変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来第2編・江戸での血車党との対決 作:shpfive03
ハヤテ、タツマキ、カスミ、ツムジ、そして千恵の五人は、早川を朝、出発して東海道を歩き続けた。
早川から馬入までは、おおよそ五里。
千恵も今度は頑張って、皆と一緒に歩く。
内心では「負けるものか!」と、自分に言い聞かせながら。
ハヤテもハヤブサオーから降りて、皆と一緒に歩く。
その甲斐もあって、昼過ぎくらいまでには、どうやら馬入の宿場町にはつくことが出来た。
ここからが問題である。
相模の国では最大の川である相模川。
川幅も広く、橋も架かっていないため、当時は渡船で対岸に渡る以外の交通手段が存在しない。
ここは大井川や箱根峠などと並ぶ東海道の難所の一つ「馬入の渡し」であったのだ。
周辺の馬入村や須賀村、あと対岸の柳島村など五つの村が、この渡し船を運営していた。
ハヤブサオーがいることもあり、渡し船には五人が一緒に乗ることも出来ない。
どうしたものかと、それぞれ思案中の五人の前に突然
「助けてくださあい!」
という女の子の叫び声が聞こえてくる。
五人はすぐに身構えると、目の前に旅姿の杖を持った女の子が助けを求めて走ってきた。
年の頃はツムジよりも下、せいぜい数えで11くらいであろうか?
その女の子が黒覆面の血車党下忍五人に追われている。
「クエェー!」
下忍たちの叫び声。
「すみません!、助けてえ!」
ハヤテたち五人の姿を見た少女は、藁にもすがる思いで助けを求めてくる。
ハヤテが背中の速風をとったのをはじめ、タツマキ、カスミ、ツムジもそれぞれ剣を抜こうとするのを、千恵が制した。
「皆さん!、ここは私にやらせてください!」
言うなり千恵は旅装を脱ぎ捨て、黒色の忍び装束に姿を変え
そして走りよってきた女の子に
「もう大丈夫よ」
と優しく声をかけると、女の子を庇うようにして、その前に立ち、そして下忍たちに呼びかけた。
「悪いことはいいません。この女の子のことは諦めて、ここから立ち去りなさい!!」
キッパリと言う千恵に対して、五人のうちのリーダー格と思われる下忍が返答する。
「貴様が『出来損ないの裏切者』か!、そんなことが出来るわけないだろう、この餓鬼を捕まえていかねば、俺たちが殺されるのだ!」
千恵は、その下忍に対して
「どうやら私のことは知っているようね。なら、化身忍者だった私に、お前たち五人が束になってかかっても敵うはずがないことくらいわかるでしょう?」
と言い切った。
そうしているうちに少女は、ハヤテたち四人に庇われ、その背後にいる。
実力差から考えても、増援でも来ない限り、五人の下忍たちが少女を捕らえていくことは出来そうにないのはわかりきっていることである。
千恵はさらに言う。
「私は血車党のことは絶対に許せないと思っているけど、あなたたち一人ひとりに対してまで、憎しみを持っているわけじゃない!、抵抗せず、立ち去るなら命は取らない。そして血車党から逃げ出せばいい!!」
リーダー格らしき下忍は
「逃げられるものなら、とうの昔に逃げとるわ!、所詮は女、これでもくらえ!」
と叫ぶと剣を抜き、千恵に襲いかかった。
「クエェー!」
他の四人の下忍も剣を抜き、一斉に千恵に襲いかかる。
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「仕方ないわね」
千恵はあっさりと言うと、たちまちのうちに四人をばさっ、ばさっ、と自らの素早い剣さばきで倒し、最後に残ったリーダー格らしき下忍の持つ剣を叩き落とすと、自分の持つ剣を、その下忍の喉に突きつけた。
「安心しなさい、みんな『刀背打ち』だから、死んではいないわ」
『刀背打ち』というのは、日本刀の背面を使って相手を斬ることなく強打する方法で、後世では主に『峰打ち』と呼ばれるものである。
千恵は剣を突きつけた下忍に向かって問う。
「あなたたちはなぜ、この女の子を捕まえようとしたの?、さっきもいったけど、抵抗しなければ命までは取らない」
千恵に剣を突きつけられた下忍は、もはやなすすべもなく、目を大きく見開き、覆面越しにも煩悶しているようだったが、やがて
「ううっ!」
と悲鳴をあげると、口から血を溢れさせ、体をブルブルと痙攣させると、そのまま、その場に崩れ落ちるようにして倒れた。
舌を噛みきり、自決したのだ。
「しまった!」
そんなつもりはなかった千恵は思わず体を震わせると、他の四人を見る。
すでにハヤテたちが倒れている他の四人に駆け寄っていたが、やはり四人とも舌を噛みきり自決していたのがわかった。
カスミが残念そうに首を振る。
五人の下忍は全員自決したということだ。
「バカな!、なぜ、血車党から逃げ出して生きることを考えない?」
悔しそうに千恵は言った。
ハヤテが、その千恵に対して声をかける。
「こんなにあっさりと自決してしまうとは‥、少し前に比べても、血車党の下忍たちに対する締め付けは厳しくなっているようだ‥‥」
カスミが倒れている下忍のうなじをあらためる。
「見て!、ほら、黒い血管が浮き出ているわ……」
そう言ってカスミは下忍たち全員の体を確かめる。
「多分、今の血車党は、秘薬か妖術(または虫)を使って下忍たちの心まで意のままに動かしているということだと思います‥‥」
カスミが、そう結論づけた。
「虫か……」
ハヤテが心当たりありげに腕を組む。
タツマキが
「血車党、そこまで恐ろしい組織とは‥‥」
と呟く。
「いくらなんでも、こんなことまでやりだすなんて、もう血車党に入ったら、心が休まることなんかないよね」
とツムジ。
千恵は、ツムジのその言葉を聞き、複雑な心境になった。
それは、その通りかもしれないと思いつつ‥‥
そんな会話のあと、ハヤテが後ろに震えながら隠れていた女の子に声をかける。
「お嬢ちゃん、名前は?」
女の子は安心したのか
「もみじ‥‥です。」
と答える。
「紅葉ちゃんか、もう大丈夫だよ」
ハヤテは女の子、いや紅葉を抱き抱える。
紅葉も嬉しそうに笑顔を見せた。
ハヤテは抱き抱えた
「紅葉ちゃん、どうして、こいつらに追われていたんだい?」
自決し、倒れている五人の下忍たちに視線を向けつつ、ハヤテは紅葉に尋ねる。
紅葉はすがりつくような目でハヤテを見ると
「お願いします、お父さんを助けてください!」
と表情に必死さを浮かべてハヤテに懇願する。
「化け物にさらわれたの!」
ハヤテはやはり、と思った。
血車党の仕業に違いない。
そしてハヤテは念のために千恵の方を振り返る。
一応、先の早川での『こずえの件』もあったので、千恵が紅葉に対する違和感なりを感じているかどうかも知りたかった。
千恵はハヤテの視線を見て、それを敏感に察したのか、ニッコリと微笑むと
「紅葉ちゃん、私たちは
と紅葉に向かって言った。
「お姉ちゃん、ありがとう!」
紅葉は嬉しそうにはしゃぐ。
「よかったわ、嬉しい、ありがとう!」
考えてみれば、まだ年端もいかない少女が、いきなり血車党の下忍たちに追いかけられ、怖い思いをしていたわけだ。
安心し、嬉しくなるのは当然であろう。
「この先の渡船場で、向こう岸に渡ろうとして集まった皆が、いきなり白いカラスのような化け物と、この覆面を被った人たちにいきなり囲まれて、捕まってしまったんです。お父さんはその人たちに抵抗して、私を逃がしてくれました。お父さんが心配です、早く助けてください!」
「わかった!」
とハヤテ。
「すぐ、紅葉ちゃんのお父さんを助けに行こう」
そこへカスミが口をはさむ。
「ハヤテさん、まず先に、その渡船場の様子を探った方がいいと思います。闇雲に突っ込んでも、そこで捕らわれた人たちの様子もわからないし‥‥」
「確かに、それはカスミの言う通りだが‥‥」
ハヤテは腕を組む。
「まず、私が偵察に行ってきます。皆はそれを外から様子うかがいをしていてください。そして様子がわかったところで合図を送ります」
とカスミ。
「ダメだ!」
ハヤテは即座に首を横に振る。
「カスミ、お前は自分が何回血車党に捕まったり、捕まりそうになったりして危ない思いをしたのか自覚しているのか?」
カスミも負けていない。
「あら、でも、今もこうやって無事でいるでしょ!、だいたい行動を起こさなかったら何もはじまらないわ」
そう言って口を尖らせる。
ここで千恵が遠慮がちに
「あの‥‥、それでしたら、私がその渡船場に行ってきましょうか?」
と、ハヤテとカスミの間に入るようにして提案する、
「だって、千恵さんだって血車党の連中には顔を知られているじゃない!」
とカスミは譲らない。
それを、やれやれと思いながら見るタツマキ。
何しろ我が娘ながら、一度言い出したら聞かない。
自分に似たのか、それとも今は亡きお恵に似たのか、それとも両方に似たのか‥‥
「おいらが行くよ!」
とツムジ。
「あなたは無理よ!」
とカスミ。
「私もそうだけど、ここの皆は全員血車党に顔を知られています。だからひそかに調べに行こうとしても、そのままでは、すぐにあいつらにばれてしまいます」
千恵は気になって
「じゃあ、カスミさんが行っても同じじゃないんですか?」
とカスミに聞いた。
「それが、私とお父さんは同じじゃないんですよ」
カスミはクスクス笑うと
「そうよね?、お父さん」
とタツマキに同意を求める。
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タツマキはカスミの言わんとすることをすぐに理解した。
「変装して行くということだな」
「そうよ」
カスミは頷く。
「私とお父さんの二人で『旅の親子連れ』を装って、まずは、その渡船場に先に行き、様子を探ってきます。でもツムジまでいると『タツマキ親子』だと直ぐにわかってしまう」
これにカチンときたのか、ツムジは姉に対して反論する。
「おいらだって変装くらいできるよ!」
だがカスミは弟の訴えを却下する。
「そうじゃなくて、年格好と親子構成が同じじゃ不味いでしょ、と言ってるの。あとハヤテさんは意外に変装と別人のふりは上手くないし」
カスミも何気にきついことを言う。
ハヤテはそう思ったが、確かにそれは事実かもしれないとも思った。
「私は?」
と千恵。
「私、知らないけど千恵さんって変装上手いの?」
カスミが問い返す。
「私だったら、必要なら男の子にだって化けられるけど?、今もそのつもりだし」
「えっ、でも声が‥‥」
と千恵。
カスミは再びクスクス笑うと
「大丈夫だよ、千恵さん。僕が今から行ってくるから」
と、いかにも男の子の声で答える。
千恵は目を丸くする。
「驚かなくてもいいのに」
カスミは再び普段通りの女の子の声に戻る。
「お父さんも必要なら女の人の声で喋れますよ」
ここでタツマキが楽しそうに
「そうね、カスミ。私たちで行ってきましょうね」
と女性の声で発声する。
その様子を見てハヤテにしがみついたままの紅葉は、不思議なものでも見るかのような表情をしていた。
千恵もこれを見て
伊賀流忍術って、実はそれなりに凄いのかもしれないとも思った。
そんな千恵の様子を見てカスミは
「別にツムジだって、これくらいできるわよね」
と、さりげなくツムジのフォローをする。
ツムジもニコリと笑うと
「姉さま、あたしも一緒に行きたいけど、ダメなのかしら?」
と実年齢よりも、やや歳上っぽい女性の声で答えた。
千恵はそんなツムジを見て感心する。
ツムジさんも、年少でも、ちゃんと忍術は身につけているんだ‥‥
「ダメです」
とカスミ。
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まあ、そんなこんなで
タツマキが女装、カスミが男装して
まずは、問題の渡船場の様子を探りに行くということに決まった。