変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来第2編・江戸での血車党との対決 作:shpfive03
「心まで伊賀に売り渡した、ですか…」
千恵はなんだか可笑しかった。
なるほど、今の自分は血車党の人間からはそう見えるわけだ。
一途に血車党に忠誠を誓い続けていたら、今ごろ、とっくに自分は死んでいたわけなのだが…
血車党などに、そんな価値があるものか!
内心でそう呟く千恵。
そして
「なら、そういうあなたは血車党に魂を売り渡したの?」
と千恵は、逆に菊に向かって問いかける。
「何よ、その言い方!」
菊は、千恵のその言い方が気に入らなかったのを隠そうともせず
「私は血車党に忠誠を誓っている。売り渡したのではない!」
逆に、誇らしげに言う。
一方でカスミは、ここぞとばかりに大声を張り上げた。
「皆様、曲者です!、出合え、出合え!」
たちまち薙刀を持った何人もの大奥女性たちが駆け寄ってくる。
そして自らも千恵と同様に
そして羽織袴も脱ぎ、いつもの戦闘体勢というべき桃色の忍び装束姿となり、剣を抜いた。
「フフッ、黒や桃色の忍び装束を密かに着込んで大奥に紛れ込んでいたあんたたちが曲者じゃなくて、この私だけが曲者ねえ」
菊は不敵に薄ら笑いを浮かべる。
「私たちは上様の了解のもとでここにいます!」
カスミは、はっきりと言い切った。
「対するあなたは上様に害する目的で、わざわざ浦路様に成り代わって、ここに潜入してきました。どう見たって曲者でしょう!」
ここで千恵が菊に向かって
「あなたのお名前は!」
と尋ねる。
ふふっ、と菊は大胆不敵な笑みを浮かべると
「血車党くノ一、菊!」
と名乗りをあげた。
「そう。なら、菊さん」
千恵は冷静沈着に、菊に向かって問いかける。
「あなた、化身忍者ではなく、あくまでも普通の『人』でしょう。この私一人にだって勝てるはずもないのに」
そうなの?
という表情でカスミは千恵の方を振り向いた。
てっきり化身忍者かと…
そうでないなら、大胆にもほどがある。
千恵は続ける。
「ここにはカスミさんも、そして駆けつけてくれた大奥の皆様もいます。対するあなたはたった一人。無駄な抵抗はせず、大人しく降伏することを考えたらどうですか?」
その千恵の言葉を聞いても、菊はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべたままだ。
そして千恵を小バカにしたように
「あんた、大奥の規定も知らないの?」
と言葉を返す。
えっ、と思う千恵。
「狼藉者は自刃、もしくは死罪、つまり、私はこの場で降伏なんかしたら、徳川の手で処刑されるだけよ。そこのカスミさん、無知な裏切者にちゃんと教えてあげなさいよ!」
そうなの?、カスミさん
千恵はカスミに向かって、目で問いかける。
「その通りよ!」
カスミはキッパリと言った。
「だからといって、あなたはこの場で一人で暴れて討ち果たされるつもり?」
菊は笑いながら首を横に振った。
そこへ
天井裏から人影が姿を現すと、菊を庇うようにして、その前にスタッ、と舞い降りる。
その人影は手に血車党特製の、あの七色の狂い毒粉を発射するための木製短筒を持っており、それを
目の前に押し寄せるようにして立っている千恵とカスミ、そして薙刀を構える大奥の女性たちに向けたのだ。
「待ってたわよ、桐」
菊は満面の笑みを浮かべると
自分の前に仁王立ちし、真剣な表情で木製の短筒を構えて
菊と同じく総髪を後ろ髪でまとめ、黒の手甲に、黒の脚絆、そして草履、黒色で半袖の忍び装束に身を包んだ血車党くノ一にして、自らの仲間
桐の姿を頼もしそうに見つめた。
「出来損ないの裏切者!」
菊は千恵に向かって
「お前自身は、この七色の狂い毒粉に耐えられるとしても、そこのカスミや、他の大奥の女たちはひとたまりもなく毒粉の威力で殺し合いをはじめ、やがては死に至るぞ、わかっているだろうがな!」
と叫ぶ。
事情のよく分かっていない薙刀を構えた大奥の女性たちも、緊迫した雰囲気を感じとり、動揺して、ざわざわと騒ぎ出す。
「言うまでもなく、お前に『化身の術』を使っている刻など与えぬぞ。そのような姿勢をとるなら、私は直ぐにこの短筒で狂い毒粉を発射するまで!」
と桐も千恵に向かっていい放った。
その桐の言葉を聞いた菊はニヤリとする。
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周囲のざわつきをよそに、千恵は念を一心に集中した。
別に『変身』はせずとも、『乱れ髪呪縛』は、元々は化身忍者になる前の『人間だった頃』にも使えた術のはず。
少なくとも、今はなき母、蛍から伝授された時以来、血車党によって化身忍者毒蛾くノ一に改造される前までは
ならば、今も使えるはずだ!
千恵は自らの縛ってあった髪をほどく。
その黒髪がばらっと乱れる。
そして千恵は
「千恵の忍法、乱れ髪呪縛!」
と叫んだのだ。
その声と共に千恵の黒髪が、あたかも生き物であるかのように逆立ったかと思うと、大きく勢いよく伸び上がり、そして、目の前で七色の狂い毒粉を発射するために短筒を構える血車党くノ一桐に向かって、わさわさと襲いかかっていく。
慌てて桐の背後にいた菊が前に出ると、襲いかかる千恵の黒髪を斬り捨てようと、剣を振り上げた。
だが、千恵は一枚上手だった。
その黒髪は、そのまま桐の前に立った菊に巻き付く。
そして菊をがんじがらめに縛り上げたのだ。
「うわあっ!」
悲鳴をあげる菊。
そして千恵の黒髪でがんじがらめにされた菊は、そのまま短筒を構えた桐に向かって叩きつけられる。
「きゃっ!」
今度は桐の悲鳴。
そして菊と桐の二人は、その場に倒れた。
それを確認した千恵は、桐が手放してしまい、その場に落ちた木製の短筒にその黒髪を巻きつけ、その上で、それを奪い取り、そして短筒を巻き取った黒髪は、その短筒を縛り上げた状態のまま、スルスルと千恵のもとに戻っていく。
千恵は自らの髪の毛を使って奪い取った木製の短筒を手にすると
「カスミさん、これを処分してください」
と言って、すぐ傍らにいたカスミにそれを手渡した。
カスミはこくりと頷くと、そのまま短筒をもって、いったん、その場を離れる。
そして千恵は
「二人とも、もう逃げられないよ、観念するんだ!」
と、何とか立ち上がろうとする菊と桐に向かって言った。
そんな千恵を見て悔しそうにする菊と桐の二人。
それでも二人は何とか立ち上がると、あくまでも抵抗の意思を示すために剣を構えた。
まだ牡丹の正体はバレていないし、毒蛾くノ一様もおられる
ここは自分たち二人が必死の抵抗をして、少しでも相手にダメージを与えることが出来れば
菊と桐の二人は決死の覚悟で千恵と向かい合った。
一方で千恵は
二人を斬る決心がつかず、躊躇っていたのだ。
ハヤテさんも、こんな気持ちだったのだろうか?…
かつて、毒蛾くノ一だった自分を、ついに斬り殺すことをしなかったハヤテの気持ちが、少しだけわかるような気がした千恵だった。
目の前の血車党くノ一は
かつての自分と同じ立場なのである。
✴️
一方、ここは大奥から中奥、つまり将軍徳川秀忠の私室のある場所へ向かう廊下である。
大奥女中の松、いや、その姿をした血車党くノ一牡丹は、さすがに緊張しながらもゆっくりと将軍がいるはずの部屋の方向へと歩いていく。
今ごろは菊と桐が陽動作戦で、あの『出来損ないの裏切者』を含む、大奥にいる皆の注意を引き付けてくれているはず。
その間に、私が…
「松様ではございませぬか、どちらに向かわれるのでしょうか?」
ふいに彼女は声をかけられた。
思わず振り向くと、そこには裾柄の蕗入りの振袖に立て矢を結んだ、いかにも奥女中然とした女性がニコニコしながら立っていた。
年の頃は自分と同じくらいだろうか…
松、いや、その姿をした牡丹は内心では強い警戒心を感じながらも、それを表に出さず
「いえ、上様にお届けものがありまして…」
と答える。
嘘ではない。
牡丹の懐には、自らの主である毒蛾くノ一の分身である毒蛾が潜んでいるのだ。
それを中奥、つまり徳川秀忠の私室にこれから『届ける』ところなのだ。
予定では、この毒蛾を中奥に潜ませ、将軍秀忠の隙を狙って『毒蛾呪いの術』で彼を操り、天下を動かすことになっていた。
何やら『前の毒蛾作戦』では、江戸城内で『七色の狂い毒粉』撒き散らすなどという作戦だったようだが
それよりは『毒蛾呪いの術』で徳川の将軍その人を操って天下を動かした方が確実ではないか!
仮にそれに失敗したら、その時こそ七色の狂い毒粉を江戸城内に撒き散らせばいいのだ!
「あら、どんなお届けものかしら?」
松(牡丹)に声をかけた奥女中の姿をした女性は小首をかしげる様子を見せる。
「いえ、実は有馬肥前守様から上様へのお届けものがあり、それを御右筆の
松(牡丹)は流れるようにすらすらと答えるが
「そうですか、では、この私もちょうど上様の元へまいりますので、御一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」
松(牡丹)は戸惑いを隠せない。
「あの?、失礼ですけど、上様にはどのような御用件で」
「ええ、実はですね」
笑みをたやさぬまま、奥女中の姿をした女性は答えた。
「上様のお側を脅かす血車党なる悪党集団の曲者が、この江戸城内に入り込んで悪事をなさんとしているということをお伝えしにいくところです」
松(牡丹)の顔色がさっと変わった。
「貴様、何者だ!」
彼女は警戒心を露にし、目の前の奥女中の姿をした女性の目の前で身構える。
「まあ、『貴様』なんて、いやしくも大奥の女中が、そのようなはしたない言葉をお使いになってはいけませんよ」
奥女中の姿をした女性はふふっと笑った。
「あなたが本当に奥女中であれば、の話ですけとね」
次の瞬間、奥女中の姿をした女性の両目がキラキラと眩く光った。
「伊賀忍法、破幻の瞳!」
彼女は叫ぶ。
「うわっ!」
思わず、彼女の両目の光に目をおおう松、いや牡丹。
そして、次の瞬間、奥女中、松の顔は
元の血車党くノ一、牡丹の顔に戻ってしまっていた。
「千恵さんの教えてくれた通りだわ」
奥女中の姿をした女性はにこりと可愛らしく微笑む。
「貴様、何者だ!」
最早これまでと、奥女中としての着物姿を投げ捨て、瞬時に血車党くノ一としての黒の忍び装束に姿を変える牡丹。
「伊賀、藤林長門が長女、朧と申します」
既に殺気だっている牡丹の前で、穏やかに朧は微笑んだ。
そして
懐の小刀を抜き、朧に向かって襲いかかろうとする牡丹に対して
「殿中では刃傷沙汰はご法度ですよ」
と、まるで他人事のようにいう朧。
そして
「ただし、正当防衛は、その限りではありませんけどね」
というと、自らも奥女中としての着物を投げ捨てる。
そこには紫の忍び装束に身を包み、その下には鎖帷子を着込んだ
伊賀藤林組の上忍代行、朧の姿があった。
そして背中の剣を抜くと、襲い掛かってきた牡丹の小刀をなんなく弾き飛ばす。
「うわっ!」
堪らず転倒する牡丹。
そして、その彼女の前に朧の持つ剣が突きつけられた。
「私、こういうことは好きではありませんけど」
溜め息をつくようにして朧は言った。
「これでも『忍者の娘』、人を手にかけることくらい容易く出来ます」
虫も殺せぬような顔をしながら、当たり前のように朧は言う。
朧から剣を突きつけられた牡丹は、一部の隙もない彼女の剣の切っ先に、もはや自分が抵抗する余地がないことを知った。
牡丹は震えながら
「お願いです…、命だけは助けてください…」
と、朧に向かって命乞いをし始める。
牡丹の、その必死そうな表情といい、脂汗を浮かべた顔といい、ガタガタと恐怖に震える様子といい、とても演技には見えなかった。
朧は少し呆気にとられるが、とりあえず彼女に向かって突きつけた剣はそのままに
「私も無益な殺生は好みません。あなたが降伏して、私たちに血車党の秘密を話してくれるなら、考えてもいいですよ」
と、そんな牡丹に向かって声をかけた。
まあ、嘘とまではいえない。
考えてもいい、というだけであって、命を助けるなどということを朧はいうつもりはない。
それは無責任というものである。
だが、牡丹はそれで安心したのか、驚くぺきことを話しはじめる。
「実は、伊賀の百地千秋様についてですけど、あの方は私たち血車党の協力者です…」
えっ、と思わず驚く朧。
裏切者は律さんだけではなかったのか?
千恵は躊躇しつつも、じりっ、じりっ、と、まだ抵抗の意思を示して剣を持ち、身構える菊と桐二人の血車党くノ一を見つめる。
もっとも、二人がこちらに斬りかかってきたなら、その時は否応なく斬り捨てるしかない。
その覚悟は武人としての千恵にはある。
所詮は『人』でしかない二人のくノ一と、今や変身忍者と呼ばれる、改造人間である千恵との間には、そのくらいの実力差は間違いなくある。
「あなたたち、そんなに死にたいの?」
千恵は本気で聞きたかった。
血車党なんかのために命を捨てることのバカバカしさに、なぜ気づかない!
「うるさいっ!」
桐が重圧感に耐えきれず、破れかぶれに千恵に向かって斬りかかろうとする。
が、その時である。
突然の爆音、そして、その場には煙が立ち込め
その場には、千恵にとり、これ以上ないくらい見覚えのある毒蛾の化身忍者が二人の血車党下忍たちと共に姿を現し
「イーッ!、ヨーウゥゥー」
と叫び声をあげ、そして、剣を構え、千恵に斬りかかろうとしていた桐と、やはり剣を構えたままの菊の方を振り向く。
「毒蛾くノ一様!!」
桐と菊の二人は安堵を浮かべた表情になる。
彼女たち二人のその表情には、主である化身忍者毒蛾くノ一に対する強い信頼があることを、瞬時に千恵は見てとった。
「菊、桐、二人ともよくやった!、ここからは、この私が『出来損ないの裏切者』をやる!」
化身忍者毒蛾くノ一はそう言うと、自分についてきた二人の下忍たちに
「お前たちは菊と桐を助けて、この場を制圧しろ!、この場にはカスミさえいない。後は覚束ない手で薙刀を持った大奥女中がいるばかり、容易いはずだ」
そう言って化身忍者毒蛾くノ一は、自分についてきた二人の下忍に指示をする。
「クエェッー!」
二人の下忍たちは剣を構える。
そう言えばカスミさん、戻ってくるのが遅い…
千恵はそう思ったが、今は躊躇している場合ではない。
化身忍者毒蛾くノ一に、二人の血車党下忍、そして二人の血車党くノ一たち。
正直、薙刀を構えているとはいえ、大奥女中の皆さんは戦力としては期待できない。
いや、ハッキリ言えば足手まといですらある。
この場で戦えるのは自分一人なのだ。
千恵は決意すると両手をクロスさせ
「変身!」
と叫ぶと
それを大きく上に回すと、再びクロスさせる。
次の瞬間、千恵の姿は光輝き
そして、その場には
蛾の変身忍者である『変身忍者千恵』が姿を現した。
「かかれぇ!」
化身忍者毒蛾くノ一は
男女四人の血車党下忍たちに向かって指示をする。
菊と桐、そして二人の血車党下忍は剣を構えた。