変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来第2編・江戸での血車党との対決 作:shpfive03
タツマキの家は、四谷の伊賀組屋敷から、さほど離れていない甲州街道沿いの旗本屋敷が立ち並ぶ場所にあった。
一応は200石以上の所領を持つ旗本の家でもあるとはいえ、タツマキの家は千恵が予想していたよりも、かなり大きな建物だった。
「このあたりは旗本屋敷といっても、実際はわしと同じような公儀隠密をやっているような連中の住居ばかりで、先の上忍三家の方々も、実はこの近くに住んでいらっしゃるご近所様だったりするんじゃよ」
タツマキが苦笑いしながら説明する。
そしてハヤテはというと
「タツマキ、じゃあ、私はここで失礼するから、後を頼む」
と言うなりハヤブサオーにまたがる。
そして
「ハイヨッ!!」
と手綱を引き、そのままハヤブサオーと共に何処かへ去っていった。
千恵は気になって
「ハヤテさんは別に江戸での住まいをお持ちなんですか?」
とタツマキに訊ねる。
ハヤテの行き先も、わざわざハヤブサオーに乗って走り去るくらいだから、あまり近い場所でもなさそうだが‥‥
「ハヤテ殿のお父上だった谷鬼十殿が医術の勉強などの理由もあって江戸にも住まいを持っておってな」
とタツマキが説明をする。
「現在、ハヤテ殿はそこに一人で、いやハヤブサオーと共に住んでいらっしゃる」
千恵はもしかしたら、ハヤテもタツマキの家に同居しているのでは?
などと密かな期待をしていたのだが、さすがにそのようなことはなかったわけだ。
だが、そうであるなら‥‥
「千恵さん」
ここでカスミが千恵に対して声をかける。
「はいっ」
千恵も思わず反射的に返事をする。
「まだ、一人暮らしのハヤテさんの面倒を見てあげたいなんて思っちゃ駄目よ、千恵さんだって十分すぎるくらい年頃の女の子なんだから!」
そう言ったカスミの顔には
私だって我慢しているんだから!!
とハッキリ書いてあったのが千恵には分かった。
千恵も思わず顔を赤くする。
「はは、そう言うことじゃな」
タツマキは笑った。
「あと、我が家の場合には亡くなったお恵の部屋が空いており、千恵殿に暫く住んでいただくのにも具合が良いというのもあるし、先の伊賀組屋敷の連中に限らないが、心ない連中が、あれこれ言うのを防ぐという意味もある」
「それは、どういうことでしょうか?」
千恵は気になってタツマキに質問する。
「一応、わしの家の中であれば、千恵殿を監視下におけると考えるような連中も少なからずいるということかの」
タツマキは苦虫を噛み潰したような声で答えた。
「言っておきますが、わしらがそう考えているという意味ではござらんぞ」
「それはわかっています」
千恵はキッパリと答える。
むしろタツマキは自分を守ろうとして、あえて自らの家の居候として、わざわざ亡き妻の部屋を空けてまで、自分を住ませてくれるのだ‥‥
血車党の化身忍者として、タツマキとこそ直接刃を交えることはなかったものの
ツムジを術にかけてハヤテを襲わせ、手下の下忍たちにツムジとカスミを襲わせたりもした自分を
あえて自らのすむ家に受け入れてくれる
その事の重さがわからない千恵ではない。
ここでカスミがクスクス笑いをしながら
「千恵さん、前にも言ったけど、
と千恵に向かって言った。
「掃除、炊事、洗濯、床の準備、みんな私たち年頃の女の子は普通に出来て当たり前のこと、やることは一杯ありますから覚悟してね!」
「は、はいっ‥‥」
千恵は少しドキドキした。
山で暮らしてきた時期が長く
肉は捕まえてきた鳥や動物を自分でも捌いていたが、野菜なんかちぎって食べれば十分、ご飯なんか炊いたこともない、服は川で適当に洗えばいい
血車党に入ってからは、雑用は係りのものが代わりにやってくれる
そのようにして過ごしてきた自分に
ちゃんとした家の家事が出来るんだろうか?
「心配しないで、千恵さん」
カスミは、そこでニコッと笑顔を見せる。
「私が一から優しく教えてあげるから。だから大丈夫よ」
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「ただいまお恵、今、帰ったよ」
タツマキはそう言うと、恵の仏壇の前に手を合わせ、線香をあげる。
続いてカスミが
「お母さん、カスミはただいま戻りました」
と言って仏壇の前で手を合わせ、線香をあげた。
そしてツムジも
「母ちゃん、ただいま!、おいらも無事帰ったよ」
と言い、やはり仏壇の前で手を合わせ、線香をあげる。
そして千恵も仏壇の前に進み出ると
「お恵さん、はじめまして。千恵と申します。この度縁あってタツマキさんの、この家にお世話になることとなりました。
と言って仏壇の前で手を合わせる。
一生懸命に念じた。
恵の命を奪ったのは、かつての自分と同じ血車党の化身忍者であり、一歩、運命の歯車が違っていれば
それは自分だった可能性もあったのだ。
そして心を込めて線香をあげる。
再び千恵は手を合わせた。
そして千恵が立ち上がったところで、早速カスミが声をかける。
「さあ千恵さん、これけら部屋の片付けと、千恵さんのこれから住む部屋の準備をしましょう。それから部屋の掃除、お風呂の準備、食事の準備、やることは一杯よ。あっ、ツムジ!」
そこでカスミはツムジにも声をかける。
「当然、あなたにも手伝ってもらうからね」
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「ちょっとさ、カスミ姉ちゃん!」
ツムジがここでカスミに対して意見する。
「千恵お姉ちゃんは、朝早くからハヤテさんとハヤブサオーで急いで江戸まで行った直ぐ後に『転移の術』で、おいらたち皆を、この江戸の伊賀組屋敷まで連れてきてくれて、かなり疲れているはずだよ。本当なら今すぐにでも一休みしたいはずだと思う」
そこまで言ったあと、ツムジはこう続けた。
「なんだか普段のカスミ姉ちゃんらしくないよ、そんなに急いでなんでもかんでもやろうとするなんて、千恵お姉ちゃんだって人間なんだし、疲れてもいるはずだっていうことはわかるはずなんじゃないの?」
カスミは、そうツムジに言われて思わずハッとした。
確かに今の自分は感情が先走っており、冷静さを欠いていたようだ。
「ツムジ、あなたの言う通りだわ‥‥」
カスミは少し恥ずかしそうに下を俯くと
「ごめんなさい、千恵さん。私、少し先走りすぎたみたい‥‥」
と千恵に謝る。
千恵は微苦笑した。
「いえ、カスミさんが善意で言ってくれていることはわかってますから‥‥」
千恵は確かに少なからず疲れていた。
本当なら直ぐにでも横になりたい‥‥
でも、今から自分のこの家での新生活が始まるのだと思うと、そんなことでへこたれていられない!
そう内心で自分を叱咤していたのだ。
「千恵さん、ありがとう」
とカスミは千恵の返事に謝意を述べた後に
「それより大切なことがあるわ、せっかくだからお父さんも一緒にお母さんの部屋に行きましょう」
とタツマキに視線を向ける。
「わかった」
タツマキは短く返事をした。
タツマキ、カスミ、ツムジ、そして千恵の四人は、亡くなった恵がかつていた部屋の襖を開ける。
カスミがまず部屋の中へ入った。
そして箪笥を開けると、そこから部屋着を丁寧に取り出す。
カスミは確認するように
「お父さん、ツムジ、いいわよね?」
とタツマキとツムジに声をかけた。
「ああ、そうしてくれ」
とタツマキが答える。
「うん、それがいいと思う」
とツムジも頷く。
二人の返事を確認したカスミは
「千恵さん、生前の母が着ていた部屋着です。これを着てみてください」
と言って、千恵に箪笥から取り出した部屋着を手渡す。
千恵はドキドキした。
「あの‥‥、いいんですか?」
「だって今の千恵さんは、その黒の忍び装束と旅装しか持っていないでしょう」
とカスミは当然のように答える。
「明日、この辺りの呉服屋さんで千恵さんと一緒に、これから生活するのに必要な衣類を買いに行こうと思っているけど、まずは部屋着に着替えましょうよ。大丈夫、お母さんだったら、きっと笑って許してくれるから」
それを聞いた瞬間、千恵の目に涙が滲んだ。
カスミから渡された、元は恵のものだった部屋着を、思わずギュッと抱き締める。
そして、生前は一度も会ったことがない恵のことを思った。
どんな方だったんだろう‥‥
「皆さん、本当に、こんな私に、ありがとうございます‥‥」
千恵は思わず、その場で泣きじゃくってしまった。
「千恵さん、あまり大袈裟に考えないで」
とカスミ。
「私たちは部屋から一旦出るから、ゆっくり着替えてね」
カスミのその言葉を合図に、千恵を部屋の中に残して、タツマキ、カスミ、ツムジは部屋を出て、襖を閉めた。
千恵はゆっくりと、渡された部屋着への着替えを始める。
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「千恵お姉ちゃん、似合ってるよ!」
千恵の着替えた姿を見てツムジが言った。
そのツムジの賛辞を聞いて千恵は
「ありがとう、ツムジさん」
と微笑む。
「千恵さん、ゆっくり休んでて。お布団なら、そこの押し入れの中にあるから」
とカスミが、部屋の中の押し入れを指差す。
「あの‥‥、やることが一杯あるなら、私も」
と千恵。
「まあ、千恵殿もお疲れの様子。まずはゆっくりと休みなされ。部屋の掃除がまだなのに恐縮ではあるがの」
とタツマキが言った。
そうだ‥‥、せめて、この部屋の掃除くらい
千恵はそう思ったが
「まず、ゆっくり休んでて」
カスミが念を押すように言った。
「私とツムジは、この近くの市場と『煮売茶屋』で、今晩の食事の材料を仕入れてくるから。明日、服を買いに行く時にそこにも案内するから期待しててね」
そう言ってカスミは千恵に向かってウインクする。
「千恵お姉ちゃん、意地を張らずに今はゆっくりと休んでて。まだ、これから先もあるんだから」
とツムジは言うと
「忍び装束の方はおいらが預かるよ。明日一緒に洗濯しよう」
と千恵に向かって言う。
千恵は少し俯きながら、それまで自分が着ていた黒の忍び装束をツムジに渡す。
「いい機会だから、ツムジにもちゃんとした洗濯の仕方を教えてあげるからね」
とカスミがツムジに言うと、再び千恵の方を向き
「夕食が出来たら声をかけるから、それまで休んでて。じゃ、また後で」
と言う。
千恵は短く
「はい‥」
と返事をした。
タツマキ、カスミ、ツムジの三人はゾッと襖を閉め、部屋から退出する。
千恵は布団の上で横になった。
皆さん、これからお世話になります‥‥
心の中で、そう呟きながら