変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来第2編・江戸での血車党との対決 作:shpfive03
変身忍者嵐と化身忍者毒蛾くノ一が天守閣の屋根の上へ飛び去った後
カスミは緊張の糸が切れたのか、その場にしゃがみ込むと
ウッ、ウウッ、と嗚咽をし
やがて、この場の皆が驚くような大声でワアッと泣き崩れてしまった。
そして、そのままワアッ、ワアッ、と泣き崩れる。
それを見た朧と夜叉丸は、まるで幼子のように泣き崩れるカスミに戸惑うばかり。
もし、この場にツムジがいたら、彼はきっとこう言ったに違いない。
『カスミ姉ちゃんは強がりばっかり言ってても、本当は泣き虫なんだよな…』
そして、その言葉を聞いたカスミはハッと我に返り、そして、それを言ったツムジに口を尖らせて文句を言ったに違いない
そうやってカスミは元気を取り戻しただろう。
が、今、ここにツムジはいない。
ツムジだけではない。
カスミの父であるタツマキも、彼女のよき理解者であるハヤテもここにはいない。
変身忍者千恵は印を結ぶと、あえて元の人間態である千恵に戻った。
既にこの場には『敵』はいなくなっている。
そして千恵はそっと、泣き崩れているカスミの肩に手をかけ
「カスミさん」
と彼女に向かって優しく声をかける。
「千恵さん……」
我に返ったカスミは、涙でぐしょぐしょになった顔を千恵に向ける。
「前を向きましょうよ!」
千恵はつとめて明るく言った。
そして
「ハヤテさんは…」
あえて『嵐さん』ではなく、『ハヤテさん』という呼び方をした上で
「そう、ハヤテさんは、カスミさんの気持ちがわかったからこそ、あえて『楓さん』との決着は自分でつけることにしたんですよ。勿論、カスミさんも気づいている通り、それだけが理由じゃありませんけどね」
とカスミを諭すようにいう。
カスミは泣くのを止め、千恵の言葉に歯を食いしばりながら頷く。
その上で千恵は戸惑っている朧と夜叉丸、そして斎籐福を筆頭とする奥女中たち皆の前に向かって、あえて笑顔で振り向いた。
「皆さんは、あるいはご存じないかも知れませんけど、『血車党によって作られた化身忍者』は、死ねば自爆します。そして、その爆発はこの場の皆さんを巻き込まずにはいないでしょう」
恐らくは、この私も含めてなんですけどね…
千恵は内心ではそう呟いたが、それを口には出さない。
今は無用の混乱を招きたくない……
「いずれにしても、先に化身忍者毒蛾くノ一が言った『ならば、五人まとめてかかってくるがよかろう、一人残らず道連れにしてくれるわ!』という言葉の意味はそういうことです。彼女は、この場で自爆するつもりだったんです」
その千恵の言葉を聞いて、その場の皆は慄然とし、そしてどよめく。
ややあって、朧が千恵に向かって問いかけた。
「千恵さん、それは本当なんですか?」
それに対して千恵は
「はい」
と肯定の意味で簡潔に頷く。
「恐らくは『人間化身の法』の秘密を残さないため。そうでなければ、例えば」
そう言って千恵はカスミの方をちらり、と振り向く。
「ここにいるカスミさんのような水準以上の医術の心得のある人に『化身忍者の死体』を調べられてしまうことで、『人間化身の法』の秘密が暴かれてしまう恐れがあります!」
言いながら千恵は、なぜ骸骨丸が『カスミを血車党の化身忍者にしようとする』ことに、あれほどこだわったのかを理解した。
カスミはハヤテの自宅にある、『ハヤテの亡父谷鬼十先生の残した資料』を自ら読み、『人間化身の法』についての勉強をすすめているという
ならば
『人間化身の法』の秘密を暴かれることは、今の血車党にとり大きな打撃になるのみならず
逆に、それによって培われたカスミの知見は血車党にとり、今後の化身忍者の改良、強化を考える上でも、大きな魅力であるに違いない。
千恵の目の前で恥も外聞もなく泣き崩れていた、数え年で十七歳の女子は
途方もない可能性を持っているのだということに、遅まきながら血車党も気づいたということなのだろう。
だが、それにしては……
千恵の思考はそこで中断された。
今度は夜叉丸が
「だからといって人間を、まるで爆弾のように爆発させるなんて非人間的なことを血車党は平気でやるというのか!、化身忍者だって元々は人間だろう!!!」
と怒りに声を震わせながら叫ぶ。
叫ばずにはいられなかった。
そんなことが許されていいのか?
伊賀の掟もそれなりに厳しいものではあるが、それでも、納得できる範囲のものではある
血車党は仲間を人間扱いすらしていないのか?
「ええ、今の血車党は間違いなくそういうところですよ」
千恵は苦笑する。
「それも、その上忍たちの、天下を自分達の手でほしいままに動かしたいという私利私欲のために!」
千恵はキッパリと言い切った。
今だからこそ、心の底からそのように思う。
だからこそ、そんな血車党は、その血車党の一員だった自分の、いや、自分たちの手で打倒しなくてはいけないのだ!
自分と同じく血車党の一員だったハヤテと共に…
同時に千恵は『血車党打倒』に強い思いを持つハヤテのことを思った。
そして、その「心の中の声」を秘めながら千恵は話し続ける。
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「つまり変身忍者である嵐様は、血車党化身忍者である楓さんの自尊心に訴えかけることで、あえて、この場から天守閣の屋根の上へと戦いの場を移されたということなのですね。この場で戦いに敗れて死んだ化身忍者の自爆による被害を考えて…」
朧が、自身の理解した状況を簡潔に言った。
「その通りだと思います」
と、これは千恵。
「けれども、それだけではありません。それは、ここにいるカスミさんのためでもあると思います」
その千恵の言葉を聞いてカスミはハッとする。
「私の、、ため…」
千恵は穏やかな表情でカスミに向かって頷いた。
「カスミさんは御友人であった楓さんが『伊賀の裏切者』として血車党の化身忍者となり、敵として目の前にいることを知り、その強い責任感から、無茶を承知で、自らの手で楓さんを斬ろうと思い詰めていたのは、私にもハッキリとわかりました」
そこで千恵は、あえて笑顔を見せる。
「けれども、あえてハッキリ言いますが、人であるカスミさんが化身忍者を斬るというのは現実的には無理ですし、何よりも」
「………………」
「ハヤテさんは、そんな化身忍者を作り出し、その心まで変えてしまうような血車党を作り出してしまったことの大元の責任は御父上でいらっしゃる谷鬼十先生、そして自分自身にあると確信し、だからこそ、あえて彼女を自らの手にかけることを決心したんです、そのハヤテさんのお気持ちは、この私にも伝わってきました!」
カスミは大声で
「ハヤテさんはなにも悪くないわ!!」
と、泣きながら、そして怒りながら叫ぶ。
「鬼十先生だってそうよ!、悪いのは今の血車党を支配し、好き勝手にしている魔神斎と骸骨丸じゃないの!」
が、そこで朧が、まるで嗜めるかのように
「カスミさん、それは違います!、ハヤテ様には大きな責任があります」
とカスミに向かって厳しい口調で言った。
そう言われて黙っているようなカスミではない。
「なんで朧さんにそんなことがわかるんですか!」
「わかりますよ」
朧はカスミに向かって微笑んだ。
「私は伊賀上忍の娘として生まれ、そのための教育を受け、今は父である長門を補佐する『上忍代行』という地位にあります。まあ、私がそれだけの器かどうかは話は別ですけどね」
そう言って朧は苦笑する。
「ハヤテ様も、そして御父上でいらっしゃった谷先生も、共に血車党の上忍という責任のある立場にありながら、ついに血車党が今のような『悪党の集団』となることを止めることが出来ず、『抜け忍』となるしかありませんでした。そして、今、ここにいる千恵様も血車党では中忍という立場であったとお聞きしています。なればこそ、今の血車党を打倒されるおつもりであると理解しています」
千恵は、その朧の言葉に内心で苦笑する。
いや…、私は
血車党から裏切者として処刑される寸前だったところをハヤテに救われ
いわば、成り行きでここまで来たんですけどね…
が、そんな千恵の内心を知ってか知らずか、朧は話を続ける。
「上忍には上忍としての、中忍には中忍としての『人の上に立つものの責任』というものがあります。それが現実に出来たかどうかは別ですけど」
朧は何かを思いきるかのように言った。
「本来ならハヤテ様は上忍として血車党を中から正すべきでした。そしてハヤテ様御自身も、本当はそうされたかったのだと思います。けれども、それはかないませんでした」
「…………………」
カスミは朧に何も言い返すことが出来ない。
「私はかつて、伊賀と甲賀の長年の争いを止めるための『不戦の約定』を実現するために奔走、努力し、ついに上様の仲立ちをいただくことができ、甲賀の代表として弾正様と弦之介様、伊賀の代表として父上と祖母の幻、それぞれが署名する形での『伊甲和睦』(甲伊和睦)を実現させることが出来ました」
その話はカスミもよく知っている。
今は勢いは衰えたとはいえ、かつての豊臣政権下では旭日の勢いだった甲賀忍軍。
近江長浜の領主だった羽柴秀吉に接近して以来、天下の忍軍として君臨し、関東の徳川家についた伊賀の忍軍とは争いを続けてきた。
実は千恵の父、佐助も
元をただせば甲賀の出身である。
そして
今もなお、その一派は公儀隠密としてとどまっており、忍軍として侮れない勢力を維持し続けている。
近年では駿河に拠る将軍家第二子、徳川忠長に接近しているともいわれる。
その甲賀と、伊賀の和睦を強引に実現させた藤林一派には、今も伊賀の内部には批判が少なからずあるのだ。
なぜ藤林が勝手に伊賀の代表を名乗るのだ?
が、朧は話を続けた。
「それを実現させた事に、今も不満をいだくものが少なからずいるということは承知しています。けれども、今、天下が安定しようというときに、伊賀と甲賀が争って、一体何になりましょう?、また伊甲が本気で争えば、双方から少なからぬ血が流れます。ならば、私には上忍の娘として、それを未然に防ぐ使命があります。幸いにして甲賀の弦之介様も、それに同意し、私に協力してくれました」
朧と甲賀弦之介との間にとやかくの噂があることはカスミも聞き及んでいる。
が、だからといって、その事を朧に突っ込む気にはなれなかった。
全く、今どき伊賀と甲賀が争って何になろう?
それこそ喜ぶのは血車党ではなかろうか…
「すみません、余計な話だったかもしれません。けれども多くの人の上に立つ上忍には、全体のことを考え、最悪の結果を起こさないようにするため、常に努力する義務がある、この事を言いたかったのです。そしてハヤテ様も」
と、朧は話を戻す。
「既に血車党が最悪の結果として『天下を破壊せんとする賊』となってしまった以上、それを正す義務は自らにある、この事を自覚されているのだと、朧は思いましたので、あえて、このようなお話をさせていただきました。この事は千恵さんにも聞いてほしかったので…」
「朧さん、ありがとうございます」
千恵は朧に向かって、丁寧に礼をした。
そして
「ならば、この私にも今の血車党を正す義務があると思います。そのための努力を今後ともさせていただきたく思います」
と朧に向かって答える。
それを聞いて朧はにっこりと微笑んだ。
「千恵さん、ありがとうございます」
そして朧はあらためてカスミに向かっていう。
「カスミさん、ハヤテ様がなぜ、あえて、あの化身忍者と一対一の対決をするという決断をしたのか、その気持ちを汲んであげてください。それだけはお願いします」
それに対してカスミは
「はい、私はここでハヤテさんが戻ってくるのを待ちます」
と答えた。
「大丈夫ですよ、カスミさん」
千恵は確信を持って断言した。
「私たちのハヤテさんが負けるはずありません。そしてハヤテさんは必ず納得のいく結果を出してくれるはずです。私たちは待ちましょう」
その千恵の言葉に、カスミはこくり、と頷いた。