変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来第2編・江戸での血車党との対決 作:shpfive03
「自分の望む方向に自己進化を遂げたって?、私、全然そんな自覚はないんですけど」
千恵は釈然としない。
あの早川城で変身忍者嵐不在の時に、骸骨丸と新しい毒蛾くノ一が現れた瞬間、自分としては、それまでの『化身』という言霊を使って、それ以前までの毒蛾くノ一に変化するつもりだった。
そうなれば新しい毒蛾くノ一と、髪の色と、羽の模様の色を除けば、ほとんど同じ姿のもの同士が、あそこで対決することになっていたはずだし、自分も、そのつもりだった。
が、あの時、自分には確かにその場にいなかったはずのハヤテの声が聞こえたのだ。
「いいか、千恵さん。『ケダモノに化ける』のではなく、『人の心』を持って『身が変わる』、それが『変身忍者』という意味なんだ!」
この話は既に早川にいたときにカスミにも話していたが、あらためて
「カスミさん、私は確かにあの時、ハヤテさんの声がそのように言ったのを聞いたんです」
と言った。
「それと同じ内容の言葉を、私は以前、亡くなった鬼十先生から直接うかがっています」
カスミは静かに千恵に答える。
「えっ?」
千恵は驚いた。
カスミは、その時のことを振り返るかのように復唱する。
「いいかハヤテ!、人面獣心(つまり『ケダモノに化ける』の)ではなく、『人の心』を持って『身が変わる』、それが『変身忍者』という意味だ。お前は変身忍者として生きろ!」
そのように言った後、カスミは
「鬼十先生はハヤテさんにそのようにおっしゃっていました。そして、その場で亡くなりました。だから、これは鬼十先生の遺言でもあります」
千恵は疑問を感じた。
「なぜ、カスミさんはその事を知っているんですか?」
カスミは当たり前のように言った。
「えっ!、だって、私、その場にいましたから」
「えっ?」
「私だけじゃなくて、お父さんも、ツムジも、その場にはいましたよ。ハヤテさんと私たち四人で、骸骨丸と化身忍者、下忍たちに襲われて致命傷を負った鬼十先生の最後を看取ったんです」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
千恵は返す言葉が見つけられない。
「致命傷を負わされてなお、骸骨丸たちに追い回されていた鬼十先生を、ツムジと二人で何とか守ろうと、必死に手裏剣を投げながら、変身忍者嵐と、そのすぐ後でお父さんが現れるまで、頑張って抵抗したんですよ。当時の私は、まだ十四歳でした。ツムジは十一歳です」
あの時の鬼十先生は
『逃げろ!、ワシに構わず逃げろ!』
とカスミとツムジに強く言ったのだが
それに対してカスミはキッパリと、このように答えたのだ。
「いえ、あたしも忍者の子です!」
ツムジも
「負けるもんか!」
と、必死に手裏剣を投げながら骸骨丸、化身忍者に向かって叫んでいた。
カスミはその時のことを昨日のように思い出す。
一方、それを聞いた千恵は
変身忍者嵐が化身忍者を斬り、骸骨丸らを撃退した後、介抱の甲斐なく鬼十は帰らぬ人となった。
そして
変身忍者嵐、つまりハヤテと、カスミたちは、それ以来、ずっと苦楽を共にし、血車党と戦ってきたのだ。
あらためて、その絆の重さを感じた。
そこに自分が割り込む余地があるようには思えない。
それでも、私はハヤテさんのことが好きなんです‥‥
その声を千恵は心の中に押し留める。
「話を元に戻しましょう」
というカスミの声で、千恵は我に返る。
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「千恵さんが聞いたという『ハヤテさんの声』のことについては、正直、私も分かりません、ただ、確かに『ハヤテさんが内心、いつかは千恵さんに言いたかった言葉』たったに違いないと、私には思えるんです。亡くなった御父上の遺言でもあったわけですから」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「それ以上に、実際に千恵さんがその言葉を受け止め、より『人に近い姿』に『変身』したことの方が重要だと思えるんです。そして、千恵さんは血車党にいた化身忍者もまた、自分の意思で、『人の心を持つ変身忍者』に進化することが出来るということを証明したという意味で、重要な第一歩を踏み出したと思うんです」
そう聞かされると、なんだか凄いことのような気がしてくる千恵だった。
「もしかしたら、嵐もいつの日にか別な進化をすることもあるかもしれませんね」
カスミはそこまで言うと
「すみません、話が脱線して長くなっちゃいましたね」
と苦笑いする。
「私は今、ハヤテさんの家に保管してある鬼十先生の資料を、江戸に戻ってきて時間がある度に読ませてもらっています。残念ながら、お父さんかツムジのどちらかが必ず着いてくるので、ハヤテさんと二人きりには、なかなかなれずにいますけどね」
それは勿論、カスミがハヤテとうっかり『既成事実』を作ってしまわないためだろうな
というのは千恵には容易に察しがついた。
「でも、血車党との戦いが終わって平穏な時間が過ごせるようになったら、私は鬼十先生の残した資料を元に、いろいろ勉強して、『変身忍者を普通の人間に戻す方法を見つける』ことも含めて、『人間化身の法』についての勉強をしたいと思っていますし、この江戸にいらっしゃる『万物先生』と呼ばれる有識者の方からも協力を得られることになっています。そして御公儀も研究のための費用を出してくれるそうです。そして」
カスミはキッパリと言った。
「そのためにはハヤテさんにも引き続き江戸に残ってもらいたいと思っていますし、それについてであればハヤテさんの同意は得ています」
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「そうなんですね‥‥」
言いながら千恵はハヤテのことを思って、また悲しくなった。
手が届かないと思うほど、ハヤテに対する
「ハヤテさんと話した血車党との戦いが終わった後にどうするのかということの内容はそういうことです。で、千恵さんとしては」
「はい」
千恵は鸚鵡返しに返事をする。
「こうした話を聞いてみても、ハヤテさんのことを諦める気にはなれないでしょう?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
カスミさんはお見通しなんだ、と千恵は思った。
まったく、これではどちらが歳上なのかわかったものてはない。
「だから私は千恵さんのことを、ちゃんと
「えっ?」
千恵は、カスミのその言葉に驚いた。
「だから、お互い堂々としましょう。隠し事はなし、抜け駆けはなし、それでいきましょう。私は過去の話も含めて、ちゃんとお話させていただきましたから」
そんなこと言ったって‥‥
千恵は上田での貧窮時代に複数の男と金目当てで寝ており、その中に骸骨丸もいたのだ。
それどころか、血車党に入ってからも、化身忍者になりたさに、あらためて骸骨丸と寝てもいるのだ。
だからこそ、骸骨丸の当時の愛人だったあざみは、強く自分のことを憎んだ。
骸骨丸自身を憎むことが出来なかったが故に‥‥
そして『
そんな千恵の煩悶を、しかしカスミは見抜いていたようだ。
「過去の話なら無理にしなくてもいいですよ。それは千恵さんが話したくなってからでいいです」
千恵はカスミの鋭さにあらためて驚かされた。
敵わないな‥‥
「私が言うのは、ハヤテさんのことではお互い堂々とやりましょうということ。私はハヤテさんと絶対結ばれるつもりだけど、それは別」
「カスミさん‥‥‥‥」
「本当のことを言うとね」
カスミは苦笑いする。
「お父さんから言われたの。千恵さんとちゃんと話してきなさい。ハヤテ殿とのことで、お互いにわだかまりが出来ないうちに、って」
千恵は、それをカスミに言ったタツマキの『親心』を思った。
「お父さんは、とっくに千恵さんがハヤテさんに寄せる気持ちに気がついていますよ。いちいち言わないだけで」
「そうなんですね‥‥」
「だからこそ、千恵さんはウチで花嫁修行をしましょうよ」
カスミがあらためて宣言する。
「私はハヤテさんのために、今すぐだって『美味しいお料理』を作ってあげられるわよ。千恵さん、出来る?」
「ちょっと自信ないです‥‥」
千恵は正直に答える。
「まず、明日の朝、美味しいお味噌汁の作り方から始めましょう」
嬉しそうにカスミは言った。
「お母さんから教わった美味しいお味噌汁の作り方を、私から千恵さんに伝授してあげる。あとは美味しい御飯の炊き方、お漬物の作り方、お魚の焼き方、お豆腐の切り方、みんなコツというものがあるのよ」
「そうなんですね‥‥」
千恵は思わず圧倒される。
カスミは、そんな千恵の様子を見てクスクス笑いをする。
「大丈夫よ、千恵さん。恋敵だからって、教えるべきことは、ちゃんと教えますから。だから、覚えてね。当面の目標はハヤテさんのために美味しいお料理を作ってあげられるようになること」
「はい」
千恵は、カスミがあえて『ハヤテさんのために』と言ってくれたことに感謝した。
「せっかくウチに来たんだから、楽しくやりましょう。お父さんがよく言うんだけど
ニコニコ笑って楽しく過ごしても一日は一日、しかめ面して不愉快な過ごし方をしても一日は一日
どうせなら毎日をニコニコ笑って楽しく過ごしましょうよ。今の千恵さんにはそういう気持ちが必要だと思う」
「カスミさん、ありがとうございます」
千恵は素直に感謝した。
「お父さんも、ツムジも、千恵さんのことは心配してくれているから。じゃ、私は夕食の仕上げをしてくるから。また、あとで呼びに来るまで待っててね」
カスミは手を振ると、千恵の返事を待たずに障子を開け、部屋から出た。
千恵の気持ちは、かなり明るくなった。
明日から頑張ろう
そんな気持ちが沸いてくる。
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だが、そんなタツマキ一家のほのぼのとした様子の一方で
別なところでは、早くも動きが始まっていたのだ。