変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来第2編・江戸での血車党との対決 作:shpfive03
一人現場に残されたツムジは、無念の形相を浮かべたままその場に横たわっている血車党くノ一・牡丹の遺体を見下ろすと、すぐさま忍者としての目つきに戻った。
まだ元服前とはいえ、今は一人の忍者としてお役目についているのだ、という自覚をツムジは当然のように持っていた。
「よしっ、まずは危険がないか確かめないと……」
血車党くノ一牡丹の懐や袖口、帯の周りを素早く検分する。
毒針や爆薬、あるいは死後に発動するような危険な仕掛けが残されていないか確かめる
それは彼女の死を悼むのとは別の、伊賀忍者としての当然のように果たさなければいけない行動だった。
そして、その最中に
異変を感じ取って小刀を抜きながら駆けつけてきた数名の城内警護の武士たちがやってくる。
「何事だ! ここで争いがあったのか!?」
「あ、待って、待って! 近づいちゃだめだめ!」
ツムジは手をかざして武士たちを制した。
年齢は遥かに上の武士達に対しても、ツムジは少しも物怖じしない。
「この人は血車党の刺客として潜入したくノ一なんだ。体に毒や罠が仕込まれてるかもしれないから、おいらが改めさせてもらった。その確認は終わったけど、うっかり素手で触っちゃいけない。それと、この人を別室へ運んで仮安置してあげてほしいんだ。それはお願いしていい?」
既にこの場に危険なものは残されていないことを注意深く確認し終えていたツムジは、駆けつけた武士達にお願いをする。
少年の身である彼だけで牡丹の遺体をどこかへ運んで仮安置するのは現実的には無理だし
自分も及ばずながら、早く大奥に潜入し、暴れているという血車党の刺客たちと戦わねば!
という使命感もある。
少年でありながら、迷いのない的確な指示と『血車党』という言葉に、武士たちは気圧されるように
「お、おうっ!」
とうなずき、急いで手配へと動き出した。
「よし、手配は完了だ! おいらも早く大奥へ行って、みんなと合流しなきゃ!」
ツムジは手早く用件を済ませ、大奥へ向かって廊下を駆け出していった。
が、少し走り出したばかりのところで
スタスタと素早い足音が響き、廊下の曲がり角から姿を現したのは、父・タツマキであった。
「うわっ!? お、親父っ!?」
「ツムジか!」
タツマキは中奥にて将軍秀忠公および御大老・土井大炊頭利勝など幕閣の事態の報告を速やかに終え、秀忠将軍直々の命を受けて大奥へ引き返してきたところであった。
「親父っ、もう上様への報告が終わったのかい? こっちも牡丹さんの遺体検分と、駆けつけてきた小姓組の皆さんに後始末をお願いしてきたところさ! バッチリ終わらせてきたよ!」
胸を張るツムジに、タツマキは厳格な表情を崩し、誇らしげに目元を緩めた。
「うむ、よくやったツムジ。さすがはわしの息子、見事な手際だ」
「へへっ!」
「だが感心している暇はないぞ。上様、そして御大老様より、千恵殿、朧殿、カスミをお連れせよとの『上聴』のお達しを賜った。これより大奥へ向かう!」
「えっ! 千恵お姉ちゃんが上様に会うのかい!?」
「そうだ。ツムジ、お前も大奥へ戻り、周囲の警戒にあたれ!」
「がってん承知!」
こうして父子の手によって中奥近くの現場の始末は滞りなく完了し、二人は揃って千恵たちの待つ大奥へと急ぎ向かうのだった。
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変身忍者嵐と化身忍者毒蛾くノ一が決闘のためにその場から去り、残された大勢の人々はそれぞれに、その場から動くべきか否かを判断しかねていた。
せめて地上から化身忍者と戦う嵐を声援すべきではなかろうか?
そう思っている者も少なくはなかったのだが、この場を離れ、天守閣の外に出るにも時間はかかるし、場の空気も重く、何となく動くに動けない気まずい雰囲気があった。
言うまでもなく、千恵が斬殺した四人の血車忍者たちの遺体も、まだそのままである。
そんな時である。
ズッバーン!という爆音と、バシャッという大きな水しぶきの音が、遠くからその場の皆に聞こえた。
先ほど化身忍者毒蛾くノ一の分身が放とうとしていた木製短筒を、夜叉丸が黒縄で奪い取り、それを処理しに行った三人の奥女中たちが水掘へと投げ捨てた音であった。
静まり返る大奥に、足音が近づいてくる。
そして現れたのは、タツマキであった。
さきほど血車党のくノ一牡丹、そして伊賀の裏切者・服部律との激闘を終えた後、タツマキは朧や夜叉丸と別れ、単身で中奥の将軍秀忠のもとへ参上していたのだ。
城内の混乱と血車党の襲撃状況、そしてハヤテや千恵の動きについて直々に報告を終え、戻ってきたのである。
タツマキは大奥の総取締役・斎藤福に深く一礼すると、場全体に響き渡る通る声で告げた。
「福殿、ならびに皆様方。上様、そして御大老・土井大炊頭利勝様よりのお達しにございます」
その声に、その場にいた一同が一斉にタツマキの方を振り返る。
タツマキは威厳を込めつつ、穏やかな口調で続けた。
「朧殿、そして千恵殿。あとカスミも、これより直ちに中奥へ向かうようにとの上様、大炊頭様の御達し。それを伝えに参った次第」
朧、カスミ、そして千恵は、その言葉を聞いて思わず身を固くした。
「……上様が、私どもを?」
朧が問うと、タツマキは力強くうなずいた。
「左様。また、戦いは既に変身忍者嵐の勝利で終わり、化身忍者は倒されたとのこと。天守閣の屋根上にいらっしゃるハヤテ殿にも使者を送り、中奥へお越しいただくよう手配せよとの仰せにございます」
タツマキの口から語られた「嵐の勝利」の報告に、その場にいた人々から安堵の溜息と小さなどよめきが漏れた。
ここで、話を聞いていた夜叉丸が進み出た。
「タツマキ殿、天守閣屋根にいるハヤテ殿への伝令、この夜叉丸がつとめましょうぞ!これより ツムジ殿と共に天守閣の屋根上へ向かう所存」
タツマキと共に大奥へ駆けつけ、周囲の警戒にあたっていたツムジも、短筒の処理から戻った奥女中たちと入れ替わりで姿を見せ、夜叉丸にうなずいてみせた。
「おうよ! 夜叉丸さん、ハヤテさんのところへ急ごう!」
タツマキは二人の申し出に目元を緩めた。
「うむ、頼んだぞ、夜叉丸殿、ツムジ」
実は、今回指名された者のうち、徳川将軍に直接拝謁する『上聴』の資格(御目見得資格)を持つのは、旗本の娘であり伊賀藤林組上忍代行である朧と、徳川宗家御近習医師の資格を持つカスミだけである。
夜叉丸は徳川家の『御家人』という立場であり、正規の上聴資格は持たない。自身にその資格がないことを弁えているからこそ、忍術に優れ、天守閣の屋根上という難所へ向かえる使者役を自ら引き受けたのだ。
一方の千恵は、一介の浪人に過ぎず、本来ならば将軍にお目見えするなど到底許されない身分である。さらに少し前までは徳川を仇と狙う血車党のくノ一であった。
(上様が直々に千恵殿をお呼びになるとは……まさに異例中の異例『特例』の扱い。上様は千恵殿の真情をお確かめになりたいのだな)
タツマキは内心でそう思いながら、緊張に身をこわばらせている千恵へ温かい視線を送った。
なお、ハヤテは一代限りの『客分』という特殊な立場にある。徳川家としては正式に仕官して旗本などに就いてほしいのが本音であったが、ハヤテ自身の意思を尊重し、現在はそのような暫定措置が取られていた。
「タツマキ殿、承知いたしました」
朧が三人を代表して答え、隣に立つカスミと千恵に声をかける。
「カスミさん、千恵さん。上様のもとへ参ります。くれぐれも粗相のないように」
「はい、朧様」
カスミが短く答える。
一方の千恵は、激しい緊張と戸惑いの中にいた。
(徳川将軍秀忠公……)
ほんの少し前まで、徳川は家族の仇であり、殺意をもって化身忍者にまでなるほどの決意をさせた相手だった。
しかし、自らの命がハヤテの決死の行動で救われ、タツマキ、カスミ、ツムジら徳川の家臣とその家族の温もりに触れる中で、千恵の心は解きほぐされていった。
まだ割り切れない複雑な思いはあるものの、もはや将軍に対する害意はない。残っているのは、亡き父母や弟に対する後ろめたい気持ちだけだ。
(皆が『上様』と敬うお方……一体、どんな方なのだろう?)
不安と期待が入り交じる千恵の背中を、カスミが優しく促すように小声で叩いた。
「千恵さん!」
「あ……はい! 千恵も、ただいま参ります!」
千恵は我に返り、タツマキと斎藤福に向かってしっかりと答えた。
タツマキはその返事を聞き、深く満足そうにうなずくのであった。