変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来第2編・江戸での血車党との対決 作:shpfive03
『変身忍者千恵』は煙と共に、相模の国四之宮の前鳥宿の門前に、その蛾の変身忍者としての姿を現した。
既にタツマキ、カスミ、ツムジ、そして千秋の四人は、それそれの忍び装束に着替え、門の前で待っていた。
青い眼の複眼、赤い触角、白い羽に茶色の紋様、黄土色がかかった鎧のようなものに覆われた胴体、黒色の足に橙色の長靴のようなものを履いているかのような、『変身忍者千恵』のその異形の姿。
けれども、四人の誰一人として、それを奇異なものとは思わない。
『変身忍者千恵』も、その場に現れるなり
「タツマキさん、カスミさん、ツムジさん、千秋さん、千恵はただいま戻りました。これから皆さんを江戸の伊賀組屋敷までお連れします」
と、まずは挨拶をする。
早速、タツマキが『変身忍者千恵』を気遣って声をかける。
「千恵殿、体調が優れぬようだが、大丈夫かの?」
今の『変身忍者千恵』の顔の下半分は、変身前の千恵とおおよそ同じものであり、表情も疲労感があれば、それとわかるようになっている。
ここは変身忍者嵐とも異なるところである。
「タツマキさん、私は大丈夫です」
『変身忍者千恵』はそのように返事をした。
だが、そこで彼女は一瞬、タツマキの隣にいたカスミから目をそらしてしまう。
そして、その『変身忍者千恵』の様子を見ただけで、カスミは今の千恵の心の動きを察してしまった。
予想通りだわ‥‥
ハヤテと共にハヤブサオーに乗り、長時間の乗馬を共に過ごした千恵が、ハヤテのことを強く意識せずにはいられなくなるだろうということは、カスミには予測がついていた。
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カスミは以前、ハヤテが意識を失った千恵を、その肩に背負いながら
「この
と言って自分たちの前に連れてきたあの日のことを思い出していた。
その時のカスミは猛然とハヤテに向かって抗議したのだ。
「ハヤテさんっ!、その人は今でこそ人の姿をしているけど、ついさっきまで私たちを罠にかけて殺そうとした化身忍者だったんでしょう。そんな人を助けて、しかも手当てをするなんて、一体、どういうつもりなの!!」
普段はカスミには甘いハヤテなのだが、このときばかりは厳しい表情となり、カスミに向かってキッパリと言った。
「なら聞くが、カスミはこの
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
カスミはハヤテのいつになく強い口調に、思わず黙ってしまう。
「それに」
ハヤテはあえて続ける。
「この女性は自らの意思で、この私に対して『血車党の新しい髑髏館』についての何かを伝えようとしていた。勿論、それについても知りたいが」
そこでハヤテはカスミの目を真っ直ぐに見て、言った。
「私は血車党の化身忍者で、自らの意思で血車党を裏切ろうとする人をはじめて見た。かつての友、小次郎ですらも、化身忍者になった後は、その心は、まるでケダモノと化していたのに‥‥」
ハヤテが未だに小次郎のことを語るとき、とても苦しそうな表情になるのを、カスミは知っている。
「この女性は『人の心』を失っていない。だとしたら、私たちが今後、血車党と戦っていく上でも、なぜ、それがあり得たのか、それを知ることは必要だろう」
ここでツムジが口を挟む。
「ハヤテさん、おいら、このお姉さんが悪い人とは思えないんだ」
これにはカスミも異論を言わざるを得ない。
「ツムジ!、貴方はこの
「それは‥‥、そうだけどさ‥‥」
ツムジはさすがにバツが悪そうにするものの
「でも、あの晩、おいらのベロベロバーを見て優しそうに笑い、亡くなった弟さんのことを懐かしそうに語った、このお姉さんが悪い人とは、おいらはどうしても思えないんだ。そりゃ、血車党の一員として、おいらたちに危害を加えようとしたのはその通りだけどさ‥‥」
一方でタツマキは、ハヤテとカスミ、ツムジの話を聞きながら、ふと、あることを考えていた。
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この女性の顔、誰かに似ている‥‥
そしてタツマキは、それを思い出した。
蛍殿と面差しがよく似ていらっしゃる‥‥
「ハヤテ殿、ここはいったん、この方を助けましょうぞ」
ハヤテは、タツマキのその言葉に勇気づけられ、思わず頷いた。
「ありがとう、タツマキ」
タツマキもまた、頷くと
「あくまでも、この女性が我々に害意がないことをきちんと確認した上でのことではありますが」
と言うと、この場の皆が驚くような発言をした。
「この方の面倒を、しばらくは当家で見ようと思うています」
カスミは思わず叫んでいた。
「お父さん!、どういうつもり?」
が、タツマキも頑固一徹を発揮し、ここは譲らない。
「カスミ、わだかまりもあると思うが、ここはワシの頼みと思って聞いてくれないかな?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
結局、カスミは皆に押し切られて千恵の手当てをすることとなり、その着替えの面倒まで見たのだった。
今はすっかり回復しているが、当時の千恵はかなりの火傷を負ってもいたのだ。
カスミは自らの目で、それを確認している。
その回復は、千恵が化身忍者として通常の人間とは異なる生命力を持っていたからに他ならない‥‥
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それから千恵と行動を共にし、彼女のことがわかってくるに連れて
カスミの中に、自分より歳上であるにもかかわらず
千恵に対する、ある意味では友情以上とも言える好意、いや愛情が芽生えてきた。
もしカスミの心が最初の頃から、さほどの変化がなかったのであらば
今や明らかにハヤテに恋心をいだいているのが手に取るようにわかる千恵のことなど
普通に憎むことさえ出来たであろう。
だが、今のカスミは、それを知ってなお
千恵のことを憎むことは出来ずにいるのだ。
ハヤテさんさえハッキリしてくれればいいのに‥‥
カスミは、むしろそのように思ってしまう。
自分はもう、血車党の化身忍者たちに襲われて、弟のツムジと共になすすべもなく震えていたところをハヤテに助けられた頃の子供ではない
それから二年半以上の月日が流れ、今や自分も数え年で十七である。
その間、血車党と戦い続け、修羅場も少なからずくぐった。
ハヤテさん、私はもう子供じゃない、今すぐだって貴方と結婚できるのよ‥‥
そうなれば、千恵さんだって気の迷いから覚め、自分の将来を真剣に考えてくれるはず‥‥
カスミのそのような考えは、しかし、時間にすれば一瞬だった。
「カスミさん、どうしたんですか?」
千恵が声をかけてくる。
その千恵の声で、カスミは我にかえった。
「ううん、別に」
カスミは首を横に振り、笑顔を見せる。
「カスミちゃん、早く出発しましょう、伊賀の皆が首を長くして待ってます!」
と、これは千秋。
既にタツマキ、ツムジ、千秋の三人は『変身忍者千恵』につかまっており、カスミさえ準備できれば、今すぐにでも『変身忍者千恵』は『転移の術』により、江戸の伊賀組屋敷まで出発できる。
「千恵さん、待たしてごめんなさい!」
カスミはそう言うと、直ぐに『変身忍者千恵』につかまった。
それを確認した『変身忍者千恵』は真剣な表情になると
「忍法、『転移の術』!」
と唱え、印を結ぶ。
そして、その場から
『変身忍者千恵』、そしてタツマキ、カスミ、ツムジ、千秋の四人は
煙と共に姿を消した。