変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来第2編・江戸での血車党との対決 作:shpfive03
一方、時刻は既に夜。
タツマキ一家が本日より居候となった千恵と遅めの夕食を楽しんでいる、ちょうど、その頃である。
ここは四谷の伊賀組屋敷からも、さほど離れていない川縁の
『螢火』、いや、正確にはその姿を借りた血車党くノ一の菖蒲は、自らの
笛を吹いたと言っても、人に聞こえるような音がするわけではない。
その通常の人には聞こえないような『超音波』を笛により発することで、『螢火』、いや、その姿をした菖蒲は主である毒蛾くノ一を呼び出そうとしたのだ。
だが、それを見ていたものがいる。
「螢火、こんな時間に、こんな所で、一体何をしているんだ?」
『螢火』は、声の方向を恐る恐る振り返る。
そこには、やはり
長髪の、濃い青色の忍び装束を着て、手には黒縄を持つ美青年
言わずと知れた夜叉丸がそこに立っていた。
見られた!
内心で焦りを感じる『螢火』こと菖蒲であった。
このままでは、彼女自身が呼び出した毒蛾くノ一が、この場にいる夜叉丸の前で鉢合わせしてしまう。
「夜叉丸!、なぜ私に対してまで気配を隠してまでついてきたんだ!」
思わず叫ぶ『螢火』たが
「気配を隠してついてきたのは本当だがな」
夜叉丸はニヤリと笑う。
「残念だが、本物の螢火なら、たとえ俺が気配を隠してついてきたところで、必ず俺の気配に気づくはず。だが、お前は気づかなかった」
『螢火』、いや菖蒲は強い焦りを感じた。
「お前、螢火じゃないな!、一体何者なんだ!!」
夜叉丸は、もはや態度を変え、目の前の女を厳しく詰問する。
と、そこへ
「それは私も知りたいところだな!」
と姿を現した人物がいる。
その人物を指差し、夜叉丸は言った。
「あんた、ハヤテさんじゃないか!」
「いかにも」
青い忍び装束に、愛刀速風を背負ったハヤテは夜叉丸に向かって頷いた。
「夜叉丸殿、あらためてだが私が風のハヤテだ。先ほどはキチンと挨拶するいとまがなく失礼した」
ハヤテは夜叉丸に向かって一礼する。
だが、この場にいるもう一人の女性である『螢火』に対しては挨拶をしない。
その事がまた、ハヤテの『螢火』に対する心証を裏付けていた。
「夜叉丸殿、目の前にいるこの
『螢火』はハッとする。
が、もう手遅れである。
「何を隠そう、私はその笛の音色を聞きつけて、ここにやって来た」
ハヤテが明言する。
「その特殊な笛は、この世にただ一人の例外を除いて、血車党でも限られた立場のものしか持っていないはずのものだ。それを理由なく使っている時点で、貴女は少なくとも伊賀忍者ではない可能性が極めて高い!」
そうした特殊な音波を発する笛を使えるただ一人の例外
それは涼風を使うことが出来るカスミだけである。
そして、涼風から発せられた『音』であるなら
それをハヤテが間違うことなどあり得ないのだ。
「この私が江戸市中にいるのに、その笛を使ったのは失敗だな」
ハヤテは目の前の彼女を指差す。
「言ってくれ!、貴女は本当は何者なんた?」
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「くっ、くくくく‥‥」
『螢火』、いや、もはやその正体を隠すつもりもなくなった菖蒲は笑った。
心の中では
毒蛾くノ一様、申し訳ありません!
と呟きながら
「その通りよ、久しぶりねハヤテさん」
彼女のその言葉を聞いて、思わずハヤテは愕然とした。
「その声は‥‥」
ハヤテは彼女を指差す。
「そして夜叉丸さん、あなたも私が本当は『あなたの恋人螢火ではなかった』ことを見抜いたみたいだから、一応は誉めてあげる」
そう言いながらも彼女の口調は、むしろ
夜叉丸を小バカにしたようなものだったのだが
次の瞬間、『螢火』の姿は真っ二つに割れ、そして、その姿は煙と共に消える。
そして、その場には
総髪を後ろ髪でまとめ、黒の手甲に、黒の脚絆、そして草履、黒色で半袖の忍び装束に身を包んだ血車党くノ一の姿があった。
「我が名は血車党くノ一、菖蒲!!」
菖蒲は堂々と名乗りをあげ、剣を構える。
「裏切者、そして我が許嫁、山彦小次郎の憎き仇、風のハヤテ!、私はこの命に代えても貴様を倒す!」
ハヤテは目の前の菖蒲に向かって言った。
「よせ、菖蒲さん。私は貴女と闘いたくない!」
二人の様子のただならぬところを見た夜叉丸が剣を抜き、割って入ろうとするが
「夜叉丸殿、後生だから、手は出さないでくれ!」
とのハヤテの叫び声に、一応は思い止まる。
「しかし、ハヤテ殿、こうなったからには本物の螢火がどうなっているかを、私は直ぐにでも知る必要がある!」
その夜叉丸の声に答えたのは、剣を構えたままの菖蒲である。
「心配いらないわよ、夜叉丸さん、あなたの恋人は私たち血車党の方で身柄は押さえているけど、少なくとも今のところは無事だから」
菖蒲はフフッ、と笑う。
「もっとも、この私の正体が露見してしまった今後はわからないけどね」
「螢火は無事なんだな!」
夜叉丸が菖蒲に重ねて問う。
「ええ。だから余計なことをしない方がいいわよ」
菖蒲は薄ら笑いを浮かべた。
「菖蒲さん!」
強い焦りを感じる声でハヤテが言った。
「まさか、貴女も、小次郎やこずえさんと同様に‥‥」
菖蒲は笑いながら首を振る。
「いいえ、私は『今のところはまだ』化身忍者になってはいないわよ」
ハヤテは一瞬、ホッとしたような表情を浮かべたが
次の瞬間、菖蒲はキッパリと言った。
「それは、あなたを倒すためにはその方が有利だからと骸骨丸様がおっしゃったからよ。あなた、あの裏切者の女の前で『女子供は倒せない』などと言い切ったそうね!」
そして菖蒲はハヤテを睨み付ける。
「なら、女であり、しかも人の身でもあるこの私を、あなたは斬れるのかしら?」
言いながらも菖蒲はじりっ、じりっ、とハヤテに近づいてくる。
「あなたが私を斬れなかろうと、私はあなたを斬る!」
そう宣言すると菖蒲は
「とあっ!」
という掛け声と共にハヤテに対して鋭い剣先で斬りかかってきた。
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ハヤテは菖蒲の剣を恐れてはいなかった。
むしろ一気に彼女の剣を撥ね飛ばし、彼女の戦意を失わせることを狙っていたのだ。
相手の剣を巻き上げて弾き飛ばす、所謂『巻き上げ』という技がある。
双方の剣の腕に実力差がなければ、そのようなことは出来ないが、それについてはハヤテは自信があった。
ハヤテは素早く背中の速風を抜き、飛びかかってくる菖蒲の剣を巻き上げて撥ね飛ばそうとする。
「えぇぇいっ!」
が、ハヤテの意に反して、菖蒲は自らの剣を撥ね飛ばされることなく、ハヤテの巻き上げをなんとか堪えると、大きく飛び退いた。
「さすが風のハヤテ、剣の腕は相変わらずね!」
ふうっと、大きく息を吐く菖蒲。
「菖蒲さん、無駄なことは止めるんだ!」
とハヤテは菖蒲を諭すように言う。
「貴女の剣の実力では私には勝てない!」
「いいえ、まだまだ!」
菖蒲はハヤテに対して気丈に答えると、今度は自らの剣を縦横無尽に旋風回転させる。
「それは!」
驚くハヤテ。
それもそのはず、菖蒲のやっていることは変身忍者嵐の必殺技『旋風斬り』そのものである。
ただし、嵐の「旋風斬り」が右回しなのに対して、こちらは左回しではあるのだが
「血車流、逆旋風!」
菖蒲は叫ぶと、再びハヤテに向かって飛びかかってくる。
さすがのハヤテといえども『旋風斬り』に対して、先ほどのような『巻き上げ』による剣を撥ね飛ばす技は使えない。
ハヤテは滅多にないことだが、変身忍者嵐に変身しないまま、自らも速風を右回しに旋風回転させる『旋風斬り』の態勢に入った。
バキィッ!!
剣と剣が火花を散らし、二人は再び大きく飛び退いた。
夜叉丸はこれを見て、二人の剣技の凄さに舌を巻く。
変身忍者嵐の旋風斬りの威力は、先の伊賀組屋敷における忍兵衛たちの自爆の時に嫌というほど見せつけられた。
人間態であるハヤテの時は、多少、その威力は割り引いて考える必要はあるとしてもだ
その旋風斬りを女性の身でありながら、ほぼ、ハヤテと同等のレベルで使いこなす血車党くノ一の剣技には、夜叉丸と言えども賛嘆の気持ちを感じずにはいられない。
そして『二人の真剣勝負』に割って入る気にはなれなかった。
が、そこに割って入って来たものがいる。
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ハヤテと菖蒲の目の前で爆音がし、そして煙がその場に見えたかと思うと
ハヤテにとっても見覚えのある姿をした毒蛾の化身忍者が姿を現し
「イーッ!、ヨーウゥゥー」
と声をあげ、そして
「化身忍者、毒蛾くノ一!」
と名乗りをあげる。
かつて、ハヤテ、そして変身忍者嵐が対戦した化身忍者毒蛾くノ一と瓜二つと言ってもいい、その姿の化身忍者。
しかし、よく見ると、その長髪の色は以前の毒蛾くノ一のような黄金色ではなく、血のように赤い深紅であった。
また、その白い羽根に見える模様も、以前の毒蛾くノ一のような茶系の色ではなく、薄い紅色である。
化身忍者毒蛾くノ一はハヤテに向かって言った。
「裏切者のハヤテ!、お初にお目にかかる」
ハヤテは目の前の毒蛾くノ一に向き直る。
「お前が千恵さんに代わる、新しい化身忍者毒蛾くノ一か!」
そのハヤテの言葉に対して、化身忍者毒蛾くノ一は不快そうに答えた。
「私をあんな『でき損ないの裏切者』と一緒にするな!、私こそが血車党でただ一人の化身忍者毒蛾くノ一だ!」
「バカなことを言うのは止めろ!」
とハヤテ。
「ここにいる菖蒲さんもそうだが、目を醒ますんだ!、今の血車党には『正義』などない!」
「ふっ、正義ねえ」
化身忍者毒蛾くノ一は鼻で笑うようにしてハヤテに答える。
「血車党に正義ならあるよ!、お前らがそれを正義だと思わないだけだ」
一方で菖蒲はというと
「毒蛾くノ一様、申し訳ありません!、この二人に私の正体を見抜かれてしまいました‥‥」
唇をかむ菖蒲だが、それに対して化身忍者毒蛾くノ一は優しく、諭すように答える。
「菖蒲、お前はよくやった。私に謝ることなどない。そもそも、ここいにいるハヤテたちを十分な足止めすることさえ出来なかった人喰いカラスたちにも非はあること。それにお前が結果的に陽動作戦をしてくれたことで、こちらも準備出来たことがある」
ここで夜叉丸が割って入った。
「おいっ、そこの毒蛾の化物、聞きたいことかある!」
その夜叉丸に対して化身忍者毒蛾くノ一は振り向くと、嘲笑するかのように答えた。
「あなたの恋人、螢火さんのことかしら?」
「そうだ!」
夜叉丸は毒蛾の化物そのものの姿をした毒蛾くノ一に対しても、あくまでも毅然とした態度のまま答えた。
「螢火は、今、どこにいる?、答えろ!!」
「さあ、どこかしら?」
化身忍者毒蛾くノ一は面白そうに答える。
「答えないなら、腕づくでも聞き出してやる!」
夜叉丸は黒縄を振り上げた。
「夜叉丸殿、よせ!」
ハヤテが大声で夜叉丸を制止する。
「いくら練達の忍びといえども、人の身で怪物そのもののような化身忍者には勝てない」
「それはどうかな」
夜叉丸は自信ありげだった。
「貴殿と、そこにいる血車党くノ一との間には過去に何かあったと思うし、真剣勝負の一騎討ちに割って入る気はなかった。だが、俺がこいつを倒すのは、俺の判断だ!」
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言ったその瞬間、夜叉丸は毒蛾くノ一に向かって、必殺技の黒縄を投げる。
夜叉丸が操る黒縄は女性の髪をより合わせ、獣油を塗り込んだ特製であり、まるで糸のような細さであるものの、岩石や土塀さえ切り裂くことができる鋭い切れ味である。
夜叉丸は自らの指先で、この黒縄を数十メートルの範囲で操ることが出来るのだ。
通常の相手なら、この黒縄にはなす術もないところだろうが、残念ながら化身忍者毒蛾くノ一にとっては違った。
「ふっ、子供だましが」
化身忍者毒蛾くノ一はそう言うと、その羽根を羽ばたき、飛んできた黒縄を吹き飛ばす。
そして、あろうことか
毒蛾くノ一を襲ったはずの黒縄が、それを操っていた夜叉丸に向かって襲いかかっていったのだ。
「うわあ!」
自らに向かって襲いかかってきた黒縄に驚く夜叉丸。
だが、ハヤテが素早く夜叉丸の前に立つと、すぐに旋風斬りで黒縄の猛襲を斬って捨てた。
バラバラと落ちる黒縄。
思わず茫然とする夜叉丸だが、それでも目の前のハヤテに対して
「ハヤテ殿、忝ない」
と礼を言うことは忘れなかった。
ハヤテは夜叉丸に向かって頷くと、嵐に変身するため、すぐに両手をクロスさせ、右手を上に挙げた。
「吹けよ、嵐!、嵐!、あ、ら、し!!」
言いながらハヤテは右手をおろして、再度両手をクロスさせる、そして抜刀の姿勢を取ると、背中の刀の鍔をカチッと鳴らした。
ハヤテは、愛刀「速風」のその時の特殊な振動により、脳神経が異常活動を始め、体の細胞配列を変えて「変身忍者嵐」に変身するのだ。
たちまちハヤテの周囲が大量の羽毛に囲まれたかと思うと、次の瞬間には「荒鷲の変身忍者である嵐」が、その場に出現していた。
「嵐、見参!」
変身忍者嵐の姿を見た化身忍者毒蛾くノ一は
「変身忍者嵐か。今、決着をつけたいという気持ちもなくはないが‥‥」
そこまで言うと、目の前の菖蒲に向かって言った。
「菖蒲、この場はいったん引き上げるぞ。我らには大きな目的がある。目的達成のためには逃げることも必要だ」
菖蒲は目にうっすらと悔し涙を浮かべながらも主の言葉にコクリと頷くと、直ぐに自らの主の体にしがみついた。
「血車忍法、転移の術!」
化身忍者毒蛾くノ一は素早く両手で印を結ぶ。
次の瞬間
煙と共に、化身忍者毒蛾くノ一と菖蒲の姿は
変身忍者嵐と、夜叉丸の前から
その姿を消したのだ。
その場に残されたのは
変身忍者嵐と夜叉丸の二人だった。