※この作品はR-18です。

変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来第2編・江戸での血車党との対決   作:shpfive03

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夜叉丸とハヤテ、そして千恵の螢火救出作戦

 

化身忍者毒蛾くノ一と血車党くノ一菖蒲が姿を消した後

 

「ちっくしょうっっ!!!」

 

大きな声で夜叉丸は叫ぶと、その場に突っ伏し、その両手で地面を激しく叩いた。

 

化身忍者に自分の技が全く通用しなかったことから来る無力感、激しい怒りと悔しさ、そして血車党に囚われていることがわかった許嫁である螢火についての不安。

 

 

夜叉丸は泣いてはいなかった。

 

涙こそは流していなかった。

 

 

しかし、その感情は爆発寸前であり、全身をブルブルと大きく震わせている。

 

一方、嵐は変身を解き、ハヤテの姿に戻る。

 

そして打ちひしがれている夜叉丸の背中へ、そっと手を差しのべた。

 

「夜叉丸殿、お気持ちはわかる。だが、今はこれからのことを考えるところからはじめよう」

 

ハヤテは優しく夜叉丸に囁いた。

 

「ハヤテ殿‥‥」

 

突っ伏していた夜叉丸は、自分の背後に立ったハヤテを思わず見上げる。

 

「そうだ。少なくとも奴らが戻って直ぐに螢火さんに手をかけることはないだろう。単純に考えても、今の螢火さんには人質としての価値があるはず。ただ心配なのは‥」

 

夜叉丸は、ハヤテのその言い方に強い焦りを感じた。

 

「ただ、どうなんだ?、ハヤテ殿!」

 

ハヤテは慎重に答えた。

 

「あくまでも可能性の問題だが、奴らが螢火さんを血車党の化身忍者にしようとしているのではないかとの不安は拭えない‥‥」

 

「なんだって!!」

 

夜叉丸は思わず叫んでしまった。

 

「螢火さんは伊賀の中忍として、公儀隠密の様々な機密はもとより、命令系統、組織の構成員、さらには合言葉にいたるまでの伊賀の様々な機密を知っている。そして、螢火さんを拷問などで口を割らせるよりも、血車党に忠誠を誓う化身忍者にしてしまえば、その機密は螢火さんの記憶丸ごと血車党のものになる。少なくとも奴らの今までの考え方からすれば、そうした結論になるだろうというのは想像がつく」

 

 

実際に、血車党は既に伊賀くノ一だった楓を化身忍者毒蛾くノ一とすることで、伊賀の機密のかなりの部分を手にしている。

 

だが、そのことをまだ、ハヤテはもとより、ほとんどの伊賀の関係者たちは知らないのだが。

 

 

夜叉丸は立ち上がった。

 

「ハヤテ殿、だとしたら、こうしてはいられない。今直ぐにでも螢火を助けにいかなくては!」

 

「で、どこへ?」

 

ハヤテはあくまでも冷静さを保ったまま、夜叉丸に言った。

 

「恐らく、螢火が見張っていたはずの肥前西屋に違いない。今直ぐにでも忍び込んで」

 

夜叉丸は気が急くのか、ハヤテに対しても強い口調で答える。

 

「向こうはそれに備えた警戒くらいしていると思うが」

 

ハヤテは何とか夜叉丸を落ち着かせようとするのだが

 

「ハヤテ殿、なら、俺一人で!」

 

逆に夜叉丸は直ぐにでも西屋に向かおうとせんばかりの意気込みで、ハヤテに向かって言った。

 

 

そんな夜叉丸とハヤテの耳に

 

「ハヤテ殿おー」

 

「ハヤテさあーん」

 

「ハヤテさーん」

 

「ハヤテさんっ!」

 

タツマキ、カスミ、ツムジ、千恵、四人の声が聞こえてくる。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「水くさいですぞ、ハヤテ殿」

 

まず駆けつけたタツマキが、ハヤテに向かって言った。

 

見るとタツマキ、カスミ、ツムジの三人は普段の薄茶色、桃色、緑色の忍び装束ではなく、伊賀忍のスタンダードである黒の忍び装束を着ている。

 

千恵の姿だけが旅の時と同じ、血車党時代の黒の忍び装束なのだが、結果的に四人の忍び装束が揃っているようにも見える。

 

実は千恵の着ている黒の忍び装束は、明日、洗濯するつもりでツムジに預けていたものを、先ほど、慌てて着直したものなのだが‥‥

 

「いや、私も、まさかこんなことになるとまで予想していたわけじゃなかったんだ」

 

決まり悪そうに頭をかくハヤテ。

 

「私の剣がハヤテさんに異変があったことを教えてくれたんです」

 

とカスミ。

 

「そうだったな‥‥」

 

ハヤテは思わず苦笑いする。

 

ハヤテが背中の刀の鍔を鳴らすと、そこから特殊な音波が発せられ、カスミの剣が鈍く光を放ち、ハヤテに異変があったことを教えてくれるのだ。

 

言い換えると、ハヤテが変身忍者嵐として『変身』する度に、カスミはそれを知ることになるともいえる。

 

「実際のところ、今、なにがあったんですか?」

 

と、これは千恵。

 

ハヤテが説明する。

 

「血車党の喋者(ちょうじゃ)が、こともあろうに伊賀組屋敷に潜入していたということなんだが‥‥」

 

喋者、現代でいうスパイである。

 

「えっ!」

 

これはツムジ。

 

「ハヤテさん、それって‥‥」

 

ハヤテは頷く。

 

「ああ、勿論、大事(おおごと)だ。そして、その喋者というのが、皆も知る、あの小次郎の許嫁だった女性(ひと)だったんだ」

 

そこまで言ったところで、ハヤテは千恵の方を見る。

 

「千恵さんは小次郎には実際に会ったことはなかったはずだが、どんな奴だったかは、早川の時に大体は聞いたとおりだ」

 

千恵は頷く。

 

「こずえさんの兄上だった方ですね。ハヤテさんとは竹馬の友だったとも聞きました‥‥」

 

 

ハヤテは頷く。

 

そして夜叉丸に対する説明も兼ねて話すことにした。

 

「彼女の名前は菖蒲という。我が友だった山彦小次郎、そしてこずえさんとは遠縁に当たる女性だ。小次郎とはいずれ結婚するつもりだったというのは私も知っていた。が、その彼女が」

 

ハヤテはそこでいったん言葉を切ると

 

「先ほど伊賀組屋敷で会った、あの螢火という女性に化けていたんだ‥‥」

 

そこで夜叉丸が

 

「螢火は俺の許嫁だ!、そのあいつが、今、血車党に囚われていて、ついさっきまで偽物と入れ替わっていたんだ!、直ぐに気づけなかった俺も情けないがな」

 

と話に割って入る。

 

ここでタツマキが

 

「夜叉丸、お久しゅうござる。あらためまして名張のタツマキですぞ」

 

と夜叉丸に向かって挨拶する。

 

夜叉丸も

 

「タツマキ殿、お久しぶりです」

 

と一応の返事をかえした。

 

それを受けてタツマキはカスミ、ツムジ、そして千恵をあらためて紹介しようとする。

 

「こちらは我が娘のカスミ、嫡男のツムジ、そして」

 

「千恵殿であれば、先ほど伊賀組屋敷にて御紹介いただいたが」

 

夜叉丸は憮然とするが

 

「千恵殿、あらためまして伊賀藤林組の中忍、夜叉丸と申すもの、先ほどは失礼した」

 

と、まずは千恵に対して恭しく頭を下げる。

 

そして

 

「カスミ殿、ツムジ殿、お初にお目にかかる。夜叉丸と申すもの。以後、お見知りおきを」

 

と、カスミ、ツムジに対しても礼をした。

 

「はじめまして」

 

カスミ、ツムジとも、まずは夜叉丸に向かって礼をする。

 

そして千恵も夜叉丸に向かって礼をすると

 

「夜叉丸さん、心中お察しします。早速螢火さんを救い出しに行きたいのですね」

 

夜叉丸は

 

「ああ、その通りだ!」

 

と頷く。

 

それを受けて

 

「私に考えがあります」

 

と千恵は言った。

 

そして懐から何かを取り出すと

 

「忍法毒蛾呪い!」

 

と唱え、そして蛾を一匹放す。

 

蛾はヒラヒラといずこかへ飛んでいった。

 

「千恵お姉ちゃん!」

 

ツムジが驚いたように口を開く。

 

「毒蛾呪いって、確か‥‥」

 

そこでカスミがツムジを嗜めるように言う。

 

「あなたが千恵さんに操られてハヤテさんに斬りかかった、あの術のことよ」

 

千恵は決まり悪そうに微笑んだ。

 

「ツムジさん、今さらですけど、あの時はごめんなさい」

 

「いや、それはもう済んだことだから‥‥」

 

ツムジは頭をかく。

 

千恵はホッとしたように頷くと

 

「あの毒蛾は螢火さんのところへたどり着いたら、私の分身となって行動を起こしてくれます」

 

と千恵は、夜叉丸に向かって説明をはじめる。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「私自身は小さな蛾に姿を変えることはできませんけど、今放ったあの蛾は私の分身として目的地に侵入し、向こうで何が起こっているかを逐一私に教えてくれますし、分身は最終的には私の変身態と同じ姿になり、等身大の大きさにまで成長しますから、状況次第ですけど、私の代わりに螢火さんを救出することも出来ます」

 

千恵の説明を聞いた夜叉丸は驚いた。

 

一体、そんなことが人間技で可能なのだろうか?

 

過去に分身の術を駆使した伊賀忍者はいるものの、その分身なるものは、実際はいわば幻術でしかなく、実体などなかったのに

 

この千恵という女性の放った蛾は、最終的には等身大の大きさにまで成長するのみならず、実体ある存在として螢火の救出も可能だというのだ。

 

だが、夜叉丸は別な意味で、更に驚かされることになる。

 

 

「ねえねえ、千恵お姉ちゃん」

 

とツムジが千恵に声をかける。

 

「ツムジさん、どうしたの?」

 

とツムジの方を振り向く千恵。

 

「いい機会だからさ、今度から『毒蛾呪い』なんていう血車党っぽい術の呼び方止めようよ」

 

真顔でいうツムジ。

 

千恵は一瞬考え込むと

 

「ツムジさんはどんな呼び方に変えたらいいと思うの?」

 

と、これも真顔でツムジに聞き返す。

 

「うん、『忍法、蛾分身の術』の方がいいと思う。その方が格好いい(カッコいい)し!」

 

ツムジの返事を聞いて、思わず千恵は笑ってしまった。

 

格好いいし、なんて考えたことさえない。

 

「ふふっ、術を使ってて『格好いい』なんて、考えたこともないわよ」

 

「だって変身忍者嵐が『秘剣影うつし』とか、『嵐旋風斬り』とかって叫ぶの見ていると、やっぱりカッコいいよ」

 

とツムジが、ある意味少年忍者らしく答える。

 

これにはハヤテも苦笑する。

 

「おいおいツムジ、私だってそんなのを意識して叫んでいるわけじゃないぞ。あれは『気を集中』するためのものなんだ」

 

それを聞いてツムジは

 

「でも、千恵お姉ちゃんが『気を集中するためにも』、前の血車党っぽい呼び方を止めて、新しい呼び方にした方がいいんじゃないかな?、自分はもう『正義の変身忍者』なんだって、自分に言い聞かせる意味でもさ」

 

千恵はふと考えた。

 

『正義の変身忍者』って‥‥

 

ツムジさんは、私のことをそのように思ってくれているのだろうか?

 

「私も賛成!」

 

横からカスミが言った。

 

「もう、千恵さんは血車党だった過去を引きずる必要はないの。言葉は大切よ。意識を変える意味でも」

 

カスミさんもそう言うんだ‥‥

 

「多分、術の呼び方を変えても問題はないのではござらぬかな?」

 

と、これはタツマキ。

 

「千恵殿は今、ご自分の髪を使った術を『乱れ髪呪縛』と呼んでいらっしゃるが、母上でいらっしゃる蛍殿はご自分の術を『黒髪呪縛』と呼んでおいででしたぞ」

 

それを聞いた千恵はあらためて考えてしまう。

 

「えっ?、だって私の変身した時の髪の色は黄金色(こがねいろ)だから『黒髪呪縛』って呼ぶわけにはいかないし‥‥」

 

実は千恵は血車党時代の『毒蛾くノ一』だった時には、この『乱れ髪呪縛』と、今は自らが呼ぶ術を使うことはできなかった。

 

骸骨丸に対してはそうは言わなかったが‥‥

 

血車党によって毒蛾くノ一に改造される前の『千恵のまま』だった時には、母から教わった『黒髪呪縛』だって出来たのに‥‥

 

それが、あの早川城での『変身』で、まるで何者かに啓示を受けたかのように『乱れ髪呪縛』と呼んで使ってからは

 

なぜか、普通にその術を使えるようになったのだ。

 

言葉というのは大切なのかもしれない‥‥

 

少し思案した上で

 

「わかりました。次の機会に試してみます」

 

千恵は皆に向かって、そのように答えた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

一方で夜叉丸は、千恵とツムジ、ハヤテ、カスミ、タツマキ四人のそうしたやり取りを見ていて、少々呆気にとられていた。

 

千恵を囲むタツマキ、カスミ、ツムジ、そしてハヤテから、およそ緊張感というものが感じられない。

 

まるで和気あいあい、団欒という雰囲気なのだ。

 

そう、先ほどまでは、側にいるだけで夜叉丸にもピリピリと張りつめた緊張感が伝わってきたハヤテでさえ、すっかり穏やかな雰囲気に変わってしまっている。

 

夜叉丸は、日中に『螢火』、いや、実際はそれに化けた血車党くノ一菖蒲だったわけだが、その彼女が伊賀組屋敷で言った言葉を思い出していた。

 

############

 

『その千恵というくノ一は、血車党の抜け忍などではありません。その正体は血車党の差し向けた毒蛾の化身忍者であり、その心は、今も血車党にあります。実際に西屋周辺で『毒蛾の化身忍者』の目撃情報をつかんでいます』

 

『彼女はまず、ハヤテ殿の善意を利用して騙し、そしてハヤテ殿を信頼するタツマキ殿をも、そのハヤテ殿に対する信頼を利用することで上手く騙し、これに取り入ることに成功しました』

 

############

 

実際の千恵、そして、それを囲むハヤテとタツマキ一家を見ていると、到底、そんな雰囲気を感じることは出来ない。

 

自分だって『人を見る目』はあるつもりだ。

 

そして、千恵の変身した姿も、自分は伊賀組屋敷で見ている。

 

その姿は間違いなく『人ならざる異形のもの』であった。

 

まあ、それを言ったらハヤテこと変身忍者嵐もそうなのだが‥‥

 

にもかかわらず‥‥

 

自分の目の前にいる五人が強い信頼関係で結ばれていることは確かにわかる。

 

 

「夜叉丸様?」

 

千恵の言葉で夜叉丸は我に帰った。

 

「ああ、すまない」

 

千恵はあらためて説明をする。

 

「恐らく、螢火さんが囚われている場所は、肥前西屋の蔵屋敷で間違いないと思います!」

 

キッパリと言い切る千恵に、疑問に思ったタツマキが

 

「千恵殿、なぜ、そう言いきれるのかな?」

 

と、当然の疑問を口にする。

 

そのタツマキに対して千恵は

 

「えっ?、だって江戸での血車党の『毒蛾作戦』は、当初の予定では、この私が実行隊長になるはずだったんですよ」

 

と、ある意味では恐るべきことを、あっさりと答える。

 

「私が知っている計画には公儀隠密に対する工作活動などはなかったので、恐らく血車党側は計画の内容は変更しているのだと思いますけど、工作活動の拠点を短期間でいきなり別に用意するのは難しいと思います。まあ、あちらは『転移の術』を使いますから、可能性としては螢火さんが遠く離れた別のところに囚われていることも考えられますけど、私はやはり西屋蔵屋敷が怪しいと思っています」

 

ここでハヤテが

 

「千恵さん」

 

と言うと

 

「その『毒蛾作戦』というのは、どういうものだったんだ?」

 

と聞く。

 

今まで、その話をしていなかったのか‥‥

 

夜叉丸は別の意味で驚いていたのだが

 

しかも、ハヤテのその問いに、千恵の方もあっさりと答える。

 

「簡単に言うと、まず私の分身を江戸城内に侵入させて、江戸城内のしかるべきものを『毒蛾呪いの術』で操り、今度は私自身の江戸城内への侵入を手引きさせます。そして、私自身が、必殺の『七色の狂い粉』を江戸城内に撒き散らす、というものです。もし『七色の狂い粉』を江戸城内で撒き散らせば、後はどうなるのか、みなさんはお分かりですよね?」

 

 

殺し会え!、皆、殺し会うのだ!!

 

 

もし、ハヤテたちが血車党に追われていた囚人だった二人の男性を助け、それにより毒蛾くノ一(千恵)の存在を知ることがなく

 

この計画が本当に実行されていたら‥‥

 

 

ハヤテ、タツマキ、そしてカスミとツムジも、思わず顔を見合わせる。

 

 

「そして血車党が、私の代わりに『新しい毒蛾くノ一』を用意したということは、内容の変更などはあったとしても、この計画を実行しようとしているということです」

 

そして千恵はキッパリと言い切った。

 

「私たちは、その血車党の計画を叩き潰し、あいつらにそんな目論見を断念させる必要があります。そして、私にはそれをしなければいけない責任があります!」

 

うんっ!

 

ハヤテ、タツマキ、カスミ、ツムジの四人は、千恵のその言葉に一斉に頷く。

 

「夜叉丸さん」

 

今度は千恵は夜叉丸に向かって力強く言った。

 

「螢火さんは必ず私が救いだします。そのための協力をさせてください!」

 

夜叉丸は少しの思案のあと、頷いた。

 

「わかった!、千恵殿、あらためて、よろしく頼む!」

 

それを受けてタツマキが

 

「では、この六人で」

 

と言うと

 

「目的地は西屋の蔵屋敷だ!」

 

とハヤテも言い切った。

 

そして六人は直ちに夜の道を、西屋の蔵屋敷に向かって走り出したのだ。

 

 

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