※この作品はR-18です。

変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来第2編・江戸での血車党との対決   作:shpfive03

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谷鬼十が長男、風のハヤテ、ただいま千恵殿と共に参上した

最大の難関だった、実に長さ120間(約220メートル)の多摩川にかかった六郷大橋すらも、変身忍者嵐と千恵を乗せたハヤブサオーは軽々と乗り越えていく。

 

あまりの速度に千恵は生きた心地はしなかったが、背後から変身忍者嵐がしっかりと支えてくれることが実感でき、その意味で『恐怖心』はなかった。

 

その後はさしたる難所もなく、無事に江戸の入り口である『高輪の大木戸』が見えてきた。

 

「千恵さん、ここで小休止しよう」

 

と嵐が声をかける。

 

「はい‥‥」

 

目が、、、回る、、、、。

 

まるで強いお酒にでも酔ったような気持ち悪さを感じながらも千恵は頷いた。

 

嵐はゆっくりと手綱を引き、ハヤブサオーを休ませる。

 

制止したハヤブサオーから、まず嵐がゆっくりと降り、そして

 

見た目にも明らかに弱っている千恵を抱きかかえるようにして、ハヤブサオーの鞍からおろす。

 

そして、千恵を自らの膝の上で休ませた。

 

「無理をしなくてもいいのに‥‥」

 

嵐が辛そうに千恵を支える。

 

「嵐さん、私って、ツムジさんに言わせると『意地っ張り』なんだそうです‥‥」

 

千恵は苦笑いしながら、嵐に向かって、そう答えた。

 

そして

 

「少しだけ、失礼させてください」

 

というと、ゆっくりと自らの力で立ち上がり、そして少し離れた場所で、少しだけ嘔吐した。

 

そして嵐の方に向き直ると

 

「ごめんなさい、少し休めば大丈夫です」

 

そう言って千恵は微笑む。

 

嵐は、その千恵の透明な笑顔を見て、思わず

 

綺麗だな‥‥

 

と思ってしまった。

 

カスミとは別な意味で

 

この女性(ひと)も、また

 

守ってあげなくてはいけない‥‥

 

『あなたは化身忍者にふさわしくない、心の綺麗な人だからだ』

 

嵐は以前、化身忍者毒蛾くノ一だった時の千恵と戦い、これを『秘剣影うつし』(二段斬り)で敗ったとき

 

『なぜ、殺さぬ!』

 

と叫んでいた千恵に、他ならぬ自分自身が語った言葉を思い出していた。

 

嵐は変身を解き、ハヤテの姿に戻った。

 

「ここで少し休もう。どのみち大木戸を通るのに変身忍者嵐の姿のまま、ハヤブサオーで突っ切るわけにもいかない」

 

そしてハヤテは座ると、膝枕に千恵を乗せる。

 

「少し横になって体力が回復したら行こう」

 

ハヤテは優しく千恵に声をかけた。

 

が、千恵はとても幸せな気持ちだった。

 

この幸せがいつまでも続けばいいのに‥‥

 

叶わぬことと知りながら、千恵はそう思ってしまう。

 

ハヤテさん、大好き‥‥‥‥

 

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「高様の大木戸」というのは、 御公儀が江戸の出入り口に設けた大きな木戸の関門であり、要するに『関所』と同じものである。

 

高輪の大木戸は江戸南の玄関口にあり、ここを通った先からが江戸と呼ばれる市街地であった。

 

東海道の道幅約6間(約10m)の両側に石垣を築き、夜は門を閉めて、旅人が無断通行などできない仕組みになっており、その意味でもここからはハヤテと千恵の姿で、ハヤブサオーにも普通の馬の姿に戻ってもらい、通常の早さで四谷の伊賀組屋敷に向かう方がよさそうだ。

 

なお四谷は甲州街道の江戸への入り口でもあるのだが、相模の国四之宮から大回りして甲州街道に入るより、高縄から江戸市街に入って四谷に向かった方が結果的には早く着くだろう

 

ハヤテはそのように判断していた。

 

それに四谷大木戸の手前で小休止するよりは、こちらの方が少しは気楽でもある。

 

「千恵さん、目を閉じていればよかったのに」

 

後世の言葉でいう『乗り物酔い』を最初から危惧していたハヤテが千恵に言うと

 

「この後に『転移の術』を使うことが出来る場所を増やしておきたいと思いました。この先、何かの役に立つかもしれませんし‥‥」

 

と千恵が疲労を感じさせながらも、しっかりと答える。 

 

「そうは言っても自分の体は大切にした方がいい」

 

ハヤテはあくまでも千恵を労る。

 

「ハヤテさん、ありがとうございます」

 

千恵は嬉しそうに言った。

 

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小休止のあと、千恵の体調が回復したところで、ハヤテと千恵は高縄の大木戸に向かう。 

 

そして大木戸に着くと、ハヤテは早速、先に千秋から渡された『通行の便宜をはかるための書面』を役人に見せる。

 

その後でハヤテは自らの通行手形を、千恵は伊豆田方で江川代官に用意してもらった「途中手形」を見せる。

 

問題なく、高縄の大木戸を通ることは出来た。

 

再びハヤテは千恵をハヤブサオーの鞍に乗せると、今度はハヤテの姿のまま、背後から千恵を支え、そして手綱を引く。

 

「ハイッ!!」

 

四谷に向かって走り出すハヤブサオー。

 

間もなく伊賀組屋敷に到着である。

 

「千恵さん!」

 

ハヤテは馬上のまま、千恵に声をかける。

 

ハヤブサオーも今は普通の速度で走っており、先ほどまでのように余裕のない状態ではない。

 

「はい」

 

千恵はドキドキしながら答える。

 

「今、タツマキもカスミもいない。で、残念ながら、私は交渉ごとには不器用だ。だから一応の挨拶が終わったら、千恵さんは直ぐにそこから出て

 

『転移の術』でタツマキたち、それに千秋さんを連れてきてほしい。多分、ややこしい話になると思うから、そういう場で千恵さんが無駄に時間を潰す必要はないと思う」

 

そのハヤテの言葉を聞いて千恵は

 

「ハヤテさんこそ一人で残って大丈夫なんですか?」

 

と逆にハヤテに聞く。

 

交渉ごとは苦手だと、ハヤテは自分で言っていたのではなかったのではなかろうか?

 

「私はいかなる時でも大丈夫さ」

 

ハヤテは言った。

 

「それよりも千恵さんこそ『転移の術』を使っても大丈夫なのか?、確か体力があまりにも消耗していると」

 

「大丈夫です!」

 

千恵は言い切った。

 

 

そうこういっているうちに

 

ハヤテと千恵を乗せたハヤブサオーは伊賀組屋敷の門前に着いた。

 

屋敷は焼け落ちていても、門の構えはそのままである。

 

ハヤテと千恵は、その門の前でハヤブサオーから降りた。

 

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伊賀組屋敷の門の前で

 

ハヤテは颯爽とハヤブサオーから降りると、鞍の上にいる馬上の千恵に手を貸し、ハヤブサオーから降りるのを手伝う。

 

千恵もまたハヤブサオーから下馬し、ハヤテと並び立った。

 

ハヤブサオーは二人を降ろして安心したのか、ブルルッ!と唸る。

 

そしてハヤテは門の前に立つと、大きな声で

 

「伊賀組屋敷の方々!、谷鬼十が長男、風のハヤテ、ただいま千恵殿と共に参上した、御対応をお願いしたい!」

 

と叫ぶ。

 

『谷鬼十が長男』というハヤテの名乗りに、千恵はちょっとビックリした。

 

谷鬼十が亡くなってから、もう二年近くはたっているはずである。

 

千恵は、ハヤテのその名乗りに並々ならぬ『こだわり』を感じた。

 

 

そんな千恵の驚きをよそに

 

 

早速、何人もの着物姿の伊賀忍者たちが姿を現し、ハヤテと千恵を出迎える。

 

そして、そこには百地組の組頭であり、ハヤテとは旧知でもある百地源太夫の姿もあった。

 

源太夫は、まずハヤテに向かって一礼すると

 

「ハヤテ殿、この度は私の無理なお願いを聞いていただき、忝ない」

 

とハヤテに向かって礼を述べる。

 

「源太夫殿!」

 

ハヤテは険しい顔つきとなる。

 

「礼なら、ここにいる千恵さんにこそ言ってほしい。本当は私も、ハヤブサオーも、こんな無茶なやり方で急いで江戸まで来るようなことはしたくなかった!」

 

「それは当然」

 

源太夫はハヤテの言葉に頷くと、あらためて千恵の方へと向き直る。

 

「千恵殿ですな、はじめまして。私は百地組の組頭、百地源太夫というものです。この度は当方の無理なお願いを聞いていただき、本当に忝ない」

 

千恵は当惑しながらも、まずは源太夫に対する挨拶をすることにした。

 

「源太夫様、はじめまして。私は千恵と申します」

 

源太夫は誠実さを感じさせる雰囲気で、千恵に向かって頭を下げたが

 

千恵としても、こういう場には慣れておらず、率直にいって、どのような対応をしたらいいのかわからない。

 

血車党は、そのようなことは教えてくれなかった。

 

しかも、そんな千恵のところへ

 

恐らくは目の前の源太夫と同じく『伊賀の上忍』と思われる、威厳と貫禄をあわせ持った人物が

 

長髪に、鋭い目付きの、濃い青色のフワッとした感じの身軽そうな忍び装束を羽織った青年と

 

紫色の着物に、朱色の帯、肩までかかる長髪に、背には白蛇を従えた、ややキツそうな表情の女性と

 

 

そして何人かの下忍と思われる着物姿の男性たちとともに

 

近寄ってきた。

 

代表して、その『上忍』と思われる、威厳と貫禄をあわせ持つ人物がハヤテと千恵に挨拶をする。

 

「ハヤテ殿、この度は御足労いただきましたな。そして千恵殿に関してはお初にお目にかかりまする。私は藤林組頭を勤める長門と申すもの、以後、お見知りおきを」

 

藤林長門は、ハヤテと千恵に対して丁寧に挨拶をする。

 

しかし、その目は笑っていない。

 

そして藤林長門の両隣にいる青年と女性の千恵を見る目も、控えめに言って好意的なものとは言いがたかった。

 

また、ハヤテの方も、藤林長門の様子が好意的なものではないことは敏感に察する。

 

「申し遅れましたが、このものたち二名は、我が伊賀の誇る通称『隠れ里の十人衆』のものたち」

 

藤林長門は両隣の男女を、そのように紹介する。

 

「ハヤテ殿、お初にお目にかかります。拙者が黒縄の夜叉丸、以後、お見知りおきのほどを」

 

夜叉丸は、さりげなく千恵を無視して、ハヤテのみに挨拶した。

 

女性の方も

 

「『螢火』と申します。ハヤテ様、よろしくお願いいたします」

 

『螢火』はそう言って、ハヤテに向かって優雅に挨拶をする。

 

明らかに、藤林長門のみならず

 

この二人も千恵に対する何らかの先入観を持っている。

 

ハヤテは直ぐにそれを察した。

 

が、それならそれで、こちらもそのように対応すればよい

 

ハヤテは、そのように割りきってもいた。

 

 

一方で、千恵は気まずかった。

 

場の気まずい雰囲気は、勿論、察している。

 

血車党の化身忍者だった自分を暖かく仲間として迎えてくれたタツマキ、カスミ、ツムジたちと、ここの伊賀の人たちはなんという違いなのだろうとさえ思う。

 

堅苦しい挨拶はさっさと終わらせて、こんなところからは立ち去りたいようにさえ思う。

 

千恵は思わずハヤテの方を見る。

 

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「藤林殿、夜叉丸殿、螢火殿、いろいろ私たちに対して、お話などもあろうかと思いますが、今は少し待っていただきたく思います」

 

ハヤテはまず、そのように藤林長門たち三人に挨拶し、頭を下げると

 

「源太夫殿!」

 

と百地源太夫の方を振り返る。

 

「千恵さんには、まずタツマキたちを迎えに行ってもらいたいと思うので、早速、そうさせてもらいたい!」

 

百地源太夫も頷く。

 

「承知した。では、千恵殿におかれましては、いったん、ここを出られて‥‥」

 

暗に源太夫は、千恵が『変身』するところを、目の前の藤林長門たちや、服部組のものたちには見られない方がいいだろうという意を含ませようとしたのだが‥‥

 

だが、千恵は毅然として、源太夫に向かって言った。

 

「源太夫様、御気遣いは御無用にお願いいたします。どのみち、私がどのようなものであるかは既に皆様もご存じのはず!」

 

言うなり千恵は

 

「変身!」

 

と叫ぶと、両手をいったんクロスして大きく上に回し、再びクロスさせる。

 

千恵の姿が大きく揺れ動き、点滅するかのようにその姿が、他のものと入れ替わり、立ち替わりしたかと思うと

 

その姿は『蛾の変身忍者』としての姿に変貌していた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

ハヤテは驚いた。

 

変身忍者嵐であることが公然のものとして知られている自分でさえ、このように皆の前で大っぴらに変身することは、そうはない。

 

人々に偏見というものがあることくらい、ハヤテだって知っている。

 

 

だが、千恵は皆の前でキッパリと言い切った。

 

「ご存じの方もいらっしゃるはずですけど、私は元々血車党の化身忍者だった身です。そして、そのことを隠すつもりはありません!、むしろ積極的に皆さんに知ってほしいと思います。今のこれが、私のありのままの姿です!!」

 

 

その言葉を聞いて、まず、藤林長門の『変身忍者千恵』に対する視線が変わった。

 

この女性は、自分が考えていたような人物ではなさそうだ。

 

何よりも堂々としており、気品を感じる。

 

夜叉丸もまた『螢火』の話から自分がイメージしていた千恵像とのギャップに驚きを隠せない。

 

思わず目を見張っていた。

 

一方で『螢火』、いや、その実は菖蒲である

 

彼女は場のそうした様子を敏感に察し、内心の焦りを隠せなかった。

 

だが、今はまだ、それを明るみに出すことは出来ない。

 

そして

 

やや遠くから見ていた服部正龍もまた、この千恵の堂々とした様子に感服したようだ。

 

正龍は千恵に向かって、大きな声で挨拶をする。

 

「千恵殿ですな!、私もお初にお目にかかります。服部組の頭領、服部半蔵正龍と申すもの。この度の貴女の堂々たる姿勢、感服申した」

 

その声を聞いた『変身忍者千恵』は、思わず微笑んだ。

 

わかってくれる人は、わかってくれるんだ‥‥

 

「服部様、ありがとうございます」

 

『変身忍者千恵』は、正龍に向かって、優雅に一礼する。

 

そして

 

「私は今より、未だ相模の国に残るタツマキさん、カスミさん、ツムジさん、そして千秋さんを迎えにあがります。私はタツマキさんたちの待つ相模の国まででも一瞬で飛んでいくことが出来、そして、タツマキさんたちをここまで連れてくることが出来る能力を持っています。そして、そのことを」

 

千恵はハッキリと断言する。

 

「私は皆さんの前で隠すつもりはありません!」

 

千秋が相模の国に、タツマキたちと共にいることを聞かされていなかった藤林長門と服部正龍は、思わず百地源太夫の方へと視線を向ける。

 

なら、恐らく百地と、ハヤテと千恵との間には何らかの話がされているに違いない。

 

一方で、源太夫はしまった、と思いつつも、直ぐに気持ちを切り替えた。

 

 

「千恵殿、よろしくお願いいたしまする。何やら藤林殿、服部殿はご納得いかれないようですが」

 

そう言って源太夫は、藤林長門、服部正龍の二人に視線を向ける。

 

「誰かがお願いに上がらねば、ハヤテ殿、千恵殿が、このようにご無理をなされてまで江戸に急ぎ来てくださるなど、どのみちあり得ぬこと。それだけの話でございますゆえ」

 

そう言って源太夫は豪快に笑った。

 

「千恵殿、では」

 

その源太夫の言葉に千恵は頷くと

 

「忍法『転移の術』!」

 

そう叫んで、印を結ぶ。

 

次の瞬間、千恵の姿は煙と共にその場から消えていた。

 

一方でハヤテは、この展開にいささか驚いていた。

 

千恵の愚直な姿勢に、全員ではないにしろ

 

この場の皆は、思いの外、好意的だったようだ。

 

一方で、千恵がタツマキたちを連れてここに戻ってくるまでの間

 

自分はこの人たちのお相手をしなければいけないのだと思うと

 

気は重かったのだが‥‥

 

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