変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来第2編・江戸での血車党との対決 作:shpfive03
一方で、転移の術により西屋蔵屋敷の中に戻ってきた化身忍者毒蛾くノ一と菖蒲だが
菖蒲は自らの主である化身忍者毒蛾くノ一に対して、あらためて
「毒蛾くノ一様、この度は本当に申し訳ありませんでした!」
と深々と頭を下げた。
悔しさのあまり、思わず唇を噛む。
本来、任務失敗は血車党の血の掟に照らし合わせても重罪のはず。
血車の郷で下忍の家に生まれ育った菖蒲は、そのことをよく知っている。
だが、化身忍者毒蛾くノ一は、そんな菖蒲に対して
「菖蒲、さっきも言ったが、気にすることはない。明日からまた螢火に化けて引き続き、何食わぬ顔で伊賀組屋敷の方に行ってくれれば、それでよい」
とことも無げに言った。
菖蒲は、そんな主の言葉を怪訝に思い
「しかしながら、既に私の正体はハヤテ、夜叉丸の両名の前で明らかになり、もはや伊賀忍全体に知れ渡るのも時間の問題‥‥」
と、当然の疑問を口にする。
化身忍者毒蛾くノ一はふふっ、と笑うと
「私は既に藤林長門の家に『毒蛾呪いの術』により、分身である毒蛾を放っている。意味はわかるな!」
と、菖蒲の疑問に対して返事をする。
「そして今宵、『螢火』は藤林長門に呼ばれて明日からの打ち合わせをしていたことになっている。この私が、そのように長門に証言させる。仮にハヤテや夜叉丸が明日から騒ぎ立てたところで、奴等は幻覚を見たということでお仕舞いさ」
思わず菖蒲は主の言葉に感嘆した。
「既に手は打っておありだったんですね‥‥」
「それだけではないぞ」
化身忍者毒蛾くノ一はさらに言う。
「菖蒲、既に、この蔵屋敷には新しいお客さんも来ている」
そう言って菖蒲と一緒に、螢火を閉じ込めてある部屋の扉を開け、そこに入った。
そこには
縄で縛られ、猿轡を噛まされている三人の女性が、二人の下忍に見張られた状態で監禁されていたのだ。
一人は螢火、あとの二人は‥‥?
「一人は徳川将軍正室の世話をつとめる御台所付の中﨟で浦路、もう一人は大奥女中の松という。既に我が『顔盗みの秘術』により、それぞれ菊と牡丹がこの二人に化け、江戸城内の奥向きに潜入を果たした。あと桐は隠れて二人を補助することになっている。そして私は」
化身忍者毒蛾くノ一は、そこで両手をクロスさせて大きく回すと
人間態である上月楓の姿となった。
「明日、有馬藩からの参勤が江戸に到着することになっている。私は表向きは、その奥女中として、それに加わって江戸に来たということになっている。無論、伊賀の連中には、私が公儀隠密のまま、そこの奥女中として潜入捜査をしており、その報告のために江戸に現れたということにしておく、そして」
そこで化身忍者毒蛾くノ一はいったん言葉を切ると
「段取りを進め、早ければ明日にも『毒蛾作戦』を実行するのさ」
と自信に満ちた口調で菖蒲に向かって言った。
「そもそも毒蛾作戦さえ実行してしまえば、伊賀忍の連中はその対応に追われて混乱するのは目に見えている。だからといって徳川の天下が直ぐに覆るとまでは思わないが‥‥
いずれにしても、そうなればお前の正体が今晩ハヤテと夜叉丸に見られたことなど些細なこと。むしろハヤテや、それに味方するタツマキたちと、伊賀の上忍たちとを離間するためにも、お前には引き続き『螢火』のふりをして奴等を撹乱してもらった方がよい」
菖蒲は自らの主である化身忍者の言葉にすっかり感服し、そして歓喜した。
「されば、いよいよ私たち血車党が天下を取るための道筋がつけられるのですね!」
菖蒲は自らが所属する血車党が天下を取ることで、今の世の中に理想社会を実現することを本気で信じていた。
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菖蒲が生まれた頃の血車の郷は貧しかった。
土地は痩せ、作物は実らず、郷の者の多くは貧しく、そして糧を得るために、あちこちに傭兵、いや、ハッキリ言えば『使い捨ての雇われ忍者』として出稼ぎにいくしかなかった。
そうやって日銭を稼ぐしかなかったのだ。
米の飯など食べたことさえなく、雑穀を茹でて飢えをしのぐことも珍しくなかった。
子供たちは勉強するなど思いもよらず、戦乱の世において、雇われ忍者として糧を稼げるようになるためにこそ忍術の修行をしていた。
それから見たら
骸骨丸様が血車党の指導をするようになった今はどうだろう‥‥
今や南蛮からの交易の富(だけではなく各地からの略奪もあるのだが‥‥)などにより、血車の郷は以前とは比べ物にならないほど豊かになり、郷の者は老若男女を問わず、真っ白なお米のご飯をお腹一杯食べられるようになった。
子供たちも、望めば勉強できるのだ。
全国至るところで徳川幕府の天領代官や、その土地を支配する大名に重い年貢を課せられ、地域によっては六割以上の年貢を取られて苦しい生活を余儀なくされる人々が満ち溢れるなか
私たち血車の郷の者は、そんな年貢など払う必要さえない。
私たちは徳川の支配下ではない!
魔神斎様、骸骨丸様、風華様
三人の上忍の皆様も、郷の者たちから年貢をとったりすることさえないのだ!
他の財源があるから。
そんな血車の郷を羨む各地の元忍軍の者たちが、自ら血車党に参加しようと、続々と郷にやって来る。
そして、私たち下忍たちが必死に働きさえすれば
郷に住む家族たちは一時金という形で報奨を与えられ、仮に戦いにより戦死したとしても
『名誉の戦死』でさえあれば、遺族たちの生活も保証されるのだ。
それに対して‥‥
『血の掟』に対する裏切りを働くのであれば
郷に残る遺族の者たちは掟により処刑され、他の者への見せしめとして晒される。
菖蒲の父は既に『戦死』したが、郷には、やや年老いた母と、年少の弟が残っている。
母は少し前に重い病気にかかったが
風華様が自らやって来て、なんなく治してくれた。
弟も『強い忍者』になり、いつかは郷に奉公しようと思って、懸命に忍術の修行に励んでいるのだ。
自分はそんな弟と、母、そして郷の者たちのためにも
『裏切り者』のハヤテと、千恵などという『出来損ない』になど、負けるわけにはいかないのだ!
「ああ、菖蒲」
化身忍者毒蛾くノ一は、そんな菖蒲に対して頷いた。
「私たち血車党は必ずや徳川に代わって天下を取る!、そして下忍出身者であったとしても」
自分自身にも言い聞かせるかのように化身忍者毒蛾くノ一は菖蒲に向かって言った。
「功さえあれば評価され、上にあがっていくことも出来る、そんな世の中を実現するのさ!」
菖蒲は、そんな主を見て
「はいっ、毒蛾くノ一様!」
と返事をする。
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千恵の放った、その分身である蛾は、転移の術で直接移動した化身忍者毒蛾くノ一と菖蒲より、やや遅れて西屋蔵屋敷に着いた。
蛾はそのままヒラヒラと西屋蔵屋敷の中にある螢火たちが囚われている部屋へと舞い込む。
それを遠隔操作で操る千恵は、化身忍者毒蛾くノ一は元より、この蔵屋敷にいる血車党の者たちに気づかれぬよう、いやが上にも慎重にならざるを得ない。
何しろ、この蔵屋敷には『あのご仁』がいるはずなのだから‥‥
千恵は緊張しながらも、後から来ているハヤテ、タツマキ、カスミ、ツムジ、そして夜叉丸の五人に手で合図をし、ゆっくりと声もなく西屋蔵屋敷に近づく。
いけない!
千恵は手で、音もなくハヤテたち五人の動きを制した。
千恵の血車党時代からの旧知でもあり、この蔵屋敷の主でもある西屋清兵衛が、螢火たちの囚われている部屋に姿を現したことが、放ってある蛾を通じてわかったからだ。
千恵の分身である蛾は忠実にモニターの役目を果たしており、千恵には蔵屋敷の内部の様子が見えていた。
が、勿論、それはハヤテたちには見えていないこともわかっている。
西屋清兵衛、いや、その正体は‥‥
千恵は、この声をたててはいけない状況下で、今、自分に『見えている』ものを、どのようにハヤテたちに伝えたらよいのか思案していた。
やはり
化身忍者毒蛾くノ一が、自らの分身である毒蛾を、目の前の夜叉丸にとり直属の組頭である藤林長門のもとに放ったことは早めに知らせるべきだろう‥‥
その事の意味を、勿論、千恵はよく分かっている。
むしろ夜叉丸にはそちらの方をお願いしたいくらいというのが千恵の本音でもあった。
千恵は夜叉丸に対しては、むしろ好感さえ持っていたが
ハッキリ言えば『足手まとい』だとも思っていたのだ。
千恵の意識は、今なお
ハヤテ、タツマキ、カスミ、ツムジ以外の人間を味方として信頼するところまではいっていないのだ。
そしてハヤテ、つまり変身忍者嵐と肩を並べて、共に化身忍者と戦うことができるのは
自分だけしかいないとの自負もある。
まして、この蔵屋敷には少なくとも『あのご仁』がおり、場合によっては骸骨丸だっているかもしれないのだ‥‥
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「毒蛾くノ一殿、菖蒲殿、失礼させていただきますぞ」
言いながら、この蔵屋敷の主人である西屋清兵衛は部屋の中へと入ってきた。
丸顔で体型も太り気味、腹も突き出しているその姿は、ややもすると置物の狸のように見えなくもないが
西屋の大旦那としての貫禄は十分以上であった。
その清兵衛と、化身忍者毒蛾くノ一、そして菖蒲の三人が、部屋の中で囚われている螢火たち三人に視線を向ける。
「これは清兵衛様」
現在は楓の姿となっている毒蛾くノ一と菖蒲が、清兵衛に向かって深々とお辞儀をし、挨拶する。
形の上では毒蛾くノ一楓と、この蔵屋敷の主である西屋清兵衛は、共に血車党の(下忍たちに対する指揮権を持つ)中忍であり、いわば同僚ということになる。
が、ここ三年以上も肥前西屋の大旦那として、その商いを支え、江戸における血車党の拠点を仕切ってきた清兵衛の貫禄は、さすがというか
未だ年若である楓を圧倒するだけのものを持っていた。
その様子を物陰に隠れながら、千恵の分身である蛾はじっと見ている。
本来なら、今、この場にいるのは楓ではなく、千恵のはずであった。
無論、今の千恵にそんなつもりは欠片もないが‥‥
また現時点での千恵は、今ここにいる楓が何者であるかも知らない。
千恵にとっては今まで見たことがない、自分より年少の『女の子』でしかなかった。
「あ、いや、畏まらんでも」
清兵衛は自分に対して畏まる毒蛾くノ一楓と菖蒲に対して、いかにも好好爺然と手を振った。
「わしは血車党の御為に、三年以上にわたり、この西屋を支え、時には南蛮人や徳川の役人たちともやり合ってきたが、どうやら、それも一区切り」
この西屋は肥前商人という隠れ蓑のもと
江戸という大消費地において、様々な御禁制の品目を取り扱い、多大な利益をあげ続けていた。
その利益は血車党の重要な軍資金の一部でもある。
もっとも血車党は大阪、堺、さらには北九州の博多、長崎などにも似たような拠点は持っているのだが‥‥
いずれにしても、それだけの実績をあげ続けた清兵衛の手腕は骸骨丸も認めるところである。
「明日からの『毒蛾作戦』、楽しみにしておりますぞ」
ニコニコしながら、事も無げに清兵衛はいう。
「はい、清兵衛様」
毒蛾くノ一楓は清兵衛に向かって返事をする。
「しかし、どうやらここに曲者が舞い込んでいるようですので、先にそいつらを片付ける必要がありそうですけどね」
言った次の瞬間、楓は素早く手裏剣を、物陰に潜んでいた千恵の分身である蛾に対して投げつけた。
蛾は危ういところで、それをかわす。
だが、それにより
この場に千恵の分身である蛾が放たれていたことは明らかにされてしまった。
「ほう、やはりお気づきでしたか」
清兵衛は、そんな楓を見て、思わず目を細める。
「はい、清兵衛様もそれにお気づきゆえ、あえてこの部屋に来てくださったのですね」
楓はそう答えると、両手をクロスさせ
「化身っ、毒蛾くノ一!」
と叫ぶと、そのまま両手を大きく回す。
たちまち楓の姿は変貌し
「イーッ!、ヨーウゥゥー」
再び化身忍者毒蛾くノ一の姿となった。
そしてヒラヒラと舞う蛾を睨み付けると
「出来損ないの裏切り者!、どうせ聞こえているのだろう?、なら聞くがよい。近くにいるであろうハヤテたちにも伝えろ!、我が血車党は、お前たちの妨害などはものともせず、必ずや江戸での作戦を実行して見せるとな!」
と言い切り、そして再び手裏剣を投げ、今度は蛾に命中させた。
千恵の分身だった蛾は手裏剣により絶命し、その場に落ちていく。
「うっ!」
そのダメージは分身を操る側だった千恵にも及んだ。
思わず苦痛で胸を押さえる千恵。
「千恵さん、大丈夫か?」
何事があったかを直ぐに理解したハヤテが、思わず千恵に声をかける。
「私は大丈夫です」
汗をかきながらも千恵は答えた。
「ですけど、やはり私たちのこと、奴らに気づかれてしまいました‥‥」
それを聞いた夜叉丸が
「なら、この六人で一気に攻勢をかけよう!」
と、はやる気持ちを隠すこともなく言った。
「いや、それ以前にあちらさんの方から来ましたぞ」
とタツマキが淡々と指差す。
「曲者だ!、出合えー!!」
の声のもと、黒の覆面に迷彩柄の忍び装束を着た血車党下忍たちが次々と姿を現す。
そして、その先頭に立ったのは
総髪を後ろ髪でまとめ、黒の手甲に、黒の脚絆、そして草履、黒色で半袖の忍び装束に身を包んだ美しいくノ一の姿
菖蒲であった。
「風のハヤテ!、そして我が血車党を裏切った『出来損ないの裏切者』と伊賀忍ども!、我が名は血車党くノ一菖蒲。今こそ我らの邪魔をする貴様らを成敗してやる!」
菖蒲が叫ぶ。
それを見てハヤテが背中の速風を抜いたのを皮切りに
タツマキ、カスミ、ツムジ、そして
夜叉丸と千恵も剣を抜き
菖蒲を含む十人以上の血車党下忍たちと向き合った。
そして化身忍者毒蛾くノ一と、この蔵屋敷の主である清兵衛も姿を現す。
そして清兵衛が目の前の千恵に向かっていい放った。
「前の毒蛾くノ一、久しぶりだな!、今宵、このワシの手で貴様に引導を渡してやる、覚悟せよ!」
千恵は覚悟を決め、清兵衛に向かって穏やかに言った。
「久しぶりね、清兵衛さん、いえ化身忍者ドクダヌキさん。こんな形で再会するとは思わなかったわ」
千恵は、恰幅のよい商店の主の姿をしたままの清兵衛に向かって言った。