変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来第2編・江戸での血車党との対決 作:shpfive03
変身忍者嵐と千恵の二人がハヤブサオーに乗り、猛烈な勢いで江戸に向かっている、ちょうど、その頃
四谷の伊賀組屋敷、というより、焼け落ちた後の組屋敷跡、というべきなのか‥‥
とにかく、仮設の建物が建設中の、その伊賀組屋敷跡に、伊賀の上忍、百地源太夫、藤林長門、服部正龍の三名、そして江戸在の中忍たち、そして数名のくノ一を含む、十人ほどの下忍たちが集まっていた。
「間もなく夜叉丸がここに来るはずだが‥‥」
腕を組むのは藤林長門である。
組屋敷そのものは焼け落ちてしまっていても、ここには『集合場所』としての意味もあるので、多少は不自由でも、こうした形をとらざるを得ない。
もっとも、火災の時に持ち出した書類などは、既に近くに別な場所を借り、事務的な処理もそこで行ってはいるのだが‥‥
「長門殿、それを言うなら、間もなく変身忍者の嵐殿と、血車党の抜け忍であるところの千恵殿もここに到着されますぞ」
百地源太夫が皮肉を込めて、隣で立っている藤林長門に向かって言った。
「変身忍者か‥‥、確かに上様のお声ががりであるとはいえ
源太夫殿は、我が伊賀の精鋭はそれほど頼りないと思われているのかな?」
と藤林長門は不機嫌そうに言い返す。
「まあ、長門殿」
と服部正龍が藤林長門を宥めるように言った。
正龍は、本来は服部家の世襲名である『半蔵』を継いでいるのだが、先代の起こした不祥事のこともあり、その名前は、あまり表に出さないようにしている。
「ここは我ら伊賀組の結束力を見せるとき。間もなく忍兵衛たちも、ここに戻ってくるはず。肥前西屋の様子が明らかになったところで、有無をいわさず取り押さえることが出来れば、江戸における血車党の動きも潰すことにつながろう」
そんなに簡単にことが進むのであれば苦労はなかろう
と百地源太夫は思ったが、それは口には出さない。
そんなところへ
一人の紫色の頭巾を被った『占い師の姿をした女性』が姿を現した。
「螢火、来たか」
藤林長門は、その紫頭巾の女に声をかけた。
「はい、長門様」
『螢火』はニコッと微笑むと、恭しくお辞儀をした。
勿論、その『螢火』の正体は血車党のくノ一菖蒲なのだが、彼女は『顔盗みの秘術』により、すっかり『螢火』になりきっている。
彼女は早速、藤林長門に向かって
「現在までのところを報告をさせてください」
と神妙に言った。
「うむっ」
長門は頷く。
「まず西屋が血車党と何らかのつながりを持っているのは、ほぼ間違いないと思われるのですが、今のところ、尻尾をつかまれるような動きはしてくる気配がありません。ですが、面白い事がわかりました」
「ほう?」
と長門。
「現在、変身忍者嵐ことハヤテ殿と共にこちらに向かっていると思われる『千恵というくノ一』についてですが」
そこで『螢火』は、さも重要な報告をするのだ、と言わんばかりに真剣な面持ちで言い切った。
「その千恵というくノ一は、血車党の抜け忍などではありません。その正体は血車党の差し向けた毒蛾の化身忍者であり、その心は、今も血車党にあります。実際に西屋周辺で『毒蛾の化身忍者』の目撃情報をつかんでいます」
これには一同、驚きを隠せなかった。
「彼女はまず、ハヤテ殿の善意を利用して騙し、そしてハヤテ殿を信頼するタツマキ殿をも、そのハヤテ殿に対する信頼を利用することで上手く騙し、これに取り入ることに成功しました
そして上様の信頼するタツマキ殿を利用して、自ら江戸潜入を果たし、そして『離間の計』により、我ら伊賀組の分裂工作を行おうとしているのです。そのことがわかりましたので、急ぎ報告にあがりました」
『螢火』の真剣な表情に、一同は驚きを隠せず、動揺する。
「螢火殿、それは裏付けとなる確証があってのことなのか?」
これは服部正龍。
「はい」
『螢火』はキッパリと言い切った。
「私は西屋にいる、血車党の者と思われる下働きの者に催眠にかけ、その情報を聞き出しました。三名の異なるものに催眠をかけ、証言が一致したので、間違いはないはずです」
藤林長門はしてやったりと言わんばかりにほくそ笑んだ。
「源太夫殿、だとすると、いかに上様のお声ががりとは言え、間もなく到着する千恵殿の受け入れにも、我らは慎重になる必要がありますなあ」
これには源太夫も当惑せざるを得なかった。
本当だろうか?
しかし、少なくとも目の前の『螢火』が嘘を言っているようには見えない。
が、タツマキから伝書鳩を通じて届けられた報告書をすべて読んでおり、十分な理解をしているとの自負もある源太夫は、その話を鵜呑みにすることは出来なかった。
タツマキの『千恵について語る報告』には
彼自身のみならず、ハヤテ、そして彼の子であるカスミ、ツムジの彼女に対する並々ならぬ信頼が書かれていた
また、千恵が元々は確かに血車党による毒蛾の化身忍者であったことも、タツマキの報告には包み隠すことなく書かれており
その上で築かれた信頼であることもわかっている。
更にこれは、この場では源太夫しか知らないことだが
別途、江戸城の将軍、大老のもとには早川城主阿部備中守からの書状が届いており
そこには
『千恵殿のこと、よろしくお願い申しあげ候』
と書かれているのだ。
千恵のことを気遣った備中守が、旧知である土井大老にわざわざ飛脚を使って寄越した書状である。
譜代の有力大名であり、将来の老中との声もある阿部備中守が、わざわざそこまでしたということを重く見る源太夫は、とても、この場の『螢火』の報告を信じる気にはなれなかった。
逆に螢火こそが血車党の『離間の計』に引っかかって、間違った報告をしているのではないだろうか?
少なくとも、その可能性は捨てきれない。
いずれにしても、この螢火の報告だけを鵜呑みにして判断するのは、あまりにも軽率すぎるように思われた。
そこに
「上忍の皆様、夜叉丸、只今戻りました!」
威勢のいい大きな声が聞こえる。
「夜叉丸さま!」
思わず『螢火』が、その声の主を振り返った。
そこには長髪の、濃い青色の忍び装束を着て、手には黒縄を持つ、一人の美青年が立っていた。
藤林組、有数の使い手にして、螢火の相思相愛の許嫁でもある『黒縄の夜叉丸』
彼がその人である。
「螢火、元気そうだな!」
黒縄の夜叉丸は、目の前の彼の恋人であるはずの『螢火』に対して
そう声をかけた。
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「夜叉丸ー!!」
いきなり『螢火』は、目の前に現れた夜叉丸に抱きついてきた。
夜叉丸も一瞬目を白黒させたものの、まあ、いつものことかと思い直して、自分に抱きついてきた『螢火』を、そのまま抱き締めてあげた。
『螢火』も、そんな夜叉丸をぐっと抱き締める。
が、夜叉丸は『かすかな違和感』を感じた。
いつもの螢火と同じようでいて、何かが微妙に違う。
が、また、女性特有の『心境の変化』(気まぐれ)とやらがあったんだろう、と思い直した。
そうしたこともはじめてではない。
実際、螢火が背に従えている
なので、夜叉丸がそのような違和感を感じたのも一瞬に過ぎなかった。
そして藤林長門を含む三人の上忍も、周囲のものも、夜叉丸と螢火、二人の間に入り込めず、口を出すのもはばかれていた。
組頭として夜叉丸と螢火二人に直接の命令権を持つ藤林長門も苦笑いしている。
彼は二人の仲に対して、常に寛容であった。
「螢火、血車党はどんな様子たったんだ?」
夜叉丸が『螢火』に尋ねる。
『螢火』は真剣な面持ちで夜叉丸の問いに答えた。
「今のところ、なかなか尻尾を出さない。西屋の使用人三人に幻術をかけ、ある程度のことは聞き出したけど、そいつらが単に血車党に手先として使われて西屋に潜り込んでいるだけなのか、それとも西屋そのものが血車党の拠点なのか、という肝心なところになると、妙に要領をえないんだ」
それを聞いて夜叉丸は
「もし、それが分かれば御公儀の方で直接、西屋を詮議し、場合によっては一味を取り押さえることも出来るな」
と『螢火』に言った。
「うんっ!、だから、引き続き西屋の内偵は進めるけど、ただ、急いで長門様たちにお知らせしなければいけないと思えることがあり、こうして報告にあがったんだ!」
と『螢火』は夜叉丸に返事をする。
そして
「夜叉丸も『変身忍者嵐』の別名を持つハヤテ殿のことは知っているだろう」
と『螢火』は言いながら、夜叉丸の表情をうかがう。
「ああ、知っているとも」
夜叉丸は頷いた。
「ハヤテ殿と直接、まだお会いしたことはないが、恐るべき忍術の使い手と聞いている。そして、百地組のカスミ殿とともに」
そこで夜叉丸はいったん言葉を切ると
「上様、大老様、そして多くの諸侯、武士の『命の恩人』であるともうかがっている」
と言った上で
「無論、その場に我ら伊賀藤林の十人衆がいれば、血車党ごときのために、そんな失態はなかっただろうとも思ってはいるがな!」
とも付け加えた。
藤林長門の娘である
『螢火』は夜叉丸のその言葉に頷くと
「今回、そのハヤテ殿に同行して、ここに来ることになっている千恵というくノ一なんだが、こいつは表向きは『血車党からの抜け忍』ということになっている」
と『螢火』が説明する。
「でも、調べてみると、どうも怪しい。どうやら本当は血車党の密偵として、我ら伊賀忍を撹乱するのが目的のようなんだ。しかも、その正体は毒蛾使いの化身忍者というのも、ほぼ、間違いないと‥‥」
「螢火殿!」
そこで百地源太夫が口を挟んだ。
「千恵殿が、元々は血車党の化身忍者だったことは最初から我々も把握していることですぞ、タツマキ殿からの報告書にも、それはちゃんと書いてある」
『螢火』は、突然の源太夫による思わぬ口出しに動揺した。
「加えて、ここにおられる方々はまだ存じぬことと思うゆえ、あえて、この源太夫の方から話をさせてもらうこととするが、実は千恵殿については、早川城主阿部備中守様より感謝の意を込めた推薦の書状が、土井大老の元へ届けられている。かくいうこの源太夫も、昨日、それをうかがったばかりなのだが」
『螢火』は内心『しまった!』と思った。
その可能性は考えていなかった。
「百歩譲って螢火殿のご報告が本当てあったとしても、儀礼上から考えても、いきなり千恵殿のことを疑うような態度などはとれぬこと、これは自明ではなかろうか!」
そう言って源太夫は藤林長門の方へと視線を向ける。
「いかがかな、藤林殿?」
藤林長門はうむっ、と頷く。
これは一本とられたようだ。
「勿論、我らとて、最初から千恵殿に対して疑ってかかるような態度をとるべきと考えているわけではない。だが、今回の螢火による報告も重要なものと考える。ゆえに当初は様子見とするのが最善であろう。常に両方の可能性は考えるに越したことはない」
ここで服部正龍が
「そろそろ、我らの方で西屋に向かわせた忍兵衛たちも、ここに報告のため戻るはず、それによっても変わってくることと思う」
と述べ、その上で『螢火』に対して
「螢火殿、そなたも西屋の方で忍兵衛たちとあったりはしなかったのか?」
と聞いた。
「いいえ!」
『螢火』は即答する。
「忍兵衛様たちが西屋に来るなどという話は、私はまったくうかがっておりませんでした。恐らくは私と入れ違いになったものと思われます。だいいち、そのような合流のお話は事前にいただかなくては、こちらも対処しかねます」
これは『螢火』の言い分に理がある。
藤林長門もニヤッとしながら服部正龍を見る。
服部正龍は不機嫌そうな表情を浮かべながらも
「ともあれ、忍兵衛たちが戻り、その報告を受けてからでも判断は遅くなかろう」
と、ここは譲ろうとしない。
「それよりハヤテ殿、千恵殿の方が先に到着されるかもしれませぬがな」
百地源太夫が、多少の皮肉をこめて、服部正龍にそのように言ったとき
「申しあげます!」
下忍が一人、駆け込んできた。
「ハヤテ殿が、間もなく、こちらに到着されます!」
「そうか」
源太夫は大きく頷いた。
千秋、よくやってくれた!
源太夫は心の中で、恐らくはまだ、相模の国、相模川西岸にいるはずの
娘、千秋に感謝した。