※この作品はR-18です。

変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来第2編・江戸での血車党との対決   作:shpfive03

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カスミと朧、そして千恵、大奥への潜入について

「ううむ‥‥」

 

夜叉丸の話を聞き終えた藤林長門が思わず唸る。

 

自分たちが血車党化身忍者の分身とやり合っている間に

 

知らないところで、目と鼻の先にそんな騒動まで起きていたとは‥‥

 

恐らく、もう間もなく報せも入ってくるだろうが‥‥

 

だが、朧は違う考えを持っていた。

 

念のためにいうと、朧は若いながらも、伊賀忍藤林組においては父である長門に次ぐ、下忍、中忍に対する指揮権を持つ『上忍代行』という責任のある地位にある。

 

「あのう‥‥、これは千恵様にうかがってみたいのですけど‥‥」

 

朧は遠慮がちに千恵に問いかけた。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

千恵も何となく不安げに返事する、

 

「夜叉丸の今の報告を私なりに整理して考えてみたんですけど、つまり血車党は城中大奥の誰かに成り代わった者を、恐らくは江戸城内に送り込んでいる可能性が高いということですよね?」

 

この朧という女性、おっとりとした見かけとは裏腹に鋭い!

 

千恵は思わず感嘆した。

 

「はい、それで間違いないと思います」

 

千恵は朧に返答する、そして

 

「でも、なぜそれを私にお尋ねになるのですか?」

 

と問い返すのも忘れない。

 

「話を聞く限り、千恵様だけは自分の分身を通じて血車党の者が成り代わった大奥の者の顔を見ている。これで間違いありませんよね?」

 

千恵は怪訝に思いながら、慎重に返事をする。

 

「はい、見れば、それが誰であるのか分かると思います。でも、私がそんな場所に入れるのでしょうか?」

 

朧はそれには答えず、今度はカスミの方を振り向く。

 

「カスミさん」

 

「はい」

 

とりあえずカスミも内心で冷や汗をかきながら返事をする。

 

カスミには朧が何を考えているのか、大体の想像はついていた。

 

なぜなら、それは自分が目論んでいたことでもあるからだ。

 

「カスミさんにも手伝ってほしいんですけど、千恵様に大奥の中に潜入してもおかしくないような化粧、身支度をしてもらおうと思います。髪も整える必要があるし、白粉も塗ってもらって、お歯黒もつけてもらわないといけないし、一夜漬けでいろんな仕草も覚えてもらわないと‥‥」

 

 

「はいっ!?‥‥」

 

これには千恵も面食らうしかなかった。

 

思わず絶句する。

 

「大丈夫よ、千恵さんは元が美人なんだから。それっぽさを身につければ、大奥の中に潜入しても十分いけると私も思うわ」

 

カスミが千恵に向かって声をかける。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「ええと‥‥」

 

千恵は戸惑っていた。

 

カスミが自分のことを信頼してくれるのは、まあ、まだ、わかるにしてもだ

 

この朧という女性は、ほんの少し前まで血車党にいた自分のことを、そんなに簡単に、仮にも天下を支配する徳川将軍家の大奥の中へ入れていい相手だとと思っているのだろうか?

 

ましてや、自分はかつて徳川家の天下を父、母の仇と憎み、そのために血車党に入った人間なのだが、そのことを朧は知っているのだろうか?

 

なにしろ今日が初対面である。

 

カスミなら、そのこともを知っているし、その上で今の自分を受け入れてくれたというのは理解できるのだが‥‥

 

だが、朧はそんな千恵の内心を読み取ったかのように、平然と話を続ける。

 

「父上、念のためですけど、この件については朧に任せていただけないでしょうか?」

 

朧はそう言って父である長門の方を振り向き、確認をとる。

 

藤林長門といえば、今日の昼間には伊賀組屋敷にてタツマキの提案による『上様と千恵との面談』に強い異議申し立てを行ったばかりである。

 

例え、それが、今しがた偽物であったことが明らかになった『螢火』の報告によるところが大きかったとしても、である。

 

それは勿論、当の千恵も知っていることである。

 

だが、長門は、この朧の言葉に対しては、特に反論をすることはなかった。

 

「わかった、この件については朧に任せる」

 

さすがに表情も苦々しそうではあったものの、長門はこれを認めた。

 

「父上、ありがとうございます」

 

朧は素直に父に向かって頭を下げると、再び千恵の方を振り向く。

 

「私(わたくし)は千恵様の過去について詳しいことは存じませんし、今、ここでそうしたことを根掘り葉掘り聞くつもりもありません。それは時間と共に千恵様の方でそのおつもりになったとき、あらためてお話くださればとは幸いとも思いますけど‥‥」

 

朧はいったんそこで言葉を切ると

 

「大切なのは、今、共にお仕事できるかどうかだと思います。私は千恵様を見て、この方は信頼できる方であると思いましたし、こんな私でも夜叉丸たち十人衆を含む、少なくない数の中忍、下忍たちの上に立ち、それなりに人を見る目はあるつもりです。また、千恵様だけに大奥に行っていただくわけでもありません。この私も同じくして大奥に参る所存です」

 

ここでカスミが

 

「朧さんも千恵さんと一緒に大奥に潜入するということですね?」

 

と口を挟むと、朧はすかさず

 

「カスミさん、何をおっしゃっていられるのですか?、貴女もですよ」

 

と事も無げにカスミに向かって言った。

 

「やっぱり、そうなんですね‥‥」

 

カスミの返事に朧は頷くと

 

「それだけではなく、百地組の千秋さん、服部組の律さんにもお願いはするつもりです。私たち藤林だけが『抜け駆け』をするのではないということを強調するためにも」

 

服部組の律さんというのは、服部組の組頭服部半蔵正龍の長女である律のことである。

 

カスミは律とも面識はあったのだが、正直なところ、いささか『ありがたくないな』との気持ちをいだいた。

 

が、それを表には出さない。

 

これも朧の立場からの政治的配慮というやつであろうか?

 

とは思っていたが‥‥

 

「わかりました、朧様」

 

カスミは頷くと、朧に対しては片膝をついて頭を下げ、上位のものに対する礼をとる。

 

「カスミさん‥‥」

 

そんなカスミの様子を見て、千恵はなんだか悲しい気持ちになる。

 

一応、御公儀直参の立場を併せ持つとはいえ、また所属の組も違うとはいえ

 

カスミの立場は伊賀忍者の序列の中では『下忍』であり、仮にも『上忍代行』の立場にある朧の言葉は『事実上の命令』とも言えるものであった。

 

もっとも、当の朧は

 

「カスミさん、そんなに畏まらないでください。気楽にやりましょう」

 

と微笑んでいたのだが。

 

そして朧はあらためて千恵に言った。

 

「千恵様、あらためてですけど、私たちに御協力をお願いします。大奥は男性が原則として自由に出入りできるところではありません。そして血車党の曲者たちが大奥の何者と入れ替わっているかを、千恵様に見極めていただきたいのです。お願いできますか?」

 

千恵は頷かざるを得なかった。

 

「はい、私に出来ることでしたら」

 

カスミの様子を見て、千恵はここで自分が同意しないわけにはいかないと思わざるを得なくなったのだ。

 

それを理解した上で、先にカスミに『お役目』を承知させたのだとしたら

 

この朧という女性、かなり強かであると思わないわけにはいかない。

 

千恵としても不安な気持ちはあったのだが‥‥

 

「夜叉丸」

 

今度は朧は、目の前で畏まっていた夜叉丸に声をかける。

 

「はっ!」

 

頷く夜叉丸。

 

「これは螢火を救い出すためにも必要なことなんです。いくら蛇丸(おろちまる)がいるとはいっても、現実問題として、闇雲に探しても螢火、そして大奥女中のお二方が簡単に見つかるとも思えません。てあるなら」

 

そこで朧は無邪気そうにニッコリと微笑む。

 

「黙っていても血車党の方から動く、その瞬間をつかまえる必要があります。これは、そのためにこそ必要なこと」

 

そして朧は、その場にいながら口を挟めずにいたハヤテ、タツマキ、ツムジにも声をかけた。

 

「ハヤテ様、タツマキ様、ツムジ様、皆様にも御協力をお願いします。血車党の作戦を潰し、螢火、そして大奥女中の方々を救い出すためにも、私たち皆が力を合わせる必要があります。これから詳細をお話ししますが、まずは御協力をお願いできますか?」

 

これにはハヤテ、タツマキ、ツムジも頷かざるをえなかった。

 

もっとも以前から朧のことを知っていたタツマキは、内心では

 

やれやれ、朧殿は相変わらずじゃの‥‥

 

と思ってはいたのだが‥‥

 

その内心はともかくとして

 

「わかりもうした、朧殿。では、早速打ち合わせの方をお願いしたく存じます」

 

タツマキは朧に対しては、そのように返事をする。

 

✨

 

朧により伝えられた、明日からの朧自身と千恵、それにカスミの大奥への潜入、更には百地家の千秋、服部家の律にも助力をあおぐぺしとの、大まかな説明を聞いた一同は今一つ釈然としない気持ちであった。

 

そして、まず

 

「朧さん、と呼んでもいいでしょうか?」

 

と千恵が朧に向かって問いかける。

 

「はい、千恵様」

 

とニコニコしながら返事をする朧。

 

 

「私のことも『様』付けではなしに呼んでいただけると嬉しく思いますけど、それは別として」

 

千恵は、そんな朧の様子にいくらかの苛立ちすら感じていた。

 

「お話をうかがった限りでは、朧さんの能力である『破幻の瞳』さえあれば、別に私などいなくても、奥の方(おくのかた)に化けた血車党の者の正体を暴くとなど難しくもないように感じられるのですが」

 

千恵はそこで言葉を切ると

 

「それでも、この私が江戸城内の大奥にあえて潜入する必要というのはあるのでしょうか?」

 

と、率直に自らの疑問を朧に対して述べた。

 

朧は少し小首をかしげると

 

「わかりました。では他人行儀はやめることにします。私の方でも『千恵さん』と呼ばせてくださいね」

 

と千恵に向かって微笑んだ。

 

その可愛らしい笑顔に千恵も戸惑う。

 

「千恵さんの力が必要です」

 

朧はあらためて千恵に向かって言った。

 

「まず、私の『破幻の瞳』はいつでもどこでも、むやみやたらに使えるものではありません。また、多くの女性たちが働く大奥の中を当てもないまま、一人一人、それだけを頼りに『怪しい人物』を探し回るのも大変です。けれども、千恵さんがいれば、誰が怪しいのかを直に見てもらうことができます」

 

なるほど、確かにそれは一理ある。

 

千恵がそのように思った後にも、朧は話を続ける。

 

「そして、私は血車党の化身忍者の力は本当に恐るべきものであり、仮に江戸の城内に化身忍者が姿を変えて潜入していたのだとしたら、私たち伊賀忍者が立ち向かったところで、到底勝ち目はないと思っています。勿論、この私も含めて、です」

 

朧のこの言葉に、側にいた藤林長門の表情がさっと変わった。

 

朧、お前がそれを言うのか‥‥

 

が、朧は長門のそんな様子に気づいていながら、それを気にする様子もなく話を続ける。

 

「千恵さんなら、例え血車党の化身忍者相手でも、少なくともしばらくは五分には戦えますよね?」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「はい」

 

千恵は朧の問いに対して、そのように答える。

 

が、正直なところ、千恵からしたら多少のハッタリもある。

 

実際に、つい先程の西屋蔵屋敷での戦いでドクダヌキ相手に苦戦を強いられたばかりでもあるのだから。

 

でも、ハヤテさんたちのいる前では少しくらい見栄を張りたい‥‥

 

「しかし、それでしたら朧さんと私だけが大奥に潜み、待機していればよいのではないでしょうか?、何もカスミさんまで無理に巻き込まなくても‥‥」

 

このあたり、千恵には多少の誤解がある。

 

千恵はカスミが、今回朧が言い出したこの話について、内心では嫌がっていることには気がついていた。

 

そして朧が、自分にこの役目を承知させるために、わざとカスミを巻き込んだのではないか?

 

と疑っていたのだ。

 

「千恵さん、私なら大丈夫だから」

 

千恵のその『誤解』に気づいたカスミが間髪を入れずに言った。

 

「私が側にいた方が千恵さんだって安心でしょう?」

 

「えっ、でも、これから大奥に潜入するのに、服装から立ち振舞い、仕草に至るまで、いろいろ一晩で覚えなければいけないわけだし‥‥」

 

と当惑する千恵。

 

「私たち伊賀のくノ一は、今すぐにだって、それくらい出来るように訓練されてるのよ」

 

カスミはキッパリと言った。

 

「千恵さんはどうも武鬪派みたいだけど、少なくとも伊賀のくノ一は江戸の大奥に限らず、どこの諸侯の家中、奥向きにでも、それこそ行けと言われれは、明日からでも潜入できないといけないの」

 

「そうなんですか‥‥」

 

千恵は血車党にいたころの、周囲の女性たちを思い浮かべていた。

 

自分に限らず、血車党の中で、そんな種類の訓練をしているようなくノ一を見たことがない。

 

「カスミさんの言う通りです」

 

朧は微笑んだ。

 

「勿論、この私も今すぐにでも江戸城内の大奥女中になりきり、潜入することはできますし、だからこそ、今晩のうちに、私とカスミさんで千恵さんにも、ある程度はそれが出来るようになってもらえるよう、稽古をつけるつもりなんです。それはよろしいでしょうか?」

 

朧のその言葉に、千恵は

 

「はい」

 

と頷く。

 

心の中では

 

さっき夕食前に少しでも休ませてもらってよかった‥‥

 

などと思いながら。

 

今夜は遅くなりそうだ‥‥

 

ここでハヤテが

 

「朧さん、言っていることはわかるのだが、千恵さんも長旅と、今日の転移の術で、かなり疲れているはず。明日いきなりというのも性急ではないのか?」

 

と苦言を述べる。

 

 

が、ここで藤林長門が

 

「ハヤテ殿、長旅で疲れているのは朧も同じですぞ!」

 

と、ハヤテに向かってピシャリと言った。

 

「朧は伊賀からの長旅で、ついさっきここに到着したばかり、しかもろくに休んでもいない」

 

「長門殿、すまない」

 

それを聞いたハヤテは自分の『失言』に気づき、藤林長門と朧二人の前で頭を下げ、詫びた。

 

であるなら朧は、ハヤテ、そして千恵たちが伊豆田方から江戸に向かった距離と比べて、ざっと三倍以上、恐らくは四倍近い長い距離を旅した上で、先ほど江戸についたばかりということになる。

 

だが

 

「父上、それはこちらから言うべきことではありませぬ」

 

と朧は父である長門に向かって言った。

 

「私たちは『伊賀のお役目』という重い責任を背負っている立場です。けれども千恵さんやハヤテ様は『お願いされる』側の立場です」

 

「ううむ‥‥」

 

藤林長門は、娘の思わぬ言い分に口をつぐむ。

 

だが、ハヤテはそれを否定した。

 

「朧さん、いや、それは長門殿の言う通りだ。私たちにしても軽い気持ちで血車党と戦っているわけじゃない。確かに血車党がいつ江戸城内で行動に出るのかわからない以上、急ぐ必要はある。私としては千恵さんの疲労が心配ではあるのだが‥‥」

 

ハヤテがそこまで言いかけたところで、千恵は

 

「ハヤテさん、私なら大丈夫です。ただ、今回のお話は今まで考えてもいなかったことなので、少し戸惑っただけです」

 

と自身の決意を述べた。

 

「そうか、千恵さんがそう言うのなら、私が余計なことを言うべきではないだろう」

 

とハヤテは述べたあと

 

「あと朧さん、私も様付きではなしに呼んでくれると嬉しいのだが」

 

と朧に向かって言う。

 

だが朧は

 

「ハヤテ様、それはなりませぬ」

 

とピシャリと言った。

 

「女子(おなご)同士の気安さのある千恵さんとは異なり、貴方様は殿方です。である以上、私には守らなければならない礼(れい)があります」

 

ハヤテは戸惑った。

 

この朧という女性は礼に対する強いこだわりがあるようだ。

 

「朧さん、わかった。それなら貴女のお考えは尊重させてもらう」

 

ハヤテはそう言ったあと

 

「ただ、私は朧さんに対しても私なりの接し方をさせてもらう。それは理解してほしい」

 

と付け加えるのを忘れない。

 

「はい、わかりました」

 

朧はハヤテに向かって頷く。

 

その仕草にはどことはなく可愛らしさがあった。

 

それが更にハヤテを戸惑わせる。

 

「では千恵さん、これからのことお願いできますか?」

 

確認の意味で朧が千恵に問いかける。

 

「はい、頑張ります」

 

千恵はそう答える。

 

「ありがとうございます」

 

朧は頷くと

 

「ところで、私から千恵さんに贈り物があります。今から持ってきますので受け取っていただけますか?」

 

なんだろうと重いながらも千恵は

 

「はい」

 

と頷いた。

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