵さん、よろしくお願いいたします」
嵐は短く答える。
「わかった」
そして
「ハイヨー!!」
嵐が叫び、手綱をあげる。
ハヤブサオーが江戸へ向かって走り出した。
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「旦那さん方、もう着きましたよ」
変身忍者嵐、ハヤブサオー、そして千恵を乗せた渡し舟は、すぐに対岸につく。
河野代官からあらかじめ言い含められていたとはいえ
異形の荒鷲の変身忍者と、馬の姿としては異形の姿ともいえるハヤブサオー
そして
黒の忍び装束を着ているとはいえ、若くて美しい女性である千恵
この組み合わせは、やはり渡し舟の船頭たちにも奇異な印象を与えたようだ。
「娘さん、大変そうだね」
船頭が千恵に向かって声をかける。
「いえ、私が自分で望んだことですから」
千恵は微笑んだ。
そして、もし自分も『蛾の変身忍者千恵』である異形の姿をしていたら、この船頭さんたち、どう思うのかな?
と、ふと思った。
ずっと弱き人たちのために血車党と戦ってきた変身忍者嵐とは異なり
自分は血車党の化身忍者として、囚われていた人たちに向かって狂い毒粉を撒き散らし、その人たちを死に至らしめた『罪人』なのに、今は『人の姿をしている』というだけで
いい人たちなんでしょうけど‥‥
「ありがとう、おかげで助かりました」
嵐は、そんな船頭たちに向かって、深々と頭を下げる。
「いえ、こちらこそ」
船頭たちも、そこは丁寧に返事をする。
そして
「千恵さん、行くぞ!」
嵐がぶっきらぼうに言った。
千恵は
「はいっ!」
キッパリと頷く。
そして嵐は、再び忍び装束姿の千恵をハヤブサオーの鞍に乗せ、またがらせ、自らは裸馬の状態のハヤブサオーにまたがった。
そして千恵の後ろに座ると、ハヤブサオーの手綱を持ち、その両ひざで馬腹をしっかり抑え、前に乗っている千恵の体をしっかりと支える。
そして千恵は嵐の体と密着することで、わかってはいても、自分の気持ちが抑えられず、胸が苦しくなった。
ハヤテさんにはカスミさんがいるんだから‥‥
千恵は、これまで何度もそうしてきたように、心の中で自分に向かって言い聞かせる。
一人の女として、ハヤテのような『強い男』に惹かれる気持ちを、どうしても抑えきれない
弟、大助に似た少年忍者ツムジの優しさ、可愛らしさなどに惹かれる感情とは、また違った、恐らくは『女性としての本能』
「千恵さん、体調でも悪いのか?」
千恵の様子が気になったのか、嵐が声をかける。
「いいえ、ちょっと緊張しているだけです」
千恵は答えた。
嘘ではない、それはそれで本当のことである。
「わかった」
嵐は頷くと
「だが、体調が我慢できないくらい悪かったら、すぐに知らせてくれ。私の体を揺さぶってくれるだけでもいい、ここから先は、かなり厳しい状態が江戸の手前まで続くのだから」
と、千恵を気遣った。
「はい、そうさせてください」
千恵はそう答えたものの、そうした嵐の優しさを感じさせる気遣いに、また胸が疼く。
嵐とハヤブサオーに乗るのは二度目ではある。
が、一回目の清雲寺に行ったときとは異なり、今度はもう少し距離もあり、かなり荒っぽい乗馬になることも予想される
そうしたことからくる気持ちの高揚も確かにあるのだろう。
そして
「千恵さん、ハヤブサオーが本格的に走りだす前に、余計なことを言わせてくれ」
と嵐が言った。
「なんでしょう?」
千恵がドキドキしながら返事を返す。
「千恵さんは、昨晩の佐吉さんと紅葉ちゃんとの話の中で『御恩を返さなければならない』という説明をしていたが」
千恵は当然のように
「はい」
と頷く。
「私たちは、少なくとも私は、千恵さんのことを『仲間』だと思っている。そこに上下関係なんかない!」
嵐はキッパリと言った。
「私は、自分が千恵さんのことを見過ごせないと思ったから助けた、それだけなんだ。千恵さんはもっと言いたいことを言ってもいいし、私たちに遠慮なんかすることはないんだ。この気持ちはタツマキも、カスミも、ツムジも同じのはず」
わかっています
だからこそ、苦しいんです‥‥
ハヤテさんが好き、でも、カスミさんのことを思うと‥‥
本当なら地獄の業火に焼かれて悲惨な死を遂げているはずだった自分が、皆の暖かい気持ちに支えられて、今、こうして生きていることができているし、生きていたいと思えるようにもなった。
それを壊したくない‥‥
「嵐さん、ごめんなさい。そういうお話は別な機会にしましょう。ただ、一つだけ」
そして千恵は言い切った。
「私は嵐さんたち皆さんのことが大好きです。だからこそ皆と一緒にいたいと思っているんです!、その事だけはわかってほしいと思います」
千恵のその言葉に、嵐も何事かを感じたのか
「千恵さん、すまなかった!」
と詫びる。
「いいえ、それより今は急いでください!」
と千恵。
どのみち、ハヤブサオーが全力で走り出せば、余計なことを考える余力もなくなるだろう。
「わかった、じゃあ、行くぞ!」
嵐がそう言うと、千恵は同意を伝えるために前に向かって頷く。
「ハイッ!!」
嵐が大きく手綱を引くと、ハヤブサオーはすぐに全力疾走をはじめた。
物凄い勢いである。
揺れがとても大きく、まるで大きな台風や竜巻の真っ只中にいるような圧迫感。
さすがに千恵もキツいなと思うのだが、後ろで嵐がしっかりと自分の体を支えてくれるのを肌身で感じる。
景色がとても早く流れていく。
相模川を渡ってすぐのところに小さな川があったが、それをハヤブサオーは軽々と跳躍して乗り越えていく。
物凄い揺れと振動、圧迫感などを感じながらも、自分たちがとても早い速度で目的地に向かっているのが、千恵にもわかる。
ハヤブサオーは一路、江戸に向かって全力疾走で駈けていく。